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黄金の稲穂が大地に頭を垂らし、緩く乾いた空気を照らす真っ赤な夕日に包まれた空を、自由に蜻蛉たちが飛び回る。
「懐かしいな、ここも……」
山の麓にある小さな町。
町というよりは村といった方が的確かもしれない。
小さい頃、おばあちゃんの家があってここに住んでいたのだ。親が街に出た時に家族で引っ越してしまったが。
「あら、英祐いらっしゃい。きてくれたのね」
「まぁ、ね……。ちょうど学校も少し長い休みに入ったから」
「ありがとね。お母さん達は来ないのかしら」
「うん。仕事が忙しいみたいでね。だから俺だけで手伝うよ」
「ごめんねぇ。歳をとると重いものを荷造りするのが辛くて」
「いいって。ほら座ってゆっくりしてなって、やっとくから」
今日はおばあちゃん達の引っ越しの手伝いに来た。
もうこんな山奥の田舎に来ることはないと思っていたけど……。
懐かしい匂いのする廊下を進み荷造りの為に部屋へ向かう。
時代遅れのブラウン管に電気ストーブ。こんなものは置いていけばいいのに。