一、海底の魔女と王子様。
初めましてあるいはお久しぶり、881374でございます。
一晩寝て目覚めてみると、『小説家になろう』──というか、ネット小説そのものの存亡の危機となっていたので、びっくり仰天いたしました。
こんなクソッタレな世の中だからこそ、69(ロック)ですべてを吹っ飛ばそうということで、今回作者初のショートショート集『881374ショートショート69!』を立ち上げることにいたしました次第であります。
『小説家になろう』にお集まりの皆様におかれましても、けして違法サイトなんかに負けることなく、共に創作活動や読書活動に邁進していきましょう!
なお今回は特別に、初投稿の本日と明日のみ一昼夜をかけて三作を連続して投稿いたしますが、それ以降の投稿スタンスとしては、アイディアを思いついた時にそのつど不定期にアップしていく予定でございますので、読者の皆様におかれましても、どうぞお気軽にお暇な時にでもご閲覧なさってください。
海底の魔女は、焦っていた。
「おかしい、おかし過ぎる。かれこれもう百人以上も、人魚を人間にして王子の許に送り込んだというのに、だれ一人として王子の心をつかむことができず、みんな海の泡と消え去ってしまうなんて」
最初は、人間にしてやる報酬として、人魚の声を奪っていたことが原因だと思っていた。
しかしあまりにも失敗ばかりが続き、『魔法使い』という彼女の存在意義が問われかねない状況となってきたので、最近は無報酬で人間にしてやっていたのだ。
そればかりではない。人魚が望めば、どんな美人にも、トップモデルばりのスタイルにも変えてやった。
もしかしたら王子の好みが『特殊』なのかもしれないと思い、地上の様々な『文献』を読みあさり、人魚の年齢を思いっきり下げたり、猫耳をオプションに付けたり、ナース服やメイド服を着せたりもした。
無論、王子の生き別れの妹として突然登場させるという、今はやりの『妹萌え』設定にも果敢に挑戦したが、これは王家のお家騒動を引き起こし、大失敗に終わった。
もしかしたらと思いつき、人魚を男性に変えたりもしたが、残念ながらこれは、今回の『オチ』には使われなかったようである。
この様に、もはや『子供向けの童話』か何だかわからなくなるほど、サービス過剰でがんばったというのに、魔女は一度たりとて、勝利の栄冠を得ることはできなかった。
そう。もはやこの物語は、人魚姫の幸せなぞ問題ではなく、魔女と王子の真剣勝負と成り果てていたのだ。
「仕方ない、少しは倉庫の整理でもするか」
大勢の人魚を人間に変えたため、魔女のもとには無数の人魚たちの『尾びれ』が残ることとなり、彼女はそれを干物にするために、広大な倉庫をこしらえて管理していた。
「今日人間にしてやった人魚の尾びれも、腐ってしまう前に吊るさなきゃな」
しかし倉庫の扉を開けた途端、彼女は驚いた。何とそこには、見知らぬ男が仁王立ちしていたのだ。
「おまえが、海底の魔女か?」
「そ、そうだが、おまえこそ何者だ?」
「聞いて驚くなよ、我こそは王子様だ!」
魔女は驚くより呆気にとられてしまった。今時どこぞのアイドルじゃあるまいし、自分のことを王子様だなんて……。
けれどもすぐに思い直した。この物語は元々、王子様が登場してもおかしくない、れっきとした『おとぎ話』だったのだ。
「貴様か、情知らずの王子様とやらは? なぜおまえには、人魚たちの真心がわからないんだ!」
思いがけない『宿敵』の登場に、俄然息巻く魔女であったが、それにも増して王子の方も、予想外に憤慨していた。
「文句を言いたいのはこっちだ! 頼みもしないのに勝手に人魚たちを人間に変えて、次々と送り込んで来られて、非常に迷惑しているんだぞ!」
思わぬ王子の反撃に若干怯みながらも、ここは負けてはならじと言い返す魔女。
「大体おまえが人魚たちに、思わせぶりな態度をとるから悪いんだ。好きでもないのなら、誤解を招くような言動は慎めよ!」
「とんでもない、私は人魚たちのことを、真剣に好きだったのだ!」
「だったらどうして、彼女たちを受け容れなかったのだ? こっちは気を利かせて、人間の身体まで与えてやったというのに!」
「それが、余計なことだというのだ!」
そして王子はおもむろに、傍らに吊るしてあった人魚の尾びれを抱き寄せて、愛おしそうに頬擦りしながら言った。
「私はどんな絶世の美女よりも、人魚のほうが好きなのだ!」
実は王子様は、『人魚フェチ』だったのです。
次回は本日の17時に投稿する予定です。よろしくお願いいたします!