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19 神々の茶会

19/07/17 衍字修正しました。


 よし。ようやく出来上がりましたよ。

 実に素晴らしい仕上がりです。

 床だけ以前のままなのが少々気に入りませんが、これを張りなおすのも無駄ですからね。これだけなら、リソースも使っていないようなものですし。

 そんなことを考えながら、足元に広がる大理石の床を見つめる。


 ここには、つい先ごろまで大豪邸が建っていました。それこそ、維持に呆れるほどのリソースをつぎ込んだ。いえ、館だけでなく、周囲の環境も含めてですが。

 ですがそのほぼすべてを粉砕し、維持に使われていたリソースを開放しました。


 空の青、海の青、潮の香、森の緑、渡る風、その他諸々。すべては消え失せ、今はすべてが真っ黒になっています。

 真っ黒な空間に浮かぶ白い場所。雲のような土台の中央に大理石が敷かれ、その上には畳とカーペット。真ん中にあるのは当然、炬燵。もちろん炬燵の上にある蜜柑は必須ですよ。

 えぇ、必須ですとも。なにがあろうとも蜜柑を食べるのです!


 ……あれ? なんで私はこんなにも蜜柑に執着しているのでしょう?


 それはさておき。まったく、目からウロコが落ちるというのはこのことなのでしょう。まさかこの場所がカスタマイズできるとは思いませんでしたからね。

 そして解体してさらに驚いたことには、この場所の維持だけで、銀河運営に使えるリソースを12パーセントも使用していたということです。


 前任者には憎しみしか覚えませんね。なんなんですか、あの男は。

 トキワ様の改良のおかげもあって、余裕ができ、銀河を改めて確認したところ、各所が本当に酷い有様でしたからね。

 それも私が就任してからのここ五年のことではなく、それ以前から崩壊していたという事実。

 前任者が仕事をしていなかったという証拠です。

 まったく、この次に会ったらどうしてくれましょう。


 ですがその前に、その馬鹿野郎の遺した負債をどうにかしなくてはなりません。

 いくつかの星系が完全に崩壊しているとか異常ですよ? 飛び散った惑星の破片による被害とか、遊星化して無軌道に加速している惑星とかどうするんですかこれ?


 って、私がどうにかしなくちゃいけないんですよ。ふざけんなクソが!


 おかげでまたしばらく不眠不休になりそうです。

 まぁ、終わりのない仕事ではないことが救いでしょうか。


 ああ、本当にトキワ様には感謝しきれませんね。キッカさんは不本意でしょうが、引き合わせてくれたキッカさんにも感謝の気持ちでいっぱいです。

 なにか困っていたら、優先して手助けしてあげましょう。


 さて、いつまでも苦虫を噛み潰したように顔を顰めていも仕方ありませんね。

 とりあえず炬燵にはいって、銀河の現状を整理し、救える可能性のある星系をチェックしていきましょう。というか、担当の管理者共はちゃんと仕事をしているのでしょうか? 恒星が破壊されるとか異常ですよ? なんで星系間戦争とかそこら中で起きているんですかね? 処理する魂の量が多すぎて、魂の連環がこのままだと滞ってしまいます。


 とりあえず無能な者の首を切って、まともな者を神格化して管理者にしましょう。まずは優秀な星系管理者をピックアップして、彼らに神格化しても問題ないまともな人材を探してもらうとしましょうか。


 ……あぁ、調べる星系の数がこんなにたくさん。あははは……。


「こんにちはー」


 この声は!


「やぁ、随分とさっぱりしたねぇ。あぁ、急に上がり込んでしまって申し訳ない」

「いえいえいえ、玄関も扉もありませんからね。それにトキワ様ならなにも問題ありませんよ。

 あと、ここはトキワ様の所を参考に、無用なモノを省けるだけ省きました。実に素晴らしいですね。まさかリソースが12パーセントも回復するとは思いませんでしたよ!」


 私がそういうと、トキワ様は呆気にとられたように目を瞬きました。


「12パーセント?」

「12パーセントですよ」

「ここの前任者は馬鹿なの?」

「死ねばいいのに」


 私とトキワ様は、暫し見つめあいました。

 ふふふ、ちょっと恥ずかしいですね。


「まぁ、その無能への報復はひとまず置くとして、例の召喚アイテムの解析が完了したよ。今日はその報告だ」


 トキワ様は炬燵にはいると、風呂敷包みを蜜柑の隣に置きました。


「あ、いっしょにお土産も入ってるから。揚げ餅と葛饅頭だよ」


 揚げ餅? 葛饅頭? なんでしょう? アムルロスの料理事情は良好とは云えませんからね。他の星の食べ物なんて調べる余裕なんてありませんでしたし。

 わ、なんですかこれ? 表面が透明ですよ。




「それじゃ、この召喚アイテムについての報告だ」


 お土産を堪能し、人心地つくとトキワ様は件の召喚アイテムを炬燵の上に置きました。

 球状に絡まった木の枝としか形容できない、得体の知れない物体。最初、木の枝の端を探してみましたが、見当たりませんでしたね。

 これの制作者は何を血迷ったんですかね? このセンスは理解したくありません。普通はこれが召喚アイテムだとは誰も思いやしませんよ。


「ありがとうございます。これの解析まで手が回りませんでしたので、助かりました」

「気にしなくてもいいよ。こっちも被害者だからね。あぁ、独断で向こうの時間軸(ルート)管理者に苦情をいれておいたよ。ついでに実行犯である惑星管理者には報復の第一弾を送りつけておいたよ。それなりに酷い目に遭ってるはずだ。アレは止めるのに結構苦労するだろうからね」


 なんだか不穏な感じがしますね。まぁ、元凶が酷い目に遭っているのなら願ったりですが。


「なにをしたんですか?」

「いや、地球ではね『俺たちで新しい都市伝説を作ろうぜ』なんてものがあるんだよ」

「『都市伝説』、ですか?」


 私は首を傾げた。『都市伝説』とはなんでしょう?


「簡単にいうと、根拠のない噂話が膨らんで、怪談の類になったもの……っていえばいいかな。まぁ、それを創作しようというものだよ。そこで創られたモノをふたつほど実現して、送りつけといた」

「……それはどういったものなのでしょう?」


 好奇心から聞いてみました。


「うん? 目を逸らすと首をへし折りに来る奴と、一定範囲を一度でも視界に入れると以後延々と(はらわた)を抜きに来る奴。管理者である以上は死ぬことができないから、きっと大変だろうね。しかも追放することもできないようにしといたから、頑張って破壊するか、適当な星に逃げるしかないね」

「あ、破壊はできるんですね」

「うん。銀河運営のリソースの七割くらい使えばね。まぁ、惑星管理者の彼には無理だね。そんなエネルギーなんて、どうやっても捻出できないからね、上に泣きつきでもしない限り」


 容赦ありませんね。私もなにか面白そうな報復を考えておきましょう。


「さて、それじゃこいつの説明をするよ」


 そういってトキワ様が炬燵の上のそれを、指先でぐりぐりと転がします。

 トキワ様の説明した内容は以下の通り。


根源(ルーツ)の同じ別時間軸(ルート)並行世界(パラレルワールド)を観測。

・並行世界より、使用者と酷似する知的生物を検索。

・その検索された生物のなかより、()()と認定したものを召喚する。


 ……え?


「なかなかえげつないよね。悪意しか感じないよ。どうも厄介な魂を送り付けて、世界を潰す方策のひとつらしいね。これまでにもいくつかやっているみたいだよ。まぁ、かなり地道な方法だけれどね。とはいえ、世界の分身とも云えるアレを暴走させようとか、ロクなもんじゃないね。

 どうも新時間軸の上位管理者、銀河管理者か銀河群管理者あたりになることを目論でいたみたいだ。まぁ、こんなことをする輩を、根源(ルーツ)管理者が選ぶわけないだろうに。やる気のある有能な馬鹿はこれだから始末に悪い」

「あの、ちょっと待ってください」


 私は慌てました。どうしても確認しなくては。


「どうしたんだい? アレカンドラさん」

「その、これは危険な存在を選んで召喚するもの、ということですか?」

「そうだね」


 トキワ様があっさり肯定します。

 では、そうすると――


「あの、キッカさんはとても善良な方に見えるのですが?」

「あぁ、深山さんは悪い人ではないよ。でも、だからといって危険人物ではない、というわけでもないんだ」


 え、どういうことです?


「ヤンデレってわかる?」


 ……はい?


 首を傾げていると、トキワ様が、その『ヤンデレ』とやらについて説明してくださいました。


 ……。

 ……。

 ……。


 えーと、つまり――


 『精神を病むほどに人を想い、愛するあまり、異常な執着心を持ち、対象に近づく者をあらゆる方法、手段を以てして排除、場合によっては殺害し、さらにはその対象が自分の理想と外れるような行動をした場合、監禁、拷問によって修正しようとし、それができなければ殺害。更には殺害した対象を食し、ひとつになるということで究極の幸福感を得るような人物』


 というようなことでよいのでしょうか?


「まぁ、間違ってはいないかな。それはかなり強烈だけど。実際にあった事件だと『阿部定事件』とかそうなのかなぁ。……いや、ちょっと、大分違うか。

 まぁ、そこまでは酷くないけど、深山さんは二年前までは精神的にかなり危険だったんだよ」


 トキワ様はそういうと、キッカさんがこれまでどう生きてきたのかを教えてくださいました。




・二歳:シングルマザーであった母親が結婚。三枝菊花から深山菊花となる。父と八歳年上の兄ができる。


・五歳:誘拐事件。兄が発見したことで未遂に終わる。だが犯人が逃走の時間稼ぎをするために菊花を車道に投げ飛ばす。結果、車に撥ねられた菊花は生死を彷徨う重症を負うも回復。右足に障害を負う。

 右足の障害により、小中学生時はいじめにあう。

 母親はこの事件に無関心。むしろ菊花が死ななかったことを嘆く。

 兄は助けられなかったことに負い目を持ち、以後、菊花に対し過保護となる。

 菊花はこの事件以降、人間不信になる。父と兄のみが例外となる。


・六歳:両親離婚。菊花は母親を拒否し深山家へ。

 慰謝料云々で母親はごねたが、父が母親の不貞の証拠を山ほど抱えていたので、なんの問題もなく離婚。


・十二歳:父が病死。この時の母の態度により、母に対する嫌悪が憎悪へと変化。また、父を失ったことにより兄への依存が増す。

 以降約三年間、完全なヤンデレ状態に。とはいえ兄を絶対視していたため、兄に危害を加えることは一切無し。


・十五歳:高校で初めてできた友人が菊花にあることをした結果、ヤンデレから脱却する。友人が菊花の精神状態を不安に思い、『人の振り見て我が振り直せ』となるようなことをした結果である。友人、GJ(グッジョブ)! 尚、この友人は色々な意味で剛の者である。でなければ人間不信にしてヤンデレ状態の菊花の友人になどなれない。

 とはいえ、抜身の刃物が鞘に納まった。というようなものなので、菊花の本質部分はなにも変わっていはいない。ただ安全装置がついただけである。


・十七歳:物取りの常習犯である主婦により殺害される。




「……どうしました?」

「いえ、なんというか、キッカさんは幸せだったんでしょうか?」

「幸せだったとは思うよ。ただ、ロクでもないことが異常に強烈だけれど。周囲が酷かったせいで、ますます兄にベッタリ依存したって感じかな。

 だから僕にプロポーズなんてことしでかしたんだろうけど」


 あぁ、なるほど。完全にひとりになって、縋る者がなくなってしまったから。


「まぁ、無意識だろうとは思うけれどね。自分でいっておきながら、自分でびっくりしてたからね。

 で、深山さんには深山さんなりの正義感というか、倫理観があるみたいでね。それを外れた者に対しては多分容赦ないよ。それこそ殺すことも躊躇しないと思う。

 なにしろ、お兄さんとお父さん以外は人として認識してないからね。あぁいや、高校の友人の、羽賀さんも例外か」


 な、なんだか不穏な感じがしますね。どういうことでしょう?


「心配しなくても大丈夫だと思うよ。深山さんは頭が良いし、自分が人としてどうあるべきかは理解してる。それに、なんのかんので優しいからね。人の事なんか一切信用していないくせに、何故だかあの子は人助けをするんだよ」


 あぁ、そういえばメイドの子を助けていましたね。

 その一方で、あのクズ共には死に至る魔法を躊躇なく使ってましたが。

 なるほど、こういうことですか。


「まぁ神様にするなら、ぴったりの性格ともいえるけどね。賞罰がはっきりしてるから」

「そうですね。私個人としては、すごく好ましく思ってますからね。

 とはいえこのままひとりにしておくのはちょっと不安ですね。手を打っておきましょう」


 トキワ様が微かに眉を顰めました。

 トキワ様もキッカさんが心配なんですね。


「なにをするんだい?」

「いえ、アムルロスに置いてある私の代行神の一柱が彼女を非常に気に入っていましてね。丁度いいので、分霊でもつくらせてキッカさんのところに送ろうかと」

「その子は大丈夫なのかい?」


 トキワ様が訊きます。


「問題ないと思いますよ。まぁ、あの子も司っているものの特性上、若干問題児ではあるのですが、キッカさんとは一番合う性格でしょうからね」

「いや、余計に心配なんだけど? 却って悪い方に振れたりしないかい?」


 ふむ、悪い方ですか。……どう考えてもたかが知れてますね。


「問題ないですよ」

「そ、そうかい。まぁ、信じるよ。

 それじゃ、これをお願いするよ」


 そういってトキワ様が淡く金色の光を発する宝珠を取り出しました。


「深山さんのアップデート宝珠。彼女へのインストールをお願いするよ」

「また随分早いアップデートですね」

「いや、慌ててやった仕事だからね。これは後回しにした部分なんだよ。いまの深山さんはある意味未完成品。まぁ、これいれるとちょっとチートじみるけど」


 私は眉を顰めました。


「キッカさん、怒りませんか?」

「大丈夫だよ。使う使わないは自分で選択できるものだから。使わないなら使わないで、その手の職人に依頼するだろうし」


 あぁ、作業的なことですか。というと、とりあえず機能としてつけておくようなものなんですね。


「わかりました。それじゃ、今晩あたりにでもインストールしておきますね」


 キッカさんの就寝中にやっておきましょう。


「せっかくですから、彼女の様子を見てみますか?」

「あぁ、そうだね。なんのかんので結構無茶をしたからね」


 あぁ、確かに。キッカさんの体、言音魔法に耐えられるように、かなり頑丈に拵えましたからねぇ。

 炬燵の上にアムルロスの様子を映し出す画面を出現させます。


 キッカさんがいるのは、北方大陸大森林帯の外縁部ですね。

 彼女の座標をみつけ、そこを映し出します。


 映し出されたキッカさんは、丁度しゃがみこんで、木の棒でスライムを(つつ)いているところでした。


 彼女はいったいなにをしているのでしょう?


 ふふ、彼女を見ていると、自然と笑みがこぼれますね。

 いまやキッカさんは私の癒しです。

 彼女で癒されたら、銀河の修復を頑張るとしましょう。


次回からやっとキッカの方に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついでにscp-910も送ってやりたいな...
[一言] 人間の想像力が神を恐怖に至らしめるとは、、、 いやしかし、、、それなら鈍(緋)色の鳥とかの方が地獄そう
[良い点] 何と!ヤンデレだったかい!
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