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20 君はなんなんだい?

19/07/09 隣国までの移動期間を十日に変更。


「信玄餅だ!」


 それを見て、まっさきに出てきた言葉がこれだ。


 おはようございます。キッカです。

 現在私はテスカセベルム王都(結局、街の名前は聞かなった)から北上し、北部大森林帯に沿って西向かって進んでいます。

 徒歩で。

 ……。

 そう、徒歩で!


 駅馬車がでてたから、それに乗ってもよかったんだけどね。その方が楽だし。でも楽を選ぶより歩きたかったのさ。まぁ、それ以前の問題もあったんだけど。

 王都を出るときに、確認を取られるんだよ。ほら、私、身分を証明するものをなにひとつもってないし。だから【透明変化(インヴィジビリティ)】を使ってこそこそ逃げ出したのさ。

 それと、歩行訓練もしたかったしね。


 いや、長いこと不自由な足でさ、足を引くようにしか歩けなかったわけなんだけど、その歩き方がクセになってるんだよね。

 体が新しくなって、右足もちゃんと動くようになってるんだけど、どうしても足が上手く動かなかったときに一番楽だった歩き方をしちゃうんだよ。

 とりあえずその矯正が目的。


 ん? お城で散々歩いてたのに、直らなかったのかって? いや、お城だとしゃがみ歩きが基本だったし。しゃがみ歩きなら普通に歩けるって云う、おかしなことになってるのよ。今は。


 で、歩行訓練……というか、矯正のためにいろいろ気にしながら歩いていた成果もでて、なんとか普通に歩けるようになったよ。

 まだちょっとぎこちない感じがするけど。

 お尻と股関節が妙に痛いけど。

 ……ちゃんと歩けてるよね?


 でもこれならあと少しで、長年夢に思っていたこともできそうだ。

 ふふふ。楽しみだなぁ。


 さて、それはさておき目の前にいるこいつだ。

 信玄餅。

 透明な、ちょっぴり潰れた半球体。おそらくこいつがスライムだ。

 ほんとにいるとは思わなんだ。

 というかでかいね。直径は五十センチくらいあるかな?

 プルップルですよ、プルップル。


 まぁ、アメーバが変質した魔物なら、かなり危険な生物だと思うけど。なんでRPGだと雑魚なんだろうね?

 取り付かれたらそれで終わるよ? 海外のTRPGだと、かなり凶悪な部類になってたハズ。確かゼラチナなんちゃらって名前のスライムだっけ? 触手で捕まえて取り込んで溶かして食べるっていう。当然ながら、捕まったら逃げるのは不可能っていうね。こいつもそんな感じなんじゃないかな。


 それでさっきから、ちょっと離れたところから観察してるんだけど、和製RPGに出てくるスライムみたいにアグレッシブではなさそうだ。

 でも街で見た粘菌(?)よりは運動性が高そう。

 とりあえず、昨日拾った杖代わりの木の枝でツンツン(つつ)いてみてるんだけど、なんだか幸せな気分になるから不思議だね。


 ……これ、なんかの素材とかになんないかな?

 いや、錬金素材の確認の為に食べたりはしないよ。さすがに。

 こうしてみると、あのゲーム凄かったんだな。素材の確認で、植物はもとよりキノコだろうが虫だろうが食べちゃダメな肉だろうが、とりあえず食べるからな。

 どこの『で、味は?』と事あるごとに聞いてくる軍人さんだよ。


 謎な幸せ気分にニヤニヤしてないで、いい加減進もう。

 街からでてもう十日経過している。

 目的地は決めてあるんだ。

 ディルガエア王国の北部。ダンジョンに近い街に拠点を持つことに決めた。

 アンラ王国も面白そうだったんだけど、ダンジョンに潜ってみたいんだよね。興味本位なだけだけど。


 まぁ、ダンジョンは大変そうなら、すぐ逃げ帰るつもりだけどね。

 それに、ダンジョンは資源として見られているみたいだし、近場の街なら薬とかいろいろ需要がありそうじゃない。


 錬金の修行がはかどりそうですよ。ついでに鍛冶も。

 鍛冶はちょっと厳しそうだけどね。普通の武器を鍛えるより、魔法の武器を鍛える方が技量があがるんだけど、修行で創った魔法の武器の処分に困りそうなんだよ。いや、下手に売れないんじゃないかと思って。


 かといって、普通に鍛冶屋を開いてもねぇ。後発で鍛冶屋やっても無駄に不和をおこしそうだからね。

 まぁ、それは拠点を構えてから考えよう。


 街では野営に必要なものをちょっとだけ買って、買い物は終了にした。

 うん。銀貨が足りない。

 白金貨なんて使えないからね。額面が大きすぎて釣銭がたりないのよ。

 買ったのは安物の毛皮とロープ。毛皮は毛布替わりね。

 食料はくすねたのがあるし、なくてもなんとかなるからね。

 服関連は無駄にたくさんあるし。大半が鎧だけど。



 再びテクテクと移動を開始。

 目につく植物とかはもう採取しちゃったしな。これの確認は、錬金技術が上がり切ってからするつもりだ。

 ゲーム通りなら、錬金素材には四種の効能っていえばいいのかな? それがある。で、同じ効能を持つ二種、もしくは三種の素材から薬を錬成するわけだ。


 そして一番手っ取り早い効能の確認方法が、食べること。ただ、錬金技能がひくいとひとつしかわからないんだよね。技量を上げてパークを開放すれば四種すべて分かるようになるんだ。

 なので効能の確認はそれで行うつもり。


 問題は、これはゲームでの設定で、リアルだとどうなってるのか分かんないんだよね。まぁ、必要な素材はインベントリに入ってるから、最初の内はそれを栽培して使うつもりだけど。問題は万病薬。


 万病薬。どんな病でもたちどころに治す薬。なぜか骨折も治す。ゲームにおいての唯一の例外は、最終段階に入った吸血症。すなわち吸血鬼化してしまった者は治せない。

 まぁ、この吸血鬼云々はゲームの話だから、こっちではどうなるかわからないけど。

 病気で吸血鬼になるのかどうかも知らないし。そもそもいるのかどうかも知らないし。


 で、万病薬。素材として簡単に手に入るのは鷹の羽と蟹の殻。これを手に入れる算段をつけないとね。ただ鷹の羽の効能は大丈夫だと思うんだけど、問題は蟹。こっちの蟹に効能があるといいんだけど。いや、特定の種のみっぽいんだよ。

 それにゲームの蟹は、蟹の形をしたなにかだったと私は思ってるからな。

 人間を殴り殺す蟹なんていてたまるかっての。掌サイズなのに。

 ……でかいのは一メートルくらいあったけどさ。


 まぁ、この辺は人里についてから考えよう。

 交易商人さんと仲良くなって、蟹を片っ端から種類集めれば、どれか一個ぐらい当たりがいるだろう。


 さて、ただテクテク歩いて行くのもなんだし。【霊気視(オーラヴィジョン)】の言音魔法をつかっていこう。

 なにか動物を見つけたら狩ろう。召喚魔法の技量もあげないとね。

 召喚武器で動物とかを倒せば、召喚の技量はもとより、使った武器種の技量もあがるから一石二鳥ですよ。


 そうそう、この森の植生だけど、混交林っていうんだっけ? いわゆる普通の森だ。ただ国の北にあるから北部森林帯って呼ばれてるだけみたいね。

 てっきり針葉樹の森かと思ってたよ。


 で、【天の目】で上から見てみたんだけど、うん、相当広いね。深いというべきかな。

 まぁ、【天の目】の限界高度が多分二千メートルくらいだから、そこまで広くは見えないんだけどね。

 そんなわけで、いろんな動物がいるみたい。


 結構な頻度で見かけていた、黒い角の生えた黄色い兎を発見。アルミラージっていうんだっけ? うん、ドリルみたいな角を生やした兎。って形容がぴったりな動物なんだけど、体の感じはなんか微妙に兎らしくはないんだよね。別にピョンコピョンコ跳ねる訳じゃないし。

 あの角はなんかの素材になるのかな? なんだか凄く長いけど。五十センチくらいあるんじゃないかな?

 まぁ、中型犬くらいのサイズだし、バランスは取れ……いや、それでも長いな、あの角。邪魔じゃないのかしら?


 しゃがみ込み、弓を召喚する。

 【武器召喚(バウンドウェポン)】。召喚なんていっているけど、実際には一時的に武器の形に魔力を固めたものだ。その威力はそこらの武器よりもはるかに上。

 もっとも、鍛冶を極めて鍛えた武器とくらべると、完全に陳腐化してしまうけれど。


 短剣、片手剣、大斧、弓、と作り出せるんだけど、リアルの今なら他の武器も出せそうな気がする。でも、その実験はまたにしよう。


 さて今回出した弓。かなりの高性能で、狩りに使うには十分以上の代物。

 でも一番気に入っているのは、コスパだ!

 なんたって矢が撃ち放題ですよ。矢も魔力から作られるからね。


 横に寝かした弓をぐっと引き絞る。

 よーく狙って……。


 ビシュン!


 やった! 当た――うわぁ……。


 矢はアルミラージの首に当たった。当たって、その威力も相まってその先の木に獲物ごと突き刺さった。


 い、威力があり過ぎるね。磔とかどこのゲームの銃かな? ペネトレイター? ハンマーヘッド? どっちだろ? あはは……。


 い、いや、まぁ、いまは弓も矢も持ってないから、これを使う以外の選択肢は無いんだけどさ。

 つぎはもうちょっと大きい獲物を狙おう。オーバーキルもいいところだ。

 あぁっ! そうか、隠形のパークの【暗殺弓】が解放されてるからだ!

 威力が三倍だもの。それじゃああもなるよね。

 と、急いで血抜きしないと。


 うん。これはちょっと慣れがいるね。

 お魚と違ってアレだ。ちょっとキツい。

 主に感触が。

 とりあえず短剣を召喚して、首を切って逆様にしよう。

 あ、その前に穴掘らないと。




 血抜きって思ったより時間かかるね。

 血を溜めた穴を埋めて、次の獲物を探しに行こう。

 あと血抜きは後でまとめてやることにしよう。時間が掛かり過ぎる。

 インベントリに放り込んでおけば、問題ないからね。時間停止してるから。


 この日はこの後三匹狩りました。

 牙が凄いよ。こいつら兎の癖して肉食だよ。

 肉食獣は味がいまいちっていうけど、美味しいのかな?




 おはようございます。キッカです。

 夕べアルミラージを解体してみたよ。解体、大変だね。

 多分、私はかなり楽ができていたと思う。いや、解体には【召喚短剣(バウンドダガー)】を使ったんだけどさ、私の場合、研ぐ必要がないのさ。召喚しなおせばいいから。

 それだけでも時間の節約になっただろうに、それでも数時間かかったからね。


 うわぁ……うわぁ……。


 って、ブツブツ云いながら解体してたよ。

 そういや、皮のなめしはゲームみたいにはできないからな。どうしよう。道具やら薬品……というか、石灰とかお茶が揃ってからやろう。正直拠点がないとできないや。


 あ、この辺の知識は祝福に入ってるドワーフ知識、正式名称は【古のドワーフ鍛冶知識】だったかな? それのおかげで金属の扱いや皮の加工とかも、知識としてもってるみたいだ。


 解体の知識はどこからきたんだろ? 私は魚しか捌いたことないんだけど。

 あ、あれか。DLCの家建てるヤツ。あれにトロフィールームに飾る剥製を自作する……って、剥製って考えたら作り方が頭に浮かんだよ。

 知識の出どころこれだ!


 一介の女子高生の私には無縁の知識ですよ。

 にもかかわらず知っているというのは、理由が分からなかったらきっと気味が悪くて仕方がなかったと思うけど。


 あ、そうそう、武器の扱いに関しても基本知識は放り込まれてるみたいだ。よく考えたら、私が弓を扱えるわけがないんだもの。


 これは、あれだね。そういうものって思った方が良さそうだね。なんだか悩むだけ無駄な気がするよ。


 さて、今朝のご飯はアルミラージのお肉を焼きます。

 簡単に枝を削って作った串に肉をさして、直火焼き。魚を焼くような感じでやってみる。時間かかりそうだけど。調味料は塩だけはあるから、大丈夫だろう。

 これまではくすねてきたハムとチーズとキャベツだけの食事だったからね。




 ……うん。普通に美味しいぞ、このお肉。味付けは塩だけだけど、十分食べられるな。ちょっとクセのある鶏肉って感じかな?

 チーズ乗っけて食べてみよう。

 おぉっ! すっごい美味しい。チーズ凄いな。

 時々洋ゲーで、チーズがあればなんでもできるとか、チーズのためなら人も殺せるみたいな台詞があるけど、気持ちがわかるな。


 くっ、こんなことなら、もう一個ぐらいチーズくすねておくんだった。

 あのでかいハムの塊くらい重かったから、一個しか持ってこなかったんだよ。


 まぁいいや。今度手に入る機会があったら、買っておこう。とりあえずお金はあるし。




 朝ごはんも済んだので、焚火を処理して出発。この調子だと街に着くのいつになることやら。なんか、街道を行けば徒歩なら十日くらいでディルガエアに着くって雑貨屋のおばちゃんが云ってたけど。


 狩りとか採取とか他いろいろとかやりながらだからな。まぁ、のんびり行こう。

 今日も【霊気視】で索敵しながら行きますよ。鹿とかいないかな、鹿。




 ……うん。鹿は探してたよ。鹿肉食べたかったから。昔食べた焼き肉が美味しかったし。

 でも君ではないんだ。というか、君はなんなんだい?


 胴体に魔力の矢が突き刺さって息絶えた兎。その頭部からは鹿の角が生えている。


 え、本当なにこれ? アルミラージは前、ネットの幻獣図鑑で見たことがあるから知ってたけど、こんなのは知らないよ?

 あ、こいつは草食だ。


 とりあえずインベントリに収納する。


 お、名前がでたよ。


 ジャッカロープだって。


 よし。君の味は今晩確認しよう。それで君の価値が決まる。


 ところで、なんかインベントリの雑貨のタブの所で『!』が点滅してるんだけど。

 それによく見たらタブが増えてるよ。ルーンっぽい印のついた本のアイコンが一個増えてる。

 まぁ、雑貨から確認しよう。


 ……。

 ……。

 ……。


 うん。アップデートの通知だった。

 で、アップデートの内容はいろいろあったんだけど。

 その中でもちょっと凹むものがひとつ。


 【自動解体】

 インベントリに納めた動物、魔物を自動で解体。血、肉、骨、皮、他へと分けることができます。


 一日。あと一日どうして早くこなかったのか。

 いや、解体は自分でもできたほうがいいんだろうけどさ。

 あの面倒臭さと時間の短縮を考えると、ほら、ね?

 むぅぅ。


 このやるせなさを何処にぶつけてくれようか。


 そんなことを思いながら、私はため息をひとつついたのでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 語り手が一人称の、強めの喋り口調は読むのが辛い。気力が削られるというか、読んでいて疲れる… 先は気になるものだから、いっそうこれ以上読めないことが残念だ。
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