第四話 攻略対象者、ガイ・ブルスタール
私はいじめの被害に遭わないようになるべく一人で過ごすことにした。しばらく一人で過ごすことが続いていたが、ある時昼休みの時間に、学園に生えている枝に手を引っかけて怪我をしてしまった。そんな時に話しかけてきた人がいた。
「・・・大丈夫?」
「え?」
突然に話しかけられたため驚いてしまった。
その方は私の手をみて、自分のハンカチを取り出して怪我の手当てをしてくれたのだ。突然のことで驚いてしまったが、私はそのままお礼を言った。
「あの、ありがとうございます。」
「・・・うん。」
その一件があってから、すれ違う際は挨拶をするようになった。そんなある日、彼のほうから声をかけてくれることがあった。
「・・名前知らない。」
「あ、申し遅れました。私はリリーダ・キャラベルです。」
「リリーダ、俺はガイ・ブルスタールだ。」
「ガイ様・・。」
はじめて名前を知ることが出来た。ガイ・ブルスタールという人は、口数が少なく何を考えているか、いまいちよくわからない方だと感じていた。容姿はとても素敵なのに、私はもったいないとさえ感じていた。それからというもの、少しではあるがガイ様とお話する機会も増えてきた。
「・・俺のところは、兄弟が多いから自分はいない存在のようにさえ感じていた。友人と呼べるのも、ケインぐらいしかいない。」
「そうなんですね。でも、一人でも友人がいることは素敵なことだと思います。お友達は大切にしてくださいね。」
「・・・リリーダ、お前も友人と呼んでもいいのだろうか?」
「ふふ、嬉しいです。」
少し、照れながらそう言ったガイ様は、私の言葉を聞いて安心したようだ。
そんなある日のことだった。いつものようにいじめがあった。しかし、その日はいつもと違った。
「庶民の方がこんな学園に来られるなんてありえませんわね?」
「本当に!学園の品位が下がりますわ。」
「それに、最近ガイ王子に取り入ろうなどと考えているのではなくて?わたくし、みましたのよ?」
「まぁ、なんて醜悪な。」
私のことはなんと言ってもらってもいい。しかし、私の友人のことまで話に出すなんて許せない。あの方は私にとって、とても大切な方なのだから。そう思った私は沈黙を破った。
「あの方は関係ありません!変なことをいうのはやめてください!」
そんな時だった。後方から私たちの近くに来た人がいた。
「通行の邪魔です。」
とても小さな女の子だった。可愛らしい外見をしているのに、表情はなく人形のような少女だと感じた。小動物を思わせる風貌だ。
「アリミナール様」
私をいじめていた一人がそんなことを呟いた。
「あなたも邪魔です。」
そう言ってその女の子は私の目の前を通っていった。
表情を一切変えることなくそう言葉を残して歩き去っていった。もちろんいじめていた人たちも一緒に去っていった。
その出来事があり知ったことは、あの女の子はアリミナール・ブラックレスという名前であることだけだった。
ある日噂を耳にした。ガイ様に、婚約者候補が現れたという噂が流れたのだ。
どうやら、私の初恋は見事に玉砕されてしまったようだ。少し落ち込んだが、くよくよはしていられないと思っていた。
あの出来事があった後もガイ様との話す時間は続いていた。それに対して婚約者候補という誰かもわからない人から、直接なにかを言われたことはなかった。
いつもいじめられている時に、あのアリミナールという人が現場にちょくちょく現れては同じようにこう言うのだ。
「通行の邪魔です。」
そういってまたいじめは終了して、彼女たちは消えていた。
それが何度も続いたのだ。ある時から私は少し考えていた。あの女の子はどうしてこう何度も私の目の前を通っているのだろうと。
それはある時のことだ。
「・・・リリーダ、聞いてほしいことがある。」
「はい、ガイ様。」
「俺は君と過ごす時間が楽しい。今までいろんなことがあったけど、いい思い出だ。」
「はい。」
「・・俺は自分が周りから、変人扱いをされていることはわかっている。確かに言葉足らずなことも多い。こうやって普通にリリーダと話せているが、他のやつに対してはそうでもない。」
「?」
「リリーダと一緒にいる時間が一番楽しい。その普通の毎日を大切にしたいと思った時期もあったが、俺は自分が思っているよりも欲張りなようだ。もっと、リリーダとの時間が欲しいと思っている。」
「とても嬉しいです。でも・・・。」
「・・噂のことか?婚約者などというのは嘘だ。」
「え?」
「誰かが流したみたいだ。」
「そうだったのですね。」
私はガイ様にそう言ってもらうことで安心した。
「リリーダの傍にいたい。それを許してくれるか?」
私にだけ見せてくれる特別な笑顔でそんなことをいうガイ様。こんなことを言って頂ける日が来るなんて思いもしなかった。その時は、とても幸せな瞬間だった。
これが私のハッピーエンド。
あの人のことは相変わらず知らないままだ。
あの人はどんなエンドを迎えたのだろう。
アリミナール・ブラックレス、私はハッピーエンドになっても知らなかったのだ。彼女が、私をいつも助けてくれていた御令嬢だということに。
「アリミナール様!いいのですか!?」
先ほどまでリリーダ・キャラベルをいじめていた一人がアリミナールに対して怒るように質問した。それに対してアリミナールは、いつものように表情が出ない。
「なにがですか?」
「あのリリーダ・キャラベルはジェット国の王子と密会を繰り広げているんですよ!許せないことではないですか!」
「やめなさい。」
「でも!」
「うるさいお嬢さんですね。これ以上いうなら、あなたのその可愛らしい顔がなくなりますよ?」
そう言ってアリミナールは手から大きな炎を出して脅していた。
「ひっ!申し訳ありません!」
そうして、いじめていた人たちは去っていった。誰もいなくなった後、アリミナールは独り言を呟いた。
「私は助けた覚えなどありません。あの人が勝手に助かっただけのことです。約束のこともありますし・・・。」
そして、その独り言は誰にも聞かれることはない。
それからというもの、アリミナールはリリーダ・キャラベルという女の子を見かけては、いじめを終息するように取り計らっていた。
しかし、そんな日々も終了の合図を告げる。
アリミナール・ブラックレスは噂を耳にする。ガイとリリーダが婚約したことを。
たとえ何を聞いてもいつものように表情には現れない。いや、その時ばかりはいつもと違った。アリミナールは笑顔になった。本人さえもそのことに驚いていた。
「ふふふっ!」
自分の手でその笑いを抑えていたが、それは止まらなかった。
「どうやら、私の出番はもうないようですね。煩わしいことも終了のようです。こんな気持ちになったのは初めてです。なにやら不思議な気持ちですね。」
笑いが止まらないアリミナール、それはとても可愛らしい外見に合って、人を魅了するかのような笑顔であった。
「つまらなくはなかったです。」
そして、アリミナールは歩き出した。
リリーダ・キャラベルは何も知らない。
アリミナールは自分を助けてくれていたこと。いじめを終息させるために、リリーダ・キャラベルをいつも探してくれていたこと。