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第二話 攻略対象者、グラン・アンジャードルタ

私はいじめの被害に遭わないようになるべく一人で過ごすことにした。昼食も食堂では人目があるため、お弁当を持って一人で食べていた。そんなある日のことだった。


「美味しそうなお弁当ですね?」

「え?」

一人の男性が私に話しかけてきた。

「とても美味しそうだったので、つい声をかけたくなったのですよ。はじめまして、グラン・アンジャードルタと申します。」

とても礼儀正しい挨拶をされた。その男性はとても容姿が優れていて、誰もが憧れるような王子様のような出で立ちだった。

「はじめまして、私はリリーダ・キャラベルです。」

彼が笑顔をみせてくれたため、私も笑顔で返す。

「魔法の特異体質の方ですよね?生徒会にいるので、少しだけ話を聞いたことがあります。よければ隣に座ってもよろしいでしょうか?」

「はい。生徒会の方なのですね。すいません、私なにも知らなくて。」

「大丈夫ですよ。」

とても物腰柔らかに話を続けてくれた。その日以降、時折昼食の時間にグラン様は私の元に来ては、話をしてくれた。


グラン様は平民である私にも、誰に対しても変わらず接してくれることに私は安心感にも似た感情を持つようになった。

「リリーダは特異体質なのに魔法が下手なんですね。得意なのかと思っていました。」

「そ、そんな。私はお父さんとは違って下手で。だいぶ出来るようにはなりましたが、守り神には絶対になれません。」

「守り神?」

「えっと、知りませんか?私の国では、魔法の特異体質をそう呼ぶんです。」

「そうなんですね。素晴らしい教えですね。」

少しグランの顔が曇った気がした。

「あ、あの・・。」

「すみません。隠してもバレることなので言いますが。ゲンシュルタ国では・・化け物と呼ばれているんです。」

「え?」

「気にしないでください。昔の教えなんて大抵嘘が伝承されているものですから。リリーダを知った俺にはもう関係のない話です。」

「ありがとうございます。ふふ、グラン様にそう言って頂けるだけで、安心します。」

私はとても楽しい時間を過ごしていた。


そんなある日のことだった。いつものようにいじめがあった。しかし、その日はいつもと違った。

「庶民の方がこんな学園に来られるなんてありえませんわね?」

「本当に!学園の品位が下がりますわ。」

「それに、最近グラン王子に取り入ろうなどと考えているのではなくて?わたくし、みましたのよ?」

「まぁ、なんて醜悪な。」

私のことはなんと言ってもらってもいい。しかし、あんな優しい方のことまで話に出すなんて許せない。あの方は私にとって、とても大切な方なのだから。そう思った私は沈黙を破った。

「あの方は関係ありません!変なことをいうのはやめてください!」

そんな時だった。後方から私たちの近くに来た人がいた。

「通行の邪魔です。」

とても小さな女の子だった。可愛らしい外見をしているのに、表情はなく人形のような少女だと感じた。小動物を思わせる風貌だ。

「アリミナール様」

私をいじめていた一人がそんなことを呟いた。

「グラン様の名前が聞こえました。あなた・・・。」

小さな女の子は私をみて話を続けた。

「あなたは相応しくない。」

表情を一切変えることなくそう言葉を残して歩き去っていった。もちろんいじめていた人たちも一緒に去っていった。

その出来事があり知ったことは、あの女の子はアリミナール・ブラックレスという名前で、グラン様の婚約者らしいということ。

どうやら、私の初恋は見事に玉砕されてしまったようだ。少し落ち込んだが、くよくよはしていられないと思っていた。


あの出来事があった後もグラン様との時間は続いていた。それに対してアリミナールという婚約者から直接なにかを言われたことはなかった。

しかし、あの日からいじめられていた現場にちょくちょく現れては同じようにこう言うのだ。

「あなたは相応しくない。」

そういってまたいじめは終了して、彼女たちは消えていた。

それが何度も続いたのだ。ある時から私は少し考えていた。なぜあのアリミナールという子は、いじめの現場に現れるのだろうと。


それはある時のことだ。

「リリーダ、俺の話を聞いてくれるかい?」

グラン様がいつものように私と話をしていた時だった。

「お待たせいたしました。」

ふと声をかけられたのでその人物を見ると、アリミナール・ブラックレスが立っていた。

「アリミナール、すまないね。」

「グラン様?一体?」

どうして私の目の前にアリミナールがいるのかわからず、グラン様に聞いていた。

「彼女は婚約者のアリミナールだ。アリミナール、この子はリリーダだよ。少し話をしたくてね。」

私は訳が分からず動揺していた。それに比べてアリミナールのほうは落ち着いているように見えた。


「アリミナールには申し訳ないが、婚約を破棄してもらいたい。」

グラン様が突然にそんなことを言われた。もちろん私は驚きを隠せないでいた。しかし、アリミナールはまだ落ち着いていた。そしてこう答えた。

「大切な人が出来たのですね?」

「ああ、すまない。」

「最低な殿方ですね。私はもう行きます。」

「ああ、呼び出してすまなかった。」

そうしてアリミナールは去って行った。いつものように。


「あ、グラン様。よろしいのですか?あの方・・・。」

「婚約者と言ってもあまり話したことはないんだ。小さい頃に少し話した程度で、この学園に入ってからもね。アリミナールはもともとあんな感じだよ。」

「でも!」

「親同士が決めたことだからね。あの子もリリーダと同じで魔法の特異体質なんだよ。」

「あの方も?」

「ああ、でもリリーダがいじめにあっていることを聞いたよ。」

「え!?」

「アリミナールも加担していた。それを聞いてすごく辛かった。君がとても大切な存在であることに気が付けた。」

「・・?」

「たとえ、親同士が決めたことでも彼女には世間体があるからね。どうか、許してやってほしい。」

「そんな!私はなんとも思っていません。」

「リリーダは本当に優しい人だね。そんな君を愛しているよ。」

それは絵本でみたことのある王子様に言われたように、美しいことだった。グラン様からこんなことを言って頂ける日が来るなんて思いもしなかった。その時は、とても幸せな瞬間だった。


これが私のハッピーエンド。


でも、あの人は違った。


あの人はバッドエンドだった。


アリミナール・ブラックレス、グラン様の元婚約者。私はハッピーエンドになるまで知らなかったのだ。彼女が、私をいつも助けてくれていた悪役令嬢だということに。


「アリミナール様!いいのですか!?」

先ほどまでリリーダ・キャラベルをいじめていた一人がアリミナールに対して怒るように質問した。それに対してアリミナールは、いつものように表情が出ない。

「なにがですか?」

「あのリリーダ・キャラベルはアリミナール様の婚約者と密会を繰り広げているんですよ!許せないことではないですか!」

「やめなさい。」

「でも!」

「私がいいと言っているんです。これ以上いうなら、あなたのその可愛らしい顔がなくなりますよ?」

そう言ってアリミナールは手から大きな炎を出して脅していた。

「ひっ!申し訳ありません!」

そうして、いじめていた人たちは去っていった。誰もいなくなった後、アリミナールは独り言を呟いた。

「私の大切な方が、大切にしている存在を傷つけるなど、私には出来ない。」

そして、その独り言は誰にも聞かれることはない。

それからというもの、アリミナールはリリーダ・キャラベルという女の子を見かけては、いじめを終息するように取り計らっていた。


しかし、そんな日々も終了の合図を告げる。


アリミナール・ブラックレスは婚約者から婚約破棄されたのだ。

二人の元から去っていったアリミナール。いつものように表情には現れない。いや、その時ばかりはいつもと違った。瞳からは大量の涙が出ていた。本人さえも驚くほどに。

「ふぅうぅぅっ!」

ハンカチで瞳から流れるものを拭きとろうとも、それは止まらなかった。

「痛い、とても痛い。胸が締め付けられているみたい。グラン様と私の想いは違ったのですね。私は初めて会った時からグラン様のことを・・・。いいえ、あんな人は大嫌いです。私の大切な人なんかじゃありません。・・ふふ、自分にまで嘘はつけませんね。」

瞳から大量の涙を流すアリミナールは、そこで笑顔になった。それはとても可愛らしい外見に合って、人を魅了するかのような笑顔であった。

「私の・・初恋でした。」

そして、アリミナールはその胸の痛みをとめるために行動に出たのだ。


リリーダ・キャラベルは後に知るのだ。アリミナール・ブラックレスが亡くなったことを。そして、いじめていた人たちや、周りの人物から話を聞いた。アリミナールは自分を助けてくれていたこと。いじめを終息させるために、リリーダ・キャラベルをいつも探してくれていたこと。


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