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第六話 攻略対象者、クロー・ナシュウェル

私はいじめの被害に遭わないようになるべく一人で過ごすことにした。しかし、この学園では唯一親しい友人と呼べる人がいた。それが、幼馴染のクロー・ナシュウェル。クラスは違うが、時折私をみかけては声をかけてくれていた。

「よぉ!リリーダ!」

「クロー。元気ですね。」

私の幼馴染は、いつもニコニコとしており、周りからは軽いやつと言われることが多い。両親が貿易の仕事をしており、お金持ちなのだが、誰とでも気軽に話すせいか私にも分け隔てなく接してくれる。

「この前会ったっていう、王子様はどんな感じだったんだ?」

「誰のこと?3人とも王子様だったんだけど。」

「完璧王子と、弟王子と、無口王子の3人とも!」

「ちょっと!ひどい言い方しないで!皆さんとても素敵な方よ。怒られちゃうわよ?」

「ははっ!まぁ、知りたいことあったら聞いてくれよ。俺は情報のことならドンとこいだぜ。」

「もう!・・でも、いつもありがとうね。」

「おう!」

クローは物知りで、人物に関することもなんでも答えてくれる。最近仲良くなった4人についても知っているみたいで、教えてくれた。私が彼らのことを話す時も嫌な顔せず聞いてくれる。


そんなある日のことだった。

「よぉ、リリーダ!ちょっと時間いいか?」

「どうしたの?」

クローから声かけられそちらを見ると、とても小さな女の子が一緒にいた。可愛らしい外見をしているのに、表情はなく人形のような少女だと感じた。小動物を思わせる風貌だ。

「こいつ、アリミナール・ブラックレス!俺の婚約者なんだ。」

「え!?」

「はじめまして。」

「あっ、はじめまして!私はリリーダ・キャラベルです。」

この小さな女の子が話したことも驚いたが、クローの婚約者であることにも驚いていた。

「リリーダには話しておこうと思ってさ。」

「そ、そうなんだ。」

「じゃあ、引き留めて悪かったな。」

そう言って二人は歩いていってしまった。私は、なんだか胸の奥が痛めつけられているかのような感覚に動揺していた。


アリミナールとクローは同じクラスのためそのままクラスに向かっていた。

「アリミナールも、わざわざありがとうな。」

「別に。・・・クロー君わかりやすい。」

「え!?何が?」

「顔に書いてある。」

「いや、何が!?」

「好きなんでしょ?あの子のこと。」

「え!?なんでわかるんだ?」

「わかる。」

「うっ、なんかごめん。」

「手伝ってあげようか?」

「え?」

クローはアリミナールに見抜かれていたことも驚いていたが、アリミナールがこんなにしゃべるところも初めてみたので驚いていた。


「ねぇ。」

リリーダは、お昼時間に一人で昼食を食べていた。その時に後ろから話しかけられた。

「はい?あ、アリミナールさ・・ま?」

小さな女の子のアリミナール・ブラックレスに声をかけられた。そして、なにも言わずに私の隣に座った。まるで、効果音でちょこんと付け足したかのように。

「ねぇ、クロー君について教えて。」

「え?」

私は驚いていたが、聞かれたことなので答えることにした。

「クローは、えっと・・。すごくいい奴で、なんでも知ってて。」

アリミナール様は何も言わずに私の話に耳を傾けている。

「みんなからは、軽い性格していると言われますが、そんなことなくて、友人を大切にしてくれるし、誰とでも仲良くなれる人で。面白いと思ったことには一直線で。困った時は必ず助けてくれる人です。幼馴染で良かったと思っています。」

聞かれたことについて話していたが、これで良かったのか少し不安になった。

「・・そう。あなたは相応しくない。」

「え?」

「いえ、私には相応しくない。」

「どういうことですか?」

「あなたとのほうがお似合いではなくて?」

「え?」

さきほどまで小さな声であったのに、アリミナールははっきりと答えた。

「私には彼のような婚約者必要ありません。いつも話しかけてきて迷惑なんです。静かにしていただきたいわ。」

「そんな!それはクローの優しさです!」

「迷惑な優しさなど、いらないものです。あなたには・・必要なのかもしれませんね?」

「え?」

「では、失礼。お父様に言って婚約破棄してもらわなければならないので。」

そう言い残してアリミナール様はどこかに行ってしまわれた。彼女の言葉が理解できずにいた。でも、わかったこともある。自分がどんな気持ちだったのか、いまさら知ることになるなんて遅いよね。それでも私は動き出した。


「クロー!」

「おお、リリーダか。息切らしてどうしたんだ?」

私は、走ってきたため両手を膝について呼吸を整える。その間にクローから話しはじめた。

「実は・・さ、お前に謝らないといけないんだよな。」

「え?・・何?」

「アリミナールがなんか言ったかもしれないけど、俺のせいなんだ。」

「えっと、よくわからない。」

突然のことでリリーダは混乱していた。

「あいつ案外いい奴だったみたいなんだよ。俺が、婚約に乗り気じゃないってわかってたみたいでさ。」

「クロー、あの私・・。」

言葉をいう前に、クローはリリーダをそっと自分の胸に抱き寄せた。

「俺には、お前だけだ。ずっと一緒に育ってきたお前以外考えられない。これからも傍にいてくれないか?」

いつもニコニコしている顔とは違って、真剣な顔をして伝えてきたクロー。こんなことを言ってもらえる日が来るなんて思いもしなかった。その時は、とても幸せな瞬間だった。


これが私のハッピーエンド。


あの人のことは相変わらず知らないままだ。


あの人はどんなエンドを迎えたのだろう。


アリミナール・ブラックレス、クローの元婚約者。私はハッピーエンドになるまで知らなかったのだ。彼女が、自ら引き下がってくれたことを。


誰もいない場所で、アリミナールは独り言を呟いた。

「好きになって良かった。」

そして、その独り言は誰にも聞かれることはない。

瞳から大量の涙を流すアリミナールは、そこで笑顔になった。それはとても可愛らしい外見に合って、人を魅了するかのような笑顔であった。

「私の・・初恋でした。」

そして、アリミナールはそのつらい気持ちをとめるために行動に出たのだ。


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