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189 ネズミですか?


 本日は十三月の十三日ですよ。もう年の瀬です。


 陽気はちょっと寒いね。日本の冬よりはほんのり温かい程度かな。


 昨日、親子丼をつくっていて、中華丼のことを思い出した訳だけれど、そこで思い出した料理があったので、それを作ることにしたよ。

 一応、揚げ物になるので、お昼はこれ、夕飯はカツ丼にしようと思うよ。


 ということで、用意しましたのは中華麺。多分、これで大丈夫だと思う。日本にいた時には、焼きそばの麺で作っていたからね。

 こいつを素揚げして、そこに中華丼に使った餡を掛ければ、皿うどんの出来上がりですよ。


 皿うどん、好きなんだよね。まぁ、毎日食べたい、とまでは思わないけれど、たまに猛烈に食べたくなったりする。


 パリパリに揚がった麺の歯ごたえもいいけれど、餡が掛かって、少しばかりしんなりした麺も美味しい。


 せっかくなので、フィルマンさんにも教えに行こうと思うよ。またレシピ販売案件になりそうだけれど。お米の生産量の関係で、中華丼のレシピに関しては売らなかったからね。でも中華麺ならどうにかなるからね。


 トロナ鉱石がどのくらい回収できているのかはしらないけれど。


 ということで、イリアルテ家にお邪魔して、厨房で料理人の皆さんとあれこれやっていたところ、王弟殿下が見えられました。


 あ、あれ? なんでイリアルテ家に? いや、イネス様の旦那様でもあるのだから、いるのはおかしくない……のかな?


「あぁ、キッカ殿。よかった。明日にでも会いに行こうと思っていたんだ」


 私を見つけるなり、安心したように微笑むクリストバル王弟殿下。


「え、えーと、私にどういったご用でしょう?」

「失敗したんだ……」


 はい?


 私は首を傾いだ。


 きちんと話を聞いたところ、サツマイモの栽培に失敗したそうな。


 あれ? サツマイモって、そんなに栽培が難しい作物じゃないよね? ……あ、もしかして――


 思い当たることがひとつ。私が始めて庭の畑でサツマイモを育てた時にしくじったのと、同じことになったんじゃ。


「具体的に、どんな感じになったんです?」

「葉や蔓が良く茂って、うまく育っていると思っていたんだよ。で、いざ収穫したところ――」

「芋が育っていなかったと」

「わかるのかい?」


 クリストバル様が目を瞬いた。


 うん。私のやらかした失敗と一緒だよ。サツマイモって、豊かな土地だと育ちすぎて芋が太らないんだよね。

 さすが救荒作物のひとつというべきか。サツマイモが育つ条件って、いまひとつ土地が肥えていないっていうのがあるんだよ。


 土地が肥沃だと、地上の葉や蔓が育ちすぎて芋が太らないんだ。でも土地が痩せていると、芋の部分が栄養分を作り出し、貯蔵して太る。これで葉や蔓をなんとか伸ばす、という作物だ。確か、そんな感じだったはず。

 失敗した後、原因を調べたからね。


 なので、そこそこ痩せた土地で育てるように助言したよ。ついでに、連作にも強いとも。そういったらクリストバル様、驚いて目を丸くしていたけれど。


 そういや、家のサツマイモ、良く育ってるな。あのチートな土を使っているわけだけれど、あの土、栄養がたっぷりってわけでもないのか。


「よかった。途方に暮れていたんだよ。まさか土が良いことが原因だとは。さすがにそんなことは思いつかなかったよ」

「私も初めて育てた時は失敗したんですよねぇ」


 厨房の隅のテーブルで、しみじみと話す。


 向こうではフィルマンさんが、麺の素揚げをしている。さっそく皿うどんを作っているようだ。多分、私が作るのよりずっと美味しいハズだ。出来上がったら、味見させてもらえないかな?


「そうだ、キッカ殿、もうひとつ相談に乗ってもらいたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「ネズミの対処法で、効果的なものを知らないだろうか?」

「ネズミですか?」


 えーとそれは隠語的な意味合いなのかな? 泥棒とか密偵的な。


「いや、違うよ。言葉通りのネズミだ。農研の穀物庫が荒らされてね、困っているんだよ」

「猫を飼っていれば、大抵は解決すると思いますけれど。ネズミを狩ることはもとより、猫がいるってだけで、ネズミは近寄りませんし」

「それが、数が尋常ではないほどに増えつつあってね。駆除が追いつかないんだよ。このまま増えられると手に負えなくなりそうな勢いなんだ」


 ……なんだか、昔見たネズミの大発生の映像を思い出すんだけれど。それこそ大地を埋め尽くす勢いで増えたネズミの群れの映像を。

 あれ、どこだっけ? アメリカかオーストラリアだった気がする。


「猫にネズミ捕りと仕掛けているが、とてもじゃなくて間に合わないんだ」

「毒餌とかは?」

「下手に置けないし、変な場所に入り込んで死なれても困るからね」


 あー、それは確かに。疫病の元になりそうだ。


「ネズミ捕りはどういったものを?」

「金属製の箱型のものだよ。餌に食いつくと出入り口が閉まるヤツだ」

「あぁ、一匹ずつ捕まえる奴ですね。それじゃたしかに、大量発生したネズミ駆除には間に合いませんね」


 うーん。毒餌が一番楽なんだけれど、錬金薬の毒を染み込ませたらイケるかな? 確か、麻痺毒のレシピに【幸運の根】を加えれば普通に毒薬になったよね。麻痺させたうえ、生命力を蝕むというえげつない毒。待てよ、普通の【幸運の根】じゃなくて【紅い幸運の根】を使うと、たしか威力三倍。


 やっぱり紅いと三倍なんだね!


 いや、アホな事を考えていないで。この毒なら、逃がすことなくその場で仕留められそう。あぁ、でも結構な威力が三倍だから、麻痺させる必要ないか。

 でもこれ、危険物そのものだよね。人だって殺せると思うし。


「ネズミって、大きさはどのくらいですか?」

「大きさはたいしたことはないんだ。このくらいのサイズだ、尻尾を除いて」


 クリストバル様が手を広げて、親指の先から小指の先を指し示した。


 あぁ、クマネズミサイズか。そういえば、私はネズミとは遭遇していないな。ダンジョンにもいなかったし。

 ……さすがに洒落にならないレベルで増える動物は生み出していないのかな?

 いや、その割には兎はいたっけ。どうなっているんだろ?


 それはさておいて、そのサイズのネズミなら、人間より生命力が強いと云うこともないだろう。


 作っちゃおうか、毒餌。


「一応、錬金薬の毒ならありますけど。健康に問題のない人、老人や子供でなければ即死しない程度に抑えて作れますよ」

「えぇ……」


 あぁ、ドン引きされた。


「さすがにそれはねぇ。猫もいるし」

「ネズミ用の餌を猫が食べますかね?」

「興味本位で舐めたりし兼ねないだろう? 猫だし」


 あぁ、なるほど。


「確かに。猫ですしねぇ」


 となると、罠か。


 あ、そうだ。あの罠があったよ。


 足の悪かった私は、当たり前だけれどインドアな人間だ。

 自宅でやることといえば、家事と庭の菜園いじり。後はゲームとか、ネットでの動画サイト巡りくらいだ。あぁ、でも掃除はお兄ちゃん任せだよ。家の中をあちこちテキパキ動くのは無理だったからね。


 で、動画でなんとなーく最後まで見てしまうのがレストア系の動画だ。錆びて使えなくなっているライターや軍用の単眼鏡を修復するものだ。それらのどれだったかは忘れたけれど、関連動画として紐づけられていたのが、四百年前のネズミ捕りの動画。


 でも私が作ろうと思っているのは、その四百年前のモノではなく、そこから更に紐づけされていた別のネズミ捕りだ。


 水没型とでもいえばいいのかな。水の中にネズミを落として溺死させる罠だよ。単純な構造だから、私でもさっくり作れそうだしね。


 溺死させると書くとえげつなく思えるかもしれないけれど、害獣駆除の罠であるなら結局は殺しちゃうわけだしね。


「多数のネズミを捕れる罠がありますので、ちょっと作ってみますね」

「そんな罠があるのかい?」

「毒餌の方が楽だと思うんですけれどねぇ。どの程度捕れるかはわかりませんけれど、作ってはみますね。ちょっと大きめに作ってみます」


 そう答え、私はイリアルテ家を後にした。


 それじゃ、材料を集めないとね。




「こんにちはー」


 ということで、やってきましたゼッペル工房。


「おぅ! 嬢ちゃん、何用だい?」

「はい、今日は――って、おじさんじゃない!? あれ? ジラルモさん?」


 私は目を瞬いた。私を出迎えたのは、ゼッペルさんではなく、具足師のジラルモさん。白髪を角刈りにし、ドワーフにしては珍しく、髭を綺麗に短く刈り込んでいる。


「よぉ、嬢ちゃん、今日はどうした?」


 あ、おじさんいた。


「こんにちは。ちょっと用立てて欲しいものがあるんだよ。それで、ジラルモさんはなんでサンレアンに?」

「いや、ちょっと待て。嬢ちゃん、なんで俺を知ってるんだ?」

「前に会ったじゃない」


 そういうとジラルモさんは眉根を寄せて考え込み始めた。


「すまん、分からん。いつ会った?」

「夏に王都で会いましたよ。競技場で。私がジラルモさん作の鎧を――」

「アレの中にいたのが嬢ちゃんか!」


 いや、アレって。というか、気が付いて貰ったみたいだ。


「あはは。はい、あの鎧の中身ですよ」

「お、おう。てっきり俺は同じドワーフかと思っていたんだが、こんな可愛らしい嬢ちゃんだとは……」

「素顔を見たらもっと驚くぞ」

「いや、おじさん。そういうのいいから」


 なんでドヤ顔でいうのさ。そんな要素何処にもないよね?


 ちなみに、今日の恰好は見習ローブに仮面ですよ。


「それで、ジラルモさんはなんで?」

「おぉ、魔法を覚えに来たんだ。憶えていざ試そうと思ったら、魔石が必要って云うじゃないか。だから昨日まで【アリリオ】で魔石を取ってたんだ」


 魔物狩りしてたのか。随分アグレッシブだな、ジラルモさん。


「いやぁ、この付術っていうの、面白いな。なにより、鎧の耐久度が上がるのがいい。ただ、付術するといじれなくなるのが難点だな」


 ジラルモさんが肩を竦める。


 あぁ、そうか、魔法の武具を鍛えられないのか。これは……どうしたものかな。

 鍛冶の技量という点では、私以上であるはずだ。あぁ、いや、金属の加工ができるか否かなのかな?

 これはいろいろと問題かな? ちょっと神様方と相談しよう。


「それで、今日はどんな依頼だ?」

「依頼と云うか、大きいバケツってないかな。もしくは丈の高い桶」

「デカいバケツって、なんに使うんだ、そんなもん」

「ネズミ捕りを作るんだよ」


 おじさんとゼッペルさんが目を見開いて私をみつめた。


「ネズミ捕りだ!?」


 なんだろう。なに云ってんだお前、って雰囲気がありありとするんだけれど?

 なんでよ!


「そうそうネズミなんてでないだろ? 下水道にいる掃除屋スライムが喰っちまうから」

「いや、私の家に仕掛けるんじゃないよ。農研のほうで使うんだよ。なんだかネズミが大量に発生しているんだって」


 猫や既存の罠だと間に合わない状態だと説明する。


「農研の方か。そいつはヤベェな」

「よし、俺にも手伝わせろ!」

「え、なに、また暇なの?」

「暇だ。ベルントとしか働いてねぇな」


 また家具の依頼しかないのか……。というか、仕事が早すぎるだけで、仕事量は普通の大工よりも多いよね。


「農研に被害がでるのは見過ごせねぇ。今は嬢ちゃんの持ってきた料理に使われてる食材が試験栽培中なんだろ? いまんところ、嬢ちゃんの差し入れでしか食えないからな。あの芋を普段から食えるようになって欲しいからな」


 ゼッペル工房に、以前、フライドポテトを差し入れたことがあったんだよ。一口食べた途端に、酒盛りが始まったんだよね。お酒大好きなドワーフさんたちは、つまみも妥協しないからね。

 バレ芋は揚げ物に合わないからなぁ。


「つーわけだ。なにを準備すればいいんだ?」


 うん。おじさん、やる気がガチだね。まぁ、手伝ってもらったほうが早くできるか。




 そんなわけで、ゼッペル工房にてネズミ捕りを作ることとなったのです。



感想、誤字報告ありがとうございます。

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