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115 なんでこんなとこにいんのよ!


 アレクサンドラ様との打ち合わせは楽しかった。


 なんというか、趣味に突っ走ったドレスを作ることになったよ。金髪に映える色ということで、ドレス基本色は無難に深紅に決定。生地は明日中にイリアルテ家の方に届けてくれるとのこと。

 深紅をベースに、白のアクセントを加えたドレスになりますよ。


 きちんと採寸もしましたからね。ウェスト周りをコルセットよろしく締めるのはもとより、胸の部分を立体縫製で強調しますよ。

 身も蓋もない云い方をすると、ドレスはパーティで狙った殿方を落とすための武器ですからね。……墜とす、もしくは堕とすほうが表現としてはいいかな?


 あからさまに胸の谷間を見せつけることはしませんよ。どこの娘さんも、もはやそんなことはしているのです。ならば、敢えて見せないエロティシズムを実践してみせようじゃありませんか! 立体縫製はなれていますからね。えぇ、自分の服をそれなりに縫ってましたからね、私は。まぁ、もちろん手縫いじゃなくて、ミシンを使ってたけれど。


 いや、私が普通にTシャツとか着ると、酷いことになるんだよ。

 簡単にいうとドラム缶。

 そうだよ! 無駄に育った胸の弊害だよ!


 姿見に映る自身の姿に、なんど絶望したことか。まぁ、立体縫製にしたらしたで、やたらと胸が強調されるという問題が発生するんですけどね、でもドラム缶になるよりはマシです。


 スカートは私が着ていたような膝丈ではなく、足首までのロングですよ、もちろん。今にして思うと、こっちの主流が普通のドレスで良かったよ。コルセット+フープだと、さすがに勝手がわからないから、造るのは無理だもの。


 生地が到着次第、制作に入りますからね。ここに来る前に、型紙は作っちゃったから、あとは切った張ったするだけですよ。


 ということで、本日は四日ぶりにやってきましたよ、男爵邸。


 もう面倒臭いから、今日からはバレずにやるチマチマした悪戯から、派手な悪戯にシフトしたいと思います。

 悪戯というか、ほぼ迷惑行為だけれど。


 それじゃ始めましょうかね。


 いつも通りに肉体強化を掛けて壁を飛び越えてと。堂々と正面から行きましょう。


 ドンドンドンドン!


 おもむろに激しくノック開始。


 ドンドンドンドン!


「ちょっと! 開けてよ! いるんでしょ!? マノロ!

 開けてよ! 開けなさいよ! ちょ……。マーノーロー!!!」


 今は例の仮面を着けて、レイヴン仕様ですよ。なので、声色は男性です。

 あ、マノロっていうのは、レブロン男爵の名前ね。


 ……いま気が付いたけど、アナグラムするとノロマになるのか。まぁ、いいや、日本語じゃなきゃ分からないことだし。


「いったい何事ですか。門衛は何をして――いない?」


 扉が開き、執事さんが出て来たね。それじゃ、隙間から入りましょ。


 さーて、この調子で騒いで行きましょう。


 今回も【不可視】装備で指輪六枠の内五枠が埋まってますよ。残りの一枠には、【生命探知】と【夜目】を付術した指輪を着けているよ。

 この指輪はさっき付術して作ったよ。

 あ、インベントリに作業台を入れてきたのさ。一応、盗難対策のためにね。

 女神様が常駐しているわけじゃないしね。ボーもいるけれど、四六時中活動しているわけじゃないもの。


 一応、番人的なモノは置いてきたけれどね。


 さてと、次は【声送り】でも使いましょうか。ゲームだと罵詈雑言だけだったけれど、リアルだと融通が利くからね。


 ということで言音魔法【声送り】!


 やたらと渋い声のけたたましい笑い声が廊下の奥で響き渡る。

 たちまち侍女や使用人、護衛がバタバタと動き始めた。


 ふふー。いいねいいね。今日は大いに踊ってもらうよ。


 ……あ、順番間違えた。


 起きてないよね?


 上を見上げ、男爵の部屋の方へと視線を向ける。

 相変わらず二階にみえるシルエットはふたつ。それも赤。


 うん。相変わらず完全に敵対関係だね。恨まれる覚えはないんだけどなぁ。

 ……嫉妬? だとしたらロクなもんじゃないなぁ。


 立っている赤シルエットに寝ている赤シルエット。うん。男爵は寝ているね。

 そういえば、ここにお邪魔するのは今日が六回目だけれど、女性を連れ込んだりとかはしてないね。自身が娼館に足を運んでる様子もないし。


 婚約者がいるから自重しているんですかね?


 まぁ、いいや。その方が都合がいい。


 ほいじゃ、起こしてこよう。


 二階へとあがり、男爵の部屋の手前にまで到着。


 さて、あの護衛をどうしよう? うーん……【氷の棺】でいいか。


 言音魔法【氷の棺】を発動。護衛は全身を氷に包まれて転倒した。もっとも、凍っている間は無敵だから、なんのダメージもないだろう。それどころか、自身がどうなっているかも分かっていないハズだ。


 なにしろ思考が止まるからね。時間が止まっているのと同じようなものだよ。

 それじゃ、おじゃましまーす。


 男爵の私室へと侵入。男爵邸に悪戯に来るたびに入っているから、もう慣れたものだよ。


 まずは、おでこに悪戯書きをしてと。……なんて書こう。


 【致命傷】


 ……ひねりが足りない気がする。いや、なんかじわじわ来るけれどさ。

 今回のは染め物用の染料だから、落とすのにはかなり苦労するハズ。別に卑猥な文言じゃないし、いいでしょ。


 それじゃ、次。本日のメイン。


 【スケルトン兵】召喚!


 私の目の前にスケルトン兵が召喚される。スケさんは周囲を見回した後、がっくりとしたように項垂れた。


 こら。なんだその仕草は。というか、随分と人間っぽくなったね。

 そんなことを思っていると、身振りでなにをすればよいのか尋ねて来る。

 ゲームとちがって、こういったやり取りができるのは、ちょっと楽しい。


『ちょっと男爵に添い寝して』


 日本語でやることを説明した。するとスケさんの顎ががくーんと落ちた。


 ……君、随分と感情表現が豊かになったね。アッハト砦でも思ったけれどもさ。もしかして各スケさんごとに個性があったりする? スケ魔はすっごい真面目そうだったけれど。


 ん? なに? 魔術師の話はするな? ちがう? なによそのジェスチャーは?


 スケさんが胸の所で弧を描くように手を動かす。


 何? セクハラ? 違う? ……? ん? もしかして、スケ魔って女の子?


 するとスケさんは激しくうなずいた。


 えぇ、性別決まってたの? 常盤お兄さん、なに変なところにこだわりを出してるんですか。

 というか、骨じゃわかんないよ。意味ないんじゃないですかね?


 あ、スケさん消えた。まだ一分しか保たないからなぁ。


 再度召喚。今度はすぐに男爵に添い寝をさせる。その上で、男爵を起こしてもらおう。


 ふふふ。目が覚めたら目の前に骨というのは、インパクトがあると思うのですよ。なんとなくスケさんから悲しみのオーラを感じるけど気にしない。


 部屋の隅で眺めていると、やおらスケさんが男爵の頭を叩いた!

 スキンヘッドを叩いたのに、ぱちんぱちんという音ではなく、なんとも表現しがたい音がしたけれど。叩く方が骨だから仕方ないね。


「む……むぅ? いったい何……」


 お、男爵起きた。……スケさんと目があったね。スケさんに目玉はないけど。


 ……。

 ……。

 ……。


「うぉあああああっ!」


 男爵が叫び声をあげて飛び退いた。ベッドが小さかったら転げ落ちていたに違いない。


 あ、でもこれだと落ちそう。縁にまできて……あ。


 ベッドの縁に掛けていた手が滑り落ち、男爵はそのまま頭から床に落ちた。


 ゴッ! と鈍い音が響き、男爵は頭を抱えて呻いた。その間にスケさんが毛布を纏うようにベッドの上に立ち上がる。


 カタカタカタカタ。


 スケさんが歯を打ち鳴らす。


 笑っているのかな? それとも演出?


「うわぁぁぁぁぁぁっ! お、おのれ化け物ぉっ!」


 上ずった声を上げて、男爵が慌てて立ち上がった。だが、その足は小刻みに震えている。


 私は見逃さなかった。


 なんか、さっきの落書きがマッチしているように思えてきたよ。


「閣下! 何事ですか!」


 お、護衛が飛び込んできた。すると男爵はホッとしたような顔で護衛の方に視線を向けた。


 ダメだよ、敵から目を離すと。普通に死んじゃうよ?


 うん。レブロン男爵、戦闘関連はからっきしだね。多分、戦ったことがないんだろう。訓練くらいはしているのかもしれないけど、実戦は一度もないと見た。


 男爵が目を逸らした直後、スケさんが消えた。ふぁさりと毛布が落ちる。


 ナイスタイミングだ。


「は、早く、早くあの化け物を殺すのだ!」


 男爵がベッドの方を指差し喚く。だが、もうそこにはスケさんはいない。

 護衛の男は男爵の指さす方向を見、やや目を細めたかと思うと、たちまち困ったような表情を浮かべた。


「閣下、その化け物というのはどこに?」

「何をいっておるのだ! すぐそこに骨が……骨……が……」


 振り向くが、そこにはもうなにもいない。男爵は口をあんぐりと開けたまま、今や何もいないベッドの上を凝視し続けている。


「閣下?」

「そんな……確かに、確かにいた! 私は頭を叩かれたのだぞ!」

「騒がしいわね。いったい何事?」

「クラリス! 戻っていろ!」


 え?


 聞こえて来た女性の声に私は驚いた。それも、廊下からではなく、男爵の部屋からのみ入れる、続きの部屋の方からだ。

 だって、二階にはふたりしかいなかったハズだ。だって、【生命探知】に反応が無かったんだもの。

 有効距離的にも、見えなかったとは思えない。


 声の方へと私は慌てて視線を向けた。


 隣室へと続く扉から入って来た、ひとりの女性。もう八月半ばとなり、気温もそれなりに高くなっているというのに、極端に肌を隠した格好の女性だ。白を基調としたローブを身に纏い、屋内だというのにフードまで被っている。そして、フードの中に伺える顔は白い面に覆われていた。


 アーモンド形に空けられた目の部分があるだけの、なんの造形もない顔全面を覆う白い仮面。

 でも、それよりもなによりも特筆すべきこと。


 赤にしろ、青にしろ、見えるはずのシルエットが重なっていない。


 不死の怪物(アンデッド)


 うそでしょ? ここで鉢合わせするの!?


 呆然としていると、その女は微かに俯き、周囲を見回した。


「……匂いがする」


 ん?


「ネズミがいるわね」


 女が私の方に右手を向ける。


 え? バレてる?


 そう思った直後――


 バン!


 私のすぐそばに電撃が撃ち込まれた。


 って、どこの暗黒卿だよ! 私も同じことできるけど。


「外した? 逃しはしないわ。ここは私の領域、お前の血は私のものよ!」


 血!? え、吸血鬼!? 例の奴!? え? なんでこんなとこにいんのよ!


 とにかく注意を逸らそう。


『どこを見ている』


 女の背後に【声送り】を使う。ゲームと違って、文言にかなり融通が利くのがかなりありがたい。

 効果範囲内の者は、その声の出どころを確認せずにはいられなくなるなんて最高だ。

 なにより気に入っているのは、クールタイムが五秒という短さだ!


 目論み通り、全員が女の出てきた部屋へと続く扉にくぎ付けになった。


 その隙に開けっ放しだった扉から廊下に飛び出すと、階段側へと一歩跳んだ。そして、言音魔法で分身を廊下の奥に呼び出す。呼び出す直前に、仮面だけ装備変更する。分身で現れる姿は現状の姿。さすがにレイヴンの姿は少々拙い。


 廊下の奥に青白い分身が出現した。まるで幽霊のように見えるその分身は、魔術師系の暗殺者装備に猫面を被った人物だ。


 直後、部屋から出てきた女は、すぐに分身の姿を見つけた。そしておもむろに右手を伸ばす。


「「みぃつけた」」


 女の耳元で囁く。仮面は付け直したから、声は男のものだ。


 予想外以上に上手い具合にハモった。多分、云うだろうと思う台詞を合わせただけなんだけど。

 確実に合わせたかったから、微妙に私の方が遅れているんだけれど。


 だが、効果は抜群だったみたいだ。


 さぞかし驚いたことだろう。


 女は攻撃もせずに、部屋の中へと逃げ込んだ。代わりに抜剣した護衛の男が飛び出してくる。


 今日はここまで。とっとと逃げるとしよう。


 さすがに殺し合いをする気はないよ。現状だと、いろいろ問題にしかならないだろうし。そもそも、殺せるかどうかわからない。

 だって、オルボーン伯爵は、油を掛けて焼き尽くしたらしいからね。それも胸に杭を打ち込んだ上で。


 とにかく、ロクな準備もなしに戦うわけにはいかない。対雷装備なんてもっていないしね。


 ばたばたと屋敷内が騒がしくなる中、私は気付かれることなく脱出することに成功した。


 ふぅ。これでひとまずは安心だ。


 あぁ、でも、吸血鬼が野放し状態でいるのか……。


 一応、教会と王宮に警告だけしておこう。うん。夜明けまではまだ時間があるし、忍び込んで手紙を置いて来ようか。


 それと、対雷装備も作らないと。ゲームだと電撃によるスタン効果はなかったけれど、リアルだとありそうだしね。【氷杭】みたいに効果がえげつなくなってるかもしれないし。

 試しておけばよかったな。




 これからの予定を考えながら、私は距離の近い王宮へと足を向けたのです。




 あぁ、そうだ。万病薬を増産しておかないとね。




誤字報告ありがとうございます。

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