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202 世界最硬の食べ物


 やっと落ち着いた。


 契約書が三部あったわけだけれど、農業組合関連の人はいなくていいのか? などと思っていたら、クリストバル様が遅ればせながら見えられた。


 クリストバル様が農業組合代表代理ということで、契約は問題なく締結。


 王弟殿下でいらっしゃいますからね。現状、仕事の上での籍は農研とのことだけれど、実際のところは農業組合のトップとのことらしい。いや、トップと云うかなんというか。


 いわゆる天下りのトップみたいな感じであるらしい。このあたりの事情がちょっとごちゃごちゃしているみたいなんだけれど。

 えーと、クリストバル様が食べ物好きが高じて農研に入ったわけだけれど、王弟ということもあって平研究員とはいかない。


 なので、農研の所長というのが実際の肩書となっている。ところがこれでもちょっと問題があって、農研の所長であると、まだ格が低いんだよ。

 そのため、農業組合の副組合長の肩書も追加されたとのこと。


 なんというか、王家の権威に振り回されてる感じだね。

 まぁ、農研が農業組合の下部組織みたいになっているのが問題なんだろうけれど。


 あ、農業組合って、日本で云うとこの農水省みたいなものだよ。農協も兼ねてるみたいだけれど。


 最後に契約書をそれぞれが手にしたところで、クリストバル様とエリカさんは慌ただしく帰って行った。


 クリストバル様は、最初につくったネズミ捕りを持って農研本部へと急いで戻るそうだ。

 倉庫の被害を一刻でも早く抑え込みたいとのこと。


 お茶も飲まずに行っちゃいましたよ。


 さてと、それじゃ私も目的を果たさねば。


「リスリ様、これを」


 私はずっと持っていた金槌をリスリお嬢様に渡した。

 いきなりそんなものを手渡され、リスリお嬢様は困惑顔だ。


「あの、お姉様。これをどうしろと……」

「それで私を殴ってください」

「はい!?」

「ちょっと鎧のテストをしたいのですよ。なので、遠慮なく思いっきりやっちゃってください」

「え、えっと……」


 あれ? どうしてオロオロするの?


「あ。兜は殴らないでくださいね。この形状の関係上、殴られてもよくわかりませんから。そうですね、腕辺りを遠慮なくいっちゃってください!」

「いえ、そういう問題ではなくてですね、お姉様!?」


 んんっ?


 私は首を傾いだ。


「キッカちゃん、普通はそう簡単に殴ったりできないわよー」

「そうなんですか?」

「そ、そうよー」


 私は散々だったんだけれどな。まぁ、手の届く範囲であれば、捕まえて殴り返してたけれど。おかげで小学校時代は問題児扱いでしたからね。

 教師なんて者は、自分の妄想でしか行動しませんからね。私さえ社会不適合者にしておけば問題ないと思っていたみたいだし。


 いまにして思うに、深山家の教えは過激ではあったんだな。殴られたら殴り返せが基本だったし。子供の内はそれが通用する! なんてお父さんが云っていたからね。こっちが正しければ暴力を振るってもOKだったんだよ。


 え、そんなんで問題にならなかったのかって? なったよ。むしろ問題にしてより大事にしたよ。


 知ってる? 教師たちをやり込めるには、政治家を使うんだよ。県会議員クラスの。PTAだの教育委員会だのは教師の味方だからね。アテにならないんだ。

 県会議員でも、教育関係に力をいれている人を引き込めると最高。県の教育機関が動くからね。


 まぁ、それはいいや。


「よくわかりませんが、この鎧の防御力の試験ですので、殴って貰って構いませんよ」


 リスリお嬢様がルナ姉様に視線を向けた。


「キッカちゃん、私が代わりにやるわねー」

「はい、お願いします」


 ということで、リスリお嬢様からルナ姉様へとバトンタッチ。


 そこまで気にすることなのかなぁ。


 で、金槌で殴ってもらったわけだけれど。衝撃がかなり吸収されているみたいだ。


 なんというか、柔らかい鎧……だと、いまいち意味が通らないな。革鎧とかと一緒になっちゃう。なんていったらいいんだろう?

 衝撃吸収材を充填した鎧とでもいえばいいのかな。そんな感じだよ。金槌で殴られたくらいじゃ、打撃が通らないよ。手でいきなりグイって押されたような感じにはなるけれど。


 えぇ、なにも付術していなくてこれか。バレリオ様……よりはサロモン様に相談した方がいいかな、これ。サロモン様、アレクサンドラ様と一緒に、いまはサンレアンに住んでるみたいだし。


 この鎧、素の性能が良すぎて問題にしかならないような気がする。


「き、キッカちゃん? 大丈夫? つ、強すぎたかしらー?」

「はい? あぁ、大丈夫です。ちょっと問題になりそうなことが分ったので」


 この鎧に関して性能の説明(推測を含む)をする。


「キッカちゃん。いくらなんでも技術革新をさせ過ぎじゃないかしらー?」

「いえ、技術と云うか、素材を変えただけなので、技術革新もなにもないんですけれど」


 もう、苦笑するしかないよ。


「ということは、その素材を使えば、この鎧と似たような性能の鎧を作り出せる鍛冶屋が現れる、ということですよね?」


 リスリお嬢様の言葉に、ルナ姉様が改めて私に視線を向けた。


「素材、販売するのかしらー?」

「え? 売りませんよ。あれ一匹狩るのにとんでもなく手間と時間が掛かりますもの。あの素材は私が自分で使います」

「その素材がなにか、聞いても構いませんか?」


 あはは、こうなると、気になるよね。


 私は【キッカの奥義書】を出すと、【メタルスライム】の頁をひらいてみせた。

「これの素材ですよ。えーと……遭遇した場合、逃げることを推奨と書いてありますね。斬撃、打撃、ほぼ無効。討伐するのであれば、相当量の強酸溶液を準備すること、だそうです」

「……お姉様、倒したんですよね? 素材として回収しているようですし、薬剤を使ったわけでもありませんよね? どうやって討伐したんです?」

「魔法でなんとか。あぁ、このスライム、魔法も一部を除いてほとんど効かないんですよね」

「あぁー。そういえば、ボスのスライムを相手にしたときには、三、四日不眠不休で殴り合いしてたって云ってたわねー」


 リスリお嬢様がジト目になった。


「お姉様、なにをやっているんですか!」

「いや、ボス戦だと、玄室から逃亡できませんし。生き残るには勝たないと」

「でも三日って……」

「だって、魔法が殆ど効かないんですもん、あのボススライム。なので、付術して追加ダメージを増した武器で延々と殴ってたんですよ」


 普通のメタルスライムを取りに行くとしたら……あぁ、ボスラッシュを抜けるよりは、ボススライム二匹と戦った方がましか。

 まぁ、必要になることはまずないと思うけれど。


★ ☆ ★


 なんのかんので午後が潰れた。


 まぁ、慌ててあくせくしやらなくちゃならないこともないし、のんびりやりましょう。


 リスリお嬢様とリリアナさんはついさっき帰ったよ。しっかり家で夕飯を食べていきましたよ。


 イリアルテ家の食事より美味しいらしい。多分、出汁関連のせいだとは思うんだけれどね。


 さて、時間はずれ込んだけれど、予定していたブラッドソーセージを作ってみるよ。


 材料は血だけかと思ったけれど、内臓とか野菜を混ぜ込むんだね。それに小麦粉も加えるの? まぁ、さすがに液体じみた状態のまま腸に詰め込むわけじゃないみたいだ。


 とりあえず内臓適当にミンチにして。玉ねぎとじゃがいも、フェンネルを粗みじんに。そしてインベントリで鹿だの猪だのを解体して、そのまま死蔵状態になっている血液をボウルにバシャッと。

 ほっとくと凝固してきてゼリーみたいになっちゃうから、ここに挽肉にした内臓肉を放り込んで混ぜ込んでいきますよ。


 でもって、いい塩梅の粘りというか、腸に詰めやすい感じになるまで小麦粉を加えて混ぜていく。


 ……色が凄いことになってきているんですけど。


 赤っ!


 大丈夫かな、これ。


 ララー姉様が台所の惨状に、ドン引きしている有様なんだけれど。ルナ姉様は平気みたいで、興味深そうにみているよ。


 それじゃ、最後に脂を加えてざっくりと混ぜ、出来上がったものを腸に詰めるよ。詰め終わったら針で穴をあけて、下茹で。


 このまま二、三時間茹でて完成らしいけれど、燻煙してみるよ。いや、臭いがキツイなんて聞くからさ、燻煙すれば大丈夫なんじゃないかと。


 茹で上がったら燻煙器に放り込んで、火をかけてこよう。チップはまだいっぱいあるしね。


 あ、これだけを燻製にするもの勿体ないから、他にもなにか肉を燻製にしよう。

 昨日は猪だけだったから、今度は鹿と牛を燻製にしよう。


 ということで、またしてもララー姉様に、ソミュール液に漬け込む時間をすっとばしてもらおう。


「そういえばキッカちゃん。質問があるんだけれどぉ」

「なんですか?」

「ほら、前に鰹節の話を聞いたじゃない」

「あぁ、作るっていってましたね」

「どうにも上手く行かないのよねぇ。どうしても傷んじゃうのよぉ」


 傷む? いや、途中でカビさせるから、痛むといえば痛むのかもしれないけれど。でもそのまま、また燻煙するんじゃなかったっけ? カビの部分は削ぎ落すんだっけ? うん、さすがに鰹節の作り方は覚えていないや。


「そういえば、現物は見たことがなかったですよね?」

「そうねぇ。それもあるから、どの時点で完成なのか、いまひとつ不明なのも問題なのよねぇ」

「それじゃ、現物を出しましょう」

「え?」


 ということで物質変換! 本当、便利だよね、これ。もっとも、私がきちんと知っている物じゃないと、こうして作るのは難しいんだけれど。


 うちにはかつ箱と鰹節がほぼ常備されていたからね。鰹節は日ごろから削っていましたよ。

 納豆とか、おにぎりの具材とかにしていたからね。


 梅肉と鰹節を和えたモノに醤油をちょんと垂らしたヤツが、私にとってのおにぎりの具材の至高だよ。


 と、それはさておいて、鰹節の物質変換完了。


「それが完成品なの?」

「そうですよ」

「……木材の切れ端みたいに見えるんだけれど」

「お魚ですよ、ちゃんと。ちなみに、世界最硬の食べ物です」


 私は鰹節を掲げた。……ルナ姉様、呆れた目をしないでくださいよ。


 それじゃ、かつ箱も物質変換してと。便利過ぎるな、この技術。


 出来上がったかつ箱を使って、さっそく削っていきますよ。


 蓋を開けて、えーっと……。


 鉋の刃の出具合を確認。うん、問題なさそう。


 それじゃ正座をして、膝で箱をしっかりと挟んで抑えてと。あとはシャコシャコ削っていきましょう。前は正座ができなかったから、椅子に座ってやってたんだよね。地味に削り難かったんだよね。


 あれ? なんだかルナ姉様とララー姉様が目を丸くして見てる。


 まぁ、床に座ってやってるからなぁ。日本でなら、畳の上でやるようなことだろうし。


「はい。削り節ができあがりましたよ」


 かつ箱の抽斗をあけて、きれいに削りあがった削り節を摘まむ。


 うん。このままご飯にのっけて、醤油かけて食べたい。猫まんまなんて久しく食べてないしね。あ、ご飯、鰹節、玉子でTKGもいいな。明日の朝はそうしよう。


「木くずにしかみえない……」

「そうね……」

「なんで口調までかわるんですか。ちゃんと美味しいですから」


 あんまり沢山口にいれると、ボソボソしちゃうけれど。


「あ、美味しい」

「お魚の味が濃いわねー」

「せっかくですし、明日の朝は鰹だしで味噌汁をつくりますね」


 うん。しばらくは料理関連を充実させよう。結局カレーも後回しにしてたし。明日こそカレーをブレンドしよう。




 そんなことを考えながら、私は燻煙器へお肉を詰め込みに向かったのです。


誤字報告ありがとうございます。


※ご指摘ありがとうございます。

 182話の当該箇所を修正しました。

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[気になる点] うん。このままご飯にのっけて、醤油かけて食べたい。猫まんまなんて久しく食べてないしね。あ、ご飯、鰹節、玉子でTKGもいいな。明日の朝はそうしよう。 シラスやアサツキを加えても美味し…
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