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233 【バンビーナ】調査探索 ④


 おはようございます。【バンビーナ】管理拠点建設監督官代行のチェロです。


 こうしてみると、随分と物々しい肩書ですね、これ。私、冒険者組合本部勤めとはいえ、ただの事務方の下っ端ですよ。フェルミンならともかく、なんで私が抜擢されて派遣されたのか、まったくの不明です。


 ……そういえば、フェルミンを見たことのある一般組合員(狩人、傭兵、探索者)はどれだけいるんでしょう? 基本、あの人は事務室に引きこもって書類処理を延々としているだけですからね。イリアルテ家や商業組合相手の折衝役もしていますが。


 こういった組合支部の新規立ち上げ……今回は管理拠点全体ですけれど、そういったことには一番長けていると思うんですけれど。


 まさか、食事のことでサンレアンを離れたくないから、とかいいませんよね? 帰ったらチャロといっしょに問い質しましょう。そうしましょう。


 私のここでの監督代行は終了となります。やっとここの領地を治めるべく、バレルトリ辺境伯に一日ほど遅れて、代官が派遣されてきました。


 十年前の災害後、ここは王家の直轄地となっており、そのまま放置されていた場所です。

 元は男爵領だったらしいですが、領主であった男爵は別の領地へと異動となったようですね。なにせ、村々が壊滅、領民が他領へと避難してしまったため、領民のいない土地となってしまったわけですから。


 まぁ、それならそれで、領主がどうにかしろというところなんでしょうが、原因がダンジョンである以上、領主にも温情が掛けられたのでしょうかねぇ? 責任問題となりそうなものですが。


 あ、前王のお気に入りと。現在は? 監視中と。いろいろと詰んでいるんじゃないですか? その男爵。処分されていないということは、小物ということなんでしょうけれど。まぁ、どうでもいいことですか。


 引継ぎというほどのこともありませんが、宿場建設に関しての引継ぎは終了。さらに組合出張所責任者の任も、こちらで私の助手のようになっていた、テスカセベルム王都支部の職員に権限を委譲。


 これで私は、いうなれば単なる有志のアドバイザーとなりました。いやぁ、責任がないっていいですね。

 なにせ今回は、私の行動ひとつで予算が大量に動く状況でしたからね。無駄遣いをしようものなら大変なことになります。主に私が。


 あとは、辺境伯が戻られたら、こちらの状況を説明して、私の後釜に全部ぶん投げましょう。もう二月ですからね。昨年末からの長期出張ですもの、無理矢理にでも終わらせますとも。


 何が悲しくて、微妙にかび臭くて固い干し肉を齧りながら年を終えなくてはならないんですか。こんなさもしい感謝祭なんて……えーと、何年ぶりだろう……。とにかく、ここ十年くらいなかったことですからね。貧乏を懐かしむ心根なんて、私は持ち合わせていませんよ!


 むぅ……とはいえ、あと数日はかび臭い干し肉の食事とは、気が滅入ります。


 多分、辺境伯は速ければ明日あたりに戻って来るのではないでしょうか?


 ここから目的の場所まではさほど離れてはいません。恐らく、餌とする鹿なり猪、兎辺りは昨日の内に捕獲しているでしょう。

 土竜討伐は本日行っている筈です。状況にもよるでしょうが、あの御仁です。明日にも戻って来るでしょう。

 早く戻ってきて欲しいものです。




 【燃ゆる短剣】の皆さんが戻ってきました。皆さん無事のようですが、ミランダさんが身に付けているキッカ様謹製の鎧がかなり傷だらけになっています。


 キッカ様曰く「初心者向けのダンジョンですよ」とのことでしたが、この様相を見る限り、初心者向けには思えません。


 彼らに詳しく話を聞かなくては。


 まずは厨房脇の作業場へと行き、獲物を出していただきます。各階層の魔物の回収をお願いしておきましたからね。


 えーと、ネズミ。大ネズミと同じサイズ、中型犬サイズですが……見た目は普通の手のひらサイズのネズミと同じですね。大ネズミは切歯以上に犬歯が発達していますからね。

 ……キッカ様、普通のネズミと云っていたじゃないですか。確かに見た目は普通のネズミですけれど、サイズが十倍近くありますよ。


 次いでウサギ……ウサギ? んんっ? これ、アルミラージじゃないですか! 角が短くて目立たないですけど。色もちゃんと黄色だし。って、アラムさん、なんで驚いているんですか?


「いや、ダンジョン内はオレンジ色の薄暗い灯りが灯っていたからな。よく見る白ウサギと思ったんだよ」

「ほんとだ、角生えてる。けれど……」

「このサイズだと売れないね。ほんとなら角が一番高いのに」


 普通のウサギと思ってたんですか。討伐は一羽だけですか?


「そういや、何羽狩った?」

「十羽くらい。とりあず、全部出すよ」


 ラウラがウサギを並べていく。どれもこれも角が小さく目立たない。


「幼体?」

「……キッカ様が地図を作る際に、掛かって来た魔物を狩りまくったといっていましたけれど。そのせいでしょうか?」


 私がそういうと、アラムさんたちは何とも表現しがたい表情で顔を見合わせています。


 そして次。犬。大きいですね。大きいですが、地獄犬と呼ばれる犬ほどではありませんね。大型の赤黒い犬です。見たことないですね。鑑定盤で確認してみましょう。えーと、血妖犬という魔物みたいですね。血で狂乱する犬とか。出血すると面倒なことになるみたいですよ。


 ……いや、皆さん、なんでいまさら青くなっているんです?


 次はネコですか。ネコですけれど、私の知ってるネコと大分違いますね。体つきも大きいですし、なにより耳が目立って大きいです。

 えーと……牙山猫。これもまた聞いたことのない魔物ですね。


「で、これが中ボス」


 でんと、やたらと大きい……ライオン? いや、これがスミロドンですか。なんというか、やたらとどっしりとした牝ライオンみたいな魔物ですね。牙が凄いです。


 ヘビは……赤いですね。メルトスネーク? これも聞いたことないですね。致死性の毒をもつと。


 カエルは……名称不明ですか。大きいですね。アマガエル肌のヒキガエルみたいです。


 ふむふむ、ヘビとカエルは【雷の杖】の魔法が良く効いたと。


 カメ。この甲羅が素材になるんですね。一メートルくらいの大きなカメ。このサイズでダンジョンから無限に獲れるなら、産業として成り立ちそうです。問題なのは、八階層ということですか。

 ボス階層である十階層から入れば近いですが、問題はボスモンスターと九階層のクマですよね。


「通路さえ狭くなければ、無視できるんだがな」

「脇を通り抜けようとすると、攻撃してくるからね」

「意外に攻撃範囲が広かったからな」


 ふむ。移動速度が遅いだけで、機敏ではあると。キッカ様も邪魔な置物といっていましたね。確か。


 そして九階層のクマ。思ったよりも小さいですね。小さいとはいえ熊ですからね、侮るわけにはいきません。


「戦ってどんな感じでしたか」

「普通に強かったな。ホブゴブリン……いや、ホブゴブリンチーフくらいか」

「そんなところだな。小さいなりの割に結構な強さだった」


 やはりクマはクマですね。


「で、最後がよくいる大型の猪だな、ボスは怪獣猪だった」


 猪と怪獣猪が【底なしの鞄】から取り出されます。


 怪獣猪は当然の如くお化けサイズですが、ザコの猪も大きいですね。体高で一メートルくらいあります。

 怪獣猪さえ安定して狩ることができれば、肉の安定供給が期待できそうです。


「宝物はどうでしたか?」

「あぁ。ロックが着けてるゴーグルと、この剣を手に入れたんだが……」


 んん? なんだか歯切れが悪いですね。


「この剣がちょっとな。魔剣だから手元に置いておきたかったんだが、あまりにも不穏なんだよ。オークションに掛けたいんだが」

「は? 魔剣なんですよね? 手放しちゃうんですか?」


 驚きました。魔剣などの魔法の武具は、探索者にとっては成功の証、一種のステータスです。基本、使えない代物や厄介な代物でないかぎりは手放しません。

 オークションに掛けると云うことは、まともな代物であるということです。問題アリの物は、学者連中か物好き以外は見向きもしませんからね。実用性が皆無か、著しく低い代物ですから。


「まぁ、これを見てよ」


 ラウラさんが貸与していた鑑定盤を出し、その上に魔剣を置きます。



 名称:フリーズエッジ

 分類:魔法の長剣

 攻撃属性:斬撃、打撃、氷結

 備考:

 「殺してでも奪い取る」



 ……は?


「なんですかこれ?」

「私の方が訊きたいよ」

「説明文はいつもはっちゃけているモノですけれど、これは……」

「呪われてそうでなぁ。鑑定では呪われてはいないみたいだが、厄介ごとを呼び寄せそうな気がしてな。相談の結果、手放すことにした」

「それに、魔石を使う魔剣なら買えるしね」


 あぁ、そういえばゼッペル工房で魔法付与をはじめていましたね。ただ、宣伝の類は一切せずに、紹介された者だけしているようですけれど。

 ミランダさんは……キッカ様に紹介されたのでしょうね。


「ちょっと使ってみたんだが、強力な魔剣という感じでもないしな。普通の剣よりはもちろん強いが」

「浅い階層での宝物だしね。聖武具ならともかく、魔剣ならそんなものでしょ」

「わかりました。では、こちらはオークションへと回しますね。仲介料として落札額の一割をお支払いいただくことになりますが、よろしいですか?」

「あぁ、任せるよ」


 ということで、この魔剣はオークション行。


 これで【燃ゆる短剣】の皆さんへの依頼は終了。【バンビーナ】探索は続けず、サンレアンへと戻るとのことでしたので、改めて護衛を依頼。


 本来は傭兵への依頼になるのですが、いまや組合はひとつですからね。探索者に護衛依頼をしても、面倒なことにはなりません。


 いずれ、狩人、傭兵、探索者という枠組みが、冒険者とひとまとめになる時がくるかもしれません。


 依頼を受けてもらえましたので、あと三日ほど待機してもらいましょう。【底なしの鞄】の貸与はサンレアンに帰り着くまで継続。


 それじゃ、いそいで引継ぎ資料を完成させてしまいましょう。




 昼過ぎに辺境伯たちが戻ってきました。予想よりもはやいです。そして辺境伯所有の【底なしの鞄】から取り出される土竜。


 サイズは六……いえ、七メートルはありますか。土竜としては標準的なサイズです。


「ジェレミア卿、見事なものですね」

「おぉ、チェロ殿。今宵の食事は期待するといい。解体は任せても問題ないか?」

「大丈夫です。

 ジェレミア卿、代官が到着しました。情報の共有と引継ぎを行いたいと思います。同席を願えますか?」

「もちろんだ。面倒な話はさっさと済ませよう」


 よし。さっさと終わらせしまおう。私はサンレアンへと帰るのです。いい加減、固い干し肉と固い地面に引いた寝袋生活を終わりにしたい。


 その後、二時間ほどかけて引継ぎは完了。これで責任は代官と、冒険者組合【バンビーナ】拠点の暫定組合長の元へと移行されました。


 これで私は自由の身。一安心です。なんのかんので、開拓事業となると荒くれ者も多いですからね。いろいろとやり過ごすのも大変だったのですよ。


 そしてその晩は宴会となりました。


 土竜のお肉、非常に美味しかったです。えぇ、肉汁滴る料理なんて久しぶりでしたからね。なぜかキャンプ地であるこのあたりは、どこにでもいるウサギすらいない不毛地ですからね。これも魔物災害の影響なんでしょうか


 お酒を飲めなかったのが残念でなりません。いえ、なかったわけではありませんよ。飲まなかったのです。


 ……酩酊などしたら、どうなるかわかりませんからね。自衛は大切ですよ。




 引継ぎが終了して二日が過ぎました。サンレアンへと帰りますよ。


 昨日、荷物をまとめながらいろいろと考え……思い出していたところ、堪えることが困難なレベルで腹立たしくなりました。


 えぇ、どう考えても私がここに送り込まれる理由がないのですよ。確実に押し付けられたとしか思えません。


 なので、妹と共にフェルミンにお仕置きすることが確定です。


 そうだ。タマラちゃん巻き込みましょう。彼女に頼めば、なにかしら素敵なことをやらかしてくれるはずです。


 ふふふ。フェルミン。覚悟しておきなさい。


誤字報告ありがとうございます。

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