22 お約束な状況が起きていますよ
19/07/17 誤字修正しました。
らん、らららん。ら、ららららん。らん、らららん。
おはようございます。キッカです。
今日も今日とて、テクテクと野っ原を移動中です。
鼻歌を歌いながら。
ちっとも明るくない曲だけど。どちらかというと、カメラで幽霊退治するゲームの主題歌と同じような雰囲気の曲かな。
もっと明るい歌を唄いなよ。というかもしれないけど、いまひとつ明るい曲は趣味じゃないというか、あんまり覚えてないんだよね。
性格の問題なのかなぁ。
あーるーこー! あーるーこー! は知ってるけど、歌詞覚えてないし。
さて、現在私は南に向かって移動中。
西に向かって既に二週間も進んだので、そろそろ街道に入ろうかと。
この十日間の猟の結果(ヘラジカかちんこちん事件以後)は以下の通り。
・ヘラジカ 二頭。
・アルミラージ 六羽。
・ジャッカロープ 十三羽。
・ヴォルパーティンガー 一羽。
・スクヴェイダー 五羽。
・ストライクヘア 二羽。
・兎 二羽。
・ホグジラ 一頭。
うん。また変な兎を二種類見つけたんだよ。
スクヴェイダーは、体が鳥の兎。……いや、なに云ってんだって感じだけど、そうとしか云えないんだよ。ヴォルパーティンガーは角と羽の生えた兎だけど、スクヴェイダーは鳥の体に兎の頭と手足を生やしたって云った方がしっくりするんだよ。正直、なんか嫌。こいつ嫌い。
なのでこいつは人里についたらとっとと売る予定。
……食肉だから売れるよね?
もう一種はストライクヘア。七十センチくらいの兎で、格闘に特化している。なんていうか、カンガルーがボクシンググローブを着けて描かれたりするじゃない。それに兎を当てはめた感じ。あ、当たり前だけど、グローブなんて着けてはいないよ。
殴り殺されるかと思ったよ。見た目は青い縦縞が二本入った白兎。
そうそう、こいつに関しては固有名称がなかったんだよね。どうも普通の兎と一緒にされてるみたい。インベントリにいれたら『兎』としかでなかったし、奥義書の方には『格闘兎(仮)』って表記される有様だったからね。
命名『ストライクヘア』。格闘兎をまんま英訳したようなものだけど、誰も文句はいわないでしょ。多分、私しか呼ばないだろうし。斬撃みたいなことをしてきたら、迷いなくヴォーパルの名を冠した名前を付けたけどね。
そして普通の兎。ただサイズが大きい。一メートルくらい。 地球の食料用に改良されたのがこのくらいだっけ? そんなのが普通に跳ねてた。
最後に大物のホグジラ。怪獣みたいな猪。えーと、三メートルくらい? さすがに弓で仕留めるのは厳しそうだったから、スケさんチームを出して、攻撃魔法の【氷杭】で挑んでみたよ。
あそこまででかくなるともう、脅威でしかないね。そして冷気魔法はいい仕事をしてくれたよ。
冷気魔法は動きを鈍らせるからね。
それ以上に予想外の効果もあったんだ。
あ、魔法の掛かり方というか、効果の出方がゲームとはちょっと違うんだよ。
まぁ、当たり前だけど。
【氷杭】は氷の杭を撃ちだす魔法なんだけど、物理的な打撃は無いんだよ。体にドスドス刺さってても穴は空いたりはしないという、謎仕様な魔法。
冷気が視覚化してるだけの魔法と思っているんだけどね。
で、リアルだと、頭に直撃させると、対象が失神するんだよ。
ジャッカロープを狩ってるときに怪しく思って、あのでかい兎で確認したんだ。ヘッドショットしてみたら、一撃で失神したよ。
もちろん、失神した兎はすぐに絞めたよ。
確か体温が急激に下がると失神するんだよ。それが魔法で同じ効果というか、状態になったんじゃないかな。脳が急激に冷やされたせいで失神したんじゃないかと。
だからあの怪獣猪にも【氷杭】で攻撃することにしたんだ。スケさんたちにヘイトとってもらって。
あのでかい猪もヘッドショットしたら、たちまち動きが鈍くなって、二発目を撃ち込んだら倒れたからね。そこをスケさんたちが止めを刺して終了。
恒温動物にはこの狩り方が安定かも知れないね。毛皮に傷もつかないし。
そんなわけで、狩りの結果は上々です。
さて、西に向かって二週間。私の足でもさすがに国境を越えたんじゃないかと思うのですよ。
なので南下を開始。
テスカセベルムとディルガエアを繋いでいる街道があるはずなので、そこまで行くよ。
あの森は本当に地元の人たちは近寄らないみたいだね。二週間もてくてく歩いていて、人里がまったくなかったからね。
森の近くには街はもとより村も作らないんだよ。
それだけ魔物がでてくるってことなんだろうね。
森はいろいろと資源の塊だろうに。
そういや魔物は見なかったな。
運が良かったのかな。
……いや、私の運がいいって、なんの冗談よ。
あぁ、アレカンドラ様に運気上げてもらったんだっけ。その効果がでてるのかな?
問題は街道までどのくらい掛かるかだよね。
テスカセベルム王都からは、森まで十日掛かったけど、さすがにそこまでは掛からないよね? さすがに途中に村とかあるよね、というか、そこに通じる道が整備されてるよね?
とはいえ、最悪また十日掛かるのか。野菜が尽きてるから、できるだけ早く人里に着きたいんだよ。
あ、そうだ。移動用の魔法があるじゃん。
竜語――じゃなかった、言音魔法の【風駆け】。一定距離、バヒュンって突っ走る魔法だ。
たまに漫画とかである【瞬動】っていうやつと同じかな。
ということで、やってみよう。
あ、そうそう。言音魔法だけど、隠形時以外は普通に聞こえるようにしたよ。
演出優先です。というか、唱えてる声が聞こえないと地味に不安なんだ。
よし、やるぞ。
「『我が走り風の如く』!」
ばひゅん!
ひぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!
……とりあえず【清浄】。
し、死ぬかと思った。
効果終了直後に惰性で走って、足がもつれて転んだよ。
うん。ダメ。これ危ない。
よく考えたら、この魔法、すごい速さですっとんでくんだよ。
なんか、アニメとかで、急に引っ張られたキャラクターみたいな感じになってたと思うよ。少し仰け反った感じになったし。
それにゲームだと普通に壁とかに激突しても無傷だったけど、リアルだと下手すると死んじゃうよ。この魔法、距離の調整できないし。
それに常盤お兄さん、よりにもよっておまけでバグ版の【風駆け】まで再現していれてあるんだよ。
いや、ゲームだとたまにバグって、移動距離が無限になるんだよ。なにかにぶつかるか、無理矢理止めない限り突き進み続けるっていうバグ。
うまく使えば長距離をあっというまに移動できるけど、なにかに激突して死ぬっていう危険が……。
【風駆け】中は無敵とかいうのなら安心して使えるけど、
そんなわけで、こいつは封印です。
うぅ、ゲームだと結構便利だったんだけどな。
……いや、明らかに障害物のない場所なら使えるか。
バグの方は封印して、普通の【風駆け】は一段階目で使えばいいか。
ちまちま距離を刻む感じで進むことになるけれど、安全には変えられないしね。
よし。【風駆け】、ジョギング、【風駆け】と、言音魔法のクールタイム中はジョギングをして、移動速度を上げよう。
あ、ジョギング程度なら走れるようになったよ。まだ思いっきり走ると転ぶけど。
そうそう、召喚魔法で馬は呼べるんだよ。骨の馬のアルスヴィズ。この子を召べば早く移動できるとは思うんだよ。でもね、乗れないの。
いや、乗馬技能がないとかどうとかいう以前の話でさ、乗れないんだよ。
乗ろうとはしたんだよ。でも馬の背中に体を上げられないんだよ。なんというか、まだ自分の体の制御がダメなんだろうね。
予想以上に足の障害のあった時のクセが酷いことになってて、とんだりはねたり走ったりするのが上手く行かないんだよ。
ただの鈍臭い子だよ、私。
最優先事項は、体を動かして全身の扱い方を覚えないといけないのかもしれない。まさかこんな酷いことになるとは思ってもみなかったよ。
要はあれだ。ハードウェアを扱うソフトウェアがなってない状態。
私の脳味噌、ポンコツ過ぎでしょう。
それじゃ、ちょっと急いで行こう。体を動かすことにもなるし。
なにより野菜の在庫が尽きちゃったのが辛い。
野菜食べたい。葉っぱものプリーズ!
その辺の雑草は硬くて嫌だ。
南下を初めて三日が経過しました。時刻はお昼過ぎというところでしょうか。
現在、丘の天辺に立っています。
まったく気が付かなかったけど、ゆるやかな上り坂になってたみたいだ。
森側からだと、あからさまに丘とは分からないけど、反対側からだとかなりの急斜面になってるよ。
うん。見晴らしがいいよ。
そしてついに街道を見つけたよ。やったぁ。
ついでに、ちょっと離れたところでお約束な状況が起きていますよ。
馬車が襲われてる。というか、襲われ出したところだ。
二頭立ての綺麗な馬車と、その護衛であろう騎馬四騎。
大勢が街道を塞いで、馬車を囲うように移動している。
盗賊ですかね? わらわらと集って来てる感じ。
立派な金属鎧を着た、いかにも騎士な人たちが馬を降りて隊列を組み直してる。
あの馬車はどこぞの貴族の馬車なのかなぁ。
ひーふーみーよー……盗賊(?)が二十人くらい。騎士さんは四人だね。
まさに多勢に無勢。
助けた方がいいのかしら?
こういうのって、横から手出しすると怒られたりするんだっけ?
でも見過ごしたりすると、あとで嫌な気分になるしなぁ。
とりあえず、助けがいるかどうか聞きましょうか。
装備を変成補助装備にして、防御重視でいこう。
魔法は【黒檀鋼の皮膚】をセットと。
ふふふ、装甲車並みに固くなる魔法だよ。某RPGでいうならば、AC-10ですよ。なにしろパークがすべて解放済みですからね。効果は三倍増ですよ。
多分、殴られても『痛い』で済むと思うのよ。打ちどころさえ悪くなければ。
それじゃ行きましょ。
急斜面を文字通り滑り降りる。
……訂正、滑り落ちる。
足を滑らせて、尻餅ついたらそのまま下まで落ちたよ。
なんだろ、今日は痛いことが多いよ。
と、急いでいかないと、もう始まってるだろうし。
急ぎたいのに急ぎきれないこのもどかしさ。これ体を使い熟せるようにするのが急務だな。さすがにまともに走れないのはダメだ。
やっとこさ現場に到着。えーと、誰に訊いたらいいだろ?
馬車の前方は大忙しだな。馬車の脇ではメイドさんが短剣を片手に奮闘中。
あ、メイドさんが盗賊を蹴り飛ばしてる。メイドさん凄いな。護衛も兼ねてるのかな? 盗賊は……気絶したのかな? 動かないや。
丁度手も空いたみたいだし、聞いてみよう。
「こんにちはー。手助けは入り用ですかー?」
「え? 子供? あなた、早く逃げなさい! こいつらはゾンビ――危ない!」
へっ?
ごすっ!
「あ痛ぁっ!」
呑気にしていた私は、後ろから頭を叩かれたのでした。