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208 次なる野望


 カレーは作り上げられたのです。


 私の作り上げた、あの微妙なカレーのようなものではなく、ちゃんとした、まさしくカレーと誰もが答えるであろうモノがここに!


 ……いや、本当、なんで私の作ったアレはあんな微妙になっちゃったんだろうね? カレーを食べた事のある人が食べれば、確実に「か、カレー?」と疑問符を浮かべるような代物だったからね。


 こんなものがカレーだとぅ! と文句を云われるレベルの物ならともかく、微妙にカレーと認識できそうなのが、もう、ね……。


 あの後、女神さま方があーでもないこーでもないと、いろいろとやっていたわけですが、それが出来上がった訳です。


「キッカちゃん、コリアンダーの根っこってなぁい?」


 などと、ララー姉様に訊ねられたときは、なんのことかと思ったけれど。


 ……え? 根っこを使うの? 葉っぱじゃなくて? コリアンダー=パクチーだよね? 私も一応、葉っぱを磨り潰して混ぜ込んではいたんだけれど。


 そんなこんなで出来上がったカレー。


 大変美味しゅうございました。


 おかげで、余計に私が作ったアレがなんだったのかと、非常に悲しい気分になりましたが。


 出来上がったカレーですが、アンララー様は粉末状にしたものを瓶詰にして販売するとのこと。量産体制を整えるのだとか。


 南方に巨大農園を作ったらしいからね。ナツメグの林ができているらしい。


 ミストラル商会は確実に食品卸業者となっているよ。冒険者食堂が躍進しているから、売り上げは登り調子になっていることだろう。


 私も海産物を届けて貰っているからね。主に昆布。


 そうだ、今度、おぼろ昆布を作ってみよう。皮をなめす要領で、ナイフで表面をこそぐように削れば出来上がるからね、アレ。


 そういや、いまだにおぼろ昆布ととろろ昆布の違いがわからないんだよね。


 違うらしいんだけれど。


 ……いや、海産物の話はいいんだよ。天草を探してとジョスランさんにお願いした程度で、変わりないんだから。


 えーと、そう、カレーはこうして完成したのですよ。


 いわゆる甘口と、中辛、そして激辛の三種類が。


 激辛には、前につくったアレ、ドラゴンズ・ブレスが混ぜ込んでありますよ。ほんの少量だけれど。


 さて、こうなると次なる野望はカレーパン! とはなりません。


 いや、作りたくはあるんだけれど、まだカレーパン用のカレーは作っていないんだよ。ただ水分をとばせばいいってわけでもないだろうからね。


 では、なにを作るのかと云うと、これだ。


 ハッシュドビーフ!


 いわゆるハヤシライスですよ。


 よくよく考えたら、これならこっちでも苦労せずに作れるのですよ!


 まぁ、ビーフじゃなくてベニソンとかになりそうだけれど。


 鹿肉だと、微妙に味にメリハリがなさそうな感じになりそうだけれど。

 鹿肉、食べやすくて好きなんだけれど、こう、癖が無さ過ぎる感じがするよ。


 まぁ、私の主観だけれどさ。


 こっち、アムルロスの料理事情が残念なのは散々云ってきたけれど、それはまぁ、いろいろと問題があったのが原因だ。


 なにより調味料関連が壊滅といってもいい感じだったからね。


 安価で流通しているのがダンジョン産の岩塩だけ。あとは香草関連と、生姜、大蒜、マスタードくらい?


 このラインナップだと、どう見ても『肉を焼け!』という感じにしかならないね。


 実際、調理技術となると、煮ると焼くのみと云っていい状態。もっともそれだけだからこそ、やたらと洗練されてもいたけれど。


 スープやシチューは美味しいからね。


 調味料の無い無い尽くしにも拘わらずに。


 いわゆる煮込み料理は素晴らしい。


 それじゃ焼き料理はと云うと、こっちは焼きだからね。技術云々はいるのだろうけれど、結局は焼くだけだから。


 そのかわり、ソース関連は発展しているみたいだ。これは王侯貴族なんかに雇われている料理人がいろいろと切磋琢磨した結果らしい。


 市井の料理人とか、家庭の主婦はソースにこだわったりせず、塩を振って終わりが普通。


 さて、そのソースだけれど、いわゆるグレイビーソース、デミグラスソースのようなものが作られている。

 特に後者の、デミグラスソースっぽいものは、そのままでもハッシュドビーフに使えそうだよ。


 では、作っていきましょうか、ハッシュドビーフ。


 さすがに本格的に一から作るのは初めてだけれど、スパイスの配合なんてことをやらなくて済む分、問題なく作れそうですよ。


 準備する材料は以下の通り。


・牛肉【バンビーナ】産

・玉ねぎ

・トマト

・キノコ色々(錬金薬用に栽培している食用のもの)

・赤ワイン(アンパロ、っていう銘柄)

・デミグラスソース(のようなもの)

・ソース(私が以前作った、中濃ソースっぽいもの)


 えーと、こんなところ?


 キノコの選択が雑。マッシュルームを栽培しようか悩むところだ。


 これらの食材で気になるところとなるのは、牛肉と赤ワイン。


 牛肉だけれど、ダンジョンで狩ってきた牛の魔物の肉だ。まぁ、魔物に分類されるんだろうけれど、見た目は普通のバッファローだったからね。


 ……バッファローの肉を、牛肉とひとくくりにして大丈夫なのかな? まぁ、問題はないだろう。


 このお肉の質なんだけれど、綺麗な赤身肉です。脂肪分がかなり少ない感じ。

 ステーキにして食べたけれど、ちょっぴり堅めのお肉という感じだった。焼くときに軽く水を加えて、蓋をして焼き蒸す感じで仕上げた方がいいのかもしれないね。


 こっちじゃ牛は食肉になっていないから、久しぶりに美味しく頂きましたよ。


 ただ、脂が少ないことから、ハッシュドビーフとして煮込む際には、牛脂を溶かして少し加えた方がいいかもしれない。


 次にワイン。こっちが少しばかり問題だ。


 私はお酒は飲まないわけだけれど、いや、未成年だからね。それでも日本にいた時に、興味本位で味見程度に舐めたことはあるんだよ。


 で、ワイン。


 お兄ちゃんはとてつもなく苦手としていたお酒だ。どうにも相性が悪いらしくて、飲むと舌が一気に馬鹿になって味覚が死ぬんだそうな。飯の味がしなくなるから、ワインはもう飲まないとか騒いでたよ。


 まぁ、私は料理に使うこともあって、舐める程度に味見はしたことがあるんだよ。

 さすがにそれくらいじゃ、やらかすようなことにはならないからね。


 だから、味は分かってはいるんだ。それなりに美味しいといわれる味はね。


 で、こっちの赤ワインも舐めてみたんだよ。


 凄いね。なんだこれ。


 飲むときに蜂蜜とか、塩とかをぶっこんで飲む理由がわかったよ。


 多分、これが『若い』ってやつなんだろうと思う。熟成がされていないんだよ。

 味が尖がってるとかどうとかいうレベルじゃなくてね。なんていったらいいんだろ……好んでは食べたくはないな、と思える程度におちついた渋柿?


 本当に渋柿は食べると大変なことになるからね。口に消火剤をぶち込まれたみたいな感覚を数十倍にしたような感じになるから。


 ん? 消火剤を口に含んだことがあるのかって? あるよ。いや、いじめとかじゃなくて、事故だけど。


 学校には消火器が備え付けてあるじゃない。それの安全装置。スイッチになっている握り部分を握り込めないようしてある、黄色いつっかえが抜かれているやつがあったみたいでね。


 集会の移動で教室の前の廊下に並んでいたときに、男子(誰だか忘れたけれど)がその消火器に座るか何かしたところ、暴発したんだよ。


 えぇ、巻き込まれましたよ。思わず口を開けたら、口の中の水分を根こそぎ持って行かれるような感じがしたよ。なんだか、『ジュッ!』というような音が口の中から聞こえたような気もしたし。


 とにかく、酷いことになるんだよ。


 話をもどそう。


 赤ワイン。そんなわけで、味が凄まじいです。


 熟成しないタイプのワインもあるって聞くけれど、多分これ、熟成しなくちゃいけないやつを、そのまま飲んでるじゃないかな。

 とりあえず酒になったから問題ない! という感じで。

 酔えればいいって感覚なんだろうか?


 これは……使って大丈夫なのかな? 煮込むわけだけれど、ほぼワインで煮込むような感じになるから、要の食材なんだけれど。


 ……失敗したくないから、いま話した私が舐めたことのあるワインを魔力変換で出そう。多分出せるし。

 貰いものっていってたから、値段とか分からないけれど、多分、それなりにお高いハズだ。


 問題のありそうなところは、これで解決というか、回避できたかな?


 それじゃ、作っていきましょう。


 薄切り牛肉に下味をつけて、小麦を振ったら炒めていきますよ。

 スライスした大蒜と一緒に炒めてと。


 次に鍋のほうで玉ねぎを焦がさないように鍋で炒める。そういや、玉ねぎは火を通すと甘くなるけれど、この甘みって、お砂糖の二十倍なんだとか。糖度、ではなく甘み。どうやって計っているんだろ?


 玉ねぎにいい感じに火が通ったら、先に炒めた牛肉を投入。もちろん、炒める際に出た肉汁も一緒に。


 そこへ各種ソースをぶち込み、ワインを逆さにしてドバドバと入れ、刻んだキノコも放り込んで煮込んでいきますよ。


 肉の臭い消しには、丁字とかオレガノ、ベイリーフを放り込んだ。


 さぁ、あとは煮込むだけだよ。焦がさないようにしないとね。


 ★ ☆ ★


「キッカちゃん、これはなぁに?」

「カレー……とは違うわねー」

「これはハヤシライスですよ。カレーとは似て非なるモノです。辛いのが苦手な人は、こっちの方を好むかもしれませんね」


 女神さま方がじーっと皿のハヤシライスを見つめている。


「カレーと違って、お芋とかは入っていないのねぇ」

「入れてもいいと思いますけれど、基本は玉ねぎと牛肉ですよ」

「あれこれ訊くよりも、まずは食べましょー。訊くのはあとでもできるわよー」


 ルナ姉様が胸元で手を合わせ、いただきますと云って食べ始めた。


 と、顔を見つめたりしないようにしないと、また噴き出したりするわけにはいかないからね。


 そうそう、今回は余ったワインもグラスに注いで出してあるよ。私は飲まないけれどね。やらかすにしても、記憶に全く残っていないのは問題でしかないもの。


「これも美味しいわねー。これも手間が掛かるのかしらー?」

「調理自体はカレーと大差ないですよ。ただ、スパイスの配合だのなんだのが無い分、こっちのが作るのは楽だと思います」


 実際、日本だとルーが売っているからね。作る手間はカレーもハヤシもさしてかわらない。


「カレーを食べた後だと、インパクトには欠けるわねぇ」

「まぁ、カレーの食欲をそそる香りと、あの刺激はクセになりますからね」

「このレシピも公開するのかしらー?」

「どうしましょうかね? 米飯じゃなくて、パンやパスタでも問題ないですしね」

「どうせリスリちゃんが『買います!』と云ってくるわよー。あの娘、鼻がいいからねー」

「イリアルテの子だしねー」


 この感じだと、神様方からも一目置かれているのか、イリアルテ家。


 まぁ、耳にするやらかしていることが強烈だからなぁ。


「……キッカちゃん、聞かなくてはならないことがあるわ」


 不意にララー姉様が真顔で私に訊いてきた。


「このワインはなに?」




 ……どうやら今後は、お酒もどうにかしないといけなさそうです。


感想、誤字報告ありがとうございます。


※ご指摘ありがとうございます。近く修正します。多分、『小麦粉か何かだ』の粉と勘違いしています。

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