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206 微妙な勘違い

02/09/14 アンララーによる粛清範囲を修正。


『ということでねぇ、ドワイヤン公爵のところのバカ息子を絞めておいたからねぇ。体の中を何かが這いまわる感覚に死ぬまで苛まれるわよぉ。手足を切断しておいたから、掻き毟ることもできないし、残りの人生は退屈しないでしょうねぇ。もちろん欠損修復は絶対不可能にしてあるわぁ。それに加えて夫人とその系譜も始末したし、ついでにあの執事も殺しておいたわよぉ。他の使用人は、まあ、雇われの者だし、なんの手出しもしていないから見逃したけれどねぇ』


 ララー姉様が楽しそうでなによりです。


 ……いや、そうじゃなくて。


 なぜに日本語で?


 いやいやそうじゃなくて。


 えぇ、なにがあったんですか?


 組合からの帰り道、世間話みたいな調子で話しているんだけれど、云ってることが凄い物騒ですよ。

 いや、アンララー様が司っているものを考えると、物騒なのは当たり前なんだけれど。


『……もしかしてキッカちゃん、気が付いてなぁい?』

『はい?』

『暗殺されかけたんだけれど……』

『はいっ!?』

『看板』

『えっ? あれ、事故じゃないんですか?』


 思わず足を止める。


『事故じゃないわねぇ。細工をしたうえで、キッカちゃんが通るのを見計らって落としたのよねぇ。タイミングをしくじって外してたけれど』


 ……上からなにか降って来るのはしょっちゅうだったから、事故だと思ってたよ。あぁ、いや、あれも人為的なヤツだったから、事故じゃなくて事件か。でも学校での案件だと事故にされるんだけれどね。


『実行犯は治安維持隊に引き渡しても面白くないから、こっちで拘束しているわぁ。明日にでもガブリエルに引き渡す予定よぉ。きっと楽しいことになるわねぇ』

『なにをやらかすんですか?』

『キッカちゃんがやったことよりは大人しいわよぉ。実行犯なんて弄り倒したところで、あまり意味ないしねぇ。首謀者は仕置き済みだし』


 そういや、なんでまた私が狙われたんだろ? 時間的なことを考えると、私があっちでお仕置きした直後に暗殺者を送り出しているよね?


 だって、七日と経っていないもの。ドワイヤン公爵領からサンレアンまでの距離を考えると、最速でも七日か八日は掛かるだろうし。


『単に逆恨み……というよりは、腹癒せの方が正しいかしらねぇ。お仕置きの最中に失神していたのが災いしたわねぇ』


 ララー姉様に訊いてみたところ、そんな答えが返って来た。


 ……えぇ。


 なんでも、ドワイヤン公爵が達磨状態になった上、ドワイヤン家の親族は例の【恐怖の呪い】が掛けられたわけだ。

 で、件の公爵令息は、覇者スケさんが殴り倒して気絶させたわけで、なにが行われたか知らないわけだ。


 要は、こういうことだ。


 目が覚めたら酷いことになっていた。それもこれも私を殺害すべく殺し屋を送り込み失敗したのが原因。

 殺害に成功しているのならともかく、失敗しているのにこんな目に遭うのは納得いかねぇ! よし、殺せ!


 こういうことらしい。一応、あれこれ細かい理由もあったみたいだけれど、プライドだの保身だの評判だの色々と入り混じったしょうもないことなので、どうでもいいとのことだ。


 ……馬鹿なのかな?


 殺人を成功しようが失敗しようが、それを行った時点でダメだろうに。


 それにしてもだ。


『なんとも確実性に欠ける方法で殺害しようとしましたねぇ』

『そうよねぇ。まぁ、例えタイミングよく直撃必至だったとしても、当たらなかったんだけれどねぇ。姉さんがいろいろとやってたから』


 んん?


『そういうのって、いいんですか?』

『そうねぇ。ひとりを徹底して庇護するのはよくはないわねぇ。でもいまは姉さんも私もちょっと意地になっているからねぇ。

 少なくともサンレアンにいる間は安全だから安心してねぇ』


 ……えーと、確か、ライオン丸と同列にされたって、すごい憤っていたよね? ララー姉様。それがあったからだと思うけれど、ルナ姉様もなにかあったのかな?


 まぁ、立ちいったことを聞いて不快な思いをさせる必要もないか。うん、お礼代わりに、なにかお菓子でもつくろう。


『それでねぇ、モルガーナがキッカちゃんにお詫びに来るわよぉ』


 誰?


 モルガーナ。モルガーナ。聞いたことがあるような?


『誰ですか? その人』

『アンラの女王』


 ぶふぉっ!


『えっ!? なんでですか!?』

『貴族共の監督不行き届き? 今回のことで、二十六家ほど取り潰しになったからねぇ』

『多いですね!?』


 そんなに潰れたの!?


『末端を含めるともっと増えるわよぉ。ドワイヤン公爵の派閥関係が丸ごと潰れたからねぇ。というより、私が潰したんだけれど。予定より倍以上に増えちゃったけれどねぇ。柵って面倒なのよねぇ。

 で、実行にはリンクスとレイヴンにいろいろと動いて貰ったわよぉ』

『……ララー姉様が楽しそうでなによりです』

『指の役割も決定したしねぇ』

『は? なんの話です?』

『【ブラッドハンド】。指に合わせて役割を振ったのよぉ。


 親 指:まとめ役。現教皇。

 人差指:実働部隊。

 中 指:各種連絡役。組織運営役。

 薬 指:装備調達。毒物作成。

 小 指:情報取集。間諜。


 って感じかしらねぇ。親指は私からの連絡を受ける役でもあるわねぇ』

『ミストラル商会の暗殺結社版って感じですか』


 確か、ミストラル商会は情報収集を行うためにララー姉様が創設した商会だ。働いている人は、人の形をしたなにかだ。いや、ちゃんと雇った普通の人もいるだろうけれど。


 少なくとも、以前、私が会ったことのあるサンレアン支部代表のジョスランさんは、人ではない……らしい。


 いや、私には見分けなんてつかないからね。

 いわゆる、アンドロイド的なものかな? 機械ってわけじゃないけど。


 それをいったら、いま隣にいるララー姉様もそうなるのか。自分は端末だって云ってたくらいだしね。


『商会と違って、害を及ぼすことが目的だけれどねぇ』

『物騒ですね』

『多数の貴族家が潰れたのは、リンクスとレイヴンのせいだけれどねぇ。まさに粛清の嵐! しかも近縁による代替わりも却下するようにモルガーナを脅したからねぇ』


 嵐……荒らしっていってもいいんじゃないかな? というか、女王様、頭を抱えているんじゃないかな? 代官を立てなくちゃいけないんだし。


『自主性に任せていたけれど、姉さん方式は楽でいいわぁ』

『やりすぎると、みんな死んだ目になりますよ』

『……ほどほどに飴も用意しましょう』


 テクテクと大通りを歩いていく。この北側大通りは、工房とか商会の事務所が多いんだよね。ダンジョンから持ち込まれる物品やら素材は、みんな北門から入って来るから、それらを扱う業者が集まってるって感じだ。


 道行く人が遠巻きに足を止めてこっちを見てるね。まぁ、いつものことか。


『それでララー姉様、話を戻しますけれど、女王様がお詫びに来るって、いいんですか!?』

『問題ないわよぉ。もともと、オクタビアに招待されていたみたいだしねぇ。キッカちゃんのことはついで……というか、オクタビアの招待がついでみたいになっちゃったわねぇ』


 あぁ、そういえば王妃殿下……オクタビア様って、アンラのお姫様だっけね。モルガーナ女王の妹君。


『私の方が優先度は上ですか』

『当たり前でしょう。お母様のお仕事を遂行中のエージェントなのよぉ』


 うわぁ、私にはまったく似合わない単語が。


『それを私欲の為に害しようとか、愚かにもほどがあるわぁ』


 目の前を横切った猫が、ビーに殺気を当てられて逃げていく。


 ビーはビーでなにをやっているのかな? 君は台車に乗って、楽ちんだろうに。


 余計なことをしない!


『で、モルガーナだけれど、オクタビアに事業をもちかけられてるのよぉ』

『事業ですか?』

『そう。競馬ねぇ』


 は?


『キッカちゃんが提案していたでしょう? それを本格的にするのに、アンラを巻き込みたいみたいねぇ。ディルガエアだけだとこじんまりしそうだし』

『まぁ、急には無理でしょうしねぇ』

『貴族にとっては、馬は一種のステータスだから、競馬っていう、自分の馬をみせびらかすようなイベントは需要があるのよぉ。それはどこの国も一緒だわぁ。

 ただ、定期的な運営となると、いろいろあるみたいねぇ。予算とか、人員とか、なにより、必要な人手がねぇ』


 オクタビア様、どんな規模で企画しているんですか?


『ま、それは私たちが考えることじゃないわねぇ』

『切って捨てましたね。って、そうだ、すっかり忘れてましたけれど、追加でバイコーンを連れて来ないと。

 王家にも番を献上した方がよさそうですし。モルガーナ女王にも……』

『あぁ、それが無難かしらねぇ。キッカちゃんの呼び出しも競馬関連だしねぇ』

『私が微妙な勘違いしたせいで大事になった気がしますよ』


 思わずため息をついた。


『勘違い?』

『はい。娯楽を訊ねられて、まっさきに思いついたのがスポーツ関連だったんですよね、なぜか。しかも全部球技。

 でも、プロスポーツなんて、現状の水準じゃ無理ですからね。それで他になにかないかと考えて、思い出したのが貴族の嗜みになっていた競馬です。サンドイッチの話なんかで有名でしたし。

 でも実際、娯楽っていったらボードゲームとかでも良かったんですよね。リバーシなんかはラノベの定番ですし』

『キッカちゃん、詳しく!』


 がしっ! と、腕を掴まれた。


『ララー姉様?』

『詳しく!』


 妙な迫力で迫られ、簡単に説明する。


『作れる?』

『えぇ。簡単ですし』


 私は答えた。面倒なのはコマだけだけれど、アレ、骨鎧の素材でやれば簡単にできるよね。型を作って、焼成すればいいだけだ。

 白と黒とを作って、くっつければいいだろう。


『それじゃ、さっそく作りましょう!』

『ララー姉様!?』


 私が押している台車の取っ手に手を掛けると、ララー姉様は走り出した。それにつられ、私も走り出す。


 急なスピードアップでバランスを崩したビーが、慌ててしがみついてる。




 こうして、この日の午後はリバーシを作ることで丸々潰れたのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ふと、この回で気になることを発見。 196 許すわけにはいかぬ   にて >ひとまずはこれで妥協。これでまたなにかしらやったら、一族郎党皆殺しにするって脅してはおいたけれど。 こう…
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