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234 お料理教室みたいな雰囲気


 作ろう作ろうと思っておきながら、いざ調理という時にはすっかり忘れ去って、そのまま放置されている物が大量にあったりします。


 例えば、餡子とか。小豆は温室で作ってはいるんだよ。一鉢だけだけれど。結構な量を蓄えてあるんだけれど、お砂糖の関係で放置してるんだよね。他のお菓子にお砂糖使ってるし。


 お砂糖も生産しているけれど、こっちはたかが知れてるんだよね。大規模に甜菜を栽培しているならともかく、ちょこっとしか作ってないからね。思った以上に甜菜から採れる砂糖が少ない。


 いくらかはララー姉様にお任せしてしまっているけれど、うちの温室みたいに数日でポンポン生産できるわけじゃないからね。

 現状お願いしているのは、椿油とゴマ油。あとスパイス関連全般。それとバニラビーンズ。バニラビーンズは上手く行っているみたいだ。あれ、育てるの難しいとか聞いたことがあったから、一安心だよ。


 で、今日は新作お菓子をちょっと作ろと思っているんだよ。いや、新作といっても、こっちに来てから作るって意味で、日本にいたときは時々作ってたんだけれどね。


 作るのはアレだ。ひよこ饅頭とかこねこ饅頭的なやつ。白あんをつめた薄皮のお菓子だ。……いま自分で云っていて思ったけれど、あれ、お饅頭って感じの皮じゃないよね。


 まぁ、いいや。


 白餡は作れるから、それでいこうと思うよ。ベニートさんにお供と云うか、お目付け役をしてもらって、商店街で白豆を買って来たよ。白いんげん豆みたいなやつ。粒はそら豆並みに大きい豆だ。とりあえず、今日は水に浸け込んでおくだけかな。作るのは明日……いや、七、八時間浸けおけばいいんだから、夜には作れるか。どうせ出来上がっても、とある理由から直ぐには食べられないんだから、夜に作ろう。


 ということで、鍋を借りて豆をざばー。豆をきちんと洗ってから、再度鍋に水を張って豆を浸けこみますよ。


 本日のお夕飯を頂いたあとに、次の作業へと入りましょう。一応、料理長のナタンさんにそのことを伝えておきます。


 それじゃ、ナバスクエス伯爵の所へ行きましょう。


 ……。

 ……。

 ……。


 ただいま。


 トロールを置いてきましたよ。金額の方は白金貨五枚を提示されました。伯爵様に謝られましたけれど。ここまでしか捻出できなかったと。


 正直、こっちとしては不良在庫みたいなものなので、金額はいくらでもよかったわけですが、一応、モノがモノ。伝説になっている一匹でもあるわけなので、そのお値段で売却してきましたよ。


 ちなみに。トロール、いろいろと使い道があるのだそうな。骨、皮、腱、胃袋、膀胱は武具とか道具に。肝、心臓、睾丸、陰茎は精力剤やらなんやらのお薬に。他の内臓も薬に使われるのかな? 脾臓とか肺とか。腸は大きくて丈夫であることから、別のなにかに使われるみたいだ。


 さすがにトロールをまるごと剥製にするには大きすぎるということで、頭部だけ剥製とするようだ。ほら、鹿の頭だけの剥製ってあるじゃない。トロフィーっていうんだっけ? あれ? あんな感じのものにするみたいだ。

 あとは、いくらか加工品を手元に残して、他の加工品、或いは素材をそのまま欲する人たちに売るとのこと。


 加工品の売却によりお金が入ったら、追加で私に購入費としての支払いをするなんて話も出たけれど、それは遠慮したよ。というか、やっぱり精力剤になるんだね。睾丸とか陰茎とか。効くのかしら? さすがに事が事だから、訊かなかったけれど。


 そうそう、ベヘモスのことも聞かれたよ。さすがに現状は予算が尽きているということで、買取りとか依頼の話はなかったけれど。


 とりあえず、肉が至高の味と云ったところ、例にもれず食べてみたかったと悔しがっていたよ。まぁ、肉も大量に確保できているので、ひと塊プレゼントしてきたよ。もの凄い感謝されたよ。


 なんだか妙に子供っぽい雰囲気の伯爵様だった。


 なんというか、らしくない感じ。気さくだしね。


 あ、そうそう、殺人兎の話もちょっとしたんだよ。イリアルテ家が番で飼っていることも知っていて、すでにバレリオ様と交渉して、子供が生まれたら譲ってもらうことになっているみたいだ。


 いまだに子供ができていないところをみると、普通の兎とちがって殺人兎……格闘兎の繁殖頻度は年一回みたいだね。雑食で食物連鎖も底辺ってわけじゃないからね。普通の兎並みの繁殖力だと、いろいろ生態系がぶっ壊れるだろうしね。




 さて、夕食も終わり、ひと休みして厨房へとお邪魔中。それじゃ、作業を……って、あれ? 豆の皮が剥き終わってる。というか量が準備した三倍くらいあるんだけど?


 おまけに、お湯も沸いてる。


 あ、ナタンさん、準備を? ありがとうございます。


 ……で、ですね。なんでみなさん総出で? 見学ですか? 構いませんけれど。


 なんだか厨房スタッフはもちろんのこと、侍女さんたちまで。まるでお料理教室みたいな雰囲気なんだけれど。


 まぁ、いいか。はじめよ。


 煮え立った鍋に豆をざばー。茹でていきますよ。指で押して簡単に潰れるくらいにまで茹でます。ほんとはヒタヒタの水加減で、豆が乾かないようにちまちま差し水しながら茹でるんだけれど、今回は手抜きです。いや、ちゃんとしたやりかただと時間が掛かるから……。


 ナタンさんには後で、ちゃんとしたやり方を説明しておくよ。多分、これもレシピを売ることになりそうだし。エメリナ様がワクワクした顔で見学してるし。


 あ、厨房は明るくしてあるよ。魔法で。というか、掛け直しが面倒なので装備品を使ってるよ。指輪だと邪魔になるから、今回はバングル。これも微妙に邪魔だけれど、指輪よりはマシ。


 【灯りの指環】は、範囲を控えめにしたものを売りに出そうかと考えているよ。


 それじゃ、豆を茹でている間に皮を作っていきましょう。


 玉子とお砂糖、山羊乳に小麦粉、そして重曹が材料。


 今回はかなり多めに作ることになるかな。豆の量が多いからね。でも玉子一個で済むと思うけれど。鵞鳥の玉子は大きいのよ。


 あぁ……となるとお砂糖も多くなるな。二百グラムくらい必要になりそう。……多いな! 減らして甘さ控えめにしよう。これ、皮だし。


 若干心配なのが山羊乳。牛乳と同じと思って問題ないよね。違いは脂肪球が牛乳より小さいってことくらい? 良く知らないんだけれど。まぁ、大丈夫だろう。


 玉子をボールに割入れて、お砂糖を投入。しっかりと攪拌したら小麦粉を篩い入れて、重曹も投入。これを混ぜてまとめてと。

 しっかり混ざったら丸めて、寝かしておく。乾かないように濡れ布巾を掛けてと。


 寝かさなくてもいいのかもしれないけれど、豆がまだできてないから……。


 ということで、豆待ち。


「キッカちゃん、豆でお菓子ができるの?」

「できますよ」

「想像がつかないんだけれど……」


 エメリナ様が困惑したような顔をしてるな。


 まぁ、こっちだと豆って、スープの具材とか煮込み料理ぐらいにしか使っていないしね。

 チリコンカーニっぽいものとかあったし。色は赤くなかったけれど。辛くもなかったけれど。あれ? 辛くないチリコンカーニはチリコンカーニと云えるのかな?


「私の故郷では、普通に豆は甘味にもつかわれてましたからねー。甘い豆は納得いかないという人もいるみたいですけれど」


 甘い豆がダメ、って人はいるみたいだね。日本人じゃなくて海外の人だけれど。豆を甘くするっていう常識がないから、受け入れられないっていう人もいるみたいだよ。


 豆がしっかりと柔らかくなるまで待機。


「豆はいろんな料理がありましたからね。煮豆なんかは基本的に甘く煮しめますし。他には……豆料理というか、加工品だと豆腐とか納豆。味噌に醤油もそうか」

「見当もつかないわね」

「米と豆は一番身近な食品でしたからね」


 雑談をしつつ茹で上がり待ち。あぁ、納豆とかのレシピはさすがに出さないよ。発酵食品はさすがに問題になりそうだからね。


 そんなこんなで待つこと約一時間。


 豆、茹で上がったかな? んー……うん、大丈夫そう。


 鍋から笊に開けてお湯を切ってと。そして取り出しましたるは【裏ごし器】。こんなのこっちじゃ売ってないから、作ったよ。……魔素からの物質変換で。深山家にあったやつと同じのを作ったよ。というか、それしか実物を知らないんだけれど。木枠のヤツだから、みんなの前で出してもオーパーツ扱いにはならないだろう。


 それじゃ、裏ごしていきますよ。


 しっかりした白あんの作り方だと、裏ごした後水を加えて混ぜて、沈殿するのを待ってから上澄みを捨てる。というようなことを、上澄みが透き通るまでやって、最後に布巾でぎゅうっと絞るんだけれど、この工程をすっとばしますよ。


 裏ごしたら鍋に再度入れて、お砂糖を加えて水分をとばしつつ練り込みます。焦がさないように注意。

 豆と同量の砂糖を投入するんだけれど、そんな大量に砂糖を入れるとか個人的に恐ろしいので、ざっくり減らす。いい塩梅に水っ気が飛んだところで塩をひとつまみ加えて練って白あん完成。


 熱いので冷めるのを待ちます。


「お姉様!」

「キッカちゃん!」


 ……リスリお嬢様とイネス様が目をキラキラさせてますね。


「味見は駄目ですよ」

「「えぇー」」

「いや、熱いですから。それに、食べるなら完成品で」


 冷めるのを待ってから、白あんを形成。形をどうしよう? ひよこ饅頭とかこねこ饅頭な形にしようか? それとも普通に、栗饅頭みたいな形で無難にいこうか。


 ……まぁ、みんなで作るんだし、好きなように作ればいいか。


 ということで、みんなで出来上がった白あんをまとめて行きます。とりあえず楕円形に整えよう。


 みんなそれを手本とばかりに真似しだした。


 よし、あとでこっそりひよこ型をつくっておこう。


 いくつか餡を形成した後、寝かせて置いた生地を取り出して、折りたたんで伸ばしてを繰り返して生地を馴染ませる。

 あぁ、もちろん打ち粉はしてあるよ。しないと大変なことになるから。


 いい塩梅に生地が馴染んだら、切って分けて、めん棒で伸ばしていきますよ。感覚的に餃子の皮を作る感じ。

 ナタンさんと手分けして作っていきます。いや、思った以上に大量になったからね。


 この皮を形成した餡に被せて包めば、あとは焼くだけです。焼成時間は十分程度だから、すぐだ。ただ、とある理由から食べるのは明日になるんだけれどね。まぁ、文句はでないだろう。なにせみんな、きっとつまみ食いしただろうし。


 さぁ、大量にお饅頭ができましたよ。形が様々になったけれど。星型はともかく、人型はなんだろう? 立体スペキュラース・クッキーみたいなの。立体になったら微妙に気味が悪いんだけれど、誰が作ったんだろ?


そして皮がそれなりに余りましたよ。これは適当になにか包んで、あとで焼くとしましょう。


 それじゃ、天板にバターを塗って、お饅頭を並べて焼成。


 オーブンに突っ込んで時計を確認する。厨房には大きな柱時計がひとつ置いてある。私からしてみると、アンティークな雰囲気の時計だ。


「焼き時間は?」

「十分くらいですよ」

「早いですね」

「皮に火が通ればいいだけですからね。中身は出来上がっているわけですし」


 問題なのは火力なんだよねぇ。いまだに慣れないんだよ、炭オーブン。しかも使ってるのが骸炭だし。コークスだよ、コークス。いや、コークスのようなものになってるんだけれど。臭いとか殆どないから。


 これ、火力が凄くてね。使い熟せないんだよ、いまだに。


 焦げなきゃいいんだけれど。


 不安な気持ちで十分待機。


 十分経過でオーブンから取り出し、冷めるのを待つ。


 これで出来上がりなんだけれど……。


 暫し後。


「あ、あの、お姉様?」

「なんですか、リスリ様」

「その、これ、カッチンコッチンなんですけれど」


 リスリお嬢様が、焼き上がり、持てるまでに冷めたお饅頭を持って、それで天板を叩く。


 カンカン!


 うん。固いね。


「そういうものですよ。焼き上がったばかりですからね」

「えぇ……」

「一晩も立てばしっとりしますから、問題ないですよ。それに、この時間に食べる物でもないでしょう。太りますよ」


 私がそういうとリスリお嬢様は顔を強張らせた。


 あ、リスリお嬢様だけじゃなく、女性陣みんなだ。お砂糖を控えめにしたと云っても、それでもかなりの量が入っていますからね。下手な時間に食べると太ると云うものです。


 私は手際よくいくつかの皿にお饅頭をのせて分け、それぞれに虫対策としてざるを被せた。


 うーん……ちょっと心配だから、虫除けも置いておこう。大木さんのウロコの入ったお守り袋を円形に並べたそれらの真ん中に置く。


 よし、これでGの類の心配はないぞ。


「キッカちゃん、それはなにかしら?」

「虫除けのお守りです。一晩このままにしておきますからね」

「……」

「そんな胡散臭そうな目で見ないでくださいよ」

「だって……ねぇ」

「効果は確かですよ」


 エメリナ様に答え、これにてお饅頭作りは終了です。


 なんのかんので、夕食が終わってから二時間以上掛かっちゃったよ。

 まぁ、時間的にはまだ九時前だけれど。


 試食は明日。上手くできていると良いなぁ。




 翌日。お茶の時間に美味しく頂きました。問題なく美味しくできていたよ。さすがに市販されていたものとは、大分味が違ったけれどね。そして重大な問題がひとつ発覚した。


 バーブティーにはいまいち合わなかったよ。

 緑茶は作ったから、今度、紅茶を作ってみよう。


誤字報告ありがとうございます。

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