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180 どれだけ趣味が悪いのさ


 やっと帰ってきましたよ。我がお(うち)。一ヵ月ぶりですよ。いや、一ヵ月も離れていた実感はないんだけれど。大半がダンジョンをジョギングしていたようなものだったし。


 とりあえずバイコーンの三頭に関しては、今夜はうちの敷地で自由にしてもらいましょう。畑を荒らさないように云い含めて、食事は白菜と玉菜とりんごでいいかな。鶏さんたちには敷地から出ないように云ってと。あと食事用に鶏さんたちにも白菜を出しておこう。


 白菜を見せると、文字通り目の色を変えるからね、この子たち。どれだけ白菜が好きなのさ。


 お、ボー、ただいま。あぁ、この子はビーね。仲良くするように。


 ……あぁ、ボーがビーに怖気づいている。これはあれか、格闘兎(ストライクヘア)の方がヴォルパーティンガーより格下ってことか。種族的に勝てない、ってなってるんだろうな。

 兎さんシリーズだと、なにが頂点なんだろう? ヴォーパルの名を冠したアレがいたりするのかしら? アレは、首刎ねをしてくるからね。危険度で云ったらヴォルパーティンガーよりも上ですよ。


 ボーのご飯は……あ、大丈夫だね。


 バイコーンはうちの敷地だと狭くて可哀想だね。今晩は我慢して貰って、厩で預かってもらおう。番は明日侯爵様のところに連れて行けばいいか。


 よし。


「ただいまー」

「おかえりー」


 ルナ姉様が出迎えてくれた。


 丁度いいや。


「ルナ姉様、お土産です」


 私はインベントリから【へしゃげたピンクスライム】を取りだし、ルナ姉様に渡した。


 ルナ姉様はそれを受け取るや――


 ばしっ!


 足元に叩きつけた。


 あぁ、女神様相手にも云ったのか、あの召喚器。


「き、キッカちゃん、私、なにか気に障るようなことをしたかしらー?」

「はい?」


 あれ? なんでこうなった?


 なんだかルナ姉様が涙目になっているんだけれど。

 原因は明らかにあれだよねぇ。


 私は【へしゃげたピンクスライム】を見つめた。


「え、えーと、ルナ姉様? それ、召喚器です」

「え?」

「召喚器」

「……」


 ルナ姉様はへしゃげスライムを無言で拾い上げると、改めて足元に叩きつけた。その上――


 だんっ!


 ルナ姉様がスライムを踏みつけた。


 あはは。なんだか既視感があるよ。


「なんで召喚器はこうも腹立たしいのかしらねー」


 ルナ姉様が何度も踏み付けると、やおらパチンと指を鳴らした。するとへしゃげスライムは白く輝き始め、唐突に消えた。


「お母様のところに送ったわー。きっとお母様も足元に叩きつけるでしょうねー」


 嫌がらせになってないかな? いや、いま何も考えずに渡した私が云えることじゃないけれどさ。やってることは一緒だし。


「ふむ。今度はヴォルパーティンガーを拾ってきたのねー」

「なんだか懐かれまして」


 私に抱えられているビーは、ルナ姉様に向かってパタパタと手を振っている。


 私はスリッパに履き替えると、メインホールへと入った。




 本日の夕飯は、ララー姉様特製の唐揚げ。素材は斑蛇。私が王都へ行く途中で狩ったやつだね。


 今度、鶏肉で正統派の唐揚げを作ろう。【バンビーナ】で数百羽ほど魔闘鶏を狩ったからね。鶏肉はいっぱいですよ。総重量で一トン近くあるよ。これでしばらくは鶏肉には困りませんよ。


 あ、肉で思い出した。バッファローの肉は出しておかないと。一週間くらい放置しないと美味しくならないんだったかな? 牛の肉って。熟成は必要だからね。食事が終わったら、一頭分を冷蔵庫にいれて放置して置こう。


 一時間と掛からず、山盛りになっていた唐揚げは跡形もなくなくなった。野菜スープを飲み、ほっと一息。

 と思ったら、追加の唐揚げが。どれだけ揚げたんですか、ララー姉様。


「それでキッカちゃん、あの変なのはどこで拾ってきたのかしらー?」

「変なのってなにかしらぁ?」

「召喚器よー。キッカちゃんが見つけて来てくれたわー」

「それはどこにあるのかしらぁ」

「もう、お母様に送ったわよー。あまりにも腹立たしかったからねー」

「え?」


 お、おぉ? ララー姉様が真顔だ。あ、こっち見た。


「えぇと、なんというか、偉そうに云うんですよ。『力が欲しいか?』って」


 そういうとララー姉様は、昆布茶を飲んでいるルナ姉様を再び見つめた。


「私も云われたわー。ふふ……まさか道具如きに見下されるとは思わなかったわねー」

「ルナ姉様の反応が私と全く同じでしたね。私もとりあえず足元に叩きつけましたから」

「と、とりあえずロクでもないものだったと云うのは分かったわぁ」

「アレカンドラ様が癇癪を起していなければいいんですけれどね」

「え?」


 ララー姉様がルナ姉様を見つめる。


 あれ? 


 ……ルナ姉様、なぜそっぽを向いているんですか?


 まぁ、いいか。それはさておいて、召喚器に関して思うところ云ってみよう。要は、召喚器の放り込まれた場所が各ダンジョンじゃないか、ってことなんだけれど。


「「ダンジョンの中?」」


 云ってみたところ、声を揃えて反唱された。


「そうです。今回のへしゃげスライムで思ったんですけれど、召喚器はダンジョンに放り込まれたんじゃないでしょうか。まぁ、人に使わせるという目的がある以上、未確認ダンジョンにも放り込まれているのかどうかは不明ですけれど。

 元凶はアムルロスを観測した上でやらかしてるわけですし」


 多分、私を召喚したあの【宝珠】は、【メルキオッレ】から見つかったものだと思うんだよね。でもって、クラリスを召喚した【大腿骨】は、帝国のダンジョンだというのがわかってる。あと最初に奉納された【捻じくれた木の球】も帝国だ。そして今回の【へしゃげスライム】が【バンビーナ】。


「可能性は高い……というか、多分それは正解ねぇ」

「そうなんですか?」

「ノルニバーラのところにひとつ奉納されたのよー。出どころは【ボフミル】ねー」

「あのアメンボみたいな細い足が沢山生えた目玉は気持ち悪かったわねぇ」

「あれも持って使うのかしらねー? 足が凄い邪魔に思えるんだけれどー」

「手に持つと足をすぼめてたわよぉ。シルエット的には、カットしたダイヤモンドみたいな形になってたわねぇ」

「うわぁ……」


 げ、ゲジを思い出したんだけれど! そういえば、お兄ちゃんが殺虫剤を掛けたら、節ごとにブチブチと千切れながら――って、思いだしたら寒気が! 鳥肌が!

 なんであれはあんなトラウマを刻みつけるような死に方をしたのよ!


「適当に放置して置くと、カサカサ動くのよねー」

「気が付くとなぜか隅っこにいるのよねぇ」


 気持ち悪っ! 思わず想像しちゃったよ。なにそれ。どれだけ趣味が悪いのさ。というか、そういう状況があったってことよね?


「そ、そういえば、元凶ってどうなったんですか? 見つけ出すとか云っていませんでしたっけ?」


 不意に思い出し、私は訊ねた。


「あらぁ、云ってなかったかしらぁ? 今もお仕置きの真っ最中だと思うわねぇ」

「そうよー。八つ裂きにされたり首をへし折られたりしているわねー。ありがたいことに、管理者は死ねないから、治る側から楽しいことになっているわねー」

「トキワ様は本当に容赦ないわねぇ」


 常盤お兄さんの仕業ですか。なにをどうやったんだろ? 多分、直接手を下しているわけじゃないだろうし。そんなの面倒だし。

 なんというか、全自動リスキルでもやらかしてそうな気がする。


「それだと、召喚器が幾つ放り込まれたのかわかりませんね?」

「人に使わせるのが目的だから、人の手に渡る場所にあるのは確かなのよねぇ」

「それに加えて、野心ある者に持たせるというのが条件ねー。そうじゃないと、使われずに終わるものー」


 うん。【捩じくれた木の球】がそのいい例だよね。まぁ、奉納された教会でも好奇心から使ってみよう、なんて話がでていたらしいし。

 それにしても、よく発見者は奉納なんてしたよね。


「となると、残っているのは【アリリオ】と【ダミアン】ねー。西の帝国に属していない遊牧民たちのところにもダンジョンがいくつかあるけれどー」

「破壊されたものが殆どねぇ」


 あぁ、大木さんが云ってた奴か。作った側から壊されたっていう。……というか、五千年以上前の代物だよね? 稼働しているダンジョンと違って、維持が一切されていないよね。よく残ってるな。


「さすがにそこには無いんじゃないかしらぁ」

「あれば使われているわねー。浅いダンジョンで、もう探索されつくしているし。今はコボルドの巣とかになっているしねー」


 コボルド、いるんだ。確かドワーフの不倶戴天の敵だよね。ドワーフはコボルドを見つけたら殺さずにいられないとかいうし。


 というか、意外とこの辺の話はマイナーだったりするのかな。ドワーフはエルフ嫌いって云う方がメジャーになってるっぽいし。

 まぁ、アムルロスはそういったことはないみたいだけれど。


 いや、そんなことよりもダンジョンの話だ。


「それじゃ、次は【アリリオ】に潜ってみますね」

「お願いねー」

「なんとかして、送り込まれた召喚器の数だけでも確認したいわねぇ」

「でも聞いた通りだと、私たちではアレを回収なんてできないわよー」

「お母様ならなんとか……」

「やめた方がいいわねー。こっちにアレが来たら止められないわよー」


 ……常盤お兄さん。いったいなにをやらかしたんですか?


「数の確認はなんとかするから、気が向いたらダンジョン探索をお願いねー」

「あ、はい。わかりました」


 答えつつ、二皿目の斑蛇の唐揚げを口に放り込む。食感的には鶏胸肉に近い感じかな。そこまではボソボソした感じはしないけれど。

 そうそう、私は唐揚げにはレモンを掛けない派ですよ。揚げたてのパリパリ感がべしょっとするのが嫌なので。


 え、誰かに掛けられたりしたらどうするのかって? ははは、前提から間違っていますよ。そもそもそういう人とは一緒に食事しませんとも。人嫌い、ここに極まれりな私ですからね。


「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさまぁ」

「キッカちゃんは、今後の予定はどうするのかしらー」

「ちょっと実験じみたことをやろうかと」


 メタルスライムの粘液で骨鎧を作ってみたいからね。

 強度をそのままに軽くできないかなと思っているんだよ。


「なので、ダンジョン探索は来年になってからです」

「分かったわー。それまでにはなんとか、召喚器の数の確認をしておくわねー」

「はい。お願いします」


 よし、二皿目も終わった。――え?


 ぱちんとララー姉様が指を鳴らす。すると再びお皿に山盛りの唐揚げが!


 ちょっ!?


「ララー姉様!?」

「ち、ちょっと揚げ過ぎちゃったかしらねぇ」

「キッカちゃんが帰って来るからって、張り切っちゃったのよー」


 確か、残っていたのは五メートル級の斑蛇だよね。え、もしかして全部使っちゃったの? いや、別に構わないんだけれどさ。


 ちょっと服の上から脇腹のあたりをさする。


 ……あぁ、うん。また痩せすぎてあばらが浮いてる。なら食べても大丈夫かな。まだ入るし。揚げ物を残すのもあれだしね。


 インベントリに入れとけ? 確かにそうだけど、気分的にそれはねぇ。




 ということで、私は三皿目の唐揚げに取り掛かったのです。



誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 飲み物の様に食べ続けないと終わらない唐揚げ。 好きな人とフードファイターな方々には好都合。 久しぶりだと食べたいけれど 実はそんなに食べられない。罠ですか?(ToT) 揚げ担当も食べられませ…
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