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201 商業組合にお任せします


 できあがった燻製を十分に堪能したので、次は焼き物のほうを確認していきましょうかね。


 しっかりと焼き上がった陶器……ではないな、まだ。素焼きの状態だから。


 アウクシリアたちが窯から出して、簡易に造られたテーブル、ふたつの丸太に板材を載せだけの上に並べられたそれらを確かめていく。


 失敗したのはみっつだけ。


 うん。上出来上出来。上出来どころか大成功だ。


 爆発したものはなし。爆発すると周囲に被害がでるからね。これは上手くいってくれてよかったよ。きちんと乾燥ができていたということだ。失敗したみっつは、ひび割れが起きてしまった。


 釉薬をつけて焼けば、塞がって大丈夫かも知れないけれど廃棄だ。あぁ、ひびが入ったのは底の部分なんだよ。みっつとも。


 叩き壊すのももったいないし、へらだのこてだのといった、小道具を入れておく器にでも使おう。湯飲み茶碗よりちょっと大きいサイズだし、丁度いいや。


 あぁ、ひびの入ったのは、茶わん蒸しようの茶わんがみっつだよ。丼のほうは問題なし。


 釉薬も出来上がっているから、明日にでもつけて、本焼きをしよう。


 ……あ、いや、本焼きをするには、窯がスカスカだな。今回は鎧も焼成したんだし。


 あー、でも、本焼きだと温度が高すぎるよね。


 あ、重大なことに気が付いた。


 今回、刻削骨の鎧の素材にメタルスライムの溶液を使ったわけだけれど、あれに混じっている金属? は、九百度くらいで溶けるのかな?

 魔銀はだいたいそれくらいで溶けるから、焼成するとうまい具合に混ざってる骨と結合してくれるんだけれど。


 溶けてなかったら、簡単にペキンとか折れそう。


 別のところに並べられてるし、こっちの確認が終わったらすぐに見よう。




 素焼きの方の検分完了。器と蓋の噛み合いも上手くできて、一安心だよ。あとは簡単に表面をやすり掛けするくらいかな。やり過ぎると、釉薬の載りが悪くなるからね。


 さて、鎧のほうはどうなっただろう?


 素焼きの器と同じように並べられている、鎧の各部品を確認する。


 何と云うか、発掘した化石の骨格標本みたいな感じに並べられてる。いや、組み上げるときに楽だから、凄い助かるけど。玉ねぎ兜が凄い目立つな。


 いい仕事するね、アウクシリアたち。


 ……表面まできちんと研磨してあるんだけれど。仕上げに関しての、私の仕事がほぼ終わってるんじゃないかな? あとは留め具とかを付けて組むだけだよ?


 とりあえず、一番目立つ兜の上半分部分を確認しよう。


 ひょいと手に取って――軽っ!?


 え、ちょっと軽すぎないかな? これ。あ、いや、そうじゃなく、確認するのは強度だ。いや、でも軽い。


 両手で持ち、左右で互い違いに力を加えてみる。


 微かにぐにんと曲がるも、すぐにもとに戻る。しっかりとした弾性。


 これ、衝撃吸収性がかなり高いんじゃないの? そもそも手触りからしておかしいんだよね。なんというか、樹脂っぽい感じがするよ。ウレタン樹脂? いや、ウレタン樹脂なんかより遥かに堅いんだけれどさ。


 これあれだ、冗談じゃなしにメタルスライムそのものって感じだよ。メタルスライムの伸縮性をほぼ根こそぎ失くした感じ。


 水分をとばすとこんな感じになるのか……。


 ちなみに。鎧一体につき、メタルスライム一匹分の溶液が必要。メタルスライムは直径五十センチの標準的スライムサイズ。

 で、【バンビーナ】のラスボスだったミスリルスライムとオリハルコンスライムは直径二メートルくらいの大物だ。高さは私と同じくらい。

 単純計算で、質量は六十四倍。つまり、一匹で六十四領分の鎧を作れるというわけだ。


 いや、さすがにそんなに作る気はないけれど。


 というかこれ、売るとして値段をどうしよう?


 どうみても馬鹿げたレベルでの高性能な鎧だよ。玉ねぎ鎧にしたから、好んで着る人は限られると思うけれど。

 まぁ、売るならいつものデザインにすればいいだけなんだけれどさ。


 とりあえずベルトだのなんだの打ち込んで、各関節を繋いだりしちゃおう。指の所なんかは面倒だからね。




 身体能力を装身具でドーピングして、鎧を組み上げていく。さすがにこれまでに二十以上も作って来たから、慣れたものだよ。


 ただ、いつも悩むのは鎧の留め具。現状は革ベルトを使っているんだよ。鎧は胸甲と背甲とで分かれている。肩の部分で前後繋げてあって、脇の下のところの留め具で締めるわけだ。

 この革ベルトを留め金にした方がいいんじゃないかな、って気もしているんだよね。理由は単純で、その方が装備が簡単だから。ただ、革ベルトと違って調整ができなくなるのが難点なんだよね。あと下手すると戦闘の際に歪んだりして、外れなくなる。

 革ベルトなら、最悪切断すれば問題ない。


 その辺は痛し痒しなのかなぁ。使う側の好みにもよるのかな? 今のところ販売方法は受注生産だから、その辺りも訊いて作った方がいいのかもしれないね。


 それにしても、骨鎧の組み上げの簡単さよ。


 特に兜。オリジナルのデザインの方も、この玉ねぎも、部品同士のかみ合わせが楽なんだよ。というより、板金製の兜みたいに隙間なく合わせて鋲打ちする必要のないデザインになっているからね。


 特にこの玉ねぎ兜なんて、下半分のパーツに、上の部分を乗っけて固定するだけだし。


 部品を合わせて、印をつけて、穴を開ける。そこに鋲を打ち込んで固定。


 それにしても、骨鎧は作るの楽だわー。金属鎧だと、叩いてきっちり形成しないといけないから、時間がすごい掛かるのよ。

 楽をするために、叩いて締めて固めて微妙に伸びる分を計算して部品を鋳造するっていう、ズルをしたりしたけれど、それでも部品ひとつ作るのに数時間とか掛かったし。


 などと、とりとめもないことを考えつつも、だいたい二時間くらいで一領完成。

 ちょっと着てみよう。


 本来は鎖帷子を着た上から付ける鎧だけれど、私は面倒だから柔革鎧を鎧下代わりにして装備。


 あ……重さを確認するつもりだったんだけれど、私じゃ確認できないんだ。問答無用で鎧の重量を無視する技能が仕事するから。


 まぁ、いいや。重さはあとで量ろう。


 体をいろいろ動かしてみる。……んん?


 動きやすい? 可動範囲が広がってる? いや、そんな工夫はしていないんだけれど。どういうこと?


 屈んでみる。……なんで問題なく屈めるんだろ? 兜を外して、動きながら各部をきちんと目で確認していく。


 おー……体の動きに合わせて、微妙に変形してる?


 えぇ? これ鎧としてちゃんと機能するのかな? 剣や槌で殴られて時に、ちゃんと止められる? 打撃に合わせて簡単に凹まれたりすると鎧の意味があまりないんだけれど。いや、普通の鎧も打撃は通るんだけれどさ。これだと素通しにならない?


 これ一度、殴られてみないとダメだ。確認しないと。


 私は兜を被り直すと、金槌を持って母屋に戻る。とりあえず、ララー姉様かルナ姉様あたりに殴ってもらおう。




「あらぁ、丁度良かったわぁ。キッカちゃんにお客さんよぉ」


 母屋の脇、ルナ姉様の畑に差し掛かったところで、ララー姉様が迎えに来てくれた。


「お客さんですか?」

「えぇ。リスリちゃんが連れて来た、というよりは、付いて来たって感じかしらねぇ」


 リスリお嬢様が? はて、なんだろう?


 母屋に戻ると、ルナ姉様が三人を相手に談笑していた。


 いつものリスリお嬢様とリリアナさん。そして初めて見る赤茶色の髪の女性。三十歳くらい?


 いきなり全身鎧で部屋に入ったからか、三人にはぎょっとした顔で見られたよ。なんでさ。別に鎧はおかしな恰好じゃないぞ。


 簡単に挨拶をして、ルナ姉様の隣に座る。ララー姉様は台所へ。あ、リリアナさんもついて行ったね。


 そして座った時の感じから察するに、この鎧、やっぱりかなり軽いみたいだ。椅子の軋みかたが軽い。


「あの、キッカお姉様? 兜は脱ぎましょう」

「私、兜の下は素顔ですよ」

「脱ぐのは止めましょう」


 リスリお嬢様はあっさりと前言を覆した。


 王都に行った時の騒ぎを見ているからねぇ。王宮でみんなが平伏した中を通って帰るはめになったから……。


「すいません。少々、事情がありまして。このままの恰好で失礼します」

「い、いえ、こちらこそ突然、お邪魔しまして。私、商業組合職員のエリカと申します。本日は【キサラギ工房】さんに、お願いがあって参りました」

「お願いですか? えーと、リスリ様? これはイリアルテ家が関係するお話でしょうか?」


 リスリお嬢様に問う。


「イリアルテ家というよりは、農研絡みですよ、お姉様。クリストバル様がゼッペル工房の職人と相談して、商業組合に話を持ち込んだのが発端です」


 はい?


 私は首を傾いだ。いったいなんの話だろ?


「えーっと……どういったお話でしょう?」

「はい。この度、キサラギ工房さんが開発されました【ネズミ捕り】ですが、商品化のお願いと、その生産、販売権を商業組合に任せてもらえないかと」


 は?


「え、あのネズミ捕りをですか?」

「はい。従来のばね式の物や箱型ものと違い、一度に大量に捕らえることが可能なものですから。需要は非常に大きいです」


 いや、需要はそうだろうけれど、あのネズミ捕り、見ての通りすっごい簡単な仕組みだよ。ぶっちゃけ、筒に棒を通しただけだよ。売れるの? というより、売っていいものなの?


 そんなことをエリカさんに云ってみたところ。


「問題ありません。くるくるとスムーズに回転するように作り上げるには、職人の手が不可欠ですし。それに販売する部分は、あのネズミ捕りのバケツを除いた部品となります」


 なんだか妙に熱の入っているエリカさん。


 私はその隣に座るリスリお嬢様に視線を向けた。正直、どう反応したモノかわからない。多分、商売人としての経験値は、リスリお嬢様の足元にも及ばないんだから、ここは素直に助けを求めよう。


「お姉様がその【ネズミ捕り】を生産販売していくのならともかく、そうでないのなら任せてしまうほうがいいと思います。生産販売権を移譲しても、考案したことによる利権は残りますから、問題ありません」


 あぁ、特許権みたいなのがあるのね。


 ……いや、そこじゃなく。こんな簡単な代物を売っていいのかということだったんだけれど。まぁ、いいか。こうして打診がきているんだし。


「私の方では作る予定はありませんので、商業組合にお任せしますね」

「ありがとうございます。では、こちらが契約書となります。お確かめください」


 手際いいなぁ。


 書類を手に取り、確認していく。とりあえず、変なことにさえならなければ問題ない。

 リスリお嬢様も確認しているみたいだ。

 契約書は全部で三部。同じものだ。私と商業組合がもつとして、もうひとつは?


「三部目の契約書は誰が持つんです?」

「それは農業研究所……農業組合になります。今回の契約が上手く合意できた場合には、農業組合を窓口として各農家への販売を行いますから」


 なんだか大事なんですけど!?




 こうして、あの簡単なネズミ捕りが全国展開していくことになったのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話が進んでもモノづくり等の話も手を抜かないのが良い 大抵現代知識無双が入る話って金持ちになったあと中盤辺りには主人公が権力持っちゃって詰まらない内政と権力と戦争の話になってしまうからね …
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