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枝豆よかチーズ

「リック! そっち行ったぞ」

「おぅ、任された」


 成人ならくるぶしぐらいまでの水位しかない薄暗い廃水路に声を響かせて、大ネズミ駆除(ビッグラットバスター)は佳境に入る。

 この行事があるときは、街中が廃水を控えている。もちろん協力しない者も居て、自治会に報告することになる。ペナルティは徴収する町内会費が加算されていき、依頼の報酬へ当てられるのだ。

 警戒心の強い小動物を水路の形状に合わせた武者返しのような仕掛けを付けた枠付きの網を押し、音でも追い立てて逃げ道を塞いでいき討伐するのだ。

 追い立て役からの声が届き、カゴ役が得意の武器を握り直す。先頭が討ち漏らす前提で、2段、3段構えだ。これで討ち漏らし奥へ逃げられても、いずれ追い詰めるように可動域を狭めているのだ。


 街の衛生面から定期的に行われる大ネズミ駆除(ビッグラットバスター)は大人からは敬遠される依頼(クエスト)の一つだ。なにしろ人手が掛かりすぎる反面、頭割りにすると報酬が少ないのだ。


 メンバー構成は、学習施設を兼ねた孤児院の職員他OB、OGたち。そしてその院生達だ。家があり通いの者は、家事手伝いを理由に参加する者は少ない。

 院生達は早いうちから冒険者登録を済ませ、このような機会にギルドポイントを貯めていく。これは成人して院を出て行くときには自立でき十分生活の出来る依頼を受けられるまでにしておくためだ。


 報酬はOB、OGが実費だけを取り、後の残りは院へ寄付をして後輩達を援助している。



 迎え撃つ先頭を任されたわしとOBのリック。

 わしがスリングで大ネズミの前方に閃光弾を撃ち怯ませたところをリックがショートソードを振るう。ふっコンビネーションは暫定だがな。

『っちょ、あがりぃ』

 いや、一匹だけじゃ終わんないんだけどね。テンション上げ上げにしてドコがわるいってえのよ。

 後ろに仕事をさせないのが先頭を任された者の矜持ってモノよ。がはははは。


 エロフこと相方のミィが6匹目を一人で屠ったのを共有知覚で知っているだけに焦りがある。

 これはアレだ。人選が悪い。昼間グデグデのわしは、体力がないと思われていることに起因する。


『あかん』


 冷静に分析していったら、よけい悔しいやないかいっ。直射日光さえなかったら、わしのほうがもっと・・・・むなしくなってきた。この感情は、あっちにも筒抜けなんだよな。


 わしとエロフで相方のミィは、ポン○とナナ○に養ってもらいながら、昼間は、その知人というクマ男ダグラスの経営する保育園へ通っている。そこは貧困層には後払いの形の奨学制度を行い、保育園以外に初等教育と孤児院も併設されて、街中の子供達のほとんどが集まってきている。


 いずれにせよ包囲陣は狭まり、3段目すらも討ち逃した固体達の密集度が高くなっているのか、背後からの鳴き声の頻度とストレス気味の異常さが高まっている。


「よし、みんないいか。もっと押し込んで一網打尽だ」

 離れたところからリーダー役の院長ダグラスがあと少し感を出すと、うおーっと、各所から大声が上がる。


「班長さん、奥へ行っていい?」

 わしはわくわくする心を抑え、リックを見上げながら言う。

「そうだな、うん。いいぞ、怪我しないようにな。アリサ着いてってやってくれ」

「あいよ。行こう、ウィちゃん」

 3列目の殿を担っていたOGが、おいでとばかりに手を振る。

「ありがとー・・・・ございます」

 わしは武器を変えて、アリサと呼ばれた少女の後ろを追いかけた。


 闇の中では[夜目]が効き、体調もすこぶる良くなるのだ。わしってほんとにエルフ系なのか自分で分からなくなる。ダークエルフ寄りなのかね。

 道すがら身を潜める大ネズミがいてアリサが処理しきれないとか見逃していたのへ、わしは多節棍を撃ち込む。


 現場はすでに先に着いた連中の乱闘が始まっていてカオス状態だが、武器を振れば最低でも擦る程度に大ネズミは密集している。もっと狭めてから範囲攻撃をすれば手っ取り早いのだが、ここはルーキーにとって狩りの練習場の意味もあるのだ。

 冒険者になって薬草とか香草の採取つづきで腐り始めた連中にとって憂さ晴らしにもなっている。


 [ライト]の魔法が届かない辺りへ移動する。明るいところでは、目立つから殺んない。人に当たらないように長さを調整しながら振り回して、面で処理をしていくと床が十分に見えないぐらいひしめき合っていたのが余裕で床が見えるぐらいに減っていく。

『やり過ぎないようにしないとな』


「壁はもっと押し込めー」

 頃合いなのか誰かが、大声を出した。



 それからすこしの時間が経ち一区画分だけど、駆除は終わった。駆除は街全体でなく、区画の自治会ごとに出されるのだ。全体ともなればとても人手が足りない。

 さて終わった区画の境には、強靱なネットを張り、新たな進入を防ぐようにしているが、絶対ではなくて時間を掛けて食い破られて進入されることになる。穴が大きくなったり、網が破損されるのは生物だけでなく、ゴミが廃棄されたりして蓄積していき、大雨など水量が上がって網を損壊させることもある。


 月に一度あるかないかぐらいの頻度で行われている。



 孤児院の大きな風呂で染みついた臭いとともに体を洗い流し、食堂で少し早い夕食を頂いて、夕暮れを相方のエロフと手をつないで里親になったポン○とナナ○の店へ帰って行った。


『『帰ったら、キンキンに冷えたビールが飲みたい』』


 ここまで読んでいただけてありがとうございます。


 徐々に"エロフ"と呼んでいたのを、"相方"と呼ぶようになってきています。

 冒険者実習は体育代わりでもないのですが近いかも。

 店名として使うときは『ナナ○とポン○の店』ですが、それ以外は順番にはこだわりません。


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