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219 単調で長丁場な戦い


 漁も順調に終わったので、先へと進みますよ。


 イトウを予定通りに十匹ほど在庫を増やしたよ。その過程で、ついでにナマズとスッポン、ベヘモスの在庫も増えたけれど。


 あぁ、ちっさいベヘモスは、遠距離からの【氷杭】狙撃によるヘッドショット三発で沈むことがわかったよ。この時点で仕留めることはできてはいないけれど、失神させることには成功する。あとはしっかりきっちり絞めるだけなので、対処法ができてしまえば非常に楽だ。


 とくにこの中層は見通しだけはいいからね。しかも【氷杭】は魔法のくせにむやみに射程が長い魔法だから、狙撃をしようと思えばなんとかなるんだよ。

 ……すごい難しいけれど。


 そんなわけで、道をテクテクあるいているベヘモスは邪魔だから狩ったわけだけれど、食肉としてみると、ちょっと食べるのには抵抗があるんだけれどね。いや、人型というか、基本は四つ足で、戦闘の際には二本足で戦うみたいな感じなんだよね。手足の長さが一緒なものだから、なんというか、スタイルがデフォルメされた動物のぬいぐるみみたいな感じだ。


 人によっては、戦うのに躊躇するかもしれない。いや、私はアレを可愛らしいとは思わないけれど。


 そういやベヘモスには生殖器がなかったな。ということは、生物種としてはあれ単体で終わってるってことかな。


 まぁ、人類の食料になるためだけに作られた生物、ってことだしね。いや、そうと考えると、そんなのがウロウロと沢山いるのもおかしくはあるんだけれど。


 それじゃ、中層部の後半戦、いってみよう。


 沼沢地に無造作に置かれたような樹の道をテクテクと進んでいく。時折、ワニが水面から飛び出して捕食しようとしてきたりする。

 ダンジョン内である以上、実際には捕食行為ではないのだろうけれど。とはいえ、やられるほうは生きた心地はしない。


 【生命探知】のおかげで潜んでいるのがわかるから、心臓が飛び出るなんて具合に驚くことはないけれど、分かっていてもびっくりはするものだ。


 本当に『巨体である』というのはそれだけで武器だ。


 というかこのダンジョンは、基本的に立入禁止にしないとダメだよね。


 いる魔物が危なすぎる。少なくとも、中層から先は止めた方が無難だと思う。


 トップクラスの探索者って、どのくらい強いんだろう? 【アリリオ】だと二十層までは到達しているわけだから、ボスと中ボスを合わせて三体は討伐に成功しているわけだ。


 現状、二十層の不死の怪物で難儀しているわけだから。


 十五層の中ボスがなんなのか分かれば、多少は探索者の戦闘能力とか推測できるかな。


 道を塞ぐベヘモスや亀を退け、左右から道を飛び越えるように突撃して来るワニを躱して、道を進んでいく。


 分岐がそうあるわけじゃないから、下への通路のある程度目星がついていると、ほぼ真っすぐ迷わずに到達できるね。たまに引っ掛け的な道があるけれど。


 そういう意味ではこのダンジョンはイージーモードだけれど、うろついている魔物がベリーハードどころか、インセインとかインフェルノレベルだからなぁ。


 ……そんなところを散歩気分で歩いている私は、ある意味ぶっ壊れキャラってことなんだよなぁ。

 まぁ、いまさらだけど。


 武器の修行をほとんどしていないけれど、徒手格闘がボーとの訓練で、それなりに上がってるから、近接戦闘もさほど問題はなくなってきてはいると思うんだ。

 ちゃんと相手を目視できていれば、どうにか対処できるし。まだまだ鈍臭いけれど。

 片手剣? あぁ、そういえばオリハルコンスライムを延々と殴り続けたおかげで、片手武器の技量は上がったんだっけ。でもただ殴り続けてただけだから、殴る際の威力は上がっていても、武器を持っての体さばきが残念なことになっているんだよ。


 基本、近接戦闘は、足を止めての殴り合いしかできないのが、今の私だ。


 うん。きっと、向き不向きがあるんだね。ははは。


 大丈夫だよ。盾を持ってれば攻防一体だし。盾は受ける前に殴るモノだからね。


 そもそもだけれど、なんで私の射る矢はそれなりに当たるんだ? 弓なんてこっちに来るまで持ったこともなかったんだけれど。


 ただ射方は完全に我流というか、弓を寝かせて撃つのが基本になっているから、弓の指南役の人がみたら激怒するんじゃないかなぁ。


 ……なんだろう、フラグを建てた気がする


 とりとめもないことを考えつつ、のんびりと歩いていく。


 この樹の道は行動は制限されるけれど、確実に下層へと繋がっているから、最悪、しらみつぶしに進めば迷うことはない。私はおおよその目安をつけて、分岐点では下層への通路方向に向いている方を選んで進んでいる。


 時折、行き止まりになってたり、却って遠回りになったりすることもあるけれど。


 そのせいで各層を抜けるのに、地味に時間が掛かることもあるけれど。


 そういった意味では、この樹の道そのものが罠ともいえるのかな? 迷路みたいなものだけれど。かといって、それを避けてこの沼に入って進むのは自殺行為だけれど。


 あ、そうそう、深さがどのくらいかとかは、調べてみたよ。少なくとも、十メートル以上あるみたいだ。ロープに石を括りつけて沈めてみたんだよ。


 ……沼じゃないね。この深さだと。でもこうもガマもどきがわしゃわしゃ生えているのをみるとねぇ。というか、このガマもどき、水面下に十メートル以上あるのか。


 水はかなり綺麗だったよ。掬ってみたけれど、変な臭いもなかったし。まぁ、このまま飲むかというと、ちょっと躊躇するけれど。


 いや、生水はね。そういえば、某国へ旅行した人の話を聞いてからは、とくに気を付けなくてはと思っているんだよ。


 その人は生水を飲まないように気を付けていたんだけれど、食事に出たサラダを食べたところ、覿面に当たってトイレの住人になったっていう話をね。

 サラダが痛んでいたわけじゃないんだよ。サラダ、生水で洗ってたっていうだけの話でね。


 私は【聖水】の魔法を授けて貰えてよかったと思うよ。安全な水に困らないからね。


 お、やっと着いたよ。中層のボス部屋。ここをクリアしたら、ダンジョン探索はひとまず終了の予定だ。

 リミットがあと二日だからね。次の階層がなにか確認して、大木さんのところへ転移するよ。


 さぁ、それじゃ中層のボス戦だ!


 身を屈め、隠密状態で扉に触れる。巨大な扉が音もなくゆっくりと開いていく。これでと同様の広い部屋。そして正面数十メートル先にいる巨大な魔物。


 それは――


「え……サソリ?」


 そこにいたのは、体高が二メートルはあろうかというサソリ。その体色は赤でも黒でもなく、やや黄みがかった白。いわゆるクリーム色だ。


 サソリの実物を見るのは初めてだ。でも、図鑑なりなんなりで見たことはある。漫画やゲームなんかにもちょくちょく登場する、それなりにメジャーな生物だ。


 故に、その姿の違和感にはすぐに気が付いた。


「足が太い」


 そのサソリの足は太かった。見知っているサソリの姿と比べ、足の太さは倍以上あるのではなかろうか。

 恐らくは、あのくらいの太さがないと、体重を支えられないのだろう。


 もしかしたら、動きは鈍いかもしれない。


 とはいえ――


「あの甲殻、どのくらい固いんだろう?」


 いまのところ、【不可視の指環】で姿を消しているせいか、あのサソリは私と私が抱えているビーを認識していないようだ。


「昔読んだ漫画だと、全長が一メートルくらいのサソリで、装甲車より硬いとかなんとかあったけれど、冗談じゃなしに、それくらい硬そうだ」


 実際、甲殻鎧に使っているバッタの甲殻(常盤お兄さんが拵えた模造品だろうけれど)は、非常に硬く、かつ適度に柔軟な素材だった。


「寒さには弱いと思うんだけれど……こいつもまた、凍死させるまでに時間が掛かりそうだなぁ」


 ビーを足元に降ろし、指輪を攻撃魔法と召喚魔法の消費魔力軽減のもの切り替える。


 即座にスケルトン魔術師を二体召喚する。


 ここでようやくこちらに気付いたのか、巨大サソリが床を削るような音を立てながら向かってきた。


 あの音からして、結構な重量があるのだろう。意外に速い。


 ギチギチと甲殻の軋むような音は、体を動かす筋肉によるものだろうか。


 気を付けるのはあのハサミと、それ以上に尻尾だよね。


 ハサミは、挟むことよりも振り回されることを注意した方がよさそうだ。


 直撃したらそれだけで意識を持って行かれそうだ。


 ああいう体型の魔物に対しては、ビーはいつも背に乗るんだけれど、今回はそれをしていない。きっと、あの毒針を警戒しているのだろう。


 できるだけ距離を取って攻撃をするために、使う魔法は【氷杭】のみ。もう【氷杭】が私の魔法のメインだよ。


 私の使える攻撃魔法の中では最大射程の魔法だからね。同程度の射程の攻撃魔法は、他に【火炎球】と【爆炎球】しかない。


 スケ魔姐さんが注意を惹きつつ魔法を放っているけれど、効いているのかな? 私もさっきから当てているけれど、ちっとも効いている様に見えない。


 まさかと思うけど、【氷杭】があの甲殻で阻まれてるなんてことはないよね?  十センチやそこらの厚さなら、簡単に貫通するはずなんだけれど。


 いや、実体はないから、それを貫通といっていいのか分からないけれど。


 あ、スケ魔姐さん一号がハサミで粉砕された。再召喚っと。


 巨大サソリは、今度はビーに狙いを定めたのか、ガガガガガガ! と、音を立てて猛烈な勢いでビーを追いかけ始めた。


 だが追いかけられることは慣れているようで、ビーは瞬間移動をするみたいにサソリの目の前から、その背後へと移動する。


 これはまた単調で長丁場な戦いになりそうだ。




 逃げて攪乱して【氷杭】を撃つということをはじめてからどのくらい経っただろう? とりあえず、スケ魔姐さんが潰される度に再召喚していたわけだけれど、十回目辺りで数えるのを止めた。というより、それどころじゃなくなった。


 とにかく動きが速い。つま先を床面に突き刺すようにしっかりと体を固定して突き進んで来るから、勢い余って転倒することもない。


 その速度であのぶっといハサミを振り回すんだから、たまったものじゃない。


 というか、サソリってあんなに機敏に動くものなの!?


 そもそも、私は走るのは苦手なんだよ。途中から【加重】と【筋力低下】の魔法をサソリにかけて、無理矢理動きを鈍らせたよ。さすがに逃げ切るのは難しいからね。


 動きを止めるなら【麻痺】という手もあるけれど、これはやらなかった。というより、出来なかった。


 【麻痺薬】は相手が大きすぎたのか、効かなかった。【麻痺】の魔法は、そもそも掛かる確率がそんなに高くない。それなら、攻撃魔法を撃った方が効率がいい。

 そんなこんなで試行錯誤しつつ、攻撃自体はスケ魔姐さんとビーに任せて、やっとサソリの動きを止めることに成功した。


 ワニよりも手間取ったよ。まぁ、ワニは中ボスだったわけだから、このサソリのほうが強いんだろうけれど。


 溺れさせることができれば、多分、あっという間に仕留められたんだろうけれど、さすがにそんな魔法なんてないからね。


 さぁ、相手の足もついに止まった。ここからは私も、凍死するまで徹底して冷気魔法を撃ち込んでやろう。




 疲れた。やっと死んだ。どんだけ生命力が強いのさ。これ、魔法が使えなかったらどうやって勝てばいいんだろ?

 あのハサミの振り下ろしとか、盾受けなんてできようもないんだけれど。


 剣はまず歯が立たない……刃が立たない? だろうし、打撃武器は……どれだけ効くんだろ?


 いや、ちょっと待って。こいつがここで出たってことは、次の階層から雑魚でウロウロしてるんだよね? コイツよりは弱い個体だとしても、面倒臭いことこの上ないんですけれど!?


 げんなりとしつつも、サソリをインベントリに格納する。


 【砂漠の女王】なんて表記されてるよ。なんともゴージャスな名前のサソリだ。で、この名前からするに、下層は砂漠か。


 一応、確認だけはしておこう。でもその前に、宝物部屋でお宝を確認しないと。


 なんかまた聖武具がでそうな気がするけれど。




 そして私は足元に来たビーを抱き上げると、宝物部屋へと入ったのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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