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213 ブルドッグ的な顔


 やっと五階層まできたよ。


 あのゴブリンの……集落? いや、集落って規模じゃなかったけれど、あれ以外に厄介なものはなかったよ。


 浅層は平和そのもの、とまではいかないものの、注意を怠らなければ、問題なく進めるね。


 そうそう、ちゃんと時間経過によって、夕方、夜と空は変化したよ。太陽はなかったのに、なぜか月はあったけれど。


 ただ……ね、月の表面にすごく分かりやすく餅をついている兎が描かれていたのはなんの冗談なんですかね?

 余裕ができて空を見上げた時、思わず噴き出したよ。


 大木さん、いったい何をやっているんですか。


 腕のミサンガに記されている残りの日数は十六。ここまで一気に駆け抜けてきたから、ダンジョン内を細かく観察はしていない。


 とはいえ、野っ原だからね。面白そうな植物でもあれば採取するんだけれど、そんな見て回る時間がないからね。とにかく、行けるところまで行こう、が今回のコンセプトだから。


 正確には、ショートカットを開けよう、ということだ。


 ボスを倒せば、そこまでのショトカが開けられるからね。


 そうそう、ダンジョンの外周の形状が、四角なのか円なのかはわからないけれど、体感だと、端から端の距離は六キロくらいだと思う。


 下への階段――じゃなかった、スロープを探して走り回ってたからね。一度端から端まで走ったんだよ。


 あ、端は分かりやすい様に柵が張り巡らされてたよ。その先は壁になってた。


 で、いま私はその外壁に口を開けている大きな扉の前にいる。


 多分、いわゆる中ボス部屋だろう。


 ここまでに見かけた魔物は、【バンビーナ】でも見かかけたような奴もいたよ。あぁ、いや、あれはモルモットのご先祖か。


 こっちでウロウロしてたのはメガテリウム。確か、人類に狩られてたんだっけ? かなり大きいんだけれど。


 あとビッグホーンってこっちで呼ばれてる、毛むくじゃらのサイみたいなやつ。


 そんなのが僅かばかりにいたよ。意外と、食料調達には丁度いいのかもしれないね。地上と危険度は変わりないと云えるレベルだし。


 さて、それじゃ中ボス戦といきましょうかね。


 ここまではスケルトン兵とスケルトン弓兵に頑張ってもらったけれど、中ボス戦、大丈夫かな?


 ……見た目にはさっぱりだけれど、やる気みたいだ。ここで引っ込めたら落ち込みそうだ。まぁ、バラバラにされても、再召喚すれば元通りだし、このまま行ってみよう。


 やたらと豪華なレリーフの施された扉に触れる。


 それだけで扉が勝手に開いていく。自動ドアみたいなものなんだろう。そして開いた扉の隙間から見えるボス。それは――


 あぁ、見覚えがあるな。


 【バンビーナ】に居たボスじゃないか。ただ、私がどうこうする前に、勝手に死んじゃったヤツ。


 そこにいた巨大な魔物。それは雌鶏。身の丈六、七メートルはあろうかという、まるまると太った雌鶏。あまりにも丸すぎてコミカルに見えるけれど、そのサイズを考えると、まともには相手にはしたいとは思えない。


 【バンビーナ】では、コカトリスの毒で死亡なんて間抜けなことをしていた変な魔物だけれど、実際に戦うとどうなのかな?


 ちなみに、【バンビーナ】のヤツも回収はしてある。幸い、コカトリスの毒は無害な状態になっていたみたいだ。

 体内に吸収されてから時間経過で分解するみたいだ。まぁ、それまでの時間で死に至る程に強力な毒だったわけだけれど。


 砂肝なんかは、私と同じくらいのサイズだったからね。その内きちんと処理して美味しく頂く予定だ。


 でだ、このでかい鶏。いわゆるボス部屋に入ったわけだけれども、動きませんよ?


 ボケっと眺めていると、ぶわっと急に膨れ上がり――


 凄まじい衝撃が私たちに襲い掛かった!


 踏ん張りがきかずに転倒し、転がり、いましがた通った扉にガツンと激突する。


 なんてことはない、ただ鳴いただけ。


 というか、耳が痛いしよく聞こえないんだけれど!? 鼓膜破れた?


 というか、ロクでもないな。ただの鳴き声でこの有様だよ。あ、立った。

 こうして改めて見ると、足がぶっといな。


 ずしん。


 よっとこせ、とでもう云う感じに一歩踏み出す。


 ……遅いな。


 やっぱり太り過ぎでしょ、このデカすぎる鶏。とにかく倒そう。


 魔法を発動する。冷気魔法の【氷嵐】と言音魔法の【冷気の吐息】のふたつ。


 前者はコーン状に横に寝かせた竜巻状の冷気を撃ち出す魔法。

 後者はいわゆるドラゴンブレスだ。


 【氷嵐】は連発できるけれど、【冷気の吐息】はクールタイムが入るために、連発はできない。とはいえ、手始めに一気に相手のスタミナを奪って動きを鈍らせるには丁度いい筈だ。


 なにせあの巨体だ。【氷嵐】だけじゃ間に合いそうにないからね。


 ただでさえ鈍臭いのが、さらに鈍くなった。よし、このまま凍死させてやる!


 そして再度【氷嵐】を私は撃ちこんだ。




 戦闘終了。


 一方的に魔法を撃ち込むだけで終わったよ。あのあと何度か鳴いたみたいだけれど、はっはっはっ、なにを騒いでいるのかわからん!


 あ、回復魔法を掛けないと。……治るよね? これ。ダメなら究極回復薬を飲まないと。いまにして思うけれど、地味に複製しまくっておいてよかったよ。


 先ずは回復魔法。……うん。大丈夫、かな? ちゃんと聞こえる。聞こえてるよね? 微妙に不安なんだけれど。


 スケさんたちは喋れないし、ビーは鳴かないしね。そもそも兎に声帯はないからね。


 ぱん! と手を打ち鳴らす。うん。問題なし。治ったよ。


 それにしてもこのでっかい鶏。魔法をつかったからサクッと倒せたけれど、魔法無しだとどうやって倒したらいいんだろ?


 この羽毛は地味に矢避けになっていそうだし。下手に近づこうものなら、あっさり潰されそうだ。ごろんと転がるだけで、簡単に人間なんか潰せるだろうし。


 なによりあの鳴き声で鼓膜を破られたら、声掛けでの連携なんかも取れなくなるしね。


 こうしてみると地味に厄介だな。いや、巨大なだけで厄介ってことか。


 あらたな食肉をインベントリに格納する。


 落ちている羽根を拾ってみる。うん、当然だけれど、すごく大きい。


 これだけでもちょっとしたお土産になりそう。なにかにネタにならないかな?


 まぁ、いいや。先に進もう。


 六層、七層、八層と進む。だいたいこのダンジョンの構造がわかってきたよ。

作り的には、階層は真下に繋がっているわけじゃなくて、隣接した位置に半分くらい下に下がっている、という感じだ。……うまい説明じゃないな。


 半分くらいっていうのは、スロープの距離が一層へ降りるときの長さの半分くらいだからだ。


 螺旋を描くように階層が配置されているんだろう。なにせ各階層が巨大だからね。そうしないとどれだけ深いところまで到達するのか。

 よくある、空間をどうこうするっていうような作りではなく、単なる地下施設だからね。


 九層にはいったところで休憩。


 一応、各層ごとに固有の大型の魔物が配置されているみたいだ。


 あ、象がいたよ。象。なんか、アルマジロみたいな外殻があったけれど。……鎧象? なんだそりゃ。


 見つかっても、こっちから近づかなければ襲ってきたりはしないから、放置してきたよ。

 いや、一頭目で、近くで見ようとかちょっと近づいたら襲われてさ。だいたい五十メートルくらいが近づける限界みたいだ。


 うん。二頭、インベントリに入っているよ。どうしようか、コレ。食べられるのかな? いや、マンモスとかも食用になってたんだから、食べられるか。

 マンモスで思い出した。インベントリに入っているんだよ。常盤お兄さん、どっから仕入れて来たのかしらないけれどさ。


 ……サンレアンに帰ったら焼いてみよう。女神さま方がどんな反応をするか見てみたい。ゲームに登場した、鼻を輪切りにしたステーキを再現するのだ。


 そんなことを考えつつ、ジュゥジュゥと猪の肉を焼成中。


 肉の匂いで引き寄せられたのか、異様にでかいヘルハウンドが近くをうろうろしてたりしたけれど。


 有り余って持て余していた蛙(【バンビーナ】で狩って来た大蛙)をやったら、銜えて離れていったけれど。

 もし仲間を引き連れてきて、もっと寄越せなんてことしてきたら、その時は狩ることにしよう。


 ビーにもお肉を分けて食事。残りの日数は十四日。


 これは順調といえるのかな? こうしてリミットが見てわかると、微妙に急かされているみたいで落ち着かない。


 時折、弓スケさんが矢を放ち、スケさんが獲物を拾ってくる。


 えーと、普通に人型をしていませんかね?


 なんか、革製の胸甲をつけていないかな?


 獣人? 犬頭? え、コボルド?


 犬頭の獣人。というか、体のほうも毛むくじゃらで犬っぽい。でも狼男みたいな感じではない。狼男はあれだ、人型だけれど人間的なフォルムじゃないからね。


 筋肉をつけすぎたボディビルダーみたいな感じでやや猫背気味だから。


 でもこいつは人間らしいスタイルだ。犬だけど。尻尾もあるし。


 ただ、こいつがコボルドだとしたら、私のイメージとはかけ離れているけれど。


 うん。顔がね、パグというか、ブルドッグ的な顔なんだよ。なんだろ? コボルドって、普通に犬で思い浮かべるような鼻づらの顔ってイメージがあったんだけれど。


 つか、ゴブリンに続いてコボルドもいるのか。


 ん? ここにいるってことは、あの鶏を突破したってことか。強いなコボルド。


 ……あぁ、うん。この顔を見る限り、強そうだ。トゲトゲのついた首輪とか付けたくなるし。


 さすがにこいつをインベントリに入れて持ち帰りたくはないなぁ。


 でもこいつがここに居るってことは、近くにコボルドの生息域があるのか。

 潰すべきなのかな?


 とりあえず、食事をしたらとっとと移動しよう。この階層で長居をしていると、面倒なことになりそうだ。


 ★ ☆ ★


 九層を駆け抜けて、十層へと到達。ダンジョンの造りをある程度予想したわけだけれど、予想通りの位置に下層へと向かうスロープがあるから、私の予想は合っているといえるだろう。


 そうしていまはボス部屋の前にまで来ましたよ。


 途中、遠巻きにだけれど【バンビーナ】でボスをやっていたバッファローの群れがいて、戦々恐々としたけれど。


 つーか、アレが浅層の雑魚なのか。なんて魔窟だ!


 と、そんなことよりもボス戦だ。ここのボスを倒せば、地上から十一階層へとつづく階段……じゃなかった、スロープ部屋へと直行できるショートカットが開くはずだ。


 さて、それじゃ頑張ってボスを倒すとしよう。


 扉に触れる。


 そして開いた扉の向こうにいたのは、身の丈七メートルはあろうかと思える、土色の肌をした巨人だった。


 うわぁお、トロールだ。初めて見た。




 巨大な棍棒を手にするその巨人の姿に、私は思わず口元を引き攣らせたのです。


誤字報告ありがとうございます。

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