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109 危険人物と認定されたりしませんか?

あけましておめでとうございます。本年度もよろしくお願いします。


 おはようございます。キッカです。本日は八月の五日。

 一昨日、アッハト砦でのお仕事を終えて、昨日は一日のんびりとしてました。いや、大人しくしていないとリリアナさんに悲しそうな目で見られましてね。


 自分じゃ分からなかったけど、喀血した直後は顔色が酷く悪かったらしい。


 心配してもらえるのが、ちょっと嬉しく思っている自分に微妙に罪悪感を憶えていたりするあたり、我ながら苦笑するしかなかったけれど。


 なんだろうね。酷い目に遭っている度合いは、こっちの世界の方が圧倒的なんだけれど、日本にいた時よりも、ある意味幸せですよ。

 『ある意味』なのは、もちろんお兄ちゃんがいないからだ。


 あぁ、そうだ。一昨日、王宮から帰る時にちょっと騒ぎになっちゃったんだよね。ほら、仮面が割れちゃって、素顔を晒してたこともあったからなんだけど。

 イリアルテ家の侍女さんたちは、それまでの数日でなんとか慣れて貰えたとは思うんだけれど、王宮の人たちはそうでもないからね。


 ……顔を見てギョッとした後、跪いて祈るかどうかを迷われるのは非常に困る。迷いなく祈られるのはもっと困る。


 いや、王妃殿下に祈られちゃったんだよ。困るどころの騒ぎじゃないよ。初めてお会いした時は平気だったのになんで!? 思わず慌ててその場で土下座しちゃったよ。私がそんなことしたもんだから、王妃殿下がオロオロしちゃって、危うく収集が付かなくなるところだったよ。


 そこへ王宮の料理長さんが、なんだか朝方に渡したロールケーキのお礼とかで挨拶に来て、やっぱり私の顔を見て呆然としていたし。


 あとから聞いた話なんだけれど、いわゆるプロフェッショナルな料理人の人には、月神教の信者が多いんだそうな。

 アンララー様、料理も担当のようです。


 そんなわけで、やはり私には仮面が必須のようです。そして今は、最初に作った【水中呼吸】の付術付きの仮面を被っていますよ。

 実のところ、こっちを使うのは久しぶり。というのも、さすがに私も自覚というか、理解できたのですよ。魔法の道具の普及度合いを。


 こっちの、北部大陸の人たちは、ほとんどの人が魔法を使えないけれど、魔力を感知することができないわけではないんだよ。なので、見る人が見れば、私の仮面が魔法具と分からなくもないのだそうで。


 まぁ、そこまで能力がある人は、大抵、魔法使いになっているらしいから、一般人が会うことはないとのこと。国に囲われるのだそうな。でも用心に越したことはないからね。


 そういった理由からただの木製の遮光器仮面を主に被っていたんだけれど、思いっきり割れちゃいましたからね。ちょっと悲しい。


 サンレアンに戻ったら、骨鎧の素材で作った仮面を仕上げないと。ドワーフ鎧の制作に掛かりっきりになったから、焼成しただけで、そのまま放置している状態なんだよね。あれは木と違って頑丈だからね。付術してなくとも、そう簡単に壊れたりしませんよ。


 さて、私はまたしても王宮へと来ています。

 ちょっと日が空きましたけれど、勲章を授与されるのですよ。普通に手渡されて終わるのかと思ったのだけれど、本番と同じような形で渡されました。

 本来は国王陛下が直々に勲章を着けてくださるのですが、それは無し。


 理由? それをしたら、国王陛下が私の胸を触ることになっちゃうからだよ。王妃殿下が笑顔でプレッシャーを掛けていましたよ。

 ということで、勲章は王妃殿下が着けてくださいました。


 勲章のデザインは、二匹の蛇が試験管みたいな薬壜に絡み合ったもの。

 【白蛇薬師章】というもので、薬学関連で功績を上げた物に授与される勲章だそうだ。

 私の場合は万病薬云々じゃなくて、錬金薬の調合関連全般に関しての功績、ということだろうね。


 ……正直、これ、自分で成したものではないから、気分的には凄い微妙。というより、悪いことしてる気分の方が大きい。

 まぁ、得られるのは栄誉だけで、実利的な部分は無いようなものだし、まぁ、いいか。


 国としても渡しておかないと、後の功労者に渡せなくなっちゃうからね。『あれだけのことを成した人が貰ってないのに、なんでお前が貰えるんだ!』みたいな?


 それと、私を襲った黒マントの騎士に関して。いまもって見つけることができていないとのこと。必ず見つけ出す! とのことだったけれど、無理じゃないかなぁ。黒マントだけで、他に目立った特徴があったわけじゃないからね。らしい人物を奇跡的に見つけ出せても、すっとぼけられて終わるだろうし。


 まさか審神教の司祭さんを連れ回す訳にもいかないしね。

 こっちは、その内、私が報復しようと思います。


 ……動くとしたら夜中だな。昼間、下手に出歩くと心配されるし。


 で、勲章の授与も終わったから、そそくさと帰ってしまおうと思ったんだけれど、王妃殿下に捕まった。

 お茶のお誘いを受けましたよ。断れませんよ。さすがにそこまで剛なメンタルはしてません。基本、長いものには巻かれるものなのです。


 ……なんか考え方が荒んでないか? 私。こないだ蹴っ飛ばされたことで、精神面が昔の状態に少し戻ってるのかもしれない。


 お茶会といっても身内のこじんまりとしたもの。……いや、こじんまりもなにも、王家の皆様のお茶会に私が混じってること自体おかしいのですが。


 思わず私は助けを求めるように国王陛下に視線を向けましたよ。


 優しい目で返されましたよ。


 頑張れと云われたのか、諦めなさいと云われたのか、どっちだろう?


 王妃殿下からは女神様関連のことを聞かれましたよ。私が神様方と邂逅しているのは知れているからだろうけれど。


 あ、【加護】持ちの人は、皆一度は神様と邂逅しているみたいだね。現実でなのか、夢でなのかはわからないけれど。


 あとは、サンレアンの教会での女神様の降臨についてとか。でもそれ以上に熱心に訊かれたのがアレカンドラ様のこと。


 御姿が伝わってない……というか、失伝しちゃってるからね。


 でも私の知ってる姿は、先任の管理者に幼女にされた姿なんだよね。さすがにそのことはアレカンドラ様の名誉のためにもいうわけにはいかないので、多分、成長したらこんな感じじゃないかな? という推測の姿を説明してきたよ。


 髪色と顔立ちあたりだけだけれど。それならなんとか、問題ないだろうから。


 ……王妃殿下、聞きながらメモを取っていたよ。宮廷画家に、御姿を描かせるんだと、凄い息まいてたよ。


 うん……熱心な信者さんだと、こんなことになるのか。ディルガエアにいられなくなるようになったら、アンラに行こうかと思ってたんだけど、これは避けたほうがいいのかもしれない。


 それと真面目な話がひとつ。


 不死の怪物に対処できる物品がなにかないかと、国王陛下に尋ねられました。


 あるといえば、近衛に納品した炎の魔剣二振りと、あとは献上した神剣(笑)なんだけど。

 (笑)なのは、すごい微妙な性能だからだ。二十五回で魔力切れ起こすし。炎の魔剣は、火の打撃は控えめだけれど、炎上させることを目的にしたから、とにかく回数を増やして七百回以上殴れる。


 一応、この三振りでどうにかなると思うんだけれど。


 そう答えてみたところ、できれば毒殺をしたいとのこと。

 うん、オルボーン伯爵の処刑のための話だった。まだ先のことらしい。というのも、オルボーン伯爵の召喚した吸血鬼が存命だから。

 召喚主であるオルボーン伯爵は、抑止力になるからね。ララー姉様たちが神託を降して処刑を止めたらしい。


 多分、この吸血鬼討伐も、私の所に依頼が来るんだろうなぁ。


 それはさておき、対不死の怪物用の毒。

 となると【聖水】になるんだけれど、まさか私がここで出す訳にもいかないしね。教会を巻き込んだ方がいいかなぁ。


 いや、そもそもだ。魔法じゃダメなのかな?


 訊いてみた。


「魔法か……」

「魔法に関しては、少々面倒なことになっているんだよ」


 アキレス王太子殿下が苦虫を噛み潰したような顔。


 あれ?


「あの、なにか問題がありましたか? 教会で販売しているものですけど。威力的には見習級なので少しばかり弱いですが」

「あぁ、いや、販売の始まった魔法が問題じゃないんだ」

「魔法兵団の三人がね、ちょっとごねているんですよ」


 アキレス王太子とアレクス王子殿下が答えてくれた。


「そういえば、魔法兵団があるんでしたね。なにか不満がでているんですか?」

「いや、我々がいるのだから、そんな金で買える魔法擬きなど要らぬだろうと」


 ……いや、神様から普及を命じられたのですが。

 アレカンドラ様に確認を取ったら、お願いされたし。

 そういえば、また少し不健康そうになってたな。話には聞いていたけれど、どれだけ前任者は無能だったのさ。


「プライドの問題なんですかね?」

「火の玉をひとつふたつ出しただけで、力尽きてしまうのです。役にも立っていないのに、プライドもなにもありません」


 セレステ王女殿下、辛辣ですね。

 というか、それで魔力切れって、どれだけ効率が悪いんだろ?

 【火炎球】なら、私、素だと何発ぐらい撃てるだろ? 確か熟練級だったよね。となると、いいところ四発ぐらいかな。というか、この魔法、対個体用だから使ったことないんだよね。大抵は玄人級の【爆炎球】を使うから。


 そうそう、魔法の消費魔力が、ゲームとちょっと違っているんだよ、基本、魔法の等級でほぼ一律。一部例外的な物がある感じ。


 素人:二十~五十

 見習:百~二百

 玄人:三百~四百

 熟練:五百~七百

 達人:千以上


 こんな感じ。


「私も似たようなものですけど。装備の補助がないと、三発撃てればいいほうですよ」

「火の玉が撃てるんですか!?」

「えぇ。一応、私も魔法使いの端くれですし」

「ちなみに、キッカ殿はどの程度の範囲に効果のある火の玉を撃てるのかね?」


 国王陛下の問い。


「範囲魔法の方ですか。そっちでしたら、撃てるのは六発くらい。範囲は、半径五メートル程ですよ」

「五メートル!?」

「あはは、凄いな。アイツらの五倍の範囲だよ」


 五倍!? え、なに、そんなに差があるの!?


 というかアレクス殿下、あいつらって、もしかして魔法兵団の人たちが嫌いなんですか?


「キッカ殿」

「あ、はい。なんでしょう? 国王陛下」

「その魔法の販売はどうなっているのかね?」

「攻撃系の魔法ですか? 見合わせています。誰でも手軽に身に付けることのできる、攻撃用の魔法なんて問題しか起こりませんからね。なので、現状では販売する予定はありません」


 冗談じゃなしに、魔法は危険物みたいなものだからね。ファンタジー物だと、その辺りの法整備というか、対処はどうなっているんだろうね?


 放火魔が火系の魔法を覚えようものなら、性質が悪いどころじゃなくなると思うんだけど。

 それこそ、どっかに監禁しとけってことになるんじゃないかな。


「なるほど、それで販売されている魔法のラインナップが、基本的に補助系のものばかりだったのか」

「えぇ。比較的、問題の無いものを選びました。攻撃に使える魔法は、対不死の怪物用のものだけですね。あれは人に撃っても無害ですから。びっくりはしますけど」


 私が答えると、国王陛下は考え込むように顎に手を当てた。


「キッカ殿、一度、その火の球の魔法を見せてはもらえないだろうか?」


 え? 国王陛下、なんでそんなことを!?


「え、えーと、やらないとダメですか?」

「なにか問題があるのかね?」

「私、危険人物と認定されたりしませんか?」


 冗談じゃなしに心配なんだけれど。


「正直に申しますと、勲章伝達式への出席辞退を願い出たのは、私が魔法使いだからという理由もあったのですよ。

 武器もなしに、離れた所から簡単に人を殺せる者を呼ぶべきではありませんからね。絶対的に対処できる確証がないかぎり」

「そのために近衛が側に控えておるのだが、少々、魔法に対する警備を考え直した方がよいかもしれんな」

「南方人の暗殺者、なんてものが雇われる可能性もありますからね」


 やっぱり暗殺とかあるのか。ディルガエアは平和そうに見えるけど、水面下ではいろいろあるのかな?


「まぁ、暗殺騒ぎなど、ディルガエアでは数百年起こっていないがな」


 ないんかい! いや、ない方がいいんだけれどさ。まぁ、用心するに越したことはないよね。




 さて、そんなわけで、なし崩しに魔法を撃つことになってしまいましたよ。


 只今私は、ロイヤルファミリーに囲まれるようにして、修練場へとやって来ました。

 この修練場は魔法使い専用のようで、そこかしこに焦げ跡がある。もっとも、その跡は結構前のもののように見える。

 きっと、魔法使い連中は、修練に熱心ではないのだろう。


「どこを狙って撃てばいいでしょう?」

「あそこの的になっている、丸太を撃つといい」


 国王陛下が指さした先。そこには鎧を括りつけられた丸太。なんだか案山子みたいにも見える。


 あれが的か。


「それでは、撃ちます!」


 右掌に魔法をセットし、的に向けて手を伸ばす。


 【爆炎球】!


 私の右掌から撃ちだされた炎の球が、炎の尾を引いて的へと飛んでいく。結構なスピードだ。


 そして狙い違わず。火の玉は、壊れた鎧を括りつけた丸太に着弾した。

 火の玉が炸裂し、一気に周囲を放射状に炎が覆い、消えた。


 的となっていた丸太は消し飛び、鎧の残骸が転がっているだけとなった。


「的が消えた!?」

「いえ、お兄様。あそこに、奥に転がっています。その、消し炭みたいになっていますけれど」


 セレステ様の指さす方に目を向ける。そこには、燻り、白い煙を立ち上らせている丸太が転がっていた。真っ黒こげで、ところどころ灰となったのか、白くなっていた。


 焼失したのかと思ったら、あっちまで吹っ飛んだのか。


「凄いな。範囲が広くなるとこれ程になるのか」

「これだけの威力であれば、魔物の大群にも有効そうですね」


 アレクス殿下とセレステ様の会話。


 セレステ様、意外に好戦的ですね。武闘派なのかな?


「乱戦だと、味方を巻き込みそうだな」

「巻き込みますよ。ですから、大抵は会敵した直後にぶっ放すのが基本でしょうね。あとは味方の支援に回る感じでしょうか」


 アキレス王太子殿下に答える。実際、魔法使いの役割は、敵の数を大雑把に減らすことだろうからね。




 その後、お茶会を再開。お昼過ぎにお開きとなりました。


 うん。疲れたよ。王家の皆様とお茶会だなんて、小市民の私にはハードルが高すぎます。

 やらかしやしないかと、戦々恐々です。


 もう、部屋に引き籠ろうかな。


 いや、そんなことをしたら、イリアルテ家の使用人の皆さんに迷惑が掛かるな。


 あぁ、明日こそ平穏にお買い物に行きたい。せめて商店の並ぶ表通りには行きたい。

 なんのかんので入り口にまでしか辿り着いてないよ。

 買ったものが、あの、罠だった串焼き肉だけだよ。




 王都に来てからの事を思い返し、私は馬車の中で大きくため息をついたのです。



 明日もトラブルに巻き込まれるフラグが立ってなきゃいいけど。




誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] アンララー様に似ているという展開を見る度に、ディルルルナ様にも似ているはずなのに…!とちょっぴり悔しくなります。ディルルルナ様の国なのに…! キッカさんが素顔(と胸部)をじっくりと見られて、…
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