第5話 二つの苦労
85年2月2日
作戦が開始してから軽く3時間ほど経った昼下がり、共和国陸軍はさながら疾風迅雷の勢いで進軍をしてるのだが、空の方ではそうではなかった。
空では帝国側の空軍の粘り強い防衛によって制空権が陸軍の侵攻に追い付けない、非常に危ない状態に置かれていた。
隊長の話だと、もう少し陸軍はゆっくりと進行して陸空軍お互いにの連携を密にして慎重に進行する予定だった。
だが、当初の想定以上に陸軍の防衛網が薄く空軍の防衛網が厚いという状況がこの戦場では起こっていた。
結果、無理な進軍で空軍が展開が間に合わず、空軍が用意していた戦闘ローテーションに“ズレ”が生じていった、その為一部隊あたりの過酷とも思われるローテのなかで、私は二つの苦労が押し倒されそうになっていた。
一つ目は修理と補給のため前線から近場の飛行場に到着したときのこと、少なくともローテが正常に機能していれば15分は休息の時間があるものなのだが、進行速度が速いので制空権を維持するために必要な機体数が絶対的に足りていなかった。
このため休息の時間を10分削られ5分間で補給、“点検”を行わなければならなくなっていた(もちろん異常点は戦闘に支障がない程度なら無視)。
こんな状況に前線で従事している面々は無線を開く度に愚痴の嵐だった、そんな問題ありの休息時間中に私は少しでもプログラムを完成させたかった。
これさえ完成すれば戦闘が幾分楽になる。5分しかないが何とかしようと、コクピット内で端末を広げると整備をしていたメカニック、クラークが
「少尉、弾薬の補給並びに点検終了しました。出撃2分前です準備を。」
そう言われる、私はただ「了解」と答え、膝の上に置いた端末を勢い良く閉じる。滑走路へと向かうとリーアルが発進待ちでひとつ前におり、私が背後にいることに気付いた向こうは無線で話しかけてきた。
「ウォント、ちゃんと休憩できたか?」
と尋ねて来た、それに私は投げやりに答えた。
「5分間の充実した休みをおくれましたよ!」
返事をするとこの言動を気にしてかリーアルは声を掛けて来てくれた。
「ウォント、大丈夫か何かあったのか?」
気を利かせてくれたのだから正直にプログラムの件を話すことにした。
「一昨日から組んでいたプログラムをさっき使えるはずだった10分で完成させようしてた。だがこの始末だ...結局完成させることできなかった。」
これを聞いたリーアルが申し訳なさそな声を出して謝ってくる。
「ウォント、その件はすまねぇ。シドにはきつく言って....いや」
「なんだ?」
「シドのやつが生きて帰って来たら、絞めといてヤル。」
「おっ、程々にな。」
そして作戦終了して帰還したシドラドが完膚なきまでに絞られ基地中に悲鳴が聞こえたのはまた別の話。
それから滑走路を飛び立って少しすると別基地で補給を受けていたライド隊長にソメリア副隊長、そしてシドラドが合流した。合流するなり隊長の作戦指示を説明する声がヘッドセットから聞こえてきた。
「全員揃ったな、それじゃ作戦を説明する。ヘッド《指令本部》からの指示は現在戦闘中の右翼部隊とスイッチして後続部隊が来るまで制空権の保持または進空。これが指示だ。後続が到着するまで約10分厳しいとは思うがなんとか耐えてくれ。」
これに全員がなんの不安も無く「了解」と即返事を返した。
隊長の話が終わるとシドラドとリーアルは何かを話していたようだが私の耳には入って来なかった。なぜなら私はオートパイロットを起動させプログラム構成に熱中していたからだ。
しばらくすると前線から引き返してくる味方機がちらほら見え始めた。そろそろ周囲警戒を厳にしなければならなかったがこのときの私は‘まだ’大丈夫だろうと自体を軽く考えておりコクピット内で端末を放さなかった。そう、この行動が二つ目の苦労へとつながった。
刹那、甲高い音がコクピット内を駆け巡ったロックオンアラートだ、敵のミサイルが近づいてきたのだ。私は手元の端末を急いで閉じ(このとき完成度87%プログラムを適用してしまった)回避行動に移った、幸いミサイルは簡単に振り切れたが敵の戦闘機は視認できるレベルまで近づいて来ていた。
その数はこちらの倍の10機、迎撃の準備を整えていると正面から二機の敵機が飛来した。攻撃を仕掛けてくる敵機から避けるために大きく回避機動をとった、その時機体が妙な機動をとったのに気付く、ならびにその時にコクピット内に鳴り響くエラー音にも......
エラー音が鳴り響く中、俺はようやく端末を閉じた時にプログラムを適用したことに気づいた。こんな状態で戦っていては機体が壊れる可能性もあった、本来なら即刻そのプログラムを無効化しなければならないのだが乗機であるLad-2に搭載されているコンピュータにはで無効化ができないのだ。このプログラムを無効にするためには上書きが必要になってくる......やってられるか!
結局機体を壊さないように未完成のプログラムの機動はしないように機体を操ることにして単調な動きで攻撃を仕掛けてくる二機の敵機の隙を見て俺は一機づつ撃墜して行く。仕掛けてきた二機を落として周囲を見回してみると近くにシドラドの機体が飛んでいた、するとシドラド機から通信があった。
「ウォント、何とか生きてるみたいだな.....悪いことしちまったな。話、リーアルから聞いたよ。」
「そうか、心配かけたな。で、どうかしたのか?」
少し間をおいてシドラドは答える。
「罪滅ぼしと言っちゃ何だが少しの間護衛に入ってやる。」
「わかった、けど死んで貰っちゃ困る。無理しないでくれよ。」
「お互い様さ。」
そうして少しの間シドラドのエスコートを受けながら飛行していると後方から補給を終えた味方機が順に到着した、私たち第4小隊はこの味方と一緒に空の前線を押し上げて行った。そのとき陸での前線が膠着していたため補給によった際に戻っていた休憩時間を使ってプログラムを完成させてその後数時間続く戦闘に参加した。
開戦から7時間後共和国軍はダカール周辺からヌアクショットまで軍を進めた。
それから6日間軍は順調に進軍していたのだがアンティ・アトラス山脈に差し掛かると快調に進軍していた軍は足を止められることになる。
第5話 二つの苦労 終