123 聞いてみたらどうです?
おはようございます。キッカです。本日は十八日ですよ。
起きたらサイドテーブルに芋羊羹が置いてありました。
……ルナ姉様、私にまでお土産をよこさなくてもよかったのに。
そういえば、これは複製とか云っていたよね? ということは、魔素から作ったってことかな? それとも惑星管理のリソース? いや、リソース……っていうか、そのエネルギーも魔素と似たようなものだから、どっちでも変わりはないのか。
朝一で食べるのもなんだけれど、気になるから食べてみよう。
……うん。私が作ったのと同じだ。甘さ控えめ、お芋の味が存分に楽しめる芋羊羹。
まぁ、店売りのものとは比べるべくもないけれどね。
さてと、朝食までは少し時間があるよね。ちょっと散歩がてら、教会へ行ってこよう。教皇猊下が夢だと思い込むことにしたとも限らないしね。
夢じゃないと示すために――うん、芋羊羹でも渡せばいいか。
先日作った作り置きが、インベントリに入っているし。
ふふふ。個人消費用に、多めに作って保管しておいたのですよ。
それじゃ、教会へと行ってきましょうか。往復で一時間くらいかな?
行ってきます。
◆ ◇ ◆
ただいま。
教会。てんやわんやでした。
えーと、軍犬隊……って云ったっけ? うん、聖堂騎士団の方々が教会の前に集まって出立の準備をしていたよ。
ちょっと聞き耳を立てて来たけれど、向かうのはバッソルーナの模様。
うん。ちゃんと教皇猊下が指示を出したみたいだね。
二日か三日後くらいに向こうに到着して、住人を追い出すのにどれだけ時間が掛かりますかね。
予定では六日後の二十四日に、こちらは神罰執行をしますからね。それまでに済んでいればいいんだけれど。
……いま思ったんだけれど、騎士団の皆さんの居る前で町を壊すことになるの? さすがにそれは……あれだな。
まぁ、コスプレ状態でいくようなもんだから、いいか。
私だってバレなきゃいいのよ、バレなきゃ。
あ、ルナ姉様に、教会跡地に送って貰えばいいのか。
で、せっかく教会にまで足を運んだので、お祈りをしてきたわけだけれど、そこで妙にのんびりとした口調の主教さんに掴まりました。
そしてなかば問答無用で教皇猊下のところへ。
この主教の小母様、人の話を聞いてくれない。
で、当の教皇猊下は、私を見るなり顔を引き攣らせていたけれど。
芋羊羹渡したら、もの凄い微妙な表情をされたよ。
夕べの……というか、夢でのことが事実であると確信できたのもあるんだろうけれど。
「ところでキッカ様。神罰が降される原因についてなのですが、それは教会の破壊ということだけなのですか?」
確認の為だろうと思うけれど、いくつか質問をされた後、このことを聞かれたよ。
「えーっと……答えないとダメですか?」
「え?」
「いえ、教皇猊下がおいでになる前にですね、ディルルルナ様はそのことで、それはそれは非常に憤っておられまして。宥めるのが大変だったんですよ」
「……なにがあったんですか?」
「あー……あぁ! 宰相様がご存知ですよ。宰相様が聞かされたことですからね。女神様は大変良い耳をお持ちなのですよ」
教皇猊下は私の答えに、少しばかり考え込んだ。
「マルコス殿に訊ねれば、答えてもらえるかしら?」
「聞いてみたらどうです?」
そういったら、ますます考え込みだした。
「そうそう、女神様はこう仰っていましたよ。二百年前は町が壊滅することなんて、魔物の暴走でよくあることだったと。だから、いま町のひとつが消えたところで問題ないでしょう? と。
あの町の連中、本当、なにを血迷ったんですかね?
立像を叩き壊して、アレカンドラ様のレリーフを叩き割って踏みつけるとか、異常ですよ。もっとも、その異常さであっても神罰が執行されるということは、なんらかの要因によって彼らが操られている、というわけではない、ということなのでしょう。
もしそうなら、ここまで派手な神罰など降されないでしょうから」
「……なんとしても、マルコス殿から聞き出しましょう」
教皇猊下は決意したところで、私は退散。
そうそう、お祈りをした結果、立像とか輝きだした訳だけれど、そのおかげで騎士団のみなさんのやる気が跳ね上がってたから、問題ないよね。
戻ってから朝食をとった後は、ドレス制作の続き。自室にて【肉体強化】の指輪を一個作成。【敏捷】+【知力】の指輪。
多分、これと、先に作った【技巧】のペンダントによるドーピングで、ドレスを縫製する上での精度と速度が上がると思うのよ。
まぁ、ドレス本体は出来上がっているから、次につくるのはリボンと、面倒な手袋なんだけれど。
肘丈の手袋をレース編みで作ろうと思っているからね。
で、やってみたところ、気持ち悪い速度で制作完了。
もともと裁縫関連は得意だったけれど、まさか手袋がここまでさっくりと作れるとは思わなかった。いや、掛かってる手間は変わらないんだけれどさ。
そして午後、またしても王宮から呼び出しが。
今度はなんだろう? 教皇猊下が突撃したからかな?
いや、というかですね。私、一般人のはずなんだけれど。
お迎えの馬車に乗って王宮へ。
てっきり宰相様に呼び出されたのかと思っていたけれど、呼び出したのは王妃殿下オクタビア様。何事だろうと思っていたら――。
「キッカちゃん、先日、セレステが頂いた魔笛について確認をしたいのだけど」
……は?
「え、魔笛ですか? いえ、私はそんな大層な代物なんて作れませんよ」
「でも、鑑定結果では魔笛となっていたわよ」
はい?
私が首を傾げていると、侍女のマリサさんが鑑定盤にオカリナを載せた。
うん。間違いなく、先日、王女殿下に差し上げたオカリナだ。
そして表示された鑑定結果。そこには、しっかりと【魔笛】と記されている。
えぇ、なんで!?
「そ、その、私の持っているオカリナも鑑定してみていいですか?」
オクタビア様の了承を得て、私のオカリナを鞄から取り出して載せる。
名称:オカリナ
分類:笛
属性:楽器・笛
備考:
魔銀と骨の笛。聴衆を楽しませることができるかは、奏者次第。
……普通の笛だよね。
「あら?」
「オクタビア様。見ての通りですよ。私は物品に魔法を付術することはできますけど、こういう付術は知りませんよ」
「それじゃ、この魔笛はどうしたのかしら……? アレクスは、キッカちゃんが無意識的に作り上げたのではないか、と云っていたのだけれど」
「いや、作れませんよ」
王妃殿下が首を傾げた。同じように私も首を傾げる。
多分、原因は魔銀だと思うんだよね。これ、魔法の武器を作るためにはもってこいな素材なわけだし。
多分、ダンジョン産の魔法の物品と一緒で、魔力充填不要の魔法具だと思うんだよ、これ。
ということはだ、誰かがオカリナを魔法具化したってことだと思うんだけれど。
その推測をオクタビア様に伝えると、あからさまにその表情が変わった。
「ど、どうなさいました?」
「いえ、なんでもないわ。マリサ、セレステを呼んできて頂戴」
「畏まりました」
マリサさんが一礼して部屋を出ていく。これでいま部屋に居るのは、私とオクタビア様。それと扉のところで控えている護衛の騎士さんだけだ。
「なぜセレステ様をお呼びになったのです?」
「キッカちゃんの推測が確かなら、この笛を魔法具化したのはセレステということになるのよ」
私の口元が引き攣った。
えーと、それは、私は関係ないよね? なにかやらかしたっけ?
えーと、えーと、一緒に演奏して、ロールケーキ食べただけ。ほかは何もないハズ。
ややあって、セレステ様がやって来た。
私をみてちょっと驚いたみたいだけれど。
簡単に挨拶を互いにした後、セレステ様はオクタビア様に顔を向けた。
「お母様、どうされました?」
「あなたの魔笛のことよ」
「あぁ、やはりキッカ様が魔笛を作られたのですね!」
セレステ様の顔に笑みが浮かぶ。
「いえ、私は作れませんよ」
そう答え、思いついたことがひとつ。
「そうだ。オクタビア様。セレステ様を鑑定盤で調べてみては? 先ほどの推測が正しければ、鑑定結果に記されていると思いますよ」
「それだわ! セレステ、あなた、ちょっと鑑定盤に手を置いてみなさい!」
「は、はい、お母様」
「あ、それじゃ、私はこっちに退いてますね」
私は鑑定盤の反対側に回る。さすがに王女様のステータスを見る訳にはいかないだろうしね。
並んでいるふたりの姿を眺めていると、急にオクタビア様の顔が強張った。
あぁ、やっぱり原因となるものが見つかったんだ。
「き、キッカちゃん。キッカちゃんも見て確かめてくれないかしら?」
オクタビア様に呼ばれ、私は目を瞬いた。
「え、私がセレステ様のステータスを見てしまうのは問題なのでは?」
「キッカ様でしたら構いません」
セレステ様が力強く答えた。
「気になるなら、この後でキッカちゃんのステータスも見せて頂戴」
「まぁ、そんなものでよろしければ」
組合では見せているしね。
おふたりの隣にまで移動し、ステータスを見る。
能力値は関係ないだろうから、見るべきは技能だよね。
わぁ。技能の数凄いな。礼法だのなんだの。……剣術まで覚えているんだ。護身用なのかな。いや、そこじゃなくてだ。えーと、あ、これか。
【魔鋼感応】
多分、これだと思う。
「オクタビア様。この【魔鋼感応】が原因じゃないんでしょうか?」
「やっぱり、それよねぇ」
「あ、あの、お母様? キッカ様? どういうことですか?」
不安そうにセレステ様が私を見上げる。
そういえば、セレステ様はセシリオ様と同い年で十歳だったわよね?
こっちの基準だと、背丈は私よりちょっとちっさいくらいだと思うんだけれど、セレステ様はちょっと小柄なのかな?
などと、無意味なことが頭に浮かぶ。
「先日差し上げた笛のことですよ」
「あぁ。あの魔笛ですね。子守唄を吹いていたところ、私が急に倒れたせいで、ちょっと騒ぎになりました」
ちょっ!? え、それって大事じゃないの!?
私はオクタビア様に視線を向けた。
オクタビア様は苦笑しているだけだ。
「そういうこともあって、来てもらったのよ」
「け、怪我とかは?」
「椅子に座って吹いていたので、大丈夫でした」
そう聞いて安心した。安心したけれど、吹いている当人にも効果をもたらす魔笛って、厄介極まりないな。
と、説明をしないと。
「このオカリナには魔銀が使われています。恐らくですけど、セレステ様は魔鋼、つまり魔銀や魔鉄などに、魔法の効果を持たせることができるのではないのでしょうか」
「ステータスに記載されているし、そうなるわよねぇ」
「わ、私が魔法の物品をつくれるということですか!?」
驚くセレステ様に、私は頷いた。
「え、でも、どうやるのか、さっぱりわかりませんよ?」
「それは私もわかりませんね」
「そうよねぇ。楽しそうに演奏していただけだものね」
私たちは顔を見合わせた。
「魔銀でなにか別の楽器を拵えて、セレステ様に演奏をしてもらいますか? それで魔法具化したら、先の技能が魔法具をつくる能力と確定できます」
「細剣とかでもいいんじゃないかしら」
オクタビア様の言葉に、私は暫し考え、首を振った。
「この【魔鋼感応】という技能ですけれど、さすがにセレステ様が史上初に身に付けた技能ではないと思うのですよ。
そして魔銀製の武器はそれなりに出回っています。それらを鑑みるに、これまでに一振りすら作り出された魔剣の噂話もないことから、なにかしら手順というか、やりかたがあるんだと思います。
多分、漫然と剣を振るっていても、魔剣化はしないのでは?」
私がそういうと、オクタビア様は考え込む。
「確かにそうねぇ」
「気持ちの問題なんですかねぇ。でも、剣を魔剣にする気持ちってどんなものなんでしょう?」
「え、さっぱりわかりませんよ? キッカ様。笛も、魔笛にしようと思って吹いていたわけではありませんし」
そりゃそうだ。
あ、そうだ。
「セレステ様。オカリナなんですが、魔笛化してしまったものはどうにも物騒ですから、新しく魔銀を使わずに作ったものを持ってきます。
もっとも、作るのはサンレアンに戻ってからになりますから、ちょっと先になりますけれど」
「よろしいのですか?」
「えぇ。気に入っていただけたようで、私もうれしいですからね。まさか微妙に危険な物になるとは思ってもいませんでしたけれど」
この次は、粘土で作ろう。……いや、落っことすことも考えて、骨でいいかな。刻削骨の鎧はまた作ることになるだろうし。
「悲しい曲さえ吹かなければ問題ありませんよ。最近は、キッカ様が吹いていた、あの忙しい曲を練習しています。
そういえば、なぜあの曲は途中で吹くのを止めてしまったのです?」
セレステ様が問う。
あぁ、あの『出荷できるなら出荷してみやがれ』なアレか。
「あれは途中で破綻しちゃったんですよ。笛ひとつで演奏しようとするものじゃないみたいです。かといって、パートだけだと微妙になってしまうんですけど。
……あれ? あれの原曲も一緒に吹きましたけれど、あのあと演奏しましたか?」
「あ、そういえば、あの曲は吹きませんでしたね」
「やめましょうね。あれも悲しい曲に含まれると思いますから」
私がセレステ様に答えると、どうやらオクタビア様が興味を持ったようだ。
オクタビア様は聴いていないからね。
「どういう曲なのかしら?」
オクタビア様の問い。
私は答えた。
「出荷される牛の曲ですよ」
かくして、その後、第二回演奏会が行われることとなったのでした
感想、誤字報告ありがとうございます。
※本作では、恋愛云々はありません。なにより、主人公の性格というか、精神面に問題がありますからね。対人恐怖症と人間不信をこじらせていますから。とはいえ、他人との関わりなしに生きていくのは難しいことも自覚しているので、普通に会話とかしていますけれど。
基本的にいきあたりばったりに書いていますので、今後どう転ぶかわかりませんが、恋愛方向に行くことはないと思います。
……いまだにダンジョンに突撃できていないしな。おかしいな。