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「あれ? 英祐……君?」
「ん?」
突然、背後から声をかけられて振り返る。
そこには紫苑の刺繍が施された綺麗な白い浴衣を着た女の子が立っている。
だれ、だろうか……?
「久しぶり! なんでいるの⁉︎ 1人?」
「え、あぁ……。うん」
「もー忘れたの? しゅうだよっ。ぼっちなら一緒に回ろ」
こちらの反応を待たずに、手を握って歩きだす。
ちょっと待って。誰……? しゅうさん?
考えても頭には浮かんでこない。
手を引き、前を歩く女の子。短い髪に可愛い紫苑のヘアピンを刺して、楽しそうに左右のお店を見て目を輝かせている。
こんな容姿の子は忘れるとはなかなか考えにくい。同い年ぐらいに見えるので、俺がいた頃は子供なわけだし参考にならないかもしれないけど……。
「美人局……?」
もうそれくらいしか浮かばない。
お金を取られてしまいそうだ。所持金3000円しかないけど。
「ん? なにそれ。それより何から回る? やっぱりたこ焼き? 焼きそばもあるよ!」
こちらの悩みなど我知らず、手を振り地を蹴り自由な子だ。
「あ、型抜き! 一緒にやろやろっ。稼いでお店のおじさん泣かせちゃおう」
型抜きのお店に入って50円で2枚買い、席について画鋲を使って型をくり抜いていく。
地道に削っていく根気のいる作業だ。
「あー、難しい。おじさんもう1つ!」
どうやらもう終わってしまったみたいだ。
この子の性格じゃ難しそう。会ったばかりだけど。
「英祐君上手いねー。プロじゃん?」
失敗した型抜きをもぐもぐとしながら覗いてくる。
乾いた風がそんな彼女のいい香りを運んできて、集中できなくなる。
「あっ」
「割れちゃったねー。残念」
「まぁ、こんなもんでしょ」
隣を真似て失敗したピンク色の欠片を口に運ぶ。
独特の味だなぁ。あんまり好きじゃないや。
「要らないんだったらもらっていい?」
纏めたカケラを指差してこちらに訪ねる。
「どうぞ」
「ありがとー。それにして驚きだよね、ここが沈んじゃうなんて」
「そう……だね。まさかダムの底になっちゃうとは」
「寂しいなぁ。ここなんだかんだで好きだったのに……。昔っから廃れてるけど」
「故郷がなくなるのはやっぱり寂しいものだね」
「その故郷を捨てたくせにー」
「親の都合だもの仕方ないよ」
「そっかぁ。そんな理由だったんだ。あ、また失敗しちゃった。次行こ次!」
口に全部流し込んで、ボリボリと音を立てながら次へ向かう。