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124 娯楽ですか……


「娯楽ですか……」


 セレステ様との演奏会が一段落し、ただいま休憩中。

 お茶を頂きながら、私は王妃殿下の質問に首を傾げた。


 質問は、なにか娯楽となるモノのアイデアはないかしら? というもの。


「そう。なにか目新しいものはないかしら? 現状、あるのは音楽と演劇、舞踏会といったくらいなのよね。

 武闘大会もあるけれど、さすがに頻繁に行われるものでは無し。

 なにより、お金が掛かってしまうから、一部の貴族のように気楽に観覧することもできないでしょう?」


 あぁ、平民でも気軽に楽しめるモノ、ということか。


 フレディさんが云っていたけれど、酒場とかでは簡単な舞台はあるみたいだけれど。

 吟遊詩人とか、えーと、漫談師っていうの? とかが舞台に立っているみたいだね。


 現代日本でも娯楽といえば似たようなものだよね。


 それ以外となると……スポーツとギャンブルってことになるのかな?


 スポーツは……微妙に難しいような気がする。なんのかんので、日々のお仕事に時間が掛かるからね。

 そもそも伝えられそうなスポーツなんて、学校でやってたのくらいだ。まぁ、私は体育は基本見学枠だったけれどさ。

 そのせいで、体育教師の受けは酷かったし。どうにか歩ける程度の障害だと、そういう扱いも仕方ないのかもしれないけどさ。


 と、そんな愚痴はどうでもいいんだよ。


 野球、サッカー、バスケ、バレー、あとは……テニスと卓球。なんだろう、この卓球の場違い感。

 ラクロスとかクリケットは分からないし。

 武道系のものは……こっちの人たちがなんだか激怒しそう。いや、みんなガチだからね。武闘大会も、多分、武器の刃を潰した程度での試合だろうし。あとは、目潰しとか突きが禁止される程度? なんじゃないかなぁ。


 なのでスポーツはほぼ壊滅だろう。となるとギャンブルなんだけれど。娯楽、という意味合いも加わるとなると、貴族の嗜みのひとつたるお馬さん。競馬くらいしかないんじゃないかなぁ。

 賭け事として行うとなると、かなり大規模になるけれど。

 徹底するなら、馬牧場だの調教師だの、なにより競馬場の建設とかやること沢山だし。あとブックメーカーとか。

 あぁ、ブックメーカーは王家がやればいいのか。上手くやれば収入にもなるし。


 問題点は……ギャンブル依存症かなぁ。


 それ以前に、運営して回せるだけ掛札がでないとダメなのと、あとは、スポンサーを付けられるかによるよね。


 まぁ、そこまで大規模でやらないにしても、強い馬を生み出す原動力にはなるんじゃないかな。

 馬は重要な資産ですからね。


 とりあえず、問題点も含めて競馬を提案してみよう。


「馬の競争……ねぇ。そこまで盛り上がるモノなのかしら?」

「お金を掛けるとなれば、観客も熱くなるものですよ」

「でもそうなると、強い馬というのは周知されるわけだし、簡単に当てられちゃうんじゃないかしら?」


 あれ? ……あ、そうか。


「賭けは一位だけを当てるのではなく、一位と二位を合わせて当てるんですよ。それにレースにも駆け引きがありますからね。馬の資質もそうですけど、それと同様に騎手の腕も重要になりますから、番狂わせと云うのは結構起こるものですよ」

「ふーむ。試しにやってみようかしらね。馬に関しては……確かに漫然と飼育している感じではあるし。速い馬、というよりは、丈夫なら良し、というだけだったからね」

「走るコースも、距離を違えるといいですよ。短距離、中距離、長距離と。単純に楕円形のコースを作って、何周するかを決めればいいだけですし。

 短距離に強い馬と長距離に強い馬では、扱いどころにおける価値が変わりますからね」

「長距離に強い馬は、早馬とかに良さそうですね」


 セレステ様がロールケーキを食べる手を休めて云った。


 うん。お茶菓子はロールケーキだ。私の手土産。

 自分用の作り置きのひとつだから、キャラメルでコーティングはしていないよ。あれは特別仕様みたいなものだからね。

 多分、イリアルテ家が王都に出しているお店で売っているものと、一緒じゃないかな? あ、いや、違うところがあった。


 私の作ったモノには、バニラエッセンスが使われている。


 商品として出回るのは、どんなに早くても来年からだろう。……ララー姉様がズルをしないかぎり。だからバニラエッセンスを使ったお菓子は、現状、私が作ったモノだけだ。


 ん? 女神さま方? 女神さま方は自己消費しているから。あとはアレカンドラ様へのお土産。


「セレステ様の云う通りですね。一定の速度を落とさずに、長距離を走れるのは強みです。それだけスタミナがあるということですし。まさに早馬にはピッタリでしょう」

「それを考えると、なかなか有用そうね。速さではなく、力を競うのも良さそうね」


 そういえば、そういう競技もあったね。重石を載せたそりを引くやつ。重石は……丸太だっけ? あれ?

 うん。よくわからん。

 というか、私は競馬は詳しくないし。ゲーム動画でちょこっと知ってるだけだし。


 大した知識はないけれど、多少は参考にはなるだろう。

 とりあえず、知っている限りは話そう。




 なんだか競馬の運営方法なんて話にまで広がったころ、執事さんがオクタビア様に来客を告げた。

 王妃殿下の私室にまで来たのは、宰相様だった。


「王妃殿下、王女殿下、キッカ殿、ご歓談中失礼します」


「マルコス、なにがあったの?」


 オクタビア様が宰相様に問う。


 多分、アレだろうなぁ。


「えぇ、大変なことが。キッカ殿――」

「教皇猊下から連絡がありましたか?」


 私がいうと、宰相様の顔が強張った。


 あぁ、やっぱり。


「えーと、教皇猊下の云ったであろうことは、世迷言などではなく、事実ですよ。というかですね、アレカンドラ様が抑えての結果です」


 宰相様ががっくりと膝をついた。


 あぁ……いや、まぁ、そうか。


「ま、マルコス!?」

「キッカ様? いったいなにがあるのですか?」


 セレステ様が私を不安そうに見つめた。


「数日後にバッソルーナの町が神罰により壊滅します。それだけのことですよ。なんでも、連中、教会を完膚なきまでに破壊したそうです。

 神々の立像も粉々にし、アレカンドラ様の象徴までも叩き割って踏みつけたとか。

 立像粉砕はともかくも、最後のはいけませんでしたね。しばらく前に、アレカンドラ様を侮辱した件で、一生続く罰を与えられた者もいますから、今回の神罰は妥当なんじゃないですかね。

 あ、そうそう。もう男爵領はディルルルナ様の祝福を受けることはありませんよ。だって不要なのでしょう? レブロン男爵が宰相様にそう宣ったそうじゃないですか。酷い侮辱をした上で。ディルルルナ様、それはそれは激怒していましたよ」


 あ、宰相様、頭を抱えた。


 まぁ、聞きたくなかったことだろうからなぁ。でも事実だし。

 いや、実行するのは私なんだけれどさ。


「き、キッカ殿、なんとかなりませんか!?」

「私、頑張ったんですよ。あいつらには何の思い入れもありませんし、どうなろうと知ったこっちゃないんですけれど、ディルルルナ様にお願いしましたよ。人死にだけは止めましょうと。

 だから、神罰執行まで猶予がありますよ。教会は今朝方聖堂騎士団を派遣しました。住人をバッソルーナから避難させるために」


 あれ、なんだか三人……いや、五人(執事さんと護衛の騎士さん)が私をじっと見つめてる。


「祝福が失われると、どうなるのですか?」


 セレステ様が訊いてきた。


「他国の農地と一緒になるということですね。ディルルルナ様が、祝福ありきの土地での農業技術で、今後も同じようにできるかしらね? みたいなことを云っていましたけれど」


 私がそう答えると、今度はオクタビア様が頭を抱えた。


「マルコス、レブロンはなんと云って女神様を激怒させたのです?」

「王妃殿下、後生です、それを私の口から話すことはどうかご容赦願います」

「……宰相様、もしかして教皇猊下にも云わなかったのですか」

「云える訳ないでしょう!?」


 お、おぉう、宰相様、さすがだ。


「キッカ殿は知っているのですね?」

「……えぇ、まぁ。女神様から聞きましたから。なんというか、神罰は構わないけれど、余計なところまで壊すなと、アレカンドラ様に釘を刺されたみたいですね」

「なぜキッカ殿のところに?」

「気持ちを落ち着けるまでの話し相手……でしょうかねぇ。そこへ教皇猊下が強制的に呼び出されたわけですけど」


 それで合点がいったのか、宰相様は再び、がっくりと項垂れた。


「キッカちゃん、あのバカはなんて云って女神様を侮辱したの?」


 オクタビア様の質問。

 いかに王妃殿下の問いとはいえ、さすがに私も答えるのは憚られますよ。というか、云いたくありませんよ、さすがに。

 私の頭上に神罰が落ちそうだもの。


「そうですね。もし私がその言葉を、侮辱としてお二方に吐こうものなら、次の瞬間には護衛騎士さんに首を刎ねられ、執事さんには胸にナイフを突き立てられるでしょう。それほどのことですよ」

「マルコス?」

「キッカ殿の云う通り、いえ、それでも生ぬるいと思われるほどのことをレブロン男爵は云ったのですよ」


 ギリギリと宰相様が歯を食いしばる。


 うん。宰相様も相当腹に据えかねているみたいだ。


「まさか、売女とでも云ったの?」


 宰相様は首を振った。オクタビア様とセレステ様が私を見つめる。


 いや、私だって云いたくありませんよ、あんなこと。


 だから私は王妃殿下にこう答えた。


「オクタビア様、それよりももっと酷いですよ。だって、まだ人間扱いをしているじゃないですか」


 ◆ ◇ ◆


「キッカちゃん、なにか催しごとのアイデアはないかしら?」


 ……あれぇ? なんだかついさっきやったような気がするぞ、こんなやりとり。

 イリアルテ家に戻ってきたところ、エメリナ様に掴まって、こんな質問をされたんだよ。

 あ、王宮はあれから大忙しになったから、私は早々に退散してきたよ。

 一応、オカリナを王女様にひとつ置いてきた。あのオカリナも魔笛化したら、確実に王女様が原因とわかるからね。


 さて、エメリナ様のこの質問の意図はなんだろう?


「単に催しごとと云われましても。芸術祭で、なにかイリアルテ家でやるんですか?」

「そう。食堂のほうでね。せっかくのお祭りだし、何かやろうと思うのよ」


 なるほど。

 でも食堂なら、それに見合ったことがいいよね。となるとだ――


「料理勝負くらいですかね。大食い大会は割に合わないでしょうし」

「り、料理勝負? どうやって勝負するの?」


 エメリナ様が目をぱちくりとさせた。


 まぁ、知らなければそうなるか。


「勝負方法、というか形式はふたつあります」


 そういってそれぞれの説明をする。


 まずは料理を審査して、美味しい方を勝者とするもの。

 とはいえ、まったく違う料理を審査するのも問題となるので、以下のレギュレーションに沿って料理を出品してもらう。


 ・指定した料理、或いはテーマに沿った料理を作る。

 ・指定した食材をメインに使う。

 ・一時間の調理時間制限。


 本当は、前菜、副菜、主菜、汁物、デザートの五品を基本にしたほうがいいのかもしれないけれど、そんなことをしたら審査側が食べるのに辛くなるだろうからね。一品でいいでしょう。

 審査員にはひとり十点満点で点数をつけてもらい、その合計点で勝敗を決めるというもの。



 もうひとつ。

 こっちは作る過程をそれぞれ説明してもらいながら調理。

 最終的に、審査員がより食べたい方を選び、多くの審査員に選ばれた方が勝者。


 要は、昔やってた料理対決のTV番組のアレだ。


「お祭り初日に参加者を募って、その際に、テーマと食材について複数通達。実際はそのうちのひとつが本物。これも云っておいたほうがいいですね。

 あ、もちろん、食材はこっちがすべて準備しますよ。見るのは料理の腕ですからね。

 試合は、数日後ですかね。お祭りの最終日でもいいかもしれませんね」

「……なんでそんなことを?」

「その方が面白いからです。一切伝えないと、時間制限もありますから、まともに料理ができない可能性があります。加えて、試合前に料理人同士でおかしなことしないようにですね」


 そう答えると、エメリナ様は頷いた。


「もうひとつの方は、そのまんまですね。落選した方を選んだ審査員は、もちろん食べることができません。こうすると審査員同士の駆け引きもでてきますね。

 あ、選ばれなかった方は、料理人自身に消費してもらいますよ」

「それはそれで楽しそうね」


 エメリナ様、乗り気な模様。


「もしかしたら、独立しようにも資金面の問題で独立できずにいる、腕のいい料理人とかを発掘できるかもしれませんね。人材は宝ですよ」


 私がそんなことを云ったら、エメリナ様の目がキランと輝いた。


「是非ともやりましょう。そうと決まったらナタンと相談しないと」


 パタパタとエメリナ様が厨房へと走って行く。

 あぁ、料理長は参加ではなく、運営側に回されるのか。参加できないことを悔しがりそうだな。


 そんなことを考えていると、私はひとつ気がついたことがあった。




 そういえばエメリナ様、審査員はどうするんだろう?




誤字報告ありがとうございます。

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