207 バナナを消費しよう
十三月ノ二十四日となりました。
先日、なし崩しにリバーシを作ることになって、午後一杯を使って駒の型を作成。ちっちゃいタルト型というか、今川焼の型みたいになったけれど。
いや、今川焼というにはあまりにも小さいし薄すぎるか。
白と黒の面のある駒を作るわけだけれど、それぞれ別個に作ってくっつける形にしたよ。
素材は骨鎧の素材。骨粉をベースにしたものだけれど、固さや耐久性は十分な代物だ。いや、当たり前か、鎧の素材だもの。
基本のクリーム色のものと、これを黒く染色したものの二種類を準備。
それぞれを別個の型に流し込んで、半乾きになったところでスライム粘液を塗って今川焼をつくるみたいに合わせて白黒をくっつけてひとつに。それを完全に乾かしたら、焼成してできあがりだ。
問題は、数を作らなくちゃいけないってことだね。
ゲーム盤の方はミストラル商会の工房で作るとのこと。ララー姉様はミストラル商会で専売するつもりみたいだ。
さて、王家からの召喚、というか、招待状が二十一日に届きました。ずいぶん遅いなと思っていたら、二月の話だったよ。
あれ? ってことは、新年あけてから王都へ行って、向こうでひと月くらい過ごして戻って来るってことになることに?
あんまりサンレアンから離れていたくはないんだけれどなぁ。というか、そのスケジュールだと、【アリリオ】の攻略が三月まで日延べになっちゃうよ。
とりあえず、二月の一日までに王都についていればいんだから、年明け……いや、もう明日から行こうか?
あぁ、でも、大晦日とお正月をのんびりしないのはないな。
せっかく黒豆とか試作したりしたんだし。それをお正月に食べないとかないよ。
どうなるかわかんないし、なるようになれでいいや。
で、昨日と一昨日は【バンビーナ】まで行って、バイコーンを捕まえてきたよ。これで献上品は安心。いまは大木さんのところで預かって貰っているよ。
牡馬を三頭、牝馬を二頭。
番で二組。牡馬一頭は私のね。
そうそう、ついでだから、【バンビーナ】内を見て回って来たんだよ。バイコーンの階層だけだけれど。
ほら、水場だの安地だのを追加したじゃない。どんなものかなって。
水場は云った通りの感じだったよ。洗面台みたいなのが壁にくっついてた。それで安地のほうなんだけれど、酷いと云うかなんというか。
大木さん、適当過ぎでしょう。でなければ遊びすぎ。
安全地帯となっている玄室はなんにもない玄室。広さ的には二十畳くらい。微妙な広さ、かな? 他の玄室はもっと広いからね。まぁ、戦闘を想定しているからだろうけれど。多分、体育館の半分くらいの広さはあるんじゃないかな?
ボス部屋は野球のコートが入るくらいの広さだったし。
それで安全地帯だけれど、床一面にでっかい円が描いてあってさ、その中に文字が書かれているのですよ。
【安全第一】って。
漢字で。漢字で! いや、大木さん、なにをやってるんですか。
実印とかに掘られているような字体だけれど。
って、そうだよ、判子だコレ!
それを見た時、まっさきに思ったよ。
工事現場か、ここは?
魔法陣のラインは、黄色と黒の斜めの縞模様。文字は黄色だったんだよ。しかもうすぼんやりと光ってるというね。
なんか、らしい魔法陣でも描けばよかったのに。
まぁ、私も人の事はいえないんだけれどさ。工房の名前を【如月工房】ってして、漢字の看板を作業場に掲げてあるから。
でも門の所に掛けてある看板は、ちゃんとこっちの文字で書いたものを使うくらいの分別は、私にだってあるんだよ?
なんというか、管理ダンジョン化した後に、いろいろと物議をかもしそうだよ。
……他のダンジョンもそういった調整するのかな?
【アリリオ】に行った時に確認しておこう。とりあえず、変な噂話とかは聞かないから、大丈夫だとは思うけれど。
さてさて、いまは庭にいますよ。バナナの様子を見に来たんだけれど、もう実ってるよ。
四日で収穫までいけるのか。樹じゃないからかな?
というかさ、なんでこんなにでっかく育ってんのかな? 普通のバナナのサイズじゃないのかな? これ。
例の肥沃土を使うと、ダンジョン内みたいにリポップする作物になるんだけれど、そのサイズって盆栽みたいなサイズなんだよ。盆栽よりはちょっとは大きいかな?
だから一本の木(これだけ大きいんだもの、草じゃなくて木でいいよ)から収穫できる数はたかが知れているんだけれど、そこは私の収穫した物が増える技能で補っていたわけだけれど。
でも目の前のバナナの木は見上げるくらいのサイズになってるんだよ。
バナナもたわわに実ってるし。
「……キッカちゃん、いつまで眺めてるのー? 色も黄色くなっているし、食べごろよねー?」
「えぇ。このまま放っておくと、確か弾ける? はずです」
隣で私と同じようにバナナの木を見上げているルナ姉様に答えた。
さすがに開いちゃったバナナは食べたくはないな。衛生的な意味合いで。
「ただ、収穫に二の足を踏んでるんですよね」
「なんでかしらー?」
「ほら、私が収穫すると【増える】じゃないですか。で、バナナは一本一本収穫するわけじゃなく、この房を丸ごと収穫するわけです」
「そうねー」
「……丸ごと増えませんかね?」
多分、房全体で五、六十本あると思うんだけれど。この房を一単位とすると、収穫した途端、どこからともなく同じ房がふたつ出てくることに。
いまさらだけどとんでもないな、この技能? パッシブの上に止められないし。
「……ララーを呼んでくるわねー」
「え?」
「私とララーで受け止めるわー」
あぁ……増えるのは確定なんですね。
バナナの房、私の体と同じくらいの大きさなんだけれど。
★ ☆ ★
予想以上に収穫できたので、さっそくバナナを消費しよう。
あ、収穫後は掘り起こして、株分けをしたよ。ルナ姉様が嬉々として農研に送る手続きをしてたよ。
それじゃ、お菓子を作って行こう。
バナナを使ったお菓子といったら、バナナプリンとかバナナクッキーぐらいしか作ったことはないんだけれどね。
ん? どのくらいの収穫量だったかって? 手元でいきなり増えて、脚立ごとひっくり返ったよ。危うく一回死亡なんて間の抜けたことをやらかすところだったよ。
あらためて調べたら、一本のバナナの苗から、だいたい百本ぐらい収穫できるんだってね。ということはだ、家で今回栽培したものは、きちんと控えめになってたんだね。
まぁ、それでも三房、約百七十本くらいをいきなり抱えたりしたから、バランス崩してひっくり返ったんだけれどね。
今度収穫するときは気を付けないと。
さて、お菓子。
今回はどら焼きにしますよ。ほら、スポンジでホイップクリームとバナナをくるんだお菓子があるじゃない。
あれっぽい感じのどら焼きをつくるよ。まぁ、形がどら焼きなだけの別物だろうけど。いや、私は中身が餡子じゃないと、どら焼きって感じがしないからさ。
なんでどら焼きなのかって? だってどら焼きの方が楽なんだもん。
スポンジケーキも作ったりしているけれどさ、手軽ではないからね。
どら焼きは簡単だ。簡単だけに、突き詰めようとすると、とんでもなく難しそうだけれど。
皮を焼いて、挟むだけだからね。
せっかくだから、いろんなところに差し入れをするつもりで大量に作るよ。
私は生地を準備して、順次焼いていく係。
オートマトンのアウクシリア二体が、ホイップクリーム制作担当。一体がボウルを抑え、もう一体が攪拌していく。
……うん、人力でやるよりも早くできあがるよ。
ちなみに、このホイップクリームの素は、山羊乳を自然分離させて作った物だ。遠心分離となにか違いがあるのか確かめるつもりで作ったんだけれど、出来上がりに違いを見つけることはできなかったよ。少なくとも私には。
そしてルナ姉様とララー姉様がバナナを適当なサイズに切って、ホイップクリームと合わせて皮に挟んでいく係。
そうして出来上がったのが約二百個のどら焼きですよ。我ながらどれだけ作ったのよ。
ちなみに、約二百個なのは、途中でつまみ食いとかして減っているからだ。
ゼッペルさんのところと、冒険者組合に五十個ずつ差し入れしよう。
それでも百個近く残るな。まぁ、インベントリに入れておけば腐ったりはしないけれど。
ルナ姉様がアレカンドラ様のところへ持って行くとして……いくつくらいだろ?
十個くらいかな?
「クリームを使ったお菓子は美味しいわねぇ。そういえば、餡子っていう甘味は作らないのぉ?」
ひとつ目のどら焼きを食べ終えたララー姉様が訊いてきた。
小豆はあるんだけれど、なんのかんので餡子は作っていないんだよねぇ。
「餡子ですか。なんのかんので作りはぐってたんですよねぇ。折角ですし、今晩仕込んで、明日作りますね」
小豆は一晩水に漬けないとね。
今度こそちゃんとした羊羹を作ろう。昔造ったのは、なぜか餡子の部分と寒天の部分に分離しちゃったからね。
いや、見た目はすごい綺麗になったんだけれどさ。上半分の透明な部分もしっかり甘みがあって、問題なかったけれど。
あれは餡子が足りなかったのかな?
と、そうだ。ララー姉様に天草の仕入れを頼まないと。今度の昆布の収穫の時に、ついでに探してもらおう。多分、あると思うんだよ。
とはいえ、明日には間に合わないから、作るお菓子は羊羹以外のものにしよう。
あぁ、そうだ。たい焼き……じゃなかった、羊焼きをつくろう。型はあるんだから、作るのは簡単だ。
こうして私は明日作るお菓子のことを考えながら、変わり種のどら焼きを頬張ったのです。
感想、誤字報告ありがとうございます。