アクシデント
「カンパーイ!」
木下は買ってきた炭酸飲料をグラスに入れ、恵里奈に渡し乾杯した。計画は完全に成功したのだ。今ここに四千九百九十五万がある。
「いやぁ……。まさかこんなにうまくいくなんて思わなかったわね!」
祝杯し、お菓子を食べながら恵里奈は言った。
「うまいテだろ」
計画はこうだった。
まず木下は身代金を運ぶ人物の名前を聞いた。これはあの喫茶店では予約が可能で、恵里奈に身代金を運ぶ人物の名前を使わせてもらい予約を済ませるためだった。そしてその人物が来店し、席が満席で名前を記入させる。あの店はいつも賑わっているから必ず待つことになると予想していた。予想通り名簿に名前を書いた。その時名前を見た店員は予約した人物の名前だと判断する。そしてその席に連れて行くとその下には予め購入したプリペイド携帯がある。即興で契約した携帯で細工も何もしていないから調べ上げられればすぐに自分に行きつく。そうさせないため敢えて動かしそこに至る思考を防いだ。宝石店では時間をかせがした時にテは打っていた。テレビのドッキリ企画で女性が五千万のダイヤを買いに来る。その時偽物を渡してほしいと頼んでおいた。五千万は偽札でこちらで回収すると。店員はすんなり信じた。そして五千万のダイヤを買いに来た女性に偽ダイヤを渡す。お礼としてこちらは五万を支払った。これで身代金五千万はこちらの手に渡った。あとはその偽ダイヤを処分するのみだった。相手は恐らくそのダイヤを換金し、金に変えると思っているだろう。だが本当の本当はダイヤを購入したところですでに取り引きは終わっていたのだった。あとは恵里奈に三千万を渡し頃合いを計らって帰せばそれで終わりだった。一応は商取引でやった金だ。仮に紙幣ナンバーを押さえていたとしても使えるのだった。
「で、私はいつ帰ればいいの?」
「そうだな……。まあ、三十分後くらいかな……。あれ……」
なんだ……これ……。
視界が歪む……。
意識が遠のいていくようだ。
この睡魔は何だ……。
瞼が重い……。
体勢を保てなくなり、木下は床に伏した。
グゥ……。