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144 お、怒られるかな?


 さて、これからは武闘大会の本番ですよ。予選だけど。


 ということで、私は国王陛下と一緒に、王家専用の観戦席へと移動中です。バルキンさんには、明日にでもイリアルテ家へと来るように云っておいたよ。


 えぇ、イリアルテ侯爵領領軍へのスカウトです。あの三馬鹿が限定的にしか使えなくなっているからね、余計なことをするせいで。なので優秀な人材は募集中なのですよ。


 まぁ、採用するかしないかはバレリオ様が決めることになるだろうけど、多分、採用されるでしょう。地味に人手不足だからね。もっとも、優秀な人材に限るけれど。


「やー。すっきりしたな。あの阿呆は予てからどうにかしたかったのだ」

「えーと、ナランホ侯爵ですか?」


 やたらと上機嫌な国王陛下に訊ねた。


「そうだ。あの男、あの年で独身なのだがな、遠回しにセレステを嫁によこせと工作しておったからな」


 ……うわぁ。


 セレステ様って、まだ十歳だよ。それを嫁にって。というか、セレステ様の立場だと、降嫁する可能性は少ないんじゃないかな。王女様はセレステ様ひとりだけなんだし。


「侯爵領にしても、これまでの領主が成したものを、どうにか維持しているだけだ。あやつが領主となって十年経つが、なにひとつ発展しておらん」

「ダメじゃないですか。『現状維持は衰退と思え』という言葉もあるんですよ」

「ほぅ。実に良い言葉だ。うむ、浸透させよう」


 国王陛下の顔に、にやりとした笑みが浮かぶ。


 なんでこの王様はこんなにも悪戯を思いついたみたいな顔が似合うんだろ?


「あー、それとだ、キッカ殿、暫くは身の周りには注意してくれ。こちらでも警戒はするが、絶対ではないからな?」

「はい?」

「あの莫迦の関係者が逆恨みするかもしれん。いや、きっとするな」


 あー。


 私は頷いた。


「わかりました。ご忠告ありがとうございます。でも、まぁ、大丈夫ですよ」


 私は呑気に答えた。多分、大丈夫だと思うのよ。なにせ教会が私の後ろにはついちゃっているし。さすがにそれが分かっていて喧嘩は売らないと思う。せいぜい、へんな噂を流すくらいじゃないかな。そうなったら、嫌がらせをしに行くだけだ。


「ところで国王陛下。あの場で勢いに任せて決闘を決めてしまったわけですが、侯爵領の話はどうなるんです? 本当に没収となるんでしょうか?」

「あれだけの証人がおるからなぁ。せざるを得まいよ。それに、領民としては、頭がすげ替わるだけだからな。問題は無かろう。ナランホよりマシな人物に領を治めさせれば、民は文句を云わんよ」


 そりゃそうだ。自分たちの生活さえ安定して安心に暮らせれば、人は文句なんていわないからね。


 さて、私はちょっと気になることがあった。


 それは先ほど国王陛下が云った私の功績。そこで数十種類の作物云々というくだりがあったけれど……そんなに提供したっけ?


 いや、ルナ姉様には、温室にある作物で気になるモノがあれば、持って行って構わないとはいったけれど。

 全部で数十……最低でも二十種類ってことか、そんなにあったかな。


 提供した作物。まず甜菜。これは砂糖の原料。ジャガイモとサツマイモ。これは単純に私が安定して手に入れたかったから。栽培もそこまで難しいものでもないし、収穫量も多いしね。あ、連作障害の問題があったね。今度クリストバル様に話しておかないと。

 このみっつが私がルナ姉様に直接渡したものだ。それ以外となると、温室で育てていた作物だけど――。


 人参、トマト、白菜、大根、ネギ、青梗菜、ほうれんそう、小松菜、茄子、とうもろこし……あとなんだっけ? キャベツや玉ねぎは買ってるしな。

 果実系は基本庭植えだし。リンゴが三種、柿、蜜柑、オレンジ、レモン……イチゴって野菜枠だっけ? あとは、うん、錬金用に植えたゲーム由来のベリー系。


 あ、ちなみに。人参なんかはこっちにもちゃんとある。リンゴもね。ただ、品種改良が進んでいるわけじゃないから、まだ原種に近いんだよね。

 人参なんかは、ぼてっとした感じではなく、シュッとしたほっそい三角形みたいな形だし。うん、食べでがない感じだよ。ついでに甘みもない。


 これらを全部合わせれば、二十種類を超えるな。


 え? まさかルナ姉様、全部持ち込んだの? さすがにバニラビーンズは持って行っていないよね? こっちじゃ多分育たないよ。気候の関係で。

 あ、そういや胡椒がインベントリに入っていたけれど、これも持ち込んだのかな? 多分、胡椒もこっちじゃ育たないんじゃないかと思う。


 温室の作物だけれど、これの留守中の世話はオートマトンに任せてある。家の警備用に二体。作業用兼整備用に三体組み立てて、配備しておいたんだ。

 で、温室の作物だけれど、実ったら収穫。その収穫したものをルナ姉様が農研に回したりしていたんだと思う。その上で、消費されなかったものを、私のインベントリに放り込んでいたみたいだ。食材が増えているもの。


 インベントリに入っていた胡椒の実はしっかりと乾燥してあって、あとは磨り潰して粉末にすればいい状態。折角だから、インベントリの機能で皮を剥いで粉末にしたところ、白胡椒ができたよ。


 ふふふ。これで料理の幅がすこし広がるというものですよ。肉料理には黒の方が合うんだっけ? まぁ、白でもいいだろう。なんだか料理勝負のイベントに駆り出されそうだし。その時に使ってみよう。


 やがて王家専用の観客席に辿り着いた。


「あ、すいません、国王陛下。私はちょっと離れます」

「ん? どうしたのかね?」

「その、ちょっと御不浄に……」


 催すものは催すのだ。


「あぁ、その、なんだ、すまんな」

「いえ、では、ちょっと行ってきます」

「私がお供いたします」


 そう申し出たのはマリサさん。


 あれ? 王妃殿下の側で控えていなくていいのかな?

 え、なんで質問しただけでそんな絶望的な顔をするの?


 あぁ、うん。昨日のこともあるし、仕方ないよね。断るのもなんだし。


 そんなわけで、マリサさんを伴ってトイレに。

 よく考えたら、トイレの場所が分からないから、案内してもらえるのは非常にありがたい。

 それと、もう薄暗い中を歩くのが嫌なので、魔法を使ったよ。五作目のほうではなく、四作目の方の明かりの魔法。

 光源もないのに、自分を中心に周囲が明るくなる魔法だ。

 ちなみに、呪文書化はできなかった。私専用みたいだ。というか、四作目の魔法は軒並み呪文書化は不能だ。いくつかはできるけれど。


 あれ? 前は出来なかったっけ?


 インベントリの呪文書を調べるのも面倒だし、まぁ、いいや。


 いきなり明るくなったことにマリサさんが驚いていたけれど、明るくなって足元が危なくなくなったのだから問題なし。


「あぁ、ここにもこんなに埃が……」


 ……汚れが目立って見えるようになったもよう。


 明るいのも善し悪し? いや、汚れが分かるようなったということは、より清潔にできるということだから、良いことだよね。


 ……あぁ、考えてみたら、灯りを設置することばかりを考えていたけれど、要は移動する人の足元が明るければいいんだから、【照明】を付術した装身具あたりを普及させればいいのか。


 問題は、私以外に誰も作れないってことだけれど。

 うん。適当に指輪あたりで作って、組合に流そう。いくらぐらいが適正価格化はさっぱりだけど。


「おぉ、見つけた!」


 ん?


 声のした方をみると、背丈の低いおじさん?

 私の魔法の範囲外だから、ちょっと暗くてわからない。


 そのおじさん(声からして、おじさんと判断)は、どたどたと走って来ると、私の手をがしっと掴んだ。


 うん。おじさんだ。ドワーフかな? 私よりちょっぴり背が低い。


「ありがとう。本当にありがとう!」


 ちょっ、泣きだした!? え、何事!?


 マリサさんの顔を見る。マリサさんも戸惑っている様子。


「あの……」

「おぉ、すまん。儂はジラルモっちゅう、具足師だ」


 具足師。要は、鎧専門の鍛冶師だ。


「嬢ちゃんの着てる鎧は儂の作品なんだ。誰にも使われず、朽ちていくだけと思っていたんだ。着てやってくれて感謝する」

「おぉ、この鎧の作者さんですか。ありがとうございます。助かってます」


 攻撃は受けていないけれどね。でも【鋼拳】の技能を活かすには、篭手の防御力が高ければ高いほどいいからね。

 そしてこの鎧の篭手の防御力は非常に高い。


「くぅ。そう云ってもらえると、具足師として感無量だ」


 お、おぉぅ? どういうこと?


「あ、あの、なんでそんな大げさな感じに?」

「あー。その鎧は三十年前に作った、云わば若気の至りってやつだ。今はもう断絶しちまったが、ピサロ伯爵の命で作ることになった鎧だ」


 詳しく聞くと、『ドラゴンの攻撃をものともしない鎧を作れ』と命じられ、できうる限り最高の鎧を制作。だがその鎧を使い物にならんと潰され、その後、二領、鎧を作り上げて納めるも、先と同様の扱い。

 さすがにこの扱いにジラルモさんはブチ切れ、大酒をかっ喰らった状態で、あらゆるものを度外視して作ったのが、今私が着ている鎧なのだそうな。

 まぁ、一晩で作れるわけがないから、その時に勢いで作ったモノに合わせて、残りの部分を作り上げたのだろうけど。


 あたりまえだけれど、徹底的に鍛えたにも拘わらず分厚い装甲のこの鎧、重量が通常の鎧の約四倍。一部分なら装備してもなんとか扱うことはできるが、すべて装備すると歩くことすら困難なレベルで重いという、欠陥品となった。


 あはは。正に某漫画のドラゴン殺しの鎧版じゃないのさ、マジで。


『なんだこの鎧は! まともに動けぬではないか!』

『うるせぇ! これで動けなけりゃ、ドラゴンなんて倒せるわけねぇだろ!』


 と、やり合ったところ、御用職人から外された上、伯爵領から追放。さらに悪評をさんざん流布されたために、かなり苦労したらしい。


 というか、よく首が飛ばなかったね。それとも、悪評を広めて苦しめた方がいいとでも思ったのかね、その伯爵。


「思い出しました。ジラルモ師。確か、白羊騎士団の鎧を手掛けてらっしゃる職人では?」

「おぉ、そうだ。侍女の嬢ちゃんにも知られているとは光栄だな」


 うぇっ!?


 白羊騎士団の鎧!?


 えっと、近衛って、白羊騎士団の第一分隊のことだよね。ということは、私、ジラルモさんのお仕事を奪っちゃったのかな?


 ち、ちょっと確認しよう。


「あ、あの、ジラルモさん。白羊騎士団の鎧ということは、近衛隊の鎧も?」

「おぉ、なんか金色の鎧になっていたな。あれはいい仕事をしてあった。使われている金属がいまいちよくわからなかったな。真鍮だとは思うんだが……」

「そういえば、近衛の鎧はキッカ様の作品でしたね」

「あぁ、うん」


 それを聞くや、ジラルモさんの目が、クワッと見開いた。


「あの鎧、嬢ちゃんが作ったのか!」

「は、はい、そうですけど」


 お、怒られるかな? 仕事を取っちゃったようなものだし。


「あの鎧は凄いな。見た目のどっしりと重量感に反して、従来のものと変わらぬ重さなのが素晴らしい。しかも魔鎧と来た。こうなったらもう兜を脱ぐしかないわな」


 そういって豪快に笑う。


「うーむ、魔法は無理にしても、合金の研究はせねばならんな。あの鎧は実にいい刺激になったぞ」

「あはは……。でも、注文を受けた十五領以上は作りませんけれどね」

「そうなのか?」

「まぁ、そうでしょうね。そうしないと、騎士団の名前を金羊騎士団に変えないといけませんし」

「あぁ、違いない」


 いや、マリサさん、なにを云っているんですか。


 その後、ちょっと会話をして別れた。


 今度、機会があったらジラルモさんの工房にいってみよう。


 それはさておきだ。そろそろ限界が近いよ。




 かくしては私はマリサさんを急かし、慌ててトイレへと駆けこんだのでした。




誤字報告ありがとうございます。

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