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「今日はどうして戻ってきたの?」
神社の石段をのぼり、灯籠の灯りに照らされて拝殿の階段に腰掛けた。
「おばあちゃん達の引っ越しの荷造りにきた」
「へぇ。優しいね」
たこ焼きを頬張りながら幸せそうににやけるしゅうさん。
「君は?」
「君じゃないってば。しゅう! 私は昔からここにいるよ? あいらぶ此処だから」
「都会に住んだらもう此処には戻ってこれないよ。不便すぎて」
「都会がどんなものかわからないから何も言えないからなぁ」
「いやでも此処よりは開発の進んだところにいくでしょう」
「んー。まぁ、どうだろうね。あはは」
まだ引っ越し先が決まってないのだろうか。
なかなか大変だろう。お金は大量に貰えるかもしれないとはいえ、長らく住んでいた土地を捨てるのだから。
頭では分かっていても、心は別だ。
「そーいえば、あの子は? 何だっけ?ユキちゃん」
「ユキちゃん……?」
「昔好きだって言ってたでしょ? どうなったのかなって」
「何で知ってるの……。どうもこうも、ここを離れてそれっきりだよ。あの子もここを出たのかな」
夜の闇を撥ねるように、灯籠の幽かな光を求めて蜻蛉たちが暗い空を飛び回る。
「何でもなにもあんなにたくさん話してくれたじゃない。そっかぁ失恋しちゃったのかぁ」
恋愛沙汰について誰かに話したことなどないはずなのに。
「失恋というよりは薄れて無くなったって方が正しいかな?」
「今年こそお祭りに誘って一緒に綿あめを食べるんだって意気込んでたくせに?」
「そんなの子供の頃の話でしょう」
「英祐君も大人になってしまった……。昔はあんなに可愛かったのに」
昔の俺が小さい頃は貴女も小さいと思うけど……。
「近所のおばさんみたいなこと言って」
「わたしゃもう歳じゃよ……」
「それなのに口を真っ赤に染めて食べれるそれはなんだ」
「ただのりんご飴sサイズです」
「歳の人がそんな初恋の人に話しかけられた時のような純粋な目でりんご飴なんて囓らないとおもうけど?」
「ちゃんとsサイズにしてるところを評価してよ。あと囓ってないもん。ぺろぺろしてるし」
飴のせいで緋色に染まった唇を、キスをするように突き出してみせる。
側から見るとキスを強請っているシーンに見える。
もちろんキスなんてするわけもなく代わりにチョコバナナを突っ込んであげる。
ところで本当に誰なんだろうか……。ここまで経っても思い出せない。