表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/363

11 私、キッカ。今、お城の廊下にいるの


 私、キッカ。今、お城の廊下にいるの。


 ということで、城内をうろうろしています。

 うん、なんというかね、すっかり失念していたよ。

 うん、暗いんだよ。

 ……なに云ってんだお前、夜は暗いのは当たり前だろ、とか云われそうだな。

 いや、電灯とかないからさ。灯りはランプ(? 油を入れた器に芯となる紐を入れて火を点けたもの。硝子等の覆いは無し)か蝋燭だけなのさ。

 おかげで隠れやすいからいいんだけどね。

 ついさっき、【透明変化(インヴィジビリティ)】切れた状態でも、巡回(?)の兵士さんをやりすごせたし。


 ちなみに、いまの恰好は暗殺者装備一式に魔法軽減(スリ補助付き)アクセ。頭だけは竜司祭の鉄仮面(軽装)だ。左半面に手形がべたりとつけられたようなデザインのフード付き仮面で、私のお気に入り。あ、ブーツには【無音歩行】が付与されているので、足音は一切しない。


 で、いまは私が召喚された場所にいる。多分、礼拝堂だと思うんだけど。

 礼拝堂ってお城内にもあるものなの? 西洋のほうのお城なんて、私はよくわからないけど。

 正面にデデンと、ライオン丸の立像があって、右手にディルルルナ様をはじめとする五柱の神様方の立像。

 あ、ライオン丸の背後の太陽を模した旭日旗みたいなレリーフ、あれアレカンドラ様を示したものか。なるほど、御姿が伝わってないのね。


 ……いや、あの幼女姿が伝わったら、ここのひとたち当惑するだろうな。神々の母なる創生神とされてるから。


 ライオン丸の足元には教卓みたいな机。あそこで司祭様とかが説教とかするんだろう。

 ……様付けなんかしたくないけどな。誘拐犯だし。


 左手には……あれ、なんていうの? 懺悔室? がある。

 王室付きの司祭とかいるのかな? これだけ立派な聖堂があるんだから、管理してる人がいるはずだし。さすがに教会関係者以外の者が管理しているとは思えないしね。


 そしてベンチがたくさん。

 召喚の時には片しておいたんだろうな。

 こうして並べてあるところをみると、すぐにはまた召喚する予定はない感じかな?

 それとも様子を見ているのか。

 あのふたりが問題行動を起こしてたら、さすがに二の足を踏むだろうし。

 なんとか確かめられないかな?


 まぁ、それは後回しだ。

 まずはあの召喚アイテムのありかを確認しよう。

 【道標(ロケーター)】の調子から、例のアイテムは城内にありそうなんだよね。


――――(我が視覚に捉え)――――(られぬ霊気無し)

 索敵の言音魔法を唱える。でもまったく聞こえないんだよね。


 【無音魔法発動】の効果で、発動の音声が消されるんだよ。なので、言音魔法の詠唱も聞こえなくなっている。

 ゲームでもそういう設定だったらしいけど、仕様上の問題というか、演出の問題だろうね、ふつうに竜語魔法は聞こえてて、町中で発動しようものなら、うるさいと怒られるんだ。

 で、リアルになった今はどうなったかというと――


 演出? なにそれ美味しいの?


 ということだろう。一応、言音魔法を【無音魔法発動】の例外設定ができるみたいだけど、やったところで『日本語なんてここの連中が分るわけでもなし、このままでいーや』というのが現状だ。


 さて、私の目に赤み掛かったピンク色で、人のシルエットがそこかしこに見える。間に障害物があろうが、問題なくどこに人がいるのかがわかる。

 そういえば、ゲームの時間よりも効果時間が延びてるんだよね。


 ゲームの一時間は四分。だが戦闘はリアルタイムと、ある意味歪んではいる状態だ。まぁ、ゲーム内時間を完全にリアルにしたら、社会人の人なんかはやってられないよ。いつまでたっても一日が終わらないゲームになりそう。ゲームをやってる時間が限られてるわけだしさ。


 と、上に寝てる人が見えるな。礼拝堂の奥が教会関係者の居住区かな? よし、いってみましょ。

 透明になって奥へと進む。自分と自分が装備しているもの以外の物品に影響を与えると、魔法が解除されてしまうため、【透明変化】はやたらと掛け直すことになる。

 扉をぬけると、そこは休憩室? それとも待機室? といった部屋。テーブルが一台と椅子が二脚あるだけ。


 お、奥に階段発見。そろそろと登る。


 階段を登ると、真っすぐに伸びる廊下。左右にふたつずつ扉。そして真正面にも扉がひとつ。人の反応は奥。


 どこから手を付けようか。うーん、手前からいこう。


 左手前の部屋と右手前の部屋は単なる空き部屋だった。


 左奥は財務室? 帳簿やら書類やらが乱雑に置いてある。

 ……これは、消耗品関連の注文書かな? 腹癒せに桁ひとつ増やしてやろ。

 えーと、ペン、ペン……あった。よし……羊皮紙って書きにくいな。


 右奥の部屋。書庫? 特に用はないな。

 ではメインの奥の部屋。


 そっとドアを開け、侵入。入ると同時に【透明変化】を掛け直す。

 扉の前から脇へと移動し、周囲を見渡す。


 赤い豪華な絨毯に、あれはライオン丸のシンボルかな? 刺繍された壁掛けが、正面の壁に二枚掛けられている。その二枚の間に置かれるように、大きなベッドがひとつ。そして、召喚されたとき、宝珠をもってた髭オヤジが、そこで俯せになって寝ていた。


 疲れ果てて、ベッドに倒れ込んだって感じね。あの派手な法衣(?)のままだし。

 ん、あ、宝珠あった。


 ベッド脇のサイドテーブルの上に、燭台の蝋燭に照らされた、ふかふかなクッションの上に置かれた宝珠があった。

 なんか、管理が雑じゃない? この髭オヤジの個人所有なの?

 まぁ、いいや。すり替えちゃいましょう。


 近づくのが怖いので、【念力】で引き寄せ回収。ついで、クッションの上を目標にして、インベントリから替え玉を投下。

 ポスンとクッションの上に落ちた。よし。

 インベントリ、触れたものを収納(生き物不可。死んでいるなら問題なし)し、視覚で指示したポイントへ搬出するというもの。後者の視覚で指示したというのがポイントで、やろうと思えばいくらでも嫌がらせや冤罪を引き起こすことができそうである。


 うむ。あっけなかったわね。

 インベントリ確認。よし【英雄召喚の宝珠】なんてアイテム名になってる。

 ……あれ? これ、鑑定されてるよね? え、インベントリに放り込むと鑑定されるの? 

 ……まぁ、いいか。


 で、さっきから気になるのよね。


 私が見つめる先。それは横たわる髭親父の腰にぶら下がる巾着。

 恐らくあれはお財布だ。

 ということで、スリの練習といきましょう。


 スススと近づき、いざ実践!

 スリなんて初めてだから、緊張するよ。心臓がバクバクいってるし。


 息を止め、手を伸ばし、結び目を解き、お財布ゲット!


 スリ補正凄い、なんか勝手に手が動いた感じだよ。


 気づかれずに成功した。と、このお財布はベッドの上に置いときましょ。

 持って行って騒ぎになるものアレだし。置いておけば、紐が勝手に解けたと思うでしょう。


 かくして私は脱出。


 その後、お城の西翼へ移動。厨房を発見し、食料をいくらかくすねる。

 手持ちのボウルに、作り置きされてたスープを入れて回収。パンをふたつに、チーズを丸ごと一個(あの丸くて大きいやつ)。それとハムも一本。このハム、なんのハムなんだろ? 私のウェストくらいの太さがあるんだけど。重さは……三十キロくらいかな。

 スープとパンはともかく、ほかは食糧庫からくすねてきたから、そうそうバレないだろう。……恐らく、多分、きっと。

 あ、リンゴ発見。ふたつ頂いてこ。


 その後、寝ている人からスリを繰り返し、スリの技量のUPを実感する。

 スリの実入り? ゼロだよ。置いてきたからね。

 そして夜明け頃に牢屋へ帰還。


 ふぅ。これでお城でやるべきことはやったけど、折角だから明日……というか今晩か。今晩もスリの修行をしておこう。


 それに、まだ嫌がらせをしていないからね。あとできたら、犯罪者のふたりには死にやすくなってもらわないと。


 それはさておき、ごはんだー!


 二週間ぶりの食事ですよ。やったあ。


 ……我慢できず、ナイフでちょっぴり切り取ったハムを食べて、腹痛にのたうちました。


 うぅ……。でもハム、美味しかった。


 その後、回復魔法で無理矢理お腹を落ち着かせたら、固形物も問題なく食べられるようになった。

 パンは硬かったけど、チーズとハムを挟んで幸せだったよ。

 思わず泣いたもの。

 後悔したことはひとつ。キャベツとってくればよかった……。




 食事を終えた私は再び城内に出発。今度は探索ではなく、隠密の技量上げ。人が多いところで隠れる方が、技量があがるからね。そして私には【透明変化】というズルがあるのだ。

 まぁ、まだ気配が消せるわけじゃないから、慎重にいかないとまずいけどね。


 かくして、城の使用人たちの集まる食堂や、騎士さんたちの訓練とかにおじゃましてきました。

 隠形技術がガリガリ上がって行くのを実感する。

 しゃがみ歩きが上手くなったんだぜ。


 お昼ごろになると睡魔が襲ってきたので牢に帰還、睡眠。


 そして夜。ここからが本番ですよ、嫌がらせにいきましょう。

 牢屋内はすでに片付け済み。嫌がらせをしたらそのまま脱出だ。

 あ、アレカンドラ様に連絡しておこう。予定より早く終わったからね。

 えーと、魔法魔法と、どれだろ? え?


 ……あの、常盤お兄さん。【コールゴッド】って、神様召喚じゃないでしょうか? 決して神様に電話という意味ではないと思います。




 連絡終了。私が脱出したあと、なにかここに細工をして人払いを解くとのこと。

 アレカンドラ様、なにをする気なんだろ? 機会があったら、聞いてみよう。


 あ、スリの技能、確認したら異様に上がってたよ。やっぱりお偉いさんとか近衛とかはお金いっぱい持ってるんだね。中身は基本見なかったからな。数が多かったのもあるだろうけど。それにしても、財布身に着けたまま寝るのは、やっぱり用心のためなのかな? やたらといたけど。まぁ、おかげで技量があがったからいいけどさ。


 隠形の技量があがったことにより、【隠密歩行】を習得。これは眩惑魔法の【無音歩行】と似た効果を持つ技能だ。ぶっちゃけ劣化版。とはいえ結構優秀なので、装備を暗殺者装備から盗賊装備に変更。早く【無音歩行】を覚えたいね。現状だとまだちょっと不安かな。いや、それなら装備をそのままにしとけって話だけど、スリの技量を上げたいのよ。ブーツにスリ技術上昇の付与魔法が掛けられているからね。

 なんとか今夜で武器までスれるようになりたい。

 ……でもこの付与魔法、なんで足なんだろうね? 前から疑問に思ってたんだけど。


 まぁ、いいや。


 今回は、ちょっと考えていることがあって、極小の魔石を錬成して持ってきてある。王様には酷い目にあってもらいますよ。


 明日より、あなたの人生に平穏は訪れないのだ。


 それでは、行くとしようか。

 もう、ここには戻らないよ!



言音魔法のルビが読みにくいのでこちらに。

『我が視覚に捉えられぬ霊気無し』となっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ