220 ビームを避けないといけないんですか?
ぱかり、と宝箱を開ける。
とりあえず、真っ先に目に入って来た代物は見なかったことにして、メダルを確認。
サソリのレリーフの掘られたメダル。ショートカット扉を外から開くためのメダルだ。
で、問題のもうひとつ。
ガントレットとヴァンブレイスが合わさったような防具……というか、これ、ガントレットにヴァンブレイスを突っ込んであるだけで、別個の装備なんじゃ?
あれ? くっついてる? あ、外れた。
ふむ……よくわからないけど、これはふたつでひとつ、ということみたいだ。
インベントリに入れてみる。
【聖手甲カノン】 防御力:十五 重量:四キロ
あぁ、やっぱり聖武具だ。これで鎧が一式揃っちゃうか、ディルガエアは。サンクトゥスとニコイチの状態でだけれど。
尚、今回のダンジョンアタックで入手した宝物は以下の通り。フロアをくまなく調べるとかしていないから、ボス討伐の宝箱以外の宝箱は見つけていない。
【浅層中ボス】雌鶏(仮):【守りの小杖】
【浅層ボス】トロール:【聖剣カノン】
【上層中ボス】アンキロサウルス:【聖護符カノン】
【上層ボス】ベヘモス:【底抜けの背負い鞄】
【中層中ボス】サルコスクス:【聖足甲カノン】
【中層ボス】砂漠の女王:【聖手甲カノン】
こんな感じ。
聖武具ばっかりよっつも出たのか……。聖武具シリーズがどれだけあるのかは知らないけれど、少なくとも武器は結構な数があるとみている。
いや【バンビーナ】で大鎌とか出てきたからね。どう見てもあれ、武器としてはイレギュラーな類でしょう? 好んで使っている人なんていないと思うし。
大鎌なんて農家の人が草刈りに使うくらいで、武器として使うのは害獣が出た時くらいなんじゃないかな?
そうそう。あの雌鶏の討伐報酬の宝箱から出た【守りの小杖】は、装備者を中心に半径一メートルほどの不可視の防御壁を展開する魔法の杖だよ。
結構便利そうではあるけれど、防御壁には当然のことながら耐久力があるため、強烈な一撃をうけたりすると割れるみたいだ。連続使用は六回まで。それで魔力を使い切ってしまうため、六回目以降は使用できない。
二十四時間で魔力は全回復する。だから一回分のチャージに四時間かかるってことだね。
展開する防壁に耐久度があるとはいえ、それこそ馬鹿げた一撃でないと破壊なんてできない。だから、いわゆるボス級を相手にしない限りは、非常に有用な装備だと思う。
なにせ、防御壁の内側からは、防御壁を越えて攻撃ができるみたいなんだよ。だから、槍とかの長柄武器とかと非常に相性がいい。
でも私はいらないなぁ、これ。
あ、そうだ。ダリオ様にはなにも献上品を渡してなかったね。この小杖を渡してしまおう。当人が使わなかったら、きっとアレクサンドラ様に渡るだろうし。
で、見ないことにしていた浅層中ボスだったあのでかい雌鶏の名称。
名称が(仮)なんだよね。正式名称のない魔物みたい。ただ、あの雌鶏がコカトリスの玉子を産むらしい。
世代交代をしているというわけではなく、なんていうの、召喚に近い感じ?
生まれた玉子は即時孵って、雌鶏を護るらしい。
【バンビーナ】ではそのコカトリスの毒で死ぬとか、間の抜けたことをしていたけれど。
コカトリスマザー、とでもいうところかな? まんまだけど。
それじゃ、ちょっと次の階層を覗いて来よう。
……。
……。
……。
ただいま。
うん。砂だらけだった。日差しが強烈だった。お日様がないのに。
あそこをウロウロとするのは大変そうだ。
それじゃ、リミットまであと一日あるけれど、戻るとしよう。えっと、インベントリから【転移の指環】を出してと。
【転移の指環】。嵌めて発動させれば、どこにいても大木さん家に転移できる指輪だ。四角く板状にカットされたローズクォーツが台座に嵌められた銀の指環だ。
スケさんたちはもう戻っているし、ビーを抱えてっと。
「転移!」
トン、と、綺麗に刈り込まれ、整えられた芝生の上に降り立つ。ほんのちょっぴりの浮遊感のあと、急に自分の体重に+αしたような重さを感じる。
あれだ、エレベーターで感じる浮遊感と、止まる時の……重量感? って云えばいいのかな? そんな感じだ。
私が降り立ったのは、庭の隅っこ。垣根を成している植え込みの角だ。ここが一番転移の位置として問題ないのだそうだ。
ほら、足元にバケツだのなんだのがあると危ないし、庭の手入れなんかで立っていたりすると見事に激突するしね。
それじゃ、玄関へと回ろう。相変わらず普通の一軒家の縮尺比二倍くらいの扉の前に立ち、背伸びをして呼び鈴のボタンを押す。
~♪
ちょっ!? この間までは普通に『ぴんぽーん』だったよね!? なんでどこぞのコンビニの入店音になってるの!?
「お帰り。予定より早かったね」
「あ、ただいま戻りました、大木さん。で、いきなりなんですけど、大木さん。あの呼び鈴の音は?」
「呼び鈴?」
私はもう一度ボタンを押した。
~♪
「あぁ、これのことか。換えてみたんだよ。ほら、せっかく押してもらえるようになったわけだし」
たいした理由じゃなかった。というか、訪ねて来る人もいないだろうし、あの呼び鈴、数千年も仕事がなかったのか……。
そういやこの建物は築五千年とかなのかな?
「中にはいって。あぁ、バイコーンたちは、広場に放してあるよ」
広場。この家の周囲の野っ原だ。一定以上の魔力を持ったモノ以外は出入りできない結界で覆われているそうだ。ちょっと外を見てみたけれど、バイコーンたちはのんびりと過ごしているようだ。
「それで、どこまで行けたんだい?」
湯飲みにお茶を注ぎつつ、大木さんが訊いて来た。私はと云うと、ゴマせんべいをボリボリと食べているところだ。私にとって、ゴマせんべいこそ、おせんべいの至高。
「中層まではクリアしました。下層をちょっと見ましたけれど、あそこを探索するのは……」
「下層部か……えーっと、どういう設定で作ったんだっけか……」
「砂漠でしたよ」
「あぁ、思い出した。違う環境で構成したダンジョンだ。砂漠に出す魔物に関して、頭を抱えてたんだっけ。思い付きでやるんじゃなかったと、後悔したんだ」
砂漠に棲む生き物なんて多くないしね。基本、小動物なんじゃなかったっけ?
「最初はヒヨケムシを出そうかと思ったんだけれど、あまりの気色悪さに止めたんだよ」
「ヒヨケムシって、あのクモみたいなでっかい虫ですよね? 腕に載せてる写真を見たことがありますよ。なんだかブヨブヨしてそうとか思った記憶が……」
薄いオレンジというか、ピンクというか、そんな色をしてた気がする。
「よくよく考えたら砂漠に生息している生物なんて、ロクに知らないんだよね。クモにサソリ、あとはネズミと鹿っぽいヤツにもちろんラクダ。あぁ、あとスナネコもいるか。それくらしか知らないからね」
「結構いるんですね。砂漠の生物」
「でも無視して適当に設定したよ」
大木さん!?
「サソリとアンコウがメインかな。アリ地獄もいるよ。お約束だろうし。尚、中ボスはモンゴリアン・デス・ワーム」
は?
「え、なんでアンコウ? というか、モンゴリアン・デス・ワームって、UMAじゃないですか!」
「実在が確実視されてるってやつだね。本当にいるのかな? ビームを撃つとか、とんでもない目撃情報もあるけど」
え、なにそれ知らないよ? 毒じゃなかったっけ?
「面白そうだから採用した」
「なにをしてるんですか!? え、探索再開したら、私、ビームを避けないといけないんですか?」
「大丈夫でしょ?」
「いや、光線を避けるとか無理ですよ!?」
「ビームっていっても、電撃だし」
「で、電撃なら……なんとか?」
対雷装備は一応あるし。殆ど使ったことないけど。
ゴマせんべいに手を伸ばす。今度おせんべいを作ってみようかな。米粉を練って焼けばいいんだっけ?
「そういえば、聖武具ってどのくらい種類があるんです?」
「あぁ、あれか。基本的な武器、防具が出るようにしてあるんだよ。だから、明確にはどれくらいでるかわからないな」
「はい?」
「いや、自動生成なんだよね。ただ、一度出たら、同じものは二度と出ないようにはなっているけれど」
そうすると、思ったよりも多いのかな?
「防具関連は【頭】【胴】【腕】【足】の四種類で確定しているけれど、武器のほうがねぇ。かなり無節操になってると思う」
「無節操?」
「そう。だから、場合によっては【聖包丁カノン】なんてものが出てきたりするかもしれない」
ぶふぅっ!
「え? ちょっ、さすがに包丁は……武器?」
確かに刃物だけれど。武器と云えば武器なんだろうけれど。
「あぁ、うん。確かにいろいろとアレだな。調整して、調理器具系は外しておこう。あ、でも、手動のフードプロセッサーは残しておくよ。これは譲れない」
「……は?」
え? なんでフードプロセッサー? ってか手動って。
「どう見ても武器らしくない気が……」
「そうでもないよ。ドリルみたいな感じだし」
私の知ってるのと違う? というかなんでそれは残すの?
「お約束だよ? まぁ、元ネタをまったく知らないアムルロスじゃ意味ないけれどね」
「お約束……なにかのネタですか?」
「まぁ、そんなのがあるんだよ」
こうしてみると、大木さんも常盤お兄さんと似たような雰囲気があるな。なんだろう、神様になると、みんなこんな感じになるのかな? アレカンドラ様は……状況が酷い有様になってたから、参考にならないか。
銀河管理のほうはどうなったんだろ? 落ち着いたのかな?
「それで、これからどうする? すぐに王都へと行くかい? 時間的にはまだ昼過ぎだし」
「いえ、今日は休んで、明日行こうかと」
「それじゃ、今日はここで休んでいくといいよ。サンレアンに戻るのもアレだろう?」
「ありがとうございます。お世話になります」
正直な話、大木さんの家、快適なんだよね。見た目通りの日本の住宅だし。サイズは大きいけれど。
それじゃ、今晩はゆっくりと休んで、明日は王都だ。
あ、そうだ。折角だから今夜はベヘモスを調理してみよう。
誤字報告ありがとうございます。




