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135 お説教の最中です


「お説教です。そこにお座りなさい」


 いつものほんわかした雰囲気が欠片もない、厳しい表情のルナ姉様の視線が、私を射ていた。


 云われるままに、私はその場に正座をした。


 ……おぉ、正座ができるよ! 考えてみたら、こっちに来てからこれまで正座なんてしたことなかったな。

 いや、私、正座できなかったんだよ。足の障害というのは、なかなかに厄介だったんだよ。


「え、えーと、キッカちゃん? 床じゃなくて、椅子に座って」


 ルナ姉様の厳めしかった表情が、困ったものに変わっていた。


 私は立ち上がると、ちょっぴり考え、椅子の向きを横にして、その上に正座で座った。こうでもしないと、背もたれが邪魔で正座で座れない。


「え、えーと、その座り方は?」

「正座です」


 私は答えた。


「お説教を受けるからには、正座をするのは当然ですよ」

「そういうものなの?」

「日本人の感覚としては、そうかと」


 戸惑ったような様子のルナ姉様は、ますます困惑したように目を彷徨わせた。


 でも、それも一瞬の事。


 ルナ姉様は大きく息を吸って咳ばらいをすると、キッと私をしっかりと見つめた。




 こんばんは。キッカです。現在、二十一日の深夜です。或いは二十二日の早朝。


 はい。またしても夢での神託の、お説教の最中です。……お説教を神託というべきなのかは、激しく議論するに値する内容かもしれませんが。

 場所はサンレアン自宅のメインホール。正確には、メインホールを模した場所?

 まぁ、ここって、夢の中だからねぇ。


 で、お説教の理由は、私が勝手にクラリスと一戦交えた事。あぁ、うん。一応、止められてはいたんだよ。本当の意味で殺すことができるかどうかわからなかったから。


 神様方が、クラリスの魂を掠めとる道具だか武器だかを作るから、それまで待てといわれていたんだ。


 ゲームで云うところの、【魂狩】の魔法、もしくはその付術の掛かった武器というところだろう。この魔法を掛け、一定時間内にその掛けた相手を殺せば、手持ちの魂晶石に対象の魂を封じることができる。そしてその封じた魂を用いて、魔法の武具を造り出したり、魔法の武器や杖の魔力の充填をしたりするのだ。


 考えてみたら、恐ろしい設定だなこれ。


 魂を消耗品として扱っているんだもの。とんでもないよ。まぁ、それはゲームでの話だけれど。


 さて、昨晩のクラリスとの一戦に関しては、神様方にも衝撃を与えたらしい。


 今云った魂回収のための道具、武器のことで、アレカンドラ様のところに集まっていたそうだ。なんでも、クラリスのいた世界に関してのデータを常盤お兄さんがもっているらしく、武器の作成を常盤お兄さんが引き受けたそうなのだ。


 ……常盤お兄さん、暇なんですかね?


 そういや、銀河の運営をほぼ自動化したっていってたし。前任者はしっかりとやっていたけれど、あまりにも効率が悪く酷いから、徹底した効率化を図ったとかいってたしなぁ。生前はSEだったらしいから、その手の仕事は慣れているのかな?

 クモ膜下出血で倒れて、入院した先にまで仕事が追ってきて、それで亡くなったらしいし。

 ブラック企業って怖いね。


 と、話が脱線した。


 で、対クラリス、というか、クラリスの魂の回収方法に関して会合をしていたところ、いきなり私が死んだことで、ちょっとした騒ぎになったそうだ。


 なにより、私が簡単に死ぬという事態があり得ない事であるそうな。


 言音魔法に耐えられるように、それこそ丈夫な体であるとのこと。もっとも、カルシウム骨格である以上、頑丈さの限界はあるみたいだけれど。


「よくわからなかったんだけれど、トキワ様が『やはりケイ素系シリコン骨格にしておくべきだったか』とかなんとかいっていたわよー」


 と、お説教の合間にルナ姉様が云っていたよ。


 いや、ケイ素って。そうなると私、硝子とか食べないといけなかったりしませんか? 常盤お兄さん。


 ……まぁ、確かに、あっさり骨折したしね。でも、あの黒マント騎士に蹴られて、後頭部を壁に思い切り打ち付けたけれど、頭は割れなかったわけだし、頑丈であることにはちがいない。


 普通なら、脳挫傷とか起こしてもおかしくなかったよね、あれ。


 あぁ、でも、肋骨はあっさり折れて肺に突き刺さったんだ。


 私が大食いキャラになったのは、そういった事情からなのかな? まぁ、思う存分食べても、そう簡単に太ることはなさそうだからいいけど。

 物造りに熱中しだすと、終わるまで不眠不休の上、食事も無視して作業するから、たとえ太っても、あっという間に痩せそうだけどさ。


 そんなわけで、お説教。


 要は、考えもなしに強い相手と殺し合いをするな、ということ。


 ……いや、云われてみたら当たり前のことだよ。


 というか、なんで私はあそこまでやったんだ? あんなに好戦的だっけ?

 いや、キレて……というか、あまりに感情的になると離人症のアレになっちゃうから、どうにも自覚はないんだけど。


 基本的に他人事みたいにしか思えないし。痛みもさして感じないしね。


 そういや、虐待とかを受けた子が、現実逃避から「これは自分じゃない。他の誰かが虐められてるんだ」って別人格を生み出すらしいけど、それと似たようなものなのかな。


 私のも酷くなると多重人格になるらしいし。


 ……もしかしたら、意外と現状の私の状態はヤバイのかもしれない。


 さすがに多重人格はねぇ。


 というか、荒事を引き起こさなければいいだけの話だよ。いくら行動が阻害されるような事態になったからって、なんで私は殴りにいったんだろ?


 我ながら理解に苦しむ。そこまでこらえ性がないとは思ってなかったんだけれど。やっぱり、ここのところの色々で、ストレスというか、鬱憤が溜まってたのかなぁ。


 でもそれが原因で、女神様直々にお説教されてるんだもの、世話ないよね。


 ということで、大人しくお説教を受けましたよ。




「姉さん、そろそろお終いにしてねぇ。話がループし始めたわよぉ」


 ルナ姉様の背後から、ひょいとララー姉様が現れた。

 ルナ姉様のお説教だけれど、途中からいつもの喋り口調になったせいで、お説教っぽくはなくなったけれど。


「それじゃキッカちゃん、普通に座ってねぇ。なんだかその状態だと、見ていて落ち着かなないわぁ」


 云われ、私は正座の状態から、普通に椅子に腰かけた。


 ……夢だというのに足がしびれているのは何故だ?


「まずは穴の開いたローブだけど、回収させてもらうわぁ」

「はい?」

「トキワ様が怒ってらしてねぇ」


 ララー姉様の言葉に、私は青くなった。


「あ、あの……」

「『たかが真祖級の吸血鬼如きの攻撃で穴を開けられるとか。ふふ、ちょっと見通しが甘かったみたいだねぇ』と、大層、怒ってらしてねぇ。なんでも、私たちと同等でもなければ、ほつれさせることもできないくらいに作り直すらしいわよぉ」


 は?


「え、あの、私へのお説教とかは?」

「ないわねぇ」


 ……神様じゃないと破けないローブって。いや、所詮は布だから、打撃はそのまんま通るし、薄いもの、それこそ剣の打撃を受ければ、ローブは破けずとも体は切れそうだけれど。


「それじゃ本題ねぇ。はい、これ」


 そう云ってテーブルに短剣をひとつ置いた。


 それはなんの変哲もない普通の鉄の短剣。デザインはゲームに登場したものと一緒。鋳造量産品にもみえる代物だ。


「【魂狩の短剣】とでもいうものかしらねぇ。それで殺すと、対象の魂がその短剣に封じられるわぁ」


 おぉ、優れもの……と、いいたいけれど、威力のほどはいかほどなのだろう?

 いや、多分、いま私が叩きだせる最大打撃力は、短剣が一番だろうけどさ。装備で打撃力二倍化。でもって、隠形技能の【暗殺刃】で更に十五倍。すなわち、本来の威力の三〇倍の打撃力を叩きだせる。


 短剣の打撃力なんてたかがしれているけれど、此処まで威力を上げると話は別だ。片手剣の技能も加わると、最終的にはさらに二倍。まぁ、ゲームだと短剣にはこれは乗らないって話だったけれど。確認していないから、それはわからないんだよね。


 あ、リアルの現状だとしっかり乗っているっぽい(現状は四割増し)から、最終的には六〇倍の威力を叩きだせることになる。


 こうなると、もうこれ、武器じゃなくて、短剣の形をした兵器だよね。対物ライフル並みの威力のある短剣になってる、って云えば、私が短剣を使うとどれだけヤバいかがわかると思う。


 何しろ、ゲームだと最高難易度設定状態のボスの竜司祭を一撃で屠れたからね。


 満を持して棺から現れたボスを、隠形で潜んだ状態からの一撃をちょんと入れるだけで、ボス戦終了したからね。なんと身も蓋もないボス戦。


 まぁ、リアルだと、急所でもつかないと無理だろうけど。体の末端に大打撃を与えた所で、即死はしないと思うし。その衝撃でダメージは負うだろうけど。


 さて、この短剣、威力のほどはどうなんだろう? まったく鍛えていない状態だと、たしか打撃力は五もなかった気がする。三〇倍でも百と五〇。威力的にはまだ微妙な気がする。そもそも不意打ちしないといけないから、ちょっと厳しくもある。


 まぁ、そこは頑張って工夫しよう。だめなら、死ぬまで突けばいいんだよ。


「それじゃ、吸血鬼の件はお願いねぇ。できたら祭りの間は控えて欲しいけれど。あ、オルボーン伯爵は連れて行ったほうがいいと思うわぁ」

「伯爵もですか?」

「そう。多分、大丈夫だとは思うんだけれどぉ、操られる可能性もあるからねぇ。それを考えると、警戒した状況でふたりを合わせて、状態を確認した方がいいわねぇ。キッカちゃんは、ちょっと危険なことになるけどねぇ」

「ララー?」


 不意に温度の下がったルナ姉様の声に、ララー姉様の表情が強張る。


「ね、姉さん? この決定はトキワ様がしたのよ? キッカちゃんなら大丈夫って。ほ、ほら、魔人も召喚できるっていってたじゃない」


 あー、魔人召喚前提か。でもあれ、ゲームと違って、永続召喚でしかできないんだよね。出来れば二体召喚できるようになってから、一枠潰すつもりだったんだけれど。


 わざわざ召喚したものを送還するのも嫌だと思ってたからね。


 それと伯爵のことか。召喚器の隷属能力がどの程度なのかってことだよね。いまはもう封じてもらっちゃったわけだし。下手すると、クラリスに対する影響力がなくなっているのか。


 なるほど、護衛役はほしいな。スケさんたちでも十分とも思えるけど、時間制限があることを考えると、永続召喚の魔人のほうが使い勝手はいいだろう。魔人、異様に強いし。


 ……どうも魔法を掛けるタイミングを間違えている感じだからね、このところ。


 【黒檀鋼の皮膚】を張っておけば、あんな無様を晒すこともなかったと思うし。


 なんでか張り忘れるんだよねぇ。


 そんなこんなで、このあとすこし雑談をして、神様方との邂逅はこれで終了となりました。


 ◆ ◇ ◆


 二十二日となりました。本日は観劇の予定ですよ。本日もエスパルサ家の皆様と行動です。こちらは私とリスリお嬢様。


 ここで不思議に思ったことがひとつ。


 セシリオ様は今後のこともあって、エステラ様とご一緒です。養子関連のこともあって、いろいろと根回し的なことをしている模様。成人前だけれども、イリアルテ家の、こういってはなんだけれど、当主の予備ではなく、アルカラス家の跡取りであることを周知している模様。


 セシリオ様はこのまま王都で、九月から学院に通うわけだけれど、そこでの立場のこともあるようだ。イリアルテ家の者として認識されていると、ほら、嫁取りとかでゴタゴタし兼ねないですからね。そんなわけで、アルカラス家と親交のある貴族家と祭り中はエステラ様と行動を共にしているようです。お嫁さん探しもついでにしているみたい。


 で、気になったのはダリオ様。


 アレクサンドラ様を放っておいて、どこにいっているんだろう?


「お兄様でしたら、アキレス殿下のお手伝いに行っていますよ」


 リスリお嬢様から教えて頂きましたよ。ダリオ様、アキレス殿下の、いわゆるご学友のひとりだったそうな。

 王国にとってダンジョン【アリリオ】は重要な場所。当然、それを管理をしているイリアルテ家とは関係を密にすべきなわけで。となると、同い年のアキレス殿下とダリオ様がご学友関係になるのも当然、ということなのかな?


 で、例の不審死事件の関連のお手伝いに行っているらしい。


 そういえば、以前、ダリオ様が【アリリオ】の近く――といっても、徒歩で二時間くらいかかる場所――にある湖周辺を開発したいと云っていたけれど、この計画にはアキレス殿下も噛んでいるらしい。


 観光資源が目的なのか、湖の水産資源が目的なのかはわからないけれど。でもあのサムヒギン・ア・ドゥールだけれど、多分、湖の北側のほうを生息場所にしていたやつが南側に流れてきて、あそこに棲みついたんだと思うんだよね。だから、あの手の魔物をしっかりと退治できる技量をもった部隊を常駐させないと、危なくてしょうがないと思うけれど。


 あの音として聞こえない【恐慌の声】は危険すぎるからね。訳も分からず、恐怖で腰が抜けるからね。


 と、話が脱線した。


 そんなわけで、ダリオ様は現在、アキレス殿下のお手伝い中。祭りの期間中は、他国からも大勢身分ある人もやって来ますからね。例の事件の捜査の人員は、ひとりでも欲しいのだろう。


 さて、本日は観劇。それも、上位貴族専用の席からの観劇となるだろうから、正装必須。


 うん。今日はゴスロリドレスを着て行こう。多分、それが無難だろう。……あのドレスに目隠しをするのか。なんか、ひとりで歩いていたら誘拐とかされそうな感じなんだけれど。


 姿を想像し、思わず口元が引き攣れたように歪む。


 なんだか襲ってくださいみたいな雰囲気が滲み出ているのはどういうわけだ。しかもなぜか妙にエロい。自分でいうのもなんだけれど。


 ま、まぁ、いいや。護衛の皆さんもいるし、大丈夫だろう。


 さて、そろそろお嬢様を起こすとしよう。いつもは私が起きる前に帰っているみたいだけれど、今日の私は徹夜したようなものだからね。




 さぁ、お祭り二日目。今日も楽しみますよ。



 そして余計なことをするのは自重しましょう。




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