02 常盤お兄さん
死んだ。死んだかー。
記憶がトんでるせいか、全然実感がないなー。
享年17歳か……。あぁ、お兄ちゃんひとりになっちゃったよ。大丈夫かなぁ。
「あの、私ってどうして死んだんです?」
「あー、かなり酷いぞ。それでも聞くかい?」
「お願いします」
私が頭を下げると、お兄さんはひとつため息をつき、話してくれた。
うん。酷かった。
私は強盗というか、物取り? に殺されたらしい。
あぁ、思い出したよ。アレで死んだのか。
文化祭の模擬店。私のクラスは射的をやることになった。で、その景品の買い出しに近場の大型量販店へと行ったのだ。買い出し組は私を含めて三人。景品の内容はほぼ決めてあったので、手分けして各階へと分散した。
私は三階。目的のモノを購入し、集合場所へと向かう途中、エスカレーターの所で呼び止められたのだ。
なんだろうと振り向いた直後、どん、と、突き落とされた。
それでお終い。
転落。頭部強打。頸椎骨折。脳挫傷。
私はあっさり死んだ。
突き落としたのは子供。
面白半分にやったということだが、その親が、階下で私の買った物を攫い、財布まで奪って逃げていることから、計画的だったのだろう。
まぁ、防犯カメラの映像には突き落とすところは映っており、すぐに捕まったらしいが、ほら、子供だから……ってことで、私が死んでいるのに事件ではなく、事故にされてしまったとのこと。残念なことに親の方はカメラに写っていなかったため、証拠がなくてお咎めなし。うん、最悪だ。
さらに酷いことに、私の葬式の時に、その親子が乱入し、そう、乱入して、私のせいで経歴がどうこう喚き散らし、賠償がどうだのこうだのと騒いだらしい……。
で。お兄ちゃん、ブチ切れてそいつらをたたき出したと。
あぁ、なんか、あのクズ女(母親)も来たらしい。私が死んだからお金が入っただろうって。
これに関しては、伯父さん夫婦が叩きだしてくれたらしいが、香典をしっかり盗んでいったようだ。
浮気して勝手に離婚して出ていったくせに、よくもぬけぬけと顔をだせたものだ。あぁ、そういえば、お父さんが病に倒れた時も「いつ頃死ぬの?」なんて電話をしてきたって、お兄ちゃんが云ってたっけ。まったく、どこから聞きつけたのか。
相変わらずのクズだ。
あぁ、腹が立つ。気持ち悪い。
「大丈夫かい?」
お兄さんが心配そうにこっちをみている。
うん。お願いしたのは私だ。お兄さん……きっと、神様の類なんだろう、そんな方に当たるのはお門違いもいいところだ。
「はい。大丈夫。大丈夫です」
本当は、ちっとも大丈夫じゃないけど。
「さすがに、これはあまりにも気にくわないからね。何より、君のお兄さんが、君の死を悼むことすらさせなかったんだよ。
これには僕もちょっとキレちゃってね。神罰なんて落としてすぐに自由にするのは面白くないから、つい祟っちゃったよ。ハハ、寿命尽きるまで死ねないようにしたからね、残りの人生、たっぷりと苦しみ、のたうつがいいさ」
……はい?
え、祟り?
あ、あれ? なんだかすごいことをさらっと云ったような。
確か、神様の祟りって洒落にならなかったよね?
「あ、あの?」
「ん? なんだい?」
「お兄さんは何者なんでしょうか? 神様……なんですか?」
単刀直入に訊ねた。
するとお兄さんは神妙な顔つきでこういった。
「プリン、食べるかい?」
いや、なんでプリン。
「あ、頂きます」
えぇ、食べますとも。プリン好きです。
生クリームでデコレートされ、天辺にサクランボが一個ちょこんと乗ったプリンが差し出された。なんか、思ってたのより豪華なのがでてきた。
「とりあえず、それを食べながら聞いとくれ。
まず、この場所だ。
ここはいわゆる【彼の世】への途中の場所だ。今一度、周りを見てごらん」
そういうとお兄さんはパチンと指を鳴らす。
真っ黒な場所。
あの何も見えない真っ黒な空間を、雨のように何かが沢山降っていた。
半透明の球体が、幾つも幾つも、それこそ数えきれないほど。
「あれは、僕が担当する世界で亡くなった者たちの魂だ。これから【彼の世】へと行き、洗浄され、修復され、再び生を受ける。魂の輪廻には目的があるんだけれど、それを君に話しても、それはただ好奇心を満たすだけの物だから割愛するよ。
で、僕は、それらを含め、担当する世界を管理する、まぁ【神様】なんだろうね」
お兄さんが苦笑する。
「えーと、自覚とかないんですか?」
「あるわけないだろ。僕も君と同じくここに落っこちただけなんだ。そうしたらここにいた前任者が、僕を見るなりこう云ったんだよ」
『ほう、何といい面構えだ。ティンときた! 君のような青年を待っていたんだよ!』
ちょっと待って。なんか、どっかで聞いたことあるようなセリフなんですけど。
「どうも昇進したらしいんだけど、後任がいない。そこへ僕が落っこちてきた。丁度いい、後釜にしよう。知識と能力をとりあえず僕に突っ込んで、後は任せるとかいって消えちまったからね」
酷っ!
「で、僕が管理することになったのが、地球を含めた銀河系まるごと一個」
規模デカっ!
「だ、大丈夫なんですか、それ」
「うん。恐ろしいことにどうにかなったんだよ。情報量に死にそうになったけど。いや、死んでる……というか、肉体をよこされたうえ、死ねなくなってるんだけどさ。で、引き継いだシステムがあまりに効率が悪いからそこかしこ改良して、楽できるようにいじくりまわして、管理をほぼ自動化して今に至ってるわけだ。
うん、深山さんに話して思ったけど、世界の管理なんて神様のやることだね、これ。
ちなみに、僕がここに来たのは三年前だよ」
思ったより最近だ。
「……あれ、なんか僕の愚痴になってないかい?
話を戻すよ。あぁ、そういえば自己紹介をしてなかったね」
そういえばそうだ。
「僕は常盤兼成。君と同じ日本人だよ。いや、元日本人と云うべきなんだろうな。いまは銀河系の管理者をやらされてる……多分、神様だ」
「多分、なんですか」
「自覚がないからね。一応、横のつながりで他の管理者とも交流はあるんだけれど、『私は神だ』みたいなことを云ってる奴は十人にひとり、いるかいないかだからね」
なるほど。
あれ? となると、私もそういうことをやることになるのかな?
「えーと、私はどうなるんでしょう?」
常盤お兄さんに訊ねた。
「あー、深山さんはなんというか、誘拐されたんだよ。で、連れていかれる途中でここに引っ掛かったというか、イレギュラーはここに落ちるようになってるんだ」
は?
「あの、どういうことですか?」
「異世界召喚ってわかる?」
常盤お兄さんの言葉に、私は目を瞬いた。