表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
881374ショートショート69!  作者: 881374
第四集、量子コンピュータはエレキな胡蝶の夢を見るか?
10/10

二、彼女が世界を滅ぼす時。

 私は俗に言う、『時を駆ける少女』である。


 それゆえに、これまで数えきれないほどの世界を滅ぼしてきた、罪人つみびとでもあった。


 この現実世界にはけしてSF小説みたいに過去や未来の世界と自由に行き来できるような、御都合主義的なタイムトラベルなぞ存在しない。

 なぜなら世界というものは、あくまでも一つしかあり得ないのだから。

 よって何かの拍子で過去に時間移動すれば過去こそが唯一の現実かつ現代世界となり、未来に赴けば未来こそが唯一の現実かつ現代世界となるだけなのであり、そしてその結果かつての現実かつ現代だった世界はあたかも夢や幻であったかのように、ただ消えゆくしかないのである。


 つまりタイムトラベラーはタイムトラベルをするごとに、それまで自分の存在していた世界を滅ぼし続けているのだ。


 私は遠未来において滅亡に瀕した人類が持てる科学力を結集して造りあげた、少女の姿をした生体型タイムマシンであり、歴史をより良い形に改変することを目的に、これまで数百年もの間過去へと旅をし続けてきた。

 もちろん私が最初にタイムトラベルした瞬間に、元いた未来世界自体も『無かったこと』になってしまったわけだが、過去を改変すれば結果的に未来は人類にとってより理想的なものとして蘇るのであり、構いはしなかった。

 しかしいくら過去を改変しても思ったような結果は得られず、私は更に過去へと時代を遡りながら良心の呵責に耐えつつ、世界を滅ぼし続けていくしかなかったのだ。


 そしてついにたどり着いたのが、この西暦2018年の日本であった。


 この当時に某大学の物理学科の研究室に在籍していた『彼』こそが、私自身の元になった自律型生体量子コンピュータ『KUDAN(クダン)』の理論を最初に考案した御方であり、この時代では学会や世間の理解を得られず十分な研究資金にも恵まれず開発は頓挫してしまったが、約千年後に滅亡に瀕した人類が彼の研究レポートを再評価することによって、私という生体型タイムマシンの製造に成功したのだ。

 物理学の根本をなす量子論に則り、無限に存在し得る過去や未来の世界をも含む文字通り()()()()世界を『観測』することのできる、量子コンピュータならではの性能を持つKUDANがもっと早く開発されていたら、人類は無益な争いによって世界そのものを衰退させることはなかったであろう。

 そこで私は学生に身をやつし彼に接近し、折よく同じ大学に在籍していた大富豪の御令嬢との仲を取り持って、豊富な資金や権力を手にさせることによって、KUDANの一日でも早くの実現を促していった。


 しかし何と事もあろうに、彼はこの私のほうに懸想してしまったのである。


 それもある意味無理からぬ話で、実はのちに考案されることになる少女型生体量子コンピュータであるKUDANは、彼が大学時代に亡くしてしまったかつての想い人をモデルにしていて、当然その直接の子孫とも言える私も、『彼女』そのままの外見をしていたのだ。

 このままでは彼は令嬢と結ばれることなく、史実通りに資金不足でKUDANの開発は頓挫し、人類の唯一の希望は潰えてしまう。

 私はあの手この手で彼と令嬢をくっつけようとしたり、思い余って最大のタブーであるはずの自分の正体や未来の悲惨な状況すらも明かしたのだが、彼の私への実直なる想いを変えることはできなかった。


 そしていつしか自分自身も、彼に惹かれ始めていたことに気づいたのである。


 しかし私には人類の未来を救う使命があり、これまで滅ぼしてきた世界に対する責任からも、けして自分勝手な感情に流されたりはせず、歴史をあるべき姿に改変し、真に理想的な世界に生まれ直させなければならないのだ。

 そんな忸怩たる日々の中、突然の天啓のひらめきによって、私はすべてを理解した。


 なぜ自分が千の時を越え、彼に会いに来たかを。

 彼が亡くしてしまった『彼女』とは、何者であったかを。


 そうだ。私はこの世界を滅ぼすためにこそ、己自身を含めまた一から生まれ直させるためにこそ、これまずっと旅をし続けてきたのだ。


 だから私は彼の目の前で笑顔で命を絶って、彼の世界を木っ端みじんに滅ぼしたのである。


 だけど私は信じている。きっと彼が自律型生体量子コンピュータを現実のものとすること以外は何も考えられない、真の科学者として生まれ変わってくれることを。

 そのためには令嬢をたぶらかし資金援助を得ることも、権謀術数を尽くして権力を握ることも、何らためらったりはしなくなることを。


 そう。遠い未来なぞではなく自分が生きている間に、私をKUDANとして蘇らせるために。

 明日はまさにこの『彼女が世界を滅ぼす時』の中編拡大版を単発作品として、『小説家になろう』様と『カクヨム』様の両方のサイトにて同時に公開する予定ですので、『881374ショートショート69!』のほうにつきましてはお休みさせていただきます(……………かも知れませんが、できるだけ投稿するよう努力はいたします(汗))。

 今回のお話がお気に召したのなら、是非とも中編版のほうも御覧になってください。

 SS版ではちょい役の当て馬に過ぎなかった『大富豪の御令嬢』が、結構キーパーソンの役所でしかもロリ美少女となって堂々登場しますので、どなた様も必見ですぞ♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ