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195 私の歩みを妨げる貴様は何者か?


 さぁ、まずはひとり目。目指すはドワイヤン公爵のお宅ですよ。目標はドワイヤン公ガスパール卿、その人です!


 えーと、まだ若いんだよね。聞いた話だと。四十代だったかな? バレリオ様と同年代かな。


 さて、まずはこれを練習しないと。


 アルスヴィスを召喚して、ちょっと横乗りをしてみる。お、思ったよりも難しいな……。でもなんとかなりそう? あ、そうだ!


 ドーピング指輪をつけてと――。うん、敏捷と技巧を上昇させたところ、鞍が無くても問題なく馬に横乗りできるようになったよ。


 それじゃ、街へと行きましょう。この森も人工林なのかな? ここから街道にでて、街へと行くわけだけれど、姿を現したまま門をくぐるか、それとも領邸のところで姿を現すか。どっちがいいだろう?


 後者だと間抜けなことになるかもしれないんだよね。馬は消えないから、領主邸の前でアルスヴィズを召喚して、そこで騎乗してから姿を現す、なんてことしないといけない。

 そうすると、アルスヴィズが現れてから私が姿を現すまでに間があるわけで。

さすがにそれは間抜けか……。


 騒ぎになるだろうけれど、ここは堂々と街にはいろう。門のところで引っ掛かったら、全員行動不能にすればいいや。部外者の一般人も巻き込むけれど【範囲

麻痺】の魔法を使っちゃおう。


 それじゃ、アルスヴィズを召喚しなおして――よっと。


 よし、それじゃ行くとしようか。


 考えてみたら、バレッタを付けずに出かけるのは凄い久しぶりだよ。


 時刻もお昼過ぎ、お日様があったかいですよ。こっちの冬は、日本の冬よりちょっぴり温かいくらいだからね。

 なんでもアムルロスの気候は環境管理の賜物だそうな。


 魔素の関係で、放っておくとカオスなことになるらしいよ。


 カッ、コッ、と、おおよそ蹄が地面を叩く音とは思えない軽い足音を立てて、街道を進んでいく。


 黒ずみ干乾びた皮をこびりつかせた骨の馬、その馬に乗る黒いドレスに黒髪の女。


 それはとてつもなく目立つだろう。


 それなりに人の出入りがあるのか、門の所には人が並んでいるのが見える。


 ま、私はそんなの無視するけれどね。さてさて、門を護っている兵士はどうでるかなぁ。

 魔物にしか見えないアルスヴィズを見て、攻撃して来るかな?

 一応、【黒檀鋼の皮膚】は掛けておこう。


 人の列を無視して門へと進む。並んでいる人は、私たちをみて、ぎょっとして口を開けて、呆然としているのがほとんどだ。

 あ、何人か平伏して祈りだしたよ。いまだに慣れないな、これ。


 そのまま脇を通り、予想外にあっさりと門を通過。


 兵士も似たような反応だね。


「ま、待て貴様! 止まれ!」


 お、正気に戻ったのか、兵士のひとりが回り込んで立ちはだかったよ。


 とはいえ、私はまともに取り合うつもりはないよ。いまの私はアンララー様ですからね。人間如きが命じることのできる存在であってはならないのです。


 そんなことをしたら、ララー姉様の評判が失墜しちゃうからね。


 ということで、こちらが問い質しましょう。


「私の歩みを妨げる貴様は何者か?」

「黙れ! 怪しい奴め、捕縛――」


 面倒臭い。


――(我、)――――――――――(汝を冷たき棺に封じん)


 兵士はたちまちの内に氷漬けとなる。よっぽど弱っていなければ死んだりしないし、大丈夫でしょ。

 【道標】を発動し、目的の公爵邸への道を確認する。


 ……あれ? ひとりこんな事になったから、勇んで取り囲むかと思ったんだけれど、兵士のみなさん、平伏してますね。


 なんだか「お赦しを……」とか聞こえてくる。


 ララー姉様、信仰の度合いは、まだまだ高いみたいですよ。


 それじゃ、今回の私の殺害騒ぎの全容というか、どういうことで起こったのかを説明しよう。


 カラコンを作っている時に、ルナ姉様から聞いた話だけれどね。いや、ララー姉様、怒り心頭でブツブツ云っててさ……。


 月神教。ここも勇神教と同様に無神論者がそれなりに幅を利かせていたらしい。らしいっていうのは、軒並み潰れてしまったから。あのジョスリーヌのことを皮切りに、ガブリエル様がいろいろと手を回したみたい。それに加えて、私がノリだけででっちあげた粛清者のこともあって、【ブラッドハンド】という抑止力を得た教皇派が不信心者共を掃除したとのこと。ララー姉様もレイヴンを使ってなにかやったみたいだ。ほら、武闘大会のリンクスみたいに、実体を出して動かしていたらしい。

 多分、何人か死んでると思う。アンラ王国である以上、そのあたりは容赦なくやったみたいだ。怖いな、アンラ。さすが謀略と暗殺が日常(は云い過ぎかな?)の国だよ。


 もっとも、それでも最大勢力は掃除しきれてはいないみたいだけれど。やっぱりその辺は貴族絡みで、おいそれと手を出せない部分はあるそうだ。とはいえ、軒並み怖気づいて、大人しくなったそうだけど。


 で、その弱体化した勢力が私の殺害依頼をした連中かと云うと、そうじゃない。今回の殺害の黒幕は、教皇派の中でも過激なタカ派の連中。マリーズ大主教を中心とする一派と、その支援者たるドワイヤン公爵。そして実働部隊として暗部の【狂犬】とかいう暗殺部隊。

 【狂犬】の連中はスマートな暗殺ではなく、いわゆる鉄砲玉的な暗殺者を使う組織。捕まっても、殺されていなければ教会が手を回して回収しているみたいだ。

 ……多分、使い捨ての暗殺者、ってことだよね? 狂信者ってことなんだろうな。


 それで私を殺すことにした動機がね、酷いのよ。なんでも無神論者共が、私を新教皇として擁立して現教皇ヴァランティーヌ猊下を追い落とし、実権を握ろうとしていたらしい。

 ほら、王権神授みたいな感じで、『加護持ち=次期教皇』っていうのがあるからさ。だから私を擁立すれば、起死回生の一手になることはなるんだよ。ちなみに、私のことは簡単に操れると思っていたみたいだよ。アホか。


 私みたいに頭のおかしな人間を操れるわけないでしょ。心理テストとかやると、私、シリアルキラー寄りのサイコパスみたいな判定になるんだよ。


 でだ。その計画を察知したマリーズ派が、それを止めるために一番手っ取り早い方法として、『その娘を殺しちまえばいーじゃん』って方法を選んだらしい。


 ははは。与り知らぬ権力争いで私は殺されたのかよ!


 ふっざけんなよ!


 さすがに日本にいた頃には、こんな変な理由で危害を加えられたことはないよ。


 容赦なくヤッちまおうと思っていたんだけれど、ひとつ問題が浮上。


 家族、いるよね? さすがにその前で殺すのは憚られるので、死んだ方がマシな状況にしようと思います。ある意味もっと酷いけれど、目の前で殺されるよりマシと思うものですよ。少なくとも加害者以外は。


 ……午前中のアレの影響のせいか、かなり考え方が物騒になってる気がする。


 相変わらずのカッ、コッ、という軽い足音を響かせて、石畳の道を進む。商業区と思しきところを通り、住宅街へ。このあたりはいわゆる、中流家庭の人たちの住んでいる場所かな。商会の職員さんとか、組合職員とか、収入が十二分に安定している人たちの家。というか、ちょっと立派な集合住宅だね。


 そういや、スラムとかもあるのかな。あるんだろうな。サンレアンにも、色町の外れがスラムになっていたし。とはいえ、規模は本当に小さなもので、治安もそこまで悪くはないみたいだったけれど。


 ちびっ子ギャングとかいないというのが、その証拠だよね。教会の孤児院はよく頑張っていると思うよ。

 私はたまにお菓子とか差し入れるだけで、積極的にかかわったりしないけれど。


 ん? 理由? 私を殺したのが子供だからだよ。地味にトラウマなんだよ!


 笛吹き男よろしく、人をぞろぞろと連れ立つ状況になるかなと思ったけれど、それは杞憂みたいだ。


 なんというか、ひとりが平伏したら、みんなが順繰りに平伏していくんだよ。呆然としている者は、側にいる人が頭を抑えて平伏せさせる感じで。


 そういや、大名行列がこんな感じになるんだっけ? 私としてはあんまりいい気分ではないけれど、当時の権力者はどう思ったのかね。


 あぁ、いや、当時はカースト制があったようなものか。だからあれこれ思うことはなかったのかな?


 そんなこんなで富裕層の地区へと突入。このあたりからは一軒家になるね。庭なんかもしっかりとあって、生け垣の緑が眩しい感じ。


 サンレアンは街中を川が通ってたけれど、この街は川の側に造られた街だ。川から引いた水路を街全体に通してある。


 それにしても、どこの世界もお金持ちの家の作りというか、庭は似たようなものだね。


 そうそう、“所変われば品変わる”なんていうけれど、建物の感じはディルガエアとは違うよ。さすが芸術の国……というより、ディルガエアは基本的に魔物の暴走に備えているところがあるからね。基本的にどの街も城塞都市みたいなるんだよね。


 村は地下壕を掘ってあって、地上は諦めるみたいな感じだし。まるで竜巻対策の家だよ。テキサス州とかそんな感じなんだっけ?


 で、アンラは家の造りも細々としたところが凝っていたりするよ。ただ、ランドマークとかに指定されそうな、奇抜な建物も多いけれど。


 そういや、入り口がライオンになっている建物があったよ。神枝が扉に描かれていたから、多分、勇神教関連の建物だと思う。


 日本みたいに地震とかほぼないみたいだから、あんな装飾とか凝っているのかな? 地震がきたらあのライオン頭、たちまち落下しそうだし。


 お、一際大きなお宅が見えてきましたよ。温泉地にある大きな旅館くらいありそうな家。

 【道標】のラインは、まっすぐあの家に向かっている。うん。あそこが目的地だ。


 正面に見える門の両端では、門衛をしている兵士が槍を持ったまま目を丸くして、アルスヴィスに乗った私を見ている。


 えーっと、もしかして思考停止してないかな?


 アルスヴィズが歩みを止めた。門、開けてくれないかなー。開けてくれると楽なんだけれど。とりあえず、驚いてるふたりに声を掛けてみよう。


「問おう。そなたらは私の前に立ちはだかりて、剣を向ける者か? それとも、我が行く手を阻む障害を取り除く者か?」


 なんか、どっかで聞いたことあるようなセリフになっちゃったな。


「し、失礼しました。ただ今、門を開放します」


 ふたりの兵士が慌てて門を開ける。


 ……あっさりいったよ。でもこれはどう判断したらいいんだろ? 


「め、女神様。ひとつ、質問をしてよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「ドワイヤン公爵に、どのようがご用向きでございますか?」


 あ、ちゃんと訊くんだ。仕事を放棄したのかと思ったよ。


「ガスパールめが私に刃を向けたのだ。ふたりは次の就職先を探すがよいぞ。この家は終わるからな。もし、良い働き先に当てがないのであれば、ディルガエア王国サンレアンの七神教会にいるガブリエルを頼るがよいぞ。良い仕事先を斡旋してくれよう」


 ふたりの兵士は顔を見合わせるや、即座にその場に跪いた。


 ……え、えーと、これはいいのか? 忠誠心とかはどうなっているんだろう?

 正直な話、今の私は胡散臭いだけと思うんだけれど……。あぁっ! アルスヴィズがいるからか。さすがに生きた(?)骨の馬なんて用意できる人なんていないもんね。


 黒髪くらいなら、炭とかで染められそうだけれど。


 忠誠心よりも信仰心が勝ったということで、遠慮なく進むとしましょう。




 こうして私は、どうどうと公爵邸へと歩を進めたのです。



誤字報告ありがとうございます。

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