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205 私は間違ってなかった


 とりあえずカカオポッドを割って、中のカカオ豆を取り出して天日干しにしてきた。チョコ作りは結構、手間なのだ。……熟成って、どのくらいやればいいのかさっぱりだよ?


 おはようございます。本日は十三月の二十日となりました。時刻は午前九時過ぎですよ。


 ただ今私は台車をゴロゴロと押しながら冒険者組合事務所へと移動中。ゴムタイヤなんてものは存在していないので、石畳で舗装された道でもそれなりに振動はあるよ。あ、石畳じゃないや、煉瓦畳だ。


 台車に積んであるのは、蓋……蓋でいいのかな? を取っ払った樽に杖を二十五本突っ込んだものだよ。そんな物を運んでいるからか、非常に目立っているよ。

 しかもそれを載せた台車を押しているのが、メタスラ玉ねぎ鎧を着こんだちっさいのだし。ついでに、台車にはヴォルパーティンガーのビーも乗ってるしね。


 さて、魔法の杖ですが、一応、規格化してあります。いや、規格というほどのものでもないですけれどね。


 杖のデザインを固定したのですよ。


 杖はすべて長杖。長さにして約百五十センチ程。ほぼ私の背丈と同じサイズ。

 そしてデザインを、魔法の系統ごとに統一。これで、杖のデザインをみるだけで危険な杖かどうかを判断できるようにしました。


 安全性の確保は必要だからね。一目でどういう用途の杖かわかれば、警戒ができるというものです。

 いや、本当に魔法って、暗殺とかをやろうとすると便利だと思うのよ。手ぶらでいいんだもの。

 だから攻撃系の魔法は杖という形にしたわけだし。


 魔法が一般化しているファンタジーな世界だと、このあたりはどう管理しているんだろうね? 対魔法防御の魔法が云々とか、そういうざっくりした設定だったりするのかな?


 ん? 杖のデザインを偽装できるだろうって? うん、それは無理かな。杖に魔法を封じるのは、教会に置かれている杖用の付術台で行われる。この付術台はアンララー様の像と紐づけられることで機能するようになっている。

 そういう仕様にしたからね。アンララー様が。


 魔法を司る女神の像を通して、杖に魔法を封じる。それも、杖の系統に合わせた魔法しか、魔法を封じることができなくなっている。


 こんな感じにしたんだよ。攻撃魔法と誰でも使える回復魔法は、魔法の杖でのみ使えるという風にする予定だからね。呪文書で覚える魔法とは差別化をしているよ。


 呪文書で覚えることのできる魔法と同じ魔法の杖も作れるけれどね。


 ちなみに、デザインは以下の通り。


 攻撃魔法の杖:杖頭の部分を竜の頭部に模した杖

 神秘魔法の杖:杖頭の部分が二匹の蛇が絡んでいる意匠の杖

 変成魔法の杖:杖頭の部分に六角柱の宝石を冠した杖

 召喚魔法の杖:杖頭の部分を三日月に模した杖

 眩惑魔法の杖:杖頭の部分が植物の絡んだ宝玉の杖


 宝石とか宝玉だなんて書いてあるけれど、実際には磨きぬいた【生命石】だよ。磨くと赤っぽい黒曜石みたいになるんだよ。だから、微妙に見た目が妖しくなるけれどね。もちろん、すべての杖には【生命石】が埋め込まれている。


 眩惑魔法の杖に関しては【静心】の魔法だけだから、きっと一番不人気になるだろうね。心を落ち着かせるだけの魔法だから。


 もっとも、敵から逃亡する際にはもってこいだけれど。対象に掛けると、直前までしていた行動を一時的に忘れるという、とんでもない副次効果があるから、使いようによってはアレだけれどね。


 召喚は【走狗】だけ。もしかしたら、なにか追加されるかもしれないね。そこはアンララー様……ララー姉様の趣味になると思う。


 精霊的なものを創作して、召喚できるようにしたいとか云っていたし。現状だと、犬と骨と魔人だけだからね。


 冒険者組合へと到着。


 えーっと、どうやって中にこれを運び込もうか。


 いや、いまだに看板の下を通るのが怖くてさ。私は私の運の悪さを侮ってはいないからね。


 とりあえず、ビーに扉を開けてもらって、私は台車を引きながら後ろ向きで事務所に入ろう。押してはいると段差のところで引っ掛かってもたつきそうだからね。


 ということで、ビーが扉を開けたのを確認して、さささっと看板の下を通り抜けて台車を引っ張り上げる。


 扉を通り抜けた途端――


 ごっ!


 凄まじい音と衝撃がして、私は飛び上がった。ビーも跳ねた。でも翼は畳んだまま広げたりしていない。よかった。


 っていうか、落ちた! 看板が落ちたよ! 危なっ! やっぱり私は間違ってなかったよ。


 あんな重厚感アリアリの看板の下なんか通っちゃダメなんだよ。

 木材って重いからね。多分、数百キロはあると思うし、いま落ちた看板。




 さすがに大騒ぎになったよ。


 とりあえず私は待合所の隅っこで大人しくしていよう。


 バタバタと職員さんたちがあっちこっち走り回っているのを眺めつつ、ビーを抱えているとタマラさんが私のところへとやってきた。相変わらず側頭部に仮面を着けている。今日はホッケーマスクだ。


「失礼します。大丈夫でしたか?」

「はい。大丈夫ですよ。びっくりはしましたけれど」


 そう答えると、タマラさんは胸元で手を合わせた。


「やはりキッカさんでしたか。先日は申し訳ありませんでした」


 先日……? あっ。


「その節はどうもお騒がせしました。あの後、アレはどうなりましたか?」

「教会の方が拘束して連れて行きました。おかげで治安維持隊への説明が面倒なことになりましたけれど」


 あぁ。これはどういうことだろう? 証拠隠滅的なことかな?


「アレ、月神教の狂信的暗殺者でしたからねぇ。いうなれば、死なば諸共なことも辞さない連中ですよ」

「……え?」

「やー、私が邪魔だったみたいでしてねぇ」


 タマラさんの顔が固まった。


「女神様よりも組織を選んだ方が首謀者だったみたいですよ。既に粛清済みです。アンララー様、さすがに腹に据えかねたのか、大掃除をしたみたいですよ」

「え、えっと……」

「ほら、私、アレカンドラ様から使命を授かっていますから、それを邪魔する輩という扱いに」

「あぁ、なるほど。……いえ、そもそも、加護を授かっている方を暗殺とかあり得ません」


 憤懣遣る方無いと云わんばかりに、タマラさんが鼻息荒くしながら、ブンブンと拳を振っている。


「まぁ、その件については思い出したくもないので、置いておいてください。それよりも、これを組合側で買い取ってもらって、販売して欲しいんですけれど」

「委託ではなくですか?」


 首を傾げつつも、タマラさんは何かを察したのか、私を事務所の奥へと引っ張って行った。もちろん、荷物も一緒だ。荷物はカミロ君が運んでくれた。


 タマラさんが私を連れ込んだのは、二階にある付術部屋……なのかな? 付術台の置いてある部屋だ。調合部屋の丁度隣の部屋になる。


 とりあえず兜を脱ごう。


「いま空いている部屋がここくらいなので、少々とっちらかっていますが、ご容赦ください」

「いえ、構いませんよ。付術部屋もちゃんと作ったんですね。付術師は決まりました?」

「パルメラがやることになりそうですね。いまはゼッペル工房へと定期的に通って、術を覚えている途中です」


 付術用の魔法に関しては、ダグマル姐さんに丸投げしちゃったからなぁ。まぁ、ジラルモさんも付術を身に付けに来ていたし、今後は増えていくだろう。

 あぁ、その前に付術台を作らなくちゃいけないのか。


 そっちはゼッペル工房にお任せだし、私はもう手を出さなくてもいいかな。


「それでキッカさん、なぜ買取りなんです?」


 問われ、私が何を狙っているのかをタマラさんに話す。


 要は、杖の素体と生命石をセットで販売する、ということだ。ただ、この上で、私が販売しているということを隠したいのである。


 いや、だって、そうしないと突撃してくる輩がいそうじゃない。『買えなかったぞ、俺にも売れやゴルァ!』みたいなのが。

 さすがにそんなトラブルは嫌ですからね。


 そもそも、私の手持ちの石をそんなに放出したくないんだよね。それなりにインベントリには入ってはいるんだけれど。

 いや、大丈夫だとは思うんだけれど、この石、ゲームだといろいろととんでもない効果を及ぼす石だったからね。


 いくらなんでも、ゾンビより厄介な物を生み出すような代物にはしていないと思うけれど。常盤お兄さん、どこまで凝って再現しているのかわからないからなぁ。


「ところでキッカさん。先ほどから気になっているのですが、その兎、悪魔兎じゃ……」


 タマラさんがビーを指差し訊いて来た。


 ビーは首を傾げてじっとタマラさんを見ている。


「内緒で。この子を組合に預ける気はありませんので。賞金も要りませんし」


 ……なんでビーは手を振っているのかな?


「まぁ、申請されなければ、捕獲されたことにはなりませんから」

「それにですね、私、ある一団に目撃情報を流しているんですよね。それなのに私が捕まえて賞金を得たりしているとですね……」

「あぁ、気まずいですね、それ。下手な相手だと決闘沙汰になりそうです。わかりました。私はなにも見ていません」


 タマラさんが真面目な顔で云った。


 うん、ありがたいことだ。


「それでは杖について質問なのですが、この杖と石のセットが、魔法の杖を作るのに必要なものなのですよね?」

「あぁ、そういえば、魔法の杖の作り方については説明していませんでしたね」


 杖の付術は少しばかり特殊だ。付術の際には、魔石ではなく【生命石】が付術の際に必要になる。

 普通の付術との違いはそれだけだ。だが、【生命石】はその大きさではなく、消費する数で封じる魔法の強さが決まる。


 より強力な杖を作るためには、より多くの【生命石】を消費する必要がある。だから値付けとしては、基本のセット、杖の素体と【生命石】ひとつを一律金貨五枚。そこに【生命石】を追加する度に、値段を上乗せという形にするのがいいだろう。


 そういったことを説明したところ、タマラさんはしっかりとメモをとりながらうんうんと頷いていた。


 今日、私が持ってきたのは二十五セット+【生命石】二十個だ。面倒なので、金貨百枚で売って来た。

 【生命石】の数を考えると、少々安い値段だと思う。とはいえ、組合での販売を考えれば、このあたりが妥当なところだろう。


「少々、安いのでは?」

「私としては【アリリオ】の不死の怪物の層を突破して欲しいんですよ」


 魔法の杖と、魔法使いになった人がいれば、二十層の突破も夢じゃないと思うんだよね。


 それらのことを含めてタマラさんに話し、杖は樽ごと、【生命石】は箱ごと置いて来た。


 そうして私は、荷物のなくなった台車にビーを乗せて組合事務所を後にした。


 事務所から外にでると、落下した看板は撤去されていた。


 何処に運ばれたんだろう?


「はぁい、キッカちゃん、お疲れ様ぁ」


 組合事務所の前で、看板の掛かっていた扉の上を眺めていたところ、声を掛けられた。


 声の主はララー姉様だ。


「あれ? ララー姉様、こんなところでどうしたんです?」

「ちょっと、お掃除をしてきたのよぉ。まったく。お薬が足りなかったのかしらねぇ?」

「……はい?」


 私は首を傾いだ。


「キッカちゃんは気にしなくても いいわよぉ。

 それじゃ、一緒に帰りましょうねぇ」




 そして私は、ララー姉様と一緒に自宅へともどったのです。


誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、やっぱり偶然ではないと。 撤去し忘れた名残かと思ってました。
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