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210 甲殻鎧がお薦め


 うーむ。


 ここにきて、重大な事実と云うか、見落としに顔を顰める。


 先日より制作していた丼やらなんやらの本焼きが終わり、ついに完成。

 一晩経って、窯出しをしたんだ。出来はそこそこ。


 ただ、一部、焼成温度が低い……というか、火から遠かったのかな? 綺麗に色が出なかったものふたつ。


 緑とピンクの器になったよ。


 これはこれで……と、いえなくもないけれど……。


 緑とピンクだしなぁ。


 ピン! キン! という、出来立ての陶器がたてる音を聞きつつ、出来上がった器を確認していく。


 ふふふ、この音を聞くのが、焼き物を作る上での一番の至福だよねぇ。


 でだ、なにを見落とし、しくじったかというと、器の用途に合わせた色。


 丼に織部の緑はどうなのよ。


 よくよく考えたら、丼といったら、青系の色って感じだよ。正確には白地に青の模様。


 釉薬をもうちょっと考えればよかったかな? いや、でも、私が自作できる釉薬なんて織部しか知らないからぁ。


 銅の代わりに鉄をいれたら何色になるんだっけ?


 黒か赤ってところ? 焼成温度は重要だからなぁ。織部がピンクになったのも、温度が低かったからだろうし。


 青系って、なんで出すんだろ? コバルト?

 

 じっちゃんのところでもっと教えて貰えばよかったなぁ。


 いや、自身でこだわりのある色を作ろうとしない限り、大抵の釉薬は買えるし。

 実際、じっちゃんの所だと、市販の釉薬を使ってもいたからね。

 織部は、面白半分に教えてくれた感じだったしねぇ。


 しみじみと焼き上がった器をみつめる。


 おせんべいとかをつめこんだら、いい感じになりそうなんだけれど。


 この色の丼で親子丼とかは……どうなんだろ?


 まぁ、作っちゃったし、いっか。とりあえず、今晩は茶わん蒸しをつくろう。

 銀杏はないけど、筍はあるし。


 そんなことを思いつつ、ひとりニヨニヨとしているとララー姉様が私を呼びにやってきた。


「キッカちゃん、お客さんよぉ」

「はい?」


 お客? また珍しいな。先日クリストバル様がいらしたけれど、基本的に家にお客が来ることなんてないんだけれどな。リスリお嬢様を除いて。


 ララー姉様について母屋に戻る。そこで待っていたのは、なんだか懐かしく思える人だった。


「あぁ、よかった。やっと会えたよ」

「お久しぶりです、キュカさん。どうしました?」


 お客と云うのはキュカさん。冒険者組合に登録にいったとき、ついでにした回復薬のデモンストレーションの実験台に使った、リカルドさんの相方のお姉さんだ。


「今日はお願いがあって来たのよ。どうにもタイミングが悪くて、組合で会わなかったから」

「あぁ、それは……」


 そういや、フレディさんたちとは時々顔を合わせるけど、キュカさんたちとはあれ以来、ちっとも組合で会わなかったな。


「それなりに顔を出してるとは思うんですけど、全然会いませんでしたね。まぁ、私が込み合う時間を避けてたのもあるとおもいますけど」

「あはは……。そ、それでね、明日は安息日だし、今日ならいるんじゃないかと思って、思い切って訪ねてみたのよ」


 ララー姉様がお茶とお茶菓子を置いて、台所へともどる。


 なんだろう、女神様にお茶を出してもらうのが普通に慣れてきている私がいる。いろいろとこれは駄目なんじゃなかろうか?


 いや、それは後で考えよう。いまはキュカさんのお話だ。


「キッカちゃん、鎧を作っているでしょう。狩人用の鎧とかはないのかな?」

「狩人用……というか、軽装鎧ですか? それならいくつか種類はありますよ」

「ひとつお願いしたんだけれど。一応、お金はなんとか貯めたから、お願いに来たのよ。重装鎧を買えるくらいのお金があれば大丈夫よね?」


 おー。金貨二十枚貯めたんだ。狩人の平均収入を考えると、かなり凄いんじゃないかな。


「だ、ダメ?」

「いえ、大丈夫ですよ。ただ、軽装鎧の適正価格がわからないので、値段に関しては組合と相談して決めますけど、問題ありませんか?」

「よ、予算を超えるのはさすがに厳しいんだけれど」

「さすがにそこまで高くならないですよ。いくつかありますけど、見てみましょうか」


 ということで、再び作業場へ。


「なんだか見慣れないものがあるわね」

「あー、多分、私のところはかなり特殊でしょうからねー。最近は粘土をいじってばっかりですし。

 それじゃ、ここに並べていきますね」


 先日、陶器造りの際、乾燥させるために並べる場所として簡易に作ったテーブルを指差した。


「……キッカちゃん、あの大きな金属製の……玉? はなに?」


 キュカさんが入り口の左右にある、ふたつの台座に乗った球体を指差す。


「あー、それは防犯用設備ですよ」


 オートマトンのミーレス。あの球体が変形して人型になる。脚部は球体の端の部分が車輪代わりとなる。警備にはもってこいのオートマトンだ。


 そういや、オートマトンとオートマタって、なにが違うんだ? なんて思って調べてみたことがあるんだよ。そうしたら、オートマタって、オートマトンの複数形なんだね。オートマタの方の自動人形の意味で、日本ではよく知られているけれど。


 それはさておいて、並べる鎧は以下の物。


 革鎧、月鋼鎧、甲殻鎧、孔雀鎧のよっつ。さすがに軽竜骨鎧や暗殺者鎧は出せません。


「金属のもあるのね」

「えぇ。ですけど、音の問題はほとんどありませんよ。重装鎧みたいにガッシャガッシャいいませんから」

「……これ、透けてない?」

「そういう素材なんですよ。やろうと思えば、完全に透明にもできますけど」

「うーん……」

「個人的には、甲殻鎧がお薦めです」

「えぇ……」


 あれ? なんだか不評?


「見ての通り、ゴーグル付きなんで、目の部分もしっかり保護できますからね。他はオープンタイプのヘルメットですし」

「これの素材ってなんなの? 骨?」

「バッタの外骨格ですよ」

「え……」


 顔を引きつらせ、キュカさんが甲殻鎧を見つめる。


「バッタ?」

「バッタです。まぁ、この辺りだと素材が手に入らないんですけれどね」


 【バンビーナ】の昆虫サイドへ行けば、素材になる奴もいそうだけれど。


「バッタ……バッタかぁ。虫はちょっと……」


 あぁ、キュカさん、虫が苦手なのか。


「そういえば、キッカちゃんはどんな鎧なの? 重装?」

「重装も使いますけど、最近は軽装備ですよ。見てみます?」


 訊くと、是非とお願いされたので、現在の私の主装備を持って来る。


「これになりますね。あぁ、下にはスキニーを履きますよ」


 云っておかないと、生足で出歩いていると思われる。


 いろいろとおおらかな割には、こっちの貞操観念はかなり高いんだよね。


「……これは鎧なの? 一応、革製みたいだけれど」

「魔法使い装備ですよ」


 正確には魔女装備だけれど、魔女って云い回しはアレだからね。


「魔法使い装備!?」

「はい」

「私のイメージしている魔法使いと違う……」


 あぁ、うん。それは私もそう思うよ。どうみても映画に登場するトレジャーハンターみたいな格好だもの。


「魔法使う上での補助のある装備なんですよ。元々のデザインを真似て作ったので、こんな感じですけれど。

 私は弓も使うので、この装備は動きやすくていいですよ」

「えぇ……」


 ……何故ドン引きしますかね。


「その、扇情的すぎない?」

「そんなことないと思いますけど。いまのキュカさんの恰好とさほど変わりませんよ。露出があるわけじゃありませんし。

 着てみましょうか?」

「うん、お願い」


 私は装備を持って母屋に戻り、着替えて作業場へ。


「こんな感じですかね」

「あ、本当だ。露出は少ないわね。……その足のベルトに差してある壜は何?」


 キュカさんが私の右足を指差す。


「あぁ、これは毒ですよ。弓にセットして使います。錬金薬なので、時間経過で成分が消えますから、狩りにはもってこいなんですよ」

「弓に装着するの!?」

「えぇ。……あぁ、そうか、確かに私の作る弓は毒壜のホルダーがありますから、ちょっと特殊ですね。こんな感じですよ」


 武器ラックにかけておいた狩人弓を外し、グリップのすぐ上の部分を指差す。


「ここに毒壜をセットするのね」

「そうですそうです。あとは矢を番えたときに、こう、指先でちょんとやってやると薬液が落ちて、ちょうど鏃にかかります」

「大物を狙うのには便利そうね。あぁ、いや、今日は鎧をお願いに来たのよ。

 その、キッカちゃんと同じのでもいいかしら? 下はショートパンツじゃなく、ちゃんと丈の長いズボンでお願いしたいんだけれど」

「分かりました。それじゃ、これから一緒に組合に行きましょう。値段を決めないと」


 と、そうだ。メタスラ鎧も持って行かないと。このあいだ杖作成セットを持って行った時に、すっかり話してくるのを忘れたからね。今度こそこれも相談しないと。……場合によっては販売できなくなるだろうし。




 かくして、私は袋に詰めた鎧を担いで、キュカさんと組合へと向かったのです。


誤字報告ありがとうございます。

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