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第五話 攻略対象者、ナリク・グルテン

私はいじめの被害に遭わないようになるべく一人で過ごすことにした。一人になる時間が欲しくて、たまたま近くにあった体育館に隠れるように入ってしまった。そんな時に声がした。

「おい!体育館の使用許可は取っているのか?」

いきなり怒鳴ってこちらに近づいてきた男の子がいた。体育館の舞台から颯爽と降りてきた。

「あ、あの、ごめんなさい。」

「用がないならとっとと帰れ。」

「あ、あの、その衣装・・『月夜の花』に出てくる・・。」

「知ってるのか?」

先ほどまで怒鳴っていた男の子は、自分の衣装について聞かれると話してくれた。

「私、その本大好きで何度も読んだんです!」

「ああ、内容が面白いよな。今ちょうど劇でそれをやるから練習してて。」

「あれをやるんですか!ぜひ見てみたいです!」

「そ、そうか。」

それが私とナリク・グルテンの出会いだった。それからというもの、何か理由をつけて体育館に行けばナリクが嫌々ながらも相手をしてくれた。


時折、ナリクに付き合って台本読みを付き合うことが多くなっていた頃。

「ナリク君は本当はすごく優しいですね。」

「はぁ!?何言ってんだ。お前が変わり者の間違いだろ。」

怒りながら言っているが、ナリクは本心では怒っていないとリリーダは感じた。

「ナリク君は勘違いされやすいですよね。もっと笑顔でいればいいのに。」

「知らないやつにニコニコ振りまくほど、俺は優しくないんだよ。」

「でも、時々笑顔をみせてくれるじゃないですか!」

「そっ、それはお前だけっ・・な!なんでもない!」

「どうしたんですか?」

「うるさいっ!」

なにやら考え事をしているナリクを他所に話を続けることにした。

「自分のやりたいことを見つけて、それに向かって頑張っている姿をみて私も応援したくなります!」

「そ、そうか。ありがとう。」

恥ずかしそうにお礼を言うナリクをみて少し驚いてしまったリリーダがそこにいた。


そんなある日のことだった。いつものようにいじめがあった。しかし、その日はいつもと違った。


「庶民の方がこんな学園に来られるなんてありえませんわね?」

「本当に!学園の品位が下がりますわ。」

「それに、最近有名な舞台役者の息子に取り入ろうなどと考えているのではなくて?わたくし、みましたのよ?」

「まぁ、なんて醜悪な。」

私のことはなんと言ってもらってもいい。しかし、私の友人のことまで話に出すなんて許せない。あの方は私にとって、とても大切な方なのだから。そう思った私は沈黙を破った。

「あの方は関係ありません!変なことをいうのはやめてください!」

そんな時だった。後方から私たちの近くに来た人がいた。

「通行の邪魔です。」

とても小さな女の子だった。可愛らしい外見をしているのに、表情はなく人形のような少女だと感じた。小動物を思わせる風貌だ。

「アリミナール様」

私をいじめていた一人がそんなことを呟いた。

「ナリク様のことを仰っていましたか?あなた・・・。」

小さな女の子は私をみて話を続けた。

「あなたは相応しくない。」

表情を一切変えることなくそう言葉を残して歩き去っていった。もちろんいじめていた人たちも一緒に去っていった。

その出来事があり知ったことは、あの女の子はアリミナール・ブラックレスという名前で、ナリク君の婚約者らしいということ。

どうやら、私の初恋は見事に玉砕されてしまったようだ。少し落ち込んだが、くよくよはしていられないと思っていた。


あの出来事があった後もナリク君との時間は続いていた。それに対してアリミナールという婚約者から直接なにかを言われたことはなかった。

しかし、あの日からいじめられていた現場にちょくちょく現れては同じようにこう言うのだ。

「あなたは相応しくない。」

そういってまたいじめは終了して、彼女たちは消えていた。

それが何度も続いたのだ。ある時から私は少し考えていた。なぜあのアリミナールという子は、何も言ってこないのだろうと。


「お前のこと、少しはわかるつもりだ。俺も、周りによく勘違いされるからな。」

「・・・。」

「それでも、俺にとってのお前はただの親が用意した飾り物でしかないと思っている。」

「・・・。」

「聞いているか?」

ナリクは小さな女の子に、アリミナールに向けて話かけていた。

「何も言わなくていい。」

「だが・・。」

「お願い。・・・言わないで。」

「アリミナール?」

「あなたの考えなんてお見通しです。とても素敵な出会いがあったのですね。」

「別に、そんなんじゃない。勘違いするな。」

ナリクが言い終わる前にアリミナールは体育館から出て行った。


体育館から出て行ったアリミナールは扉を閉めたところでリリーダ・キャラベルと遭遇した。

「あ、あなたは・・・。」

リリーダのほうが先にアリミナールに気づいた。アリミナールもリリーダに気づいて目が合った。

「ごきげんよう。」

アリミナールが挨拶してきたことにリリーダは驚いていた。

「あっ!こんにちは!」

しどろもどろにしているリリーダをみて、アリミナールは笑いかけてきたように見えた。そのことにもリリーダは驚きを隠せない。

それ以外は何も言わずにアリミナールはその場から去っていった。


アリミナールの姿が見えなくなるまでリリーダは放心状態であった。独り言を無意識に呟いていた。

「とても可愛らしい笑顔でした。」


しばらくして、体育館の扉を開けた。

「ナリク様、失礼します。」

「リリーダ、待ってた。」

「あら?今日は制服なんですね。いつもの読み合わせはいいのですか?」

「今日は、お前に言いたいことがあったからな。」

「どうしたんですか?そんな真剣な顔して。」

「一度しか言わないから、聞けよ。」

「はい。」

「お前のバカみたいに明るいところとか、空気読めないとこもあるけど何にでも一生懸命なとことか、俺はいいと思う。」

顔を赤くしているナリクは自分の手で顔を隠そうとしている。

「褒められてるんですかね?」

真意を理解できないリリーダは疑問が浮かぶ。

「だからっ!本当に鈍感だよな!お前のこと好きだっていいたいんだよ!」

「えっ!?」

お互い赤面してしまった。

ナリク様からこんなことを言って頂ける日が来るなんて思いもしなかった。その時は、とても幸せな瞬間だった。


これが私のハッピーエンド。


でも、あの人は違った。


あの人はバッドエンドだった。


アリミナール・ブラックレス、ナリク様の元婚約者。私はハッピーエンドになるまで知らなかったのだ。彼女が、私をいつも助けてくれていた悪役令嬢だということに。


「アリミナール様!いいのですか!?」

先ほどまでリリーダ・キャラベルをいじめていた一人がアリミナールに対して怒るように質問した。それに対してアリミナールは、いつものように表情が出ない。

「なにがですか?」

「あのリリーダ・キャラベルはアリミナール様の婚約者と密会を繰り広げているんですよ!許せないことではないですか!」

「やめなさい。」

「でも!」

「私がいいと言っているんです。これ以上いうなら、あなたのその可愛らしい顔がなくなりますよ?」

そう言ってアリミナールは手から大きな炎を出して脅していた。

「ひっ!申し訳ありません!」

そうして、いじめていた人たちは去っていった。誰もいなくなった後、アリミナールは独り言を呟いた。

「絶対に最後まで好きだったなんて言ってやりません。」

そして、その独り言は誰にも聞かれることはない。

それからというもの、アリミナールはリリーダ・キャラベルという女の子を見かけては、いじめを終息するように取り計らっていた。


しかし、そんな日々も終了の合図を告げる。


アリミナール・ブラックレスは婚約者から婚約破棄されたのだ。

二人の元から去っていったアリミナール。いつものように表情には現れない。いや、その時ばかりはいつもと違った。瞳からは大量の涙が出ていた。本人さえも驚くほどに。

「ふぅうぅぅっ!」

ハンカチで瞳から流れるものを拭きとろうとも、それは止まらなかった。

「自分だけ好きなんて、最低ですね。最低の気分です。でも、この気持ちはとても大切な気持ちです。この気持ちだけは私のものです。ナリク様には幸せになってもらわないと困ります。」

瞳から大量の涙を流すアリミナールは、そこで笑顔になった。それはとても可愛らしい外見に合って、人を魅了するかのような笑顔であった。

「私の・・初恋でした。」

そして、アリミナールはその胸の痛みをとめるために行動に出たのだ。


リリーダ・キャラベルは後に知るのだ。アリミナール・ブラックレスが亡くなったことを。そして、いじめていた人たちや、周りの人物から話を聞いた。アリミナールは自分を助けてくれていたこと。いじめを終息させるために、リリーダ・キャラベルをいつも探してくれていたこと。


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