192 大丈夫、君は死ねないよ
それは暗殺と云うにはあまりにもお粗末過ぎた。ことアンラの暗殺者であるのなら、これはとても暗殺などというのもおこがましい行為であった。
やったことといえば、通り魔と同様である。ただ、不特定多数ではなく、特定個人を狙ったというだけで。だが、直接的である分、確実性が高いのは確かだ。事実、男は少女を確実に殺した。
横殴りに少女の頭部をメイスで殴りつけた傭兵の男は、なぜか戸惑ったような表情を浮かべていた。
角度も、勢いも、十分に頭蓋を胡桃のように砕き割ることができたはずだった。だが、手に伝わる感触は固い外殻を砕くような感触ではなく、分厚い鉄板、もしくは砕けぬ大岩でも殴りつけたような感じであった。
目の前にはテーブルを巻き込み倒れた、目標の少女がいる。倒れ、わずかながらにまだ動いている。
致命傷にはなったはずだ。頭部への渾身の一撃だ。生きていられるはずがない。あれはただ痙攣しているだけだ。
そう思いつつも、逃亡するべきか、追撃し止めを刺すべきか、男に迷いが生じた。
ほんの一瞬、ほんの一瞬逡巡しただけだ。だが、それが致命的であった。
掲示板を見ていた、ぽっちゃりとした女狩人が男の足を払った。突然の奇襲に、男は反応しきれずとも、転倒はしなかった。そしてその襲撃者に反撃をしようと体勢を整える。
いや、整えることはできなかった。
奇襲された時点で後手に回っているのだ。
懐に飛び込んだ女狩人が、容赦なくほぼ真下から男の顎に掌底を打ち上げた。男は無様に倒れ、壁に後頭部を打ち付けた。意識が混濁し、男はその場に尻餅をついた。
制圧を完了させた女狩人は、取り出したロープで男を縛り上げた。
一方、殴り倒された少女は、受付カウンターの内側へと運び込まれていた。本来、頭部を強打された者を動かすなど、絶対にしてはならない行為だ。
だが、あの傭兵の男から彼女を少しでも離さなくてはならなかったのだ。
実際、あの女狩人がいなければ、あの男は少女に止めを刺したことだろう。
「イサベル、もう動かしちゃダメ! シルビア、薬を持ってきて!」
タマラがテキパキと指示を飛ばす。
メイスによる打撃を頭部に受けたのだ。頭蓋が砕かれていることは明らかだ。
「タマラちゃん、手ぬぐい濡らして持ってきた!」
少女の状態は良いとは言えなかった。意識を失い、鼻血が流れ出してる。
チャロが血まみれた少女の顔を拭こうとしたとき、突然少女の周りを金色の光が巡るように踊った。
「えっ?」
チャロをはじめ、周囲にいた受付嬢たちがその光景に驚いていると、不意に濡らした手ぬぐいを持ったチャロの腕が少女に掴まれた。
「ひぅっ!?」
「……どうなってる?」
自分が掴んだ相手が見知った受付嬢と気付き、少女が問う。
「き、キッカ様! 動いちゃダメです!」
「問題ない。さすがに経験すれば、私でも対策はする」
少女は起き上がると、自身に【清浄】の魔法をかける。そしてチャロの持つ手ぬぐいを借り、目隠しを外し顔を拭いた。
少女のとった奇襲対策は単純なものだ。一日に一度は死ねる。それを前提としたものだ。ただ、死に至る攻撃、或いはそれに準じた攻撃を受けた際に自動回復できるとはいっても、それはあくまでも怪我だけ。ゲームでいうところの、いわゆる状態異常は回復しない。
そして、彼女の自身の仕様において、なぜか骨折も状態異常、即ち疾病扱いとなっている。
王宮で肋骨をへし折られた時のことは、少女にとって手痛い教訓となっている。故に、少女は【疾病無効】と【毒無効】の効果を付術したペンダントを身に付けている。これにより、ほぼすべての状態異常を無効にすることができる。
おかげで、頭部にメイスの打撃を受けたにも拘わらず、頭蓋は砕けず、砕けた骨が脳に突き刺さるという事態を防ぐことができたのだ。もっとも、衝撃を殺すことはできないため、脳自体は損傷するわけだが、それは回復魔法ですでに修復されている。もし骨が刺さったままであったなら、回復はできなかっただろう。それを鑑みれば、このペンダントは非常に有用だ。
そう、非常に有用なペンダントであるのだが、これを装備すると髪色を偽装するペンダントを付けることができない。故に、なにか別の装身具への変更を検討をしているところだ。
「何が起きた?」
少女が再度訊ねる。受付嬢たちは、普段と明らかに違う雰囲気の少女に戸惑いながらも、彼女に起きたことと、現在の状況を伝えた。
「理解した。私を殺した輩はまだいるな?」
少女は立ち上がり、いま自分のいる場所が受付の内側と確認する。少女は待合所へと出ると、俯せに押さえつけられている襲撃者の向かう。
男の前に屈み込むや、まず魔法を掛ける。
【麻痺】の魔法。抵抗されることも考慮し、数度連続して掛ける。男はたちまち硬直した。
そしてその隙にポシェットから取り出した頭環を男の頭に嵌めこんだ。
【脱力の頭環】。少女が作り上げた装身具だ。身に付けた者はスタミナを奪い取られ、動くこともままならなくなるという代物だ。
装備すると外れなくなるという呪いの装備ではない。だがその効果の結果、脱力してしまうため外すことはまず出来なくなるという代物だ。
「私を殺した理由を聞こうか」
少女が問うた。
くたびれた軽装鎧に、手入れは行き届いてはいるものの、汚れの落ち切らないメイス。必要な物だけを詰め込んだ雑嚢、防寒具兼毛布替わりの外套。
冴えない顔つきの凡庸な男。
男は答えず、ただじっと少女を睨んでいる。
「この男はアンラの暗殺者のひとりです」
小声で話す女狩人に、少女が視線だけ彼女に向けた。見覚えがある。確か、月神教の侍祭のひとりだ。
「申し訳ありません。対処が遅れました」
「十分だ。感謝する」
少女は礼を云うと、目の前の暗殺者を見下ろした。
「さて、君とはじっくりとお話しようか」
回り込み、足首を掴むと、少女は男をズルズルと引き摺りながら受付へと歩き始めた。
「私が借りても問題ない部屋はあるか?」
普段とあまりにも違う様子の少女に、受付嬢たちは戸惑っていた。
なんというか、まるで人形が動き、喋っている様に思えるのだ。
「し、資料室を使ってください」
タマラが直ぐ近くの扉を慌てて開けた。
「ありがとう。そんなに長くは掛からない」
資料室へと入り、男を部屋の中央に放る。そして扉を閉め、【施錠】の魔法を掛けた。
これで誰も入ることはできない。扉ではなく、壁を破壊でもしない限り。
資料室は存外広かった。壁に設えられた棚には、各種資料本や羊皮紙が所狭しと納められている。一見乱雑であるように見えるが、きちんと整理はされているようだ。ただ、各資料のサイズが規格化されていないため、乱雑に納められている様にみえるのだろう。
そもそも、魔物図鑑の一巻と二巻でサイズが違うのはどういうわけだろう? 厚さの違いはともかく、書物の丈が違うのはおかしいとしか思えない。
少女はひとしきり書棚を見渡し、改めて男に視線を落とした。
少女は男を拘束しているロープを解き、床に放りだした。そして大の字の姿勢を取らせる。
男は自由となったが、動くことはできない。頭に嵌められた頭環の効果により、全身が脱力し、まるで力が入らないのだ。
「動けないだろう? だが話すことくらいは出来るはずだ」
「……」
「暗殺か……。ならば、暗殺を依頼した者がいるわけだ。君の属する組織、依頼人、動機、あぁ、もちろん、サンレアンに君の仲間はいるのか。訊きたいことはいくつかあるな」
「……」
「でも君は答えない。そうだね?」
無表情のまま少女が云う。男は答えない。
「実はさ、別に答えてもらう必要はないんだ。君を送り込んだヤツを特定する方法はあるからね。だから質問は当人にすることにするよ。いや、その時にはもう、質問などするだけ無駄になっているか。……まぁ、いい。
これから行うのは私の報復と、ただの実験だ。大丈夫、君は死ねないよ」
そう云い、少女は右腕を横に突き出すように伸ばす。その手の先の空間が歪み、それを少女が掴み引きずり出した。
それは青白く燃える大斧。バトルアクスとか、バルディッシュと呼ばれている類の大斧だ。そしてその意匠は酷く禍々しい。
「だから、存分に楽しむと良いよ」
少女はそういうと両手で持った大斧を振り上げ、そして容赦なく振り下ろした。
斧の刃は容易く男の右足を切断した。あまりのことに、男は絶句していた。
切断面から血が流れでる。が、予想していたほどでは無い。
「失血死されるのは面白くないよね」
少女が血の噴き出す切断面に手を向け、治癒の魔法を掛ける。傷口はたちまち塞がった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「このタイミングで悲鳴を上げるのかい? また随分と鈍いね。しっかりしなよ。まだ始まったばかりだよ」
抑揚のない声で、少女が淡々と告げる。
そして二本目。左足を切断し、右足と同じように魔法を掛け、切断面を塞ぐ。
男は切断された両の足を見、次いで少女に視線を向ける。その目は恐怖に見開かれたままだ。
「それじゃ、次は右腕」
変わらず無表情のまま、少女は大斧を振り上げた。
右腕を切断され、更に左腕も切断される。そのたびに魔法で癒され、傷口が塞がれる。
今後を考えれば、男の人生は絶望でしかないだろう。だが、この時ばかりは、男は安堵していた。これで終わりであると。
そう、彼だけは思っていた。
「飲め」
どこから取り出したのか、少女が回復薬の壜の蓋を開け、男の口に押し込んだ。
壜から流れ出る液体は容赦なく男の口内から喉へと流れ込み、胃へと落ちていく。
光が躍り、そして手足の部分にその光が集まっていく。
「これで元通り」
光が消えると、そこには切断された筈の手足があった。先ほどと違う点と云えば、一緒に切断された袖や革ズボンはそのままに、手足が剥き出しとなっているということだ。
「えっ……」
男は口元を引き攣らせ、再び少女に視線を向けた。
「それじゃ、二周目、いってみようか」
表情の無い少女は大斧を召喚し直すと、ゆっくりと振り上げた。
「や、やめ……」
「大丈夫。死ねないよ」
そう云って、少女は無表情な顔に作り笑いを浮かべた。
★ ☆ ★
左腕を拾い上げ、これまでに切断した四本の左腕の上に放り投げる。そして最高峰の回復薬をどこからか取り出し、そこで手を止めた。
男は焦燥していた。身体的には全く問題はなかった。回復薬のおかげで、出血分の血液も補完されているのだ。例えこのあとどれだけ手足を切断されようとも、失血死に至る事はない。
だが精神はそうもいかない。
楽しむこともなく、狂乱することもなく、ただ淡々と手足を切断する少女。それこそ食肉用の家畜の頭をハンマーで叩き割り、屠殺していく作業のような調子で手足を淡々と切り落としていく。
少女のその様子に、男の精神は半ば限界を迎えていた。
だが、狂気に墜ちることもできない。その兆候を敏感に察知し、少女は魔法で無理矢理正気に戻すのだ。魔法を掛けられた瞬間だけは少女を無二の友のように思えるものの、直後に足を、或いは腕を切り落とされ、本当の正気に無理矢理戻される。
男にはもう、どこにも逃げ場はなかった。
三度目の時には歯を食いしばり、男は薬を飲むことを拒否した。だが、それは無駄だった。拒否したところ、少女はその薬を男にぶっかけた。傷口に掛けたのではなく、ただ体に掛けただけだ。だというのに、薬は効力を発揮し、失われた手足を再生させた。
止めてくれと懇願する。少女は不思議そうに首を傾げる。許しを請う。無視される。仲間の暗殺者の情報を流す。どうでもいい、とひとこと。依頼主について話す。肩を竦められる。
脅しでも冗談でもなく、少女は壊し、治す事だけを目的にしているようにしか思えなかった。まったく無意味な反復作業。
「あぁ、そうだ。もうひとつ実験することがあった。あぁ、でも、あっちは試す訳にはいかないか。増えても処分に困るし」
思い出したように少女が呟いた。
手足のない男は、怯えたように少女を見つめた。これ以上、なにをしようというのか?
「それじゃ、試してみよう」
少女は大斧を振り上げ、男の首に振り下ろした。
これで終わる。振り下ろされる大斧を見ながら、男は安堵した。
「うーん。これはちょっと面倒だなぁ。止まった心臓を動かすには衝撃を与えないとダメとか。これは配布するときには、きちんと注意書きも入れておかないとダメだね」
少女の声に、男は咳き込みつつも目を開けた。右を見、そして左を見る。わずかに首を持ち上げ、自身の四肢を確認する。手足は繋がっている。首も繋がっている。
自分は斬首され、死んだのではなかったのか?
「おはよう。目が覚めたかい? といっても、たかだか一、二分だけれどね。一度死んだ気分はどうだい? 天国を見ることはできたのかな?」
少女の言葉に、男は顔を引き攣らせた。
「な……なんで……?」
「んー? 理解できないかい? 君は死に、そして生き返った。ただそれだけの事だよ。斬首されても、首も体も少しの間は生きている。でもそれは真実ではあるけれど、完全ではない。大抵は斬首の衝撃で意識を失うんだ。事実、君は私が君の首を切断した後、なにが起きたのかを認識できていないだろう?」
男は驚愕に目を見開いた。
「生き……返った?」
「そうだよ。ここからは死ぬことも楽しめるね。素晴らしいじゃないか。大抵の人はこんなに死ぬことなんて体験できないよ」
少女が笑顔を作る。手を伸ばし、幾度目かの大斧を召喚する。
「や、やめ……」
「やめないよ。君は私を殺しに来て、そして目的を達した。だから私は私の敵討ちをするのさ。なにもおかしなことはないだろう? 君の唯一のミスは逃走の判断を誤ったこと。君の唯一の誤算は私が一度の死では死なかったということだ。神の加護は偉大だね。私は殺されたのに、こうして生きてる。あぁ、これは内緒だよ。他言無用だ。わかるね?」
鼻がぶつからんばかりに少女が顔を近づける。男の目を少女の目がじっとみつめる。焦点の合っていない、瞳孔の開き切った真っ黒な瞳に、男の顔が映る。恐怖に引き攣る自身の顔を見、男はしゃくりあげるような笑い声を上げた。
「では、六周目といこうか」
「や、やめ……」
すっかり反骨心をへし折られ、男の言葉にはもう欠片も覇気がない。だが、まだだ。
え、嫌だよ。と云って少女は肩を竦めた。
まだこの男は、かつての自分がいた場所にすら立っていない。絶望を噛み締めるなど、あまりにも恵まれている。希望などというまやかしに、しがみついている証拠だ。
表情を笑顔の形に変える。
「ダメだなぁ。自分の境遇を受け入れ給えよ。希望を投げ捨て、諦観に身を委ね給え。そうすれば絶望することもない。希望を持つこともない。だが寿命が尽きるまでは無駄に生きていられる。例えそれがどんなに無様でも。滑稽でも。それこそ、老いて、朽ちて、果てるまでね。
あぁ、とはいっても、この世界の社会制度では飢えて死んでしまうか。私のいたところよりも、はるかに現実的で合理的だ。救いの手がないなんて、なんと慈悲深いことだろう」
少女がケラケラと笑い声をあげる。だがそこに感情などは欠片も無く、単なる音の羅列だ。
「――続けるよ」
少女はゆっくりと斧を振り上げる。
「や、やめ……いやだぁぁぁぁぁっ!」
★ ☆ ★
「面倒臭い」
十二本目の究極回復薬を空にしたところで、少女が僅かばかりに感情を滲ませながらつぶやいた。
大斧を背に担ぐように納刀……いや、この場合は納斧というべきか? とにかく、少女は手の大斧を消し、そして左手で男に【電撃】を放つ。
途端に、ビクンと男の体が跳ね、むせるように咳き込む。蘇生完了。
咳き込む男の姿に、嫌悪に口元が歪む。
「……そろそろか」
ほんの少し左掌を見つめ、ぎゅっと握り、そして開く。わずかながらに感覚が戻って来た。ほどなく、元に戻るだろう。
男に視線を向ける。だが憔悴しきっている男は、もはやロクに反応することもできなかった。
ただブツブツと赦しを請い、死なせてくれと呟いている。
「君に死ぬ権利などない。私に命じる権限もない。だが私はもう飽きた。そこの肉を持ってどこへなりとも行くと良い。良かったな。しばらくは肉には困らないぞ。だが栄養バランスは大事だ。きちんと野菜も摂るように」
転がる手足に少女が手を触れると、それらは次々と消える。そしてすべて消えたかと思うや、それらはすぐに大きな麻袋に入った状態で床に無造作に置かれた。その数四袋。それぞれ口はしっかりと紐で縛られており、中身は見えないようになっている。
各部位ごとにきちんと分けている当たり、少女は無駄に几帳面だ。
次に彼女が手を振ると、床を汚していた血が消え、赤黒い塊が麻袋の側に転がった。それにも少女は触れ、消す。すると今度はジャムを入れるのにぴったりのサイズの壜を幾つも並べた。赤い液体の満たされた壜を。
そして最後に、男の顔を覗き込みながら、少女は髪飾りを外した。
暗い青色をしていた髪が、たちまちの内に真っ黒に変わる。
「あ……あぁ……」
「見たか? 見たね? 理解したか? 理解したね? 後は好きにするといい。でも、さっきも云ったように、他言は無用だ。わかるね?」
男は泣きながらコクコクと頷いた。
「よろしい。では、あとは司法機関に任せるとしよう。なに、私はこうして生きているからね。君の罪状は殺人未遂だ。きっと【アリリオ】での強制労働で済むよ。ただひたすらに塩と炭を集めるお仕事だ。なにも考える必要のない単調作業。思考する必要もない人生が待っているだろう。実に素晴らしい。それが嫌なら、どうにかして逃げることだね。健闘を祈るよ」
少女は男の頭に嵌められた頭環に触れ、それを回収する。次いで外した髪飾りを付け直し、髪の色を再度偽装する。あとは、扉に掛けた魔法を解除して外に出るだけだ。
「しばらくすれば、体も動くようになるだろう。それまでは大人しくしていることだね。安心し給え。君の事は放置するように云っておくよ。先にもいったが、逃げるも由、治安部隊に掴まるのも由だ」
そういって少女は資料室を後にする。
資料室をでると、受付嬢たちが顔を青くして立っていた。
「騒がせたね。申し訳ない。あの男は放置で頼むよ」
「え? ですが――」
「約束をしたからね」
そう答え、少女は目隠しをする。そして、あぁ、そうだ、と、思い出したように組合事務所に来た理由を話す。
組合長であるカリダードは、本日は【アリリオ】出張所へと行っているとのことだった。ネズミと掃除屋スライムの件は、伝言だけしておけば十分だろう。
「それじゃ、今日はこれで失礼するよ」
少女はしっかりとした足取りで組合事務所を後にする。看板の下も普通に通り抜け、侯爵邸へと向かう。
ネズミ捕りの件はゼッペル工房に丸投げしよう。王弟殿下には伝言だけ伝えて、私のバイコーンを連れてこよう。
少女は手早く今後の予定を決める。
今回は長過ぎた。もうあまり時間も残っていないだろう。戻る前には自宅には帰り着きたい。
そして少女は、足早に侯爵邸へと向かうのであった。
感想、誤字報告ありがとうございます。
※監視者十三と十九は前回が初登場です。月神教の暗部、諜報組織のひとつ【ナンバーズ】の一員(今回の時点では既に脱退)。キッカには彼女らのような監視者だの護衛だのが各教派等から送り込まれているため、キッカの周辺では水面下でいろいろと各組織が衝突していたりします。