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狂言誘拐  作者: たか
6/9

身代金受け渡し 手順

まだだ……。

まだ収まらない。

この胸の鼓動が。

電話を終えた木下は荒い息をあげながら冷や汗を拭っていた。心臓に手を触れるが、鼓動が速くなり、苦しくうめき声をあげる。

だが、うまくいった。

自分で自分に成功したと何度も言った。そうしないと重圧で潰れそうだった。

「で、どうするの? 身代金の受け取り」

木下の気持ちを知ってから知らずか呑気に恵里奈は聞いた。

「今から考える」

と、木下は親機の横に置いてあるメモ帳を取り、身代金の手順を考えた。思いつくアイディアをそこに書き出し、紙を千切りつぎのアイディアを考える。アイディアが出尽くすとそこまで書き加えたアイディアを見ながら一番良さそうなものを選ぶ。質より量が木下の基準だった。

ロープウェイ

共犯者受け取り

銀行引き出し

宝石購入、それを渡す

等々書き込んだ。

二十分後、とうとうアイディアは湧かなくなり、木下は千切った紙を一枚一枚眺めた。

宝石購入のアイディアと睨めっこしていると、木下の脳にとある閃きが走った。

「いける……」

つい木下は成功を口にする。

「え?」

「これがうまく嵌ると勝てる……」


「もうあのあと二十分も経っとる。どうなったんじゃ、一体……」

机に座りながら源一郎は神経質に何度も時計を見ていた。

「やはり、イタズラなのでは?」

と、茂。

「いや、あの声は恵里奈のものじゃった。現に何度も恵里奈の携帯に電話をかけとるが繋がらんっ!」

イライラが増し、貧乏ゆすりを始めた。最初はゆっくりだったが、次第にどんどん早くなる。小刻みなその音がやたらイライラ感を加速させる。

と、その時。

電話のベルが鳴り響いたのだった。

「もしもし!」

それを見て慌てて源一郎は電話に出た。

『どうも、源一郎さん。さて、身代金ですが、女性に運ばせてください。それから、その女性を今から二分以内に考えてください。なぜなら通話料がもったいないからです。まあすぐにどでかいお釣りがきますが、女性を決めたらその人と話がしたい』

「わ……わかった。すぐ決まる」

通話口を押さえ、源一郎はその場にいる女性を探した。女性は南野香久耶しかいなかった。そして香久耶と源一郎は視線が合った。

「香久耶……。本当はお前に任せたくはないが……。時間もない」

「どうしたんです? 爺様」

「誘拐犯はお前と話したいらしい」

受話器を香久耶に渡し、源一郎はスピーカーのボタンを押した。

「これで皆も聞こえる」

「爺様……。私は……」

「頼む……」

香久耶は頷いて受話器を受け取った。


『代わったぞ』

たしかに声は女の声だ。

「制限時間一分四十三秒。危なかったですね。もうすぐ孫娘さんを殺してしまうとこでしたよ」

と、その瞬間木下は右手を挙げた。恵里奈に声を出させる合図だった。

「おじいちゃーん! たすけっ……キャアッ!」

「テメェ! 黙ってろって言っただろ!」

木下は通話口を枕に近づけ、その枕を何度も殴った。向こうには恵里奈に暴力を振るっているようにしか見えないだろう。

「いやっ! やめて!」

『やめてくれ! 私は何をしたらいい? 教えてほしい。どうすればいいのかを!』

演技はここくらいかな。

冷静になったフリをする。

「失礼、お嬢様が勝手な真似事をするものでつい制裁を加えてしまいました。まあ、まずは身代金五千万をそちらが用意するカバンに詰めて今から指示する喫茶店に一時間以内に一人で行ってください。いいですか? 必ず一人でくるんですよ。変な駆け引きは無しでお願いして頂きたい。詳しいことは来てから指示します。では、喫茶店で……あ、あなたのお名前をお伺いしたい」

『南野香久耶よ』

「わかりました。では」

電話を切ると、木下は慌てて立ち上がる。リミットは一時間。それまでに色々と準備をしなければ。


「誘拐は何と?」

電話が終わると源一郎は涙目で香久耶を見つめた。

「五千万は?」

「それならここにある」

アタッシュケースに入れた五千万を指差した。それを確認し、五千万をバラバラに出し、香久耶は適当に選んだカバンに詰め直した。

「何をするんじゃ!」

「犯人からの指示よ! 金をカバンに入れろって。それより、警察には?」

「ヤツは警察の通報を拒んだ。通報はせん!」

そんなことで命は奪ったりするとは思わないが

念には念にと香久耶も考えを割り切った。

やがてカバンに全て入れ替え、それを背負った。

「待ってください。あねさん」

仙道陸道は香久耶の肩を掴み、移動を止める。

「せめて盗聴器と発信機をつけさせてください。アキバで買ってきたやつです」

「わかった。早くやってちょうだい。あと一時間以内に行かないとならないんだから」

カバンに取り付け終えると、香久耶は慌てて走った。

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