第3話 静かな空
〜サン=ルイ基地ハンガー前〜
戦闘が終わり全隊員の機体が着陸を終えハンガーに機体を収納中のことだ、私の元に長ったるく機体の説明をしてくれたメカマンのハナードと私より年下でまだ幼さが残るメカマンが揃って私の方へ駆け寄ってきた。
私が何か悪いことでもしたのではないか?と不安になったが思い当たる節も無く疲れと疑問を隠しながら身構えていたら。若い方の整備士が頭を下げた。
「キリアン少尉、申し訳ありませんでした。」
私は急に謝られたせいか動揺を隠せなかった。その若手の整備士のハナードが真剣な顔で事情を説明してくれた。
どうも弾が真っ直ぐ飛んで行かなかった原因は機関砲の調整不良が問題だったらしく、それを調整した若手整備士と謝りに来た、という事らしい。
幸か不幸かその若い方のメカマンも第4小隊付きになるのだがこの時はまだ知る余地もなかった。とは言え、何も言い返さないのは流石にあれなので頭を下げている整備士に向かって声をかける。
「今日はこうして生きて帰って来れたんだ。頭をあげてくれ、え〜っと。」
頭を下げていた整備士が顔を上げて今にも泣き出しそうなのを必死に堪えて応える。
「ク、クラーク・アーチライト軍曹と、言います...キリアン少尉。」
そう名乗った彼へ「過ぎたことは水に流して引きずらないようにしてくれ。」と励ましの言葉を送ると早々に泣き始めてしまった。
ハナードは泣いているクラークをあやしながら私に説明してくれた。
「少尉、こいつはつい2日前からここに来たアンタとおんなじヒヨッコだ、それに気も弱いこんな奴だがしっかりと学んで来た一技術者だ、信じてやってくれ。」
こう言ったハナードはクラークを連れ機体の方へ向かって行った。「機体の方は任せておけ!」と言葉を残して。
そして、機体の事をその整備士たちに任せその日をクタクタになりながらも食事や風呂を済ませ眠りについた。
〜翌日〜
翌朝のことだ朝食を済ませたらすぐに隊長に呼び出され機体のあるハンガーに向かう。そこには、シドラドやリーアルに隊長、副隊長を含んで20人弱くらいが集められていた。すると隊長が前に立ち話を始める。
「全員揃ったようだな。昨日の戦闘、パイロットもメカニックもご苦労だった。みんなも知っての通りこの部隊に新しく3人の新人が加わった。3人とも、前へ」
隊長の声に応じて私を含む3人が隊長の前に立った。そして個々が自己紹介行った。それを終えると再び隊長が話し始めた。
「3人の紹介も済んだところで3人に着くメカニックを紹介する。」
そう言うと、隊長は胸ポケットから携帯端末を取り出しデータを眼前に広げて読み上げた。
全て読み上げると付け加えて1時間後から訓練飛行兼偵察任務を開始する事を伝えて解散になった。解散後すぐに私は自分の機体のチェックに向かった。
コクピットで機体の簡単に点検していると専属の整備士3人がやってきた。まず声をあげたのはクラークだった。
「少尉昨日は本当に悪い事を...」
「いえ、もう気にしてないから。」
その会話を聞いていた3人目の女性メカマンのケイリー・ルース軍曹が楽しそうに話へと加わってきた。
「いや〜まさかあんな状態の機体でよく二機撃墜一機協同撃墜して無事帰って来れましたね。やはりビギナーエースの異名は伊達じゃないですね。」
どうにも高いテンションで話しかけてきた軍曹、私はそんな意気揚々と話す。それを不快にに思い少し間を空けると、向こうも感じた様で血相を変えて謝り始めた。
「すみません少尉、少し調子に乗りました。ですが、決して嫌味とか皮肉で言っているわけではありません。」
私がどうして軍曹にそんな風に思われているか皆目見当がつかなかった。試しに聞いて見ることにした。
「なあ軍曹。ビギナーエースって言うのは一体?」
そう聞くと、軍曹は私がまだ訓練生の頃の話を持ち出してきたのだ。
卒業前試験の時のことだ私はシドラド、リーアルと組んで仮想編隊戦闘試験を行っていた時のことだ。
私は渓谷のフィールドで孤立してしまった際に敵の編隊三機に囲まれたのだが渓谷内の横穴を活用し3機を翻弄し撃墜したこと。
終盤戦にシドラドとリーアルとで残敵を掃討を行った事で全参加チーム内トップの成績を挙げた事を棚に上げて説明してきた。
私は話の内容自体は理解できてもただそれだけでエース呼ばわりされるのに納得がいかづ軍曹に聞く。
「確かに私は実際その場で、その戦果を挙げた。だがそんなので軍曹は騒いでいるのか?」
そう聞くと軍曹は何かを言おうとしたがクラーク軍曹が割り込んでくる。
「少尉は十分に人気です。多分殆どの人が知っていると思います。」
そう聞いて言い返す言葉が思いつかなくて微妙な空気が流れたがその沈黙を直ぐに切り開かれた。
「おい、3人とも話しは終わったか?」
そう言ったのはハナードだった。ハナードは改めてと言う感じで自らを名乗り始めた。
「終わってるようだな。改めてキリアン少尉。俺はこの少尉の専属整備をさせてもらうハナード・ガーナード曹長だ、昨日は長話をして悪かったな。」
そしてケイリーとクラークも改まって挨拶を行う。
「それじゃ、私は同じく専属整備させてもらうケイリー・ルース軍曹です。少尉、私の事は“ケイ“と呼んでくださいね。」
そして小さな声を必死の張り上げながらクラークが。
「え、えっと改めましてクラーク・アーチライト軍曹です、同じく専属整備をさせてもらいます。」
最後に私も自分のことを紹介しメカマン全員と紹介を交わし終わると、ハナードが何かのデータが記されているタブレット端末を渡してきた。
「ハナード曹長、これは一体?」
「それは昨日の戦闘のデータと例の戦闘試験のデータから俺が考え出した機体の調整案のまとめだ。」
そこには、私の主体としている巴戦を主軸に主軸を置いたエンジンの出力設定や各可動部のセッティングなどと色々な事が記されていた。
これには、驚きを覚えた。なぜなら訓練生時代に仮想訓練で扱っていたLadF-2のセッテイングとほぼほぼ似通った特性を発揮する様になっていたからだ、まさかここまで寄せてくるなんて思いも寄らなかった。
これには、ただ話の長く口うるさいメカマンだと思っていた私は申し訳なさでいっぱいになった。
調整案をに一通り目を通し終わった頃には出撃開始10分前になり、周りが騒々しくなっていた。私も渡されていた端末をハナードに返してすぐにパイロットスーツに着替えて出撃の準備を整え飛び立った。
今回は昨日爆撃された前線の基地の状況確認だった、飛び立って始めの方は少しフォーメーションの確認や説明を受けながら飛行した。
前線基地の上空に辿り着くとそこには無数の大穴と建物の残骸が散乱し見るも無残な光景がそこにあった。
すると隊長から命令が下った「各自担当空域の警戒任務に従事せよ。」とのことだ。これに「了解」の一言で答え全員が各所に散らばり警戒当たった。
警戒中は特に何かトラブルが起こるわけでもなく緩やかに時間が過ぎて行く。警戒雨を始めてから軽く2時間位経った頃機体の燃料の都合上作戦が継続不可能だと判断したライド隊長は帰還を全員に指示した。
その日から1、2週間位偵察に迎撃を繰り返した。月が終わる頃に基地全体の戦闘部隊の隊長が呼び出された、これまでが嵐の前の静けさだとも知る由もなく。
第3話 静かな空 終わり