200 十時間くらい放置
十三月ノ十六日となりましたよ。
微妙に浮ついたような変な感じもだんだんと収まってきました。
このまま落ち着いてくれるといいんだけれど。
さて、本日は例のメタルスライムを使って作った骨鎧の焼成をしますよ。ついでに、普段使い用に作った丼と茶わん蒸し用の茶わん、それと普通の茶わんの素焼きも行います。
乾燥はしっかりやっていますからね。割れる心配は殆どないでしょう。伊達に陶芸家のじっちゃんのところで修業はしていませんよ。
いや、あれを修行といっていいのかというと疑問だけれど。じっちゃんとしては、孫と遊んでいるような感覚だったろうし。
刻削骨の鎧の焼成時間とほぼ一緒だから、まとめて焼いちゃって大丈夫なんだよね。
しかもだ。オートマトン・アウクシリアを作ってから、いわゆる雑用をやってくれるから楽なんだよね。
あ、アウクシリアは、蜘蛛、もしくは蟹を彷彿とさせる機械人形だよ。非常に器用で、互いのメンテナンスなんかもしてくれる。最低三機も作れば、私がなにかしなくても勝手にメンテナンスして、燃料の魔石を補充してくれる。
おかげで警備に使っているミーレスは組んだ後に、一度も私はメンテナンスをしていない。
……地味に心配だから、あとで確認だけはしておこう。以前、泥棒騒ぎがあったとか聞いたし。
で、アウクシリア。この子達は非常に優秀ですよ。さっきも云ったメンテナンスはもとより、作物の採集や簡単な作業、金属加工とかもやってくれる。優秀なアシスタントって感じだよ。
おまけに熱センサーもあるみたいで、焼成温度もしっかり管理してくれるんだよね。だから、以前は焼成をはじめたらずっと窯の側にいて、温度を確認しながら骸炭をくべなくてはいけなかったんだけれど、今じゃ任せてお茶を飲んでいても大丈夫な状態だ。
とはいえ、なんだか気になるから窯の側……作業場でなにかしら作ったりはしているんだけれどね。
ということで、釉薬の仕上げをしているよ。灰汁をとったりとかね。もうほとんど出来上がってはいるんだけれど。
……さすがに一から作ったのは初めてだから、ちょっと不安なんだけれどね。
材料は月長石に藁灰、あとはゼッペルさんの所で貰って来た雑木(使い道のなくなった切れ端)の灰に銅を混ぜたものだよ。
上手く行けば、綺麗な緑色がでるんだ。焼成の時に温度管理をしくじると、変なピンク色になっちゃうんだけれどね。
いや、うまく全部ピンクになってくれたら、それはそれでいいんだけれど、そうも上手く行かないからねぇ。
なんとか年内に本焼きまで終わらせようと思うよ。
作業半端だったやつはみんな終わらせちゃったな。なにをやろうか?
アウクシリアたちがちょこちょこと動いて、骸炭を窯に放り込んでいる。
骸炭。本当は結構な臭いがでるんだっけ? 骸炭なんてこっちに来るまで目にしたこともなかったから知らないんだけれど。
あ、そうだ。燻製を作ろう作ろうと思って先延ばしにしてたんだっけ。
ついでにソーセージも作っちゃおう。腸の塩漬けだけ作るだけ作っておいて、インベントリの中で死蔵状態になっているし。
燻製づくりに必要なもの。燻煙器とスモークチップ。
燻煙器はズルをして物質変換で作っちゃおう。作りなんて一斗缶……いや、ドラム缶にしておこう。それで大丈夫だし。下で火を焚いて、真ん中あたりに網を引いて、上には肉を吊るせるように支柱とフックをくっつければいいかな?
……よし、完成。
これ、完全にチートどころじゃないよね。覚えちゃってよかったのかな、これ。今更だけれど。大木さん、教えたことを後悔していなければいいけれど。
いや、使える以上は使うけれどさ、この技能。
深く考えるのは止めよう。どうせ答えなんかないんだし。
燻煙に使うチップは、貰って来た端材がまだいっぱいあるから問題なし。
あとは燻製液。昆布だしに塩を加えればいいや。……あ、肉を漬け込まないといけないのか。これもズルをしちゃおう。ララー姉様に頼んでチクタクしてもらおう。
お肉の下準備をしてきたよ。漬け込むだけじゃなく乾燥させたりとかいろいろ工程があったけれど、みんなすっとばして来たよ。
材料は怪獣猪のバラ肉。それといろいろ半端に余ったお肉色々。それこそ猪、兎、鹿、牛とまとめてひっくるめて挽肉して、ソーセージにしてきたよ。
注入器っていうの? ひき肉を腸に詰め込む機械も物質変換で作ったよ。機械式の注射器みたいなの。
このソーセージに詰め込む肉を仕込むのもちょっと面倒だったけれどね。これ、仕込みを失敗するとすさまじく不味くなるっていうしね。
ソーセージ造りのコツは熱が加わらないように練り込むこと。魔法でチマチマ冷やしつつ、挽肉に脂肪を多めに加えて、ついでに香草も細かく刻んで加えたよ。しくじって獣臭いものができあがったら悲しいものがあるからね。香草……このバジルっぽいやつを加えておけば大丈夫だろう。
これ、香り草なんて云って売られているから、正しい名称とか知らないんだよ。下手するとないのかもしれないけれど。野っ原を探せば、そこらに自生しているから。
ミントとかドクダミほどじゃないけれど、それなりに繁殖力が強いっていう話だよ。酒場とかでも、しっかりとした料理をだす店なんかは鉢植えで栽培しているみたいだけれど、下手をすると蔓延り過ぎて大変なことになるからね。
そんなこんなで、下味もしっかりつけてできた種を腸に詰め込んで、空気を抜く穴を針で突いて開けて、適当なところで捩じってと。
おー。子供の頃にアニメとかでみた繋がってるソーセージができたよ。
そういえば、ブラッドソーセージってどうなんだろう。私の知ってる評判っていうのは、美味しい、不味いの両極端な意見だけなんだよね。
これは食べ付ければ大丈夫ってことなのかな。……ドリアンなんかと一緒?
一度、試しに作ってみるべきかな? ちょっと調べてやってみよう。
さて、ララー姉様がチクタクしている間に、ソーセージを茹でて下準備は完了。
あとは燻すだけだよ。
「これが燻煙器なのねー」
「思っていたより大きいわねぇ」
ルナ姉様とララー姉様も一緒に来ましたよ。まぁ、下準備を手伝って戴いたわけだし、どんな調理をするのかは知りたいだろうしね。
さて、私が作った燻煙器はそこそこ大きい。形状はドラム缶をモデルにしたけれど、丈は私よりも高い。幅ももちろん、普通のドラム缶よりも大きい。肉の出し入れができるように側面には扉も着けてある。もちろん、隙間とかは出来ていたりしないよ。あくまでもドラム缶を模した形であって、ドラム缶を刻んで作ったモノ、ではないからね。
フックに肉とソーセージを吊るして、下の網にはチーズでも入れておこう。……適当なお皿をおいて、ゆで卵も入れとこ。
最下段にチップを入れた鉄皿を置いてと。あとは骸炭を底に入れて火を点ければ燻煙開始だ。
魔法で点火っと。
骸炭は火力が高いこともあって、点火してからさほど待たずにドラム缶上部から煙が噴き上げ始めた。
温度、上がり過ぎないよね?
これで十時間くらい放置すれば燻製のできあがりだ。
できあがりなんだけれど……。
「これ、煙が近所迷惑になりそう……」
「あー。お洗濯物とかに臭いがつきそうねー」
「それじゃ、煙と臭いは私がなんとかするわねぇ」
ララー姉様がパチンと指を鳴らす。するとさほど目立たないながらもドラム缶から立ち上っていた煙が、十数センチの辺りで消えた。
「えーっと……」
ララー姉様を見る。
「あの煙の消えたところで、周囲に漏れた煙、臭いもろともずっと上に転移させてるのよぉ」
「おー……」
空を見上げる。見上げるが、上空に転移しているだろう煙は見えない。
まぁ、煙突なんて煙の迷惑が出ないように、上に伸びているんだし。これで苦情が来たりすることはないだろう。
ご近所トラブルは是が非でも避けねばなりませんからね。
「どのくらいこのままにしておくのかしらぁ?」
「約半日ですね。夜にはできあがりですよ。まぁ、そのあと少し寝かさないとダメなのかな? ですので、食べられるのは明日ですね」
「楽しみねー」
こっちの火の加減も、アウクシリアにやってもらおう。
★ ☆ ★
十七日となりました。もうじき正午。
お昼を作っていきましょう。
ということで、まな板の上に昨日作ったベーコンとソーセージ、そしてスモークチーズを、どん!
ここはシンプルに焼くだけでいいよね。あとは、茹でたジャガイモをベーコンを焼いた後のフライパンで炒めればいいや。
ちょっと物足りないかな? 一応、ごはんも用意しておこう。
あ、作り置きしておいたポテサラもあったな。これもだそう。
……見事にジャガイモと肉だけだな。ま、いっか。
ジャガイモを茹でて、ベーコンはフライパンで炒めて、ソーセージは網焼き。
あ、燻製の仕上がりは良かったよ。少なくとも見た目は。
食べ物の評価は味と安全性ですからね。
自分で作ったお野菜を調理すると、喜びもひとしおって感じだけれど、こうしてお肉の加工品も自作して調理するのも、おんなじ感じだよね。
多分、今のは私は気持ち悪い笑みを浮かべているに違いない。
お皿に厚めに切ったベーコンにちょっぴり焦げ目のついたソーセージ。ベーコンの油を絡める程度に軽く炒めたジャガイモ。ソーセージにはトマトソースを添えてと。そして付け合わせのポテサラ。
おっと、忘れちゃいけない。スモークチーズも切ってと。
そしてご飯。私はご飯だけれど、一応、パンも用意しておこう。
本日の昼食のできあがりですよ!
「ふふー。昨日から楽しみだったのよー」
「ここのところは、新作の料理がなかったものねぇ」
あぁ、私、ダンジョンとか行ってたしね。
「料理といっても、焼いただけですけどね。では、いただきます」
さぁ、出来はどないだ。
まずはソーセージから行こう。使った腸が怪獣猪の腸だから、かなり太くて食べ甲斐がありそう。
フォークでプツリと刺して、ひとかじり。
おぉ、いい感じにパキっとして、しっかりとした歯ごたえがいい感じ。肉汁も口の中に広がって、実に満足な出来ですよ。
ちまちま魔法で冷やしながら、ざっくり混ぜたのがよかったのかな。脂が熱で溶けると悲しいことになるらしいからね。
ただ――
「ちょっと皮が固いですかね。怪獣猪の腸を使ったからかな」
「問題ないと思うわよぉ」
「そうねー。もっと固いお肉とかも、普通に食べてるからねー」
そうなのか。私はほとんど外食なんてしないからその辺りは分からないからな。あぁ、でも、王都で私が引っ掛けられたあの屋台の肉は固かったな。確かに。
次はベーコン。うん。いいね。思ってた以上にちゃんとベーコンになってるよ。さすがに日本で市販されてたような感じではないけれど。
……なにせ、昆布だしに漬けたわけだしね。塩を加えて即席の浅漬けの元みたいにはしたけれど。
あぁ、でも、これで朝ごはんのレパートリーが増えるな。ベーコンエッグとか、ピラフとかは出来そうだ。
ふふふ。ご飯が進みますよ。
「これ、商品にしようかしらねぇ」
ララー姉様がソーセージを齧りながらそんなことを云いだした。
ルナ姉様はスモークチーズが気に入ったみたいだ。新しく切り分けてる。
「うちの商会で売り出していいかしらぁ?」
「構いませんけど。普通に小売りですか? それとも食堂向けの業務用とか」
「ひとまずは食堂への卸専門かしらねぇ。これをつかったなにかいい料理とかないかしらぁ」
ソーセージといったら、ホットドッグかなぁ。ベーコンは普通にお肉として使えばいいと思うし。
「あとでレシピをみつくろって渡しますね」
「よろしくお願いねぇ」
こうして、ミストラル商会で販売される商品がひとつふえたのです。
それじゃ、午後はブラッドソーセージを作ってみよう。インベントリの中に、大量に血が保管されてるからね。
誤字報告ありがとうございます。