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Xクエスト~魔界の勇者~  作者: 平 カケル
序章 希望クエスト~封印の勇者~
1/69

絶望と封印。そして解放

 こんなはずじゃなかった。


 オレ達6人全員の力を合わせて、目の前にいる巨悪の根源を打ち滅ぼし、無事にみんなで生きて帰って祝勝パーティ。そのまま皆で、平和になった世界で暮らす。


 それを夢見て、これまで色々頑張ってきたってのに……。



「アスカ……。ソラ……。シオン……。マナカ……」



 横たわる4つの亡骸を見て、少し前までその名前だったものを口にする。

 4人は今日まで一緒に戦ってきたオレの大切な仲間。そして、家族同然のような存在。

 たとえ自分が死んでも、こいつらだけは絶対に守る……はずだった。

 

 他の4人はもうこの世にはいない。

 そして、生き残ってしまったのはオレ達2人。


 生き残ったことに対して素直に喜べばいいのか。

 家族同然の仲間を亡くしたことに泣き叫べばいいのか。

 今のオレにはもうよくわからなかった。


 ただただその場に立って、そのまま全身が震える。

 


 戦いには勝った。でも勝負には負けた。


 それがオレの思う結果だ。


 もしもあと一人。

 あと一人だけ、オレと同じチカラを持つ奴がいれば……。

 もしかしたら、あいつらを救えたかもしれねえ。しれねえんだよ……。



「…………」



 いや、よそう。そんなこと考えても、もう遅い。もう、何もかもが。


 だが、まだ一つだけやることがある。

 それをやって、ようやく全てを終えることができる。それをやることが、生き残ってしまったオレに残された、たった一つの責務。


 この後のことなんて知らねえ。


 だが、それをやることで、少なくとも、目の前で4つの亡骸の前に跪いて、全身を震わせているコイツと、この世界に住む連中だけは守ることはできる。



「…………」



 どうしても止まらない震える身を、心で必死に抑えながら、オレは無言でゆっくりと出口に向かう。


 その動きに気が付いたのか、オレと同じように生き残ったそいつは、震える胴体を起き上がらせ、声を擦れさせながらもこう言った。



「行かないでくれ……待ってくれよ」



 そいつは必死に這いつくばりながらも、オレの後ろで必死に手を伸ばす。

 でも、オレはそれを見ることもなく、ましてや足を止めることなく、出口の扉をゆっくりと開ける。



「君までいなくなったら、俺は、いったいどうしたらいいんだ……」



 震え声で、そいつはオレに聞いてくる。オレははっきりとこう答えた。



「生きろ。そいつらと……オレの分まで」



 オレにそんなこと言える資格があるのかどうかはわからなかった。


 本来、死んだ4人を守るのがオレの役目だったからだ。

 けど、守れなかった。役目を果たすことができなかった。もう、オレが、生き残ったそいつにしてやれるのはこのくらい。



「あとは頼むわ……。もう、オレにはこれくらいしかやれそうにねえ」



 出口の前で、オレは右手で持っていた剣をゆっくりと上に掲げる。そしてその剣は綺麗に、青白く光輝きだす。

 その色はまるで、さっきまで生きていたはずのアイツの髪と同じ、青くて綺麗な、空みたいな色だった。


 アイツらを死なせた張本人が、今この剣の中にいるってのに、なんでこんなにきれいな色してんだろうな。


 ……もう、わけわかんねーや。


 剣から放たれる、その青白い光がやがてオレの体全身を包み込む。

 段々とと薄れていく意識の中で、オレは最後に涙を流しながらこちらを見上げるそいつを見て、無理やりニィっとほほ笑んだ。



「カネル達によろしくな。じゃあ……長生きしろよ……な…………」

 


 声もかすみ、青白い光が完全になくなるころ、オレはそっと目を閉じる。


 思い出すのは、今まで一緒に過ごしてきた仲間との記憶。皮肉にも、楽しかった思い出ばかりが脳内で再生されていく。



 でも、この脳内映像の中にいるアイツらはもういない。



 その事実が、心臓の奥底で重い鉄の塊みたいなものがのしかかって、息苦しくなる。守れなかった罪悪感なのか、この青白い光の影響なのか、それすらも最早今のオレにはわからなかった。



 こんな思いするなら、もう、仲間なんて作らねえほうがいいのかもしれねえな……。



 青白い光と共に、自分の心と体が完全になくなるころ、目の前にいたそいつは、涙を流しながらオレの名前を叫んだ。



「ゼロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」



 その声を最後に、全身の感覚がなくなり、目の前が真っ暗になった。

 



 【……こうして、オレと巨悪の根源。

 いや、一人の勇者と魔王は、共にこの剣の中で眠りについた。そして、それから……】











 それから、いったいどのくらいの時間が経ったのだろうか。

 









 何も見えない。


 何も聞こえない。


 ただただ暗い闇の世界。

 


 自分が一体誰なのかもわからない。




 なぜ息をしているのかさえ分からない。




 どうして意識があるのかもわからない。






 ……そんな感覚に陥った頃。






「紫色の髪をした子供を助けろ」





 突然、そんな音が聞こえてきた。


 物音一つすらしないこの闇の世界。

 その音は耳からではなく、頭の中に直接響くように聞こえてきた。



「紫色の髪をした子供を助けろ」



 同じ音が繰り返し頭に響き渡る。



「紫色の髪をした子供を助けろ」



 ムラサキイロノ……カミヲシタ……コドモ。



「そうだ、紫色の髪をした子供だ」



 声も出せないこの世界で、その音は自分の心の中を覗いていた。



「いいか、その子供を何が何でも助けるのだ。これは命令だ」



 メイ……レイ。

 タスケ……ル。

 ムラサキイロノ……コドモヲ。



「そうだ、何が何でも助けるのだ」



 自分の心をのぞき込んでいるその音は、次々と音色を変えていく。



「時間がないな。最終確認だ」



 ジカン……カクニン……。

 自分がその音色の意味を悟る前に、音色は今までで一番大きな音を放つ。



「紫色の髪をした子供を助けろ! 絶対にだ! わかったな!?」



 オマ……エ……ハ?



 自分がその音色の素性を探りだし始めた直後、音色は最後の音を放つ。



「我は魔王。我が力によって、今こそ封印を解き放たん」



 マ……おう……?


 お……まえは……!



 オレがその言葉の意味を理解し始めた頃。

 音色であったその声は、この闇の世界を真っ白な光で照らし始めた。



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