表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/363

145 大丈夫、ちゃんと血まみれた掌が見える


 おはようございます。本日は八月の二十四日。大仕事の日ですよ。


 さて、昨日は予選を観戦したわけですが、なんというか、こじんまりとした感じ?


 いや、殺し合いをするわけじゃないしね。ただ、参加者の戦い方が、


 攻撃:三。防御:七。


 みたいな感じ。


 みんな慎重と云うか及び腰と云うか。思い切りのいい戦い方をしていた人ももちろんいたけれど、そういう人は駆け引きの上手い人にあしらわれて負けてたね。


 なんていったらいいんだろう。ある意味、すごい玄人好みの試合がたくさん続いたって感じ。そのせいで、見ていて思わず感心して唸る試合は多かったけれど、盛り上がりに欠けてた感があったよ。


 近衛の隊長さん曰く、予選は毎年こんな感じなのだそうな。


 理由は怪我を避けるため。


 予選を通過しても、怪我の為に本選で全力をだせないとなると本末転倒もいいところなので、予選は防御に徹して、相手の隙をつくような戦い方をする選手がほとんどなのだそうな。


 なるほど。確かに。参加者の目的は優勝であって、予選通過じゃないからね。


 さて、フレディさんとアンヘルさん。ふたり共、予選を通過。ふたりは普段通りの戦い方をしていたのかな? 防御に重きをおいた戦い方はしていなかった。


 フレディさんは普段からああいう戦い方なのかどうかは知らないけれど、相手を盾で殴りつけて防御を壊してから、剣で殴ってたね。アンヘルさんは槍で相手の攻撃を払って、そのまま槍の柄……いや、なんていうんだ? 穂先の付いていない方。槍も石突でいいのかな? を、相手の鳩尾に付き込んで相手を降してた。


 観戦中、さすがに兜を被ったままだと見えにくいので、兜は脱いだよ。マリサさんが預かってくれたんだけれど、持った途端によろけてた。


 ……その兜、十数キロあるからね。兜としては冗談じゃなしに欠陥品だと思う。技能持ちの私じゃなきゃ、首を痛めるんじゃないかな。


 その様子を見ていたセレステ様とリスリお嬢様が、やたらと興味を示していたけれど。

 うん。やっぱり、重装鎧なら重さを無視して装備できる技能、なんてものは信じられなかった模様。確かに訳が分からないからね。原理もさっぱりだし。単なる思い込みで出来ることでもないしね。


 観戦中、私の盾の扱い方について色々と訊かれたよ。近衛隊長さん……白羊騎士団の団長さんのヘルマンさんが、非常に興味を持った模様。

 盾殴りをあそこまで扱い熟す者を見たのは初めてだそうな。


 ふふふ。盾の扱い、私の防御術は百レベルを突破していますからね。達人級ですよ。


 特に【突撃】ができるようになったら、一対一なら負け知らずになりますからね。まぁ、【突撃】するタイミングは見計らわないと、躱されちゃうんだけれど。決まれば確定で相手は転倒するから、簡単に止めがさせるという、ある意味、必殺技。欠点は、自分よりもずっと大きい相手には通用しないということ。私だと……二メートルちょい位までの人にしか通じないかな。魔物だとオーガまでは通用するだろうけれど、トロルには通用しないだろう。前者は最大約三メートル。後者は最大約七メートルだからね。四つ足の動物とかだと、どこまで通じるかわからないや。


 なんというか、ほぼ盾だけで完勝したことで、盾の扱い方についての常識が覆ったとかなんとか、もの凄い大袈裟なことも云われたよ。

 まぁ【いなし】なんかは失敗したら無防備になってほぼ確実に攻撃を喰らうから、やる人は少ないだろうしなぁ。失敗しても多少は威力を殺せるけれど、痛いものは痛いし、それに下手なところを斬られると、それが致命傷に成り兼ねないからね。


 こうしてみると、ゲームの世界だとキャラクターはシステムに過保護に守られているんだね。一撃くらった程度じゃ、そうそう致命傷にならないもの。


 そんなこんなで、ヘルマンさんの試合の解説と評価を聞きながら予選を観戦。


 予選はかなり大雑把と云うか、参加人数が多いことから変則的な形で行われた……んだと思う。まず、五、六人でのバトルロイヤル。勝ち抜けひとりが二次予選へ。


 二次予選では一対一。勝者が本選へと進む形だ。


 本選出場者は三十二名。だから……参加者は総勢で三五〇人くらいいたわけだね。


 これは、多いのかな。まぁ、トーナメントで本選出場者を決めるのには、一日でやるには多いね。舞台、ひとつしかないし。


 本選は明後日。楽しみだ。雨が降らないといいなぁ。


 さて、昨晩は雨がザーッと降ったけれど、朝には一応やんだ。でもお天気は曇り空で、いまにもまた雨が降りそうな感じだ。

 そして本日、私はお屋敷でお留守番。という形をとりますよ。

 昨日の決闘騒ぎで疲れたとかなんとかいって、部屋に引きこもります。そして向かうのはバッソルーナ。


 えぇ、神罰を落とすのです。


 その間の留守番役、私の影武者役をやるのがララー姉様。そういえば、昨晩、またしても夢の中で神託がありましたよ。


 神託と云うか、重要連絡事項だけれど。


 えーと、魔法。これの管理権限が常盤お兄さんからアンララー様へと移譲されました。正確には常盤お兄さんからアレカンドラ様に渡って、それの実務面をララー姉様が担う感じ。


 それに伴って、魔法周りが若干再整備されましたよ。


 光関係の魔法は効果時間に関していろいろと試行錯誤をしていたんだけれど、これが五分一律になりました。これまでの一分よりは使いやすいと思われ。


 次いで、付術台と魔法合成台のほうだけれど、かなり制限が掛けられました。付術は基本五作目の付術用の魔法のみ。魔法合成……えーと、呪文書作成は、アンララー様が許可したもののみ。教会のみで普及させることになっている回復系の魔法は、アンララー様が完全管理し、場合によっては魔法を剥奪するとのこと。

 尚、例外が私で、一切の制限はなしとなっている。


 あぁ、うん、これ、私が大分楽になるかな。ついうっかりで、渡しちゃいけない呪文書譲渡とかをやらかしても、手に入れた者が使えない、ってことになるわけだからね。


 安全面が強化された、っていうことだろう。


 そしてこれらに伴い、鑑定盤がアップデート。個人の魔力量が数値表記されるようになるそうだ。尚、これは九月一日からとなるとのこと。

 あぁ、表記、ついでに称号とやらもくっつけるらしい。ますますゲームみたいだ。


「やっと魔法の女神らしいことができるわぁ」


 と、ララー姉様はご満悦だったよ。




 そして現在。私は真っ白な空間にいますよ。

 死んだ直後? にいた、真っ黒な空間と対を成すような感じの場所。女神様モードのルナ姉様と一緒に待機中。


「それじゃ、これが変装用の装備品ねー」


 ルナ姉様から渡されたものはサークレット。それもゲームに登場していた残念デザインのものではなく、繊細な作りの物だ。


 ……この中央の黄色い宝石は何だろう?


 えーっと、ヘリオドール?


 うん。知らない石だ。でも凄く綺麗な黄色。トパーズよりは淡い感じかな。


 サークレットっていうけれど、頭に着けるネックレスみたいな感じだね。落ちたりしないかな? いや、無用な心配か。神様作の装飾品だもの、そんなことは起こらないだろう。


 ……起こらないよね?

 確認しておこう。主に私の心の平穏の為に。


 ……。


 うん。大丈夫とのこと。私の髪色を変えるペンダントと同じようなものらしい。あれ、私以外の人間には触れないらしいし。


 それじゃさっそく装備しよう。


 装備すると軽い眩暈。ほんの少しくらりとしたけれど、問題ない。

 そして視点が頭ひとつ分くらい上がった。目の前にいるルナ姉様と同じ視点。いつもはちょっぴり見上げているからね。


「う、うーん。なんだか妙な気分ねー」


 なぜだかルナ姉様が苦笑している。


「どうしました?」

「自分と見つめ合うなんて経験をしたことがないからねー」


 と、ルナ姉様。


「さてと。それじゃこれから送るわねー。あ、身を護る魔法は掛けておいてねー」

「はい?」


 どういうこと?


「まだ馬鹿共の排除が終わっていなくてねー。私を殺そうとしているのがいるのよー。いわゆる出落ち(リスキル)狙いをしているみたいねー」


 ……。


 私は無言で指輪を装備。


 回復魔法魔力消費軽減と変成魔法魔力消費軽減の指輪だ。


 とりあえず、このふたつだけでいいや。達人魔法の【静穏】を使うことになるかもしれないけれど、それを使っても魔力は十分残るから、眩惑魔法の魔力消費軽減はなくても大丈夫だろう。乱発するわけじゃないし。


 うん。準備完了。


 装備は装飾品だけだけど。まさか女神様の姿で、武器を持って戦うわけにはいかないしね。


 イメージは大事ですよ。なので、使う攻撃魔法は雷撃系のみ。


「それじゃ、送るわよー」

「お願いします」


 【黒檀鋼の皮膚】を発動。そしてその直後、私は光に包まれた。


 以前、サンレアンの教会にディルルルナ様が降臨した時には、光の柱が立ち上り、その中に上からスッと降り立つような感じで現れていた。


 私もそんな感じに降り立った。


 でもその場所は完全に廃墟。瓦礫の山の上。足元に落ちているのは、あの七支刀みたいな教会のシンボル。


 ……教会を破壊したって聞いていたけど、酷いなこれ。完膚なきまでに壊されてるじゃないのさ。


 え、なに? 破城槌でも使ったの? それとも地道にハンマーとかで壊した?


 馬鹿じゃないの!? なんでそんな方面に全力を――


 ドッ!


 衝撃を受けて私はよろめいた。


 右目に激痛。【黒檀鋼の皮膚】を抜けた!? 周囲に誰もいなかった。矢?


 痛い。痛い痛い痛い痛い!


 矢が降り注ぐ。


 【黒檀鋼の皮膚】はあくまでもダメージ軽減だ。ダメージは抜ける。大抵の攻撃は無視できる程度にはなるけれど、それでもダメージは抜ける。


 当たった場所が悪かった。指で軽く突かれる程度の威力でも、目に当たればこんなことにもなる。事実、体に当たっている矢はちょっぴりチクチクするだけで、周囲に落ちていく。


 右手で目を抑えたまま、左手で矢を引き抜く。痛みに歯を食いしばる。指に引っ掛かった、引きずり出されかけた眼球の感触が酷く不快だ。


 回復魔法を掛ける。


 痛みがたちまち引いていく。うん、痛みが引くのはいいけれど、ちゃんと見えるようになるかな。


 恐る恐る手を離す。


 大丈夫、ちゃんと血まみれた掌が見える。


 口元に引き連れたような笑みが浮かんだ。


 さぁ、それじゃ反撃――といきたいけれど……。


 くっそ。飛んでくる矢が邪魔で射手を確認できない。下手に顔を上げるのは怖いし。なんとか場所がわからないかな。


“わかるわよー。ナナウから【天の目】を貰ってるでしょー。あれに表示されるわよー”


 頭の中にルナ姉様の声が響いた。


 少しばかり声に怒気が孕んでいたのは気のせいなのかな?


 まぁ、いいや。【天の目】を使う。頭の中に周囲が俯瞰で見える。


 敵性生物を表示。ついでに、街を閉鎖しているっている軍と、教会の軍犬隊も表示する。うん。問題なく表示された。もちろん、敵は赤点。味方は青点で表示されている。


 あはは。すごい便利だ。


 青点は西側の門で、この町の住人と戦ってる? みたいだ。大半の住人は町から退去しているみたいだけれど、一部が残って抵抗しているのだろう。


 ……使う魔法の範囲とかでないかな。ゲームとかだと、空爆の範囲とか、MAP兵器の範囲とか表示されるけど。


 そんなことを考えたら、使おうと思った言音魔法の範囲が表示された。ついでに予定していた言音魔法の範囲もみる。


 うん。確認完了。予定の【流星雨】の方は町をすっぽり覆うけれど、いま使おうと思ったやつは、そこまで広範囲じゃないや。いや、広いことは広いけれど、とりあえず味方は範囲外だ。


 それじゃ、使ってしまおう。と、そうだ。ペンダントを言音魔法のクールタイム軽減のに変えておこう。二割減は地味に大きい。


 あぁ、そうだ【黒檀鋼の皮膚】も張り直しておかないと。


 準備を終えると私は前屈みになっていた姿勢を正し、天を指差した。


 そして叫ぶ。


『吹けよ風! 呼べよ嵐! 【雷嵐招来(テンペストコール)】!!』


 私の声と連動し、薄い曇り空がたちまちの内に厚みを増し、辺りが薄暗くなる。


 射ち込まれる矢の数が減った。この異変にたじろいでいるのだろう。


 なに、大したことないよ。大雨が降るだけの言音魔法だからね。


 ただ、一緒に雷がばかすか落ちるけど。それも、私以外の生き物に向かって無差別に。


 ポツリと大粒の雨粒が落ちる。


 ポツリポツリとひと粒、ふた粒と落ちて来たかと思うと、一気に土砂降りとなった。そして同時に、雷が無作為に降って来る。


 屋根の下、屋内にいるのなら安全に凌げる魔法だけれど、どうやら窓から手を出していたりすると、そこに雷が落ちるみたいだ。


 赤点がたちまちの内に灰色に変わっていく。


 死亡者を表示しない、としたところ、表示は変わらないから、生きてはいるんだろう。うん。良し。


 簡単に死なれたら面白くない。


 私の機嫌は悪いですよ。


 それじゃ、町を壊す前にゴミ掃除をするとしましょう。まずは私の目を持って行った奴からだ。




 私は【道標】を発動させると、霧のラインを追って歩き始めたのです。




誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分の頼み事のせいで痛い目に遭わせているのに呑気丸出しな神様にヒく。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ