表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/363

188 私が昔観たものですよ


 おはようございます。キッカです。


 私は人間を辞めるぞー!


 なんてことにならないように、魔力増量訓練を日々の日課から排除しました。

 いやぁ、そうしたら夜、暇になりましてね。


 とりあえず、必要な部分しか見てこなかった【キッカの奥義書】をいろいろと検証しましたよ。

 いまさらながらなんだけれどね。


 もとよりチートそのものだったわけだけれど、いろいろと確認していたら更にひどいことになったよ。


 この奥義書、私の記憶ともリンクして情報が記載されている。当然だけれども、聞いただけで詳細を一切知らない知識もあるのだけれど、それらも補完されて記されている。


 この時点で大概なんだよね。例をあげると、スマホの情報もその構造から記載されていたりする。

 まぁ、こっちの世界だと、まるっきり役に立たない情報ではあるけれどね。オーバーテクノロジー過ぎて。


 まぁ、こんな感じでチートなんだけれど、娯楽的な意味で使える物を発見したんだよ。


 簡単にいうと、音楽メディアと映像メディア。奥義書で映画が見れるよ!


 ……私の知識的なものから来ているわけだから、増えることはないけれど、それでも結構な数があるよ。

 そしてそれに気が付いた私にルナ姉様とララー姉様が気が付いて、お二方とも、いま並んで映画を見ているよ。


 よりにもよって、あの井戸から這い出して来るホラーな映画。


 変な影響がでなければいいんだけれど。


 ひとまず、お二方はそのまま放置して、私は鍛冶場でメタルスライムとオリハルコンスライムの素材を試していましたよ。

 とりあえず、刻削骨の鎧(玉ねぎ鎧版)を作ってみますよ。軽量化できればいいんだけれど。


 材料を混ぜ合わせてスムージーみたいにしたところで、本日の作業は完了。材料を混ぜ合わせただけなんだけれどね。一日放置して馴染ませないと次の段階にはいけないんだよ。

 馴染んだら、型に入れて乾燥、焼成となるから、出来上がるのは三、四日後だね。


 時刻もお昼近くなったので、母屋に戻ったところ人数が増えてた。


 いつものようにリスリお嬢様とリリアナさんが来ていたわけだけれど、みんなで仲良く映画を見ているのはどういう状況なんですかね?


 リスリお嬢様とリリアナさんは抱き合って震えてるし。でもしっかり映画は見ているみたいだね。


 これ、あとで根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ。というか、ルナ姉様とララー姉様が見せているわけだから、さほど問題がないのか。


 ……まさかと思うけれど、ナルキジャ様の神器ですから、で済ませる気なんじゃ。


 まぁ、いま考えてもしかたないか。お昼ご飯をつくろう。


 本日のメニューは親子丼ですよ。


 あの連れて来た魔闘鶏だけれど、要らない玉子を分けてと云ってみたところ、鶏舎の入り口付近にまとめて置く……産む? うん、まとめてくれるようになったよ。おかげで卵の回収が楽ちんです。そして報酬は白菜。なんであの子たちあそこまで白菜に執着するのか。麻薬的な成分とかはいっていないハズなんだけれど。


 卵のつぎは鶏肉。こっちはダンジョンで狩りまくったのが大量にあるからね。問題なのは足なんだよね。調理の仕方を知らないんだよ。羽根は矢羽根にすればいいんだけれど。

 ……そういえば、熱した鉄板の上に鶏を置いて、生きたまま足を焼いて、その足を切り落として食べるなんていうのを聞いたことがあるな。どこの国だっけ?


 とりあえず、炒めるか煮込めばいいかな? まぁ、今回は使わないから置いておこう。


 お肉はもも肉を用意してと。


 さて、親子丼に使うお野菜と云えば、普通は玉ねぎだろう。

 でも私は玉ねぎは使わない。少なくとも今日は。お兄ちゃんが作っていたレシピで作っていきますよ。


 材料は、卵、鶏モモ肉、リーキ、ほうれん草。後は出汁と醤油、酒。本当はリーキじゃなくて長ネギなんだけれど、似たようなものだし、問題ないだろう。

 あ、お砂糖は使わないよ。基本的に深山家では砂糖、みりんの類は使わなかったからね。


 さぁ、調理していきましょう。


 卵を溶いておいてと。あと出汁も準備して、出汁に醤油とお酒を加えてと。みりん替わりにお酒なんだよね、深山家は。


 それじゃ食材を刻んでー、軽くフライパンに油を引いてー、もも肉とリーキを炒めていきますよ。


 いい塩梅に火が通ったところで、さっきの合わせた出汁を投入。ほうれん草も加えて、軽く煮詰めたところで溶き卵を三分の二加えて、蓋をして火を通す。


 ちなみに、ほうれん草を使っているのは、鶏肉にはほうれん草だからだ。


 ……いや、これじゃ何云ってんだかわかんないね。


 鶏肉にはほうれん草、豚肉には小松菜がベストである。というのが、深山家での鉄則みたいなものだったんだよ。

 基本的に炒め物での話であって、煮物とかではその限りではないんだけれどね。

 鶏肉のほうれん草巻きとか美味しいしね。鶏肉で牛蒡をまいた料理があるでしょ。あれの牛蒡をほうれん草に変えた奴だよ。

 作り方は簡単で、鶏もも肉を叩いて巻きやすいようにして、ほうれん草を巻く。あ、塩胡椒をするのを忘れないように。お好みで生姜とか蜂蜜を使うのもアリだよ。

 これをラップでぴっちぴちに包む。いわゆるキャンディ包みというやつが一番楽。そうしたら今度はそれをアルミホイルで更に巻く。


 出来上がったものを熱湯で茹でるだけ。熱湯に放り込んで約二十分。そのあとは火からおろして自然に冷めるまで放置。十分に冷めたら冷蔵庫へ。きっちり冷えたら出来上がり。実に簡単。ほうれん草を切るくらいでしか包丁も使わないしね。


 朝に作って、昼に冷蔵庫に入れて、夜に食べる料理、って感じだ。


 簡単なんだけれど、この調理法はこっちだと使えないからね。ラップもホイルもないから。なにかで代替できないかなぁ……。


 と、いまは親子丼だよ。


 程よく卵が固まったから、残りの溶き卵も加えて、蓋をして火からおろしましょ。余熱で火を通すよ。


 その間にご飯を丼によそってと。


 ……これ、正確には丼じゃなくてミルクボウルだけどね。だから蓋がないんだよね。

 今度、丼を自作しよう。伊達にじっちゃんから陶芸の手ほどきは受けてないぜ。

 釉薬を作らないと行けないのがちょっと面倒だけど、何とかなるでしょ。籾殻もあるしね。


 なんか、前に一度云ってた気がするな。うん、今度こそやろう。我が家の主食がお米にシフトしたからね。である以上、お茶碗と丼は必須ですよ。


 今朝炊いたご飯をインベントリからだしてと。それじゃ、ボウルのご飯をよそって、親子丼を完成させよう。


 複数人分を一気に作ったから、仕上がりはちょっと見栄えが悪いけれどね。ひとり分ずつ作れるフライパンもないしね。


 よし、出来上がり。


 ……まだ観てるのかな? 時間的に一本は観終わってるはず。ホラーの次はなにを観てるんだろ?


 テーブルに親子丼を並べ終えると、私は階段を登る。


 寝室でみんなして観てるんだよね。そういえば、車とかでてくるけれど、リスリお嬢様とリリアナさんにどう説明したんだろう?

 まさか私に丸投げとかしないよね?


「お昼、できましたよー」


 寝室に入ると、なんだかみんな微妙な顔で、私に視線を向けた。


 え、なに?


「え、えーと、お昼、できましたよ?」

「「「「……」」」」


 いや、なんでみんな無言何ですか?


「……なにを観ていたんです?」

「これねー」


 ルナ姉様が奥義書を指差す。奥義書の開かれたページには、巨大な生物に剣を突き刺す、痩せこけ、いまにも崩れ落ちそうなほどに弱った壮年の王の姿。周囲には騎士たちの姿も映っている。


 あぁ、これか。


 人々に仇成す竜をめぐる物語。王道中の王道の話だが、かなり皮肉めいた形で物語が進む奴だ。実のところ、私は結構好きな映画だったりする。

 ある意味、リアルで。


 竜を鎮めるため、王女をいけにえに出す。その王女を救うために、魔法使い見習いの少年が成り行きで竜に挑むことになる。主人公が剣士とかじゃないのがミソといえる。しかも魔法使い見習といっても、確か魔法を使えなかったはずだ。

 王女を一度は助け出すものの、王女は、自分が生贄にならなければならないのだと、竜に進んで喰われる。当然のことながら、竜はその後も暴れ、被害は増えていく。


 という展開。最終的に、主人公の魔法使い見習が槍で竜を殺す。そしてオチとして、竜の死体を王様が剣で突き刺し、近衛騎士が声高らかに叫ぶのだ。


 見よ! 我らが王が竜を討ち取った!


 台詞が違う気がする。でもこういった意味合いの事を宣言するのだ。


 これで王が英雄となり、本当に竜を殺した者に対し、莫大な報奨金を払う必要もなくなるという事だ。復興費用にもお金を回せるし、王には栄誉が入る。


 ただこれ、リスリお嬢様的には確かにすっごい微妙な話だよね。リスリお嬢様。正しいことを正しく行うっていうのを、地でいってるお嬢様だし。


「こすからいと云うか、強かというか、なんとも評価をしにくい王様ですよね、この物語の王様は」

「主人公が自分が竜を殺したとか云いだしたら、どうなるのかしらねぇ?」

「主人公、殺されるんじゃないですかね」


 私は答えた。


 確か生贄はくじ引きで決めたはずだけど、王は王女を除いたんだよ。もっとも、変な正義感と自己犠牲に目覚めた王女が不正をして、すべてのくじ札を自分の名にしたんだけれど。


 この物語の王様は、すさまじく人間らしい王様に描かれているからね。臆病で、身勝手で、自分の為には周囲を犠牲にするという。


 リスリお嬢様は、どちらかというとこの物語の王女様みたいな性格だからね。まぁ、自己犠牲に目覚めることはないと思うけれど。どうにかして竜を出し抜いて、殺すため方法を真っ先に考えるだろうしね。


 で、映画よりですね――


「お昼、冷めちゃいますよ」

「それは戴けないわねー。早くみんなで食べましょー」


 ルナ姉様がすっくと立ち上がり、パンと手を叩いた。それを合図にしたように、皆がメインホールへと降りていく。


“ホラー映画の方の映像は見せていないから安心してねー”


 あぁ、良かった。




 親子丼、好評でしたよ。例の如くレシピの話になったけれど、今回はお断り。醤油が量産できていないからね。


 あぁ、それにしても、丼物はいつ振りだろう。次はカツ丼を作って、その次は牛丼にしよう。

 こないだ食べた中華丼? あれはお皿じゃないのさ!


 はっ……そうだ、TKGが作れるじゃないか! 今晩つくろうかな。さすがに生卵だから、リスリお嬢様たちには出せないしね。


 これからの食生活を考えると、ニヤニヤとした笑みが止められないよ。


「ところでお姉様、先ほどのアレはなんなのですか?」

「映画ですか?」

「えいが?」


 リスリお嬢様が首を傾げる。


「簡単にいうと、お芝居をそのまま記録したものですよ」

「お芝居……。あの恐ろしい竜もですか?」

「ふたりは驚いて抱き合っていたものねー」


 あぁ……まぁ、舞台だと張りぼてになるしねぇ。さすがにアニマトロニクスなんて、こっちじゃ実現できないだろうし。


「あれは私が昔観たものですよ」

「それを、ナルキジャ様の神器を介して視ることができたと?」

「そうですね。どうも奥義書は私の記憶にも繋がっているようです。なので、私が観たことがあるものであれば、観ることができるみたいです」


 あ、リスリお嬢様とリリアナさん顔色が変わった。

 これ、他のも観たいってことだろうな。こっちの文明レベルと同様の時代背景の映画って、どれだけ観たっけ?


 呪われた騎士と姫(?)の奴とか、あとは有名どころの指輪のとか……。他にも大丈夫そうなものはあるな。


「私のいたところでは、お芝居の他にも、こういった娯楽があったのですよ。そういえば、帝国のダンジョンからだと機械がみつかったりするのですよね? もしかしたら、映像を記録する魔道具なども見つかっているのかもしれませんよ」

「なるほど……ちょっと組合のほうに確認してみましょう。使用方法が不明で、死蔵状態になっている魔道具が大量にあったはずですから」


 へぇ、ちょっと興味があるな。鑑定盤があるんだから、それが何なのかはわかるはずだもの。

 ただ、使い方……この場合は操作方法? それがわからないってことか。

 そういえば、鑑定盤、ダンジョンからそれなりに見つかるって話だったけれど、【バンビーナ】では見つからなかったな。


 【アリリオ】で出なかったら、なんとか買い付ける算段をつけようかな。私のインベントリ鑑定だと出てこない、あのフレーバーテキストとか気になるし。


 ……あれ、もしかしたら大木さんの仕業? 今度、聞いてみよう。


 そんなことを考えていたら、リスリお嬢様がとんでもないことを云いだした。


「使用法不明の魔道具を近いうちに持ってきます。お姉様、使い方を教えてください!」

「はいっ!?」


 ちょっと待って、さすがにそれは――


「いろいろと手続きがありますので、今日はこれで失礼します。リリアナ、行くわよ」


 止める間もなく、リスリお嬢様とリリアナさんは帰ってしまった。


「私としては、上手く云ってくれるといいわねぇ」

「……どういうことですか? ララー姉様」


 のほほんとした調子でお茶を飲んでいる女神様に、私は問うた。


「だって、そうすれば映画を撮れそうじゃない? そうなれば、新たな文化、娯楽が生まれるというものよぉ。お芝居とは違った演出を凝らせるのがいいわよねぇ」


 あぁ、そうだった。アンララー様、芸術の女神様だっけ。となれば、このこと自体は好ましいのか。


 ……もしも本当に映画が撮れるようになったら、リスリお嬢様が陣頭指揮を執って、一本、作りそうだ。


 まぁ、だとしても、それはずっと先のことだろう。


 とりあえず、私はこれまで食べられなかった日本食を、ひとつずつ堪能していこう。


 ふふふ、和食ではなく、日本食ですよ。いわゆる洋食とかをひっくるめた、日本人の口に合うように魔改造された数々の料理がありますからね。

 ナポリタンみたいに日本で創造されたものもあるし。これ、イタリア人が激怒してるなんて話を聞いたことがあるけれど、本当なのかな?


 さぁ、今晩はなにを作ろうかな。醤油を堪能したいし。


 そうだ、今夜はすき焼きにしよう。材料も揃っているしね。


 そして私は、お昼を食べたばかりだと云うのに、夕飯の献立に思いを馳せるのでした。




 それにしても、本当に私の体は燃費が悪いな。太らないのはいいけれど、簡単にやつれるのは困りものだよ。


感想、誤字報告ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 所謂ジャパニーズホラー物凄く怖いらしいですね 苦手なので観たことありませんが 魔法学校のとかなら世界観的に大丈夫そう? いや、案外突っ込みどころ満載な気が。 鶏肉にほうれん草、豚肉に小松菜…
[良い点] 順調にどくされていってますね。ポケモンとかゴジラを見せたら楽しそうです。 ニワトリさんも無事餌付けされてましたね。 [気になる点] Z戦士達の活躍を見たら国中の人達が訓練を張り切ったりしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ