ナマモノに詐欺られてロリエルフっ子にされた件
「ボクと契約して、異世界でエルフ娘になってよ!」
「ちょっと待て、何で男の俺にエルフ娘になれなんて話がくる?!」
ある日の学校帰り、俺は奇妙なナマモノに話しかけられてこんな話を持ちかけられた。
何で俺がソイツをナマモノと形容したかというと、ピンクの丸い物体に赤いつぶらな瞳、猫のような口という色々な版権に引っかかりそうな名状しがたい物体だったからだ。
というかコイツ異世界でとか言ったが、そもそも最近のラノベとかでよくある異世界転生モノだとすれば俺は今現在普通に生きているわけだし、異世界召喚モノだとすれば召喚する側であるこのナマモノが今ここに居る時点で召喚は不成立だ。
「そもそも、契約して一体何の得があるんだ? 契約っていうからには何かしらの報償があるのが普通だろ?」
「おや、契約してくれる気になったのかい?」
「とりあえず話は聴いてやるってだけだ」
ナマモノ曰く、俺を連れて行くつもりの異世界ではモンスターがはびこっており、勇者という存在がいるらしい。そしてその勇者とやらが、ありとあらゆる魔法が得意なエルフ娘をご所望しているんだとか……。
「で、何でそこで俺になるわけ? 女の人に話を持ちかけるのが一番だろ」
「それは、キミがこの世界でも類い希な魔法の才能と魔力を持ってるからだよ。キミは普通の人は見えないものがよく見えるんじゃないかい?」
ああ、ようするに霊感=魔法魔法の才能or魔力ってことらしい。
確かにそういうことであれば身に覚えがあったので素直に頷いた。
「まあ、話はわかった。けど、その勇者って男だろ?」
「おや、よく判ったね」
「いや、普通女の人を所望してる時点で男だろ」
「女性が好きな女性かもしれないよ?」
「せめて同性の方が気が楽だから女性がいいって言ってやれよ?! それじゃ百合だろ、同性愛者だろ!!」
何というか、このナマモノと話してると時折会話がかみ合わないから嫌になる。
「キミなら勇者を支えた英雄として、異世界に名を残せると思うんだけどな」
「女にまでなって残したくねぇよ?!」
「つまり、女の人じゃなければいいんだね?」
「ああ、女の人じゃなければいい」
正直毎日に退屈していたし、異世界で英雄の一人になれるっていうなら是非ともやってみたい。
それに魔法とか厨二っぽくて面白そうだし、この話自体にはもの凄く興味があった。
「じゃあ契約成立だね」
「構わない。けど、その異世界とやらにはどうやって行くんだ?」
そう、そこが一番の疑問点だった。
そう思っていると、ナマモノが俺の胸元にひっついて―
―次の瞬間、盛大に爆発した。
☆
「いててて……。まさか自爆して無理やり死亡させて転生させるとか、無理やりにも程があるだろ……」
そう言って俺は後頭部をさすった。さすった指に絡まる髪の毛の感触に、俺は固まった。
ゆっくりと、背中に流れる髪の毛の一部をすくって自分の視界に納める。
……綺麗な金髪だった。
金髪をすくってる自分の手を視界に納める。
何か可愛い、小さい手だった。
恐る恐る、自分の視線を下に落とした。
大分背が縮んでいる気がする。
というかスカートをはいている。
俺は恐る恐る自分のスカートを捲り、スカートの中のパンツの中を確認した。
綺麗な丘があった。
「っておい、ナマモノ!! 俺は女は嫌だっていっやよな?! どう見たって女じゃねぇか!!」
自分の胸に手を当てると、身体の成長の割にはしっかりと自己主張をしてる膨らみがあり、奇妙な感覚がした。
『キミが女の人が嫌だっていうから、せっかくキミと同年代のエルフの女の人じゃなく、女の子と呼べる年齢にしたのに、なんでそんなに怒っているんだい?』
「俺は! 性別的に! 女の人になるのが! 嫌だって言ったんだよ!」
一語一語を強調して俺は叫んだ。
『そもそも、エルフって人間じゃないから、人とは呼ばないよね? 英雄になれるっていうのに何でそこまで嫌がるんだい?』
……ああ、これ駄目なやつだ。
きっとここでさらに文句を言っても『わけがわからないよ』、と返されるのがオチだろう。
俺は文句を言うのを諦め、とりあえず現状を受け入れることにした。
「……もうなっちゃったもんは仕方が無いとして、俺はどこに行けばいいんだ?」
『もうそろそろ近くで勇者がピンチになると思うから、魔法で助けてあげるといいよ』
……随分具体的だな。
とはいえ、現状それ以外に何か出来るわけでもないので素直に従うことにした俺は、その後本当にピンチになってた黒髪の青年を魔法で助けた。
そして助けてびっくり、その勇者とやらは数ヶ月前に死んだと聞かされた中学時代の友人だったんだから。
その後、お互いが知った仲だったこともあり、あっという間に打ち解けた後は世界中を旅して回った。
ぶっちゃけ、慣れない身体で苦労しまくってる俺の事を友人は笑いまくってた。
最初のウチはよかったが、それが何回も続くと何か段々ムカついてきたのでこっちも色々と弄ってやった。
そして色々と弄ってやってるウチに、何かしばらくして気がついたら朝チュン展開になってて、色々と後悔したりもした。
だけど、それからはお互いに色々溜め込んでいたモノを吐き出せたのか、旅のペースは上がり、気がつけば俗に言う魔王ってヤツを倒してた。
それが大体、この世界にやってきてから三年後の事だった。
☆
それから世界が平和になったかというとそうでもなかった。
モンスターという共通の敵が居なくなったことで、国家間では領土争いだとか、種族間では人種差別だとかが出始めた。
私の転生した種族であるエルフは、一応勇者の同伴者だったということでそれなりの地位はあるものの、それ以外の亜人種の扱いは正直酷いモノだった。
私たちも、英雄として祭り上げられるだけならよかったのに、各国家間で勇者及び同伴者の帰属権について争いが起こり、二人して住みやすい都市部から逃げ出すこととなった。
「なあ、俺たちのやってきた事って何だったんだろうな」
友人が椅子の上で編み物をしている私に話しかけてきた。
「……正直、魔王を倒せば世界が平和になるっていうのはゲームの中だけの話なのかもね。実際にはその後も世界は続いてて、そこでは今みたいにまた違った問題が起こっているのかも」
「だよなぁ……。死んだと思ったらこの世界を救ってって言われて、ゲームで憧れた勇者になれるって喜んだのに、こうやって現実を見せつけられたら凹むわ……」
そういって溜息をつく友人の側に私は移動して、その身体を抱き寄せた。
「大丈夫。少なくとも私はあなたが勇者だって事を一番よく理解してるし、あなたの苦悩も判ってる。だから、ここで今後この世界がどうなるのか、ゆっくり見守って行きましょう?」
「……そうだな。生まれてくる俺たちの子供には、あまり世界の闇を見せたくないしな」
そういって友人は、大分大きくなった私のお腹をさすった。
私も空いている方の手で自分のお腹をさすりながら、この世界が、真の意味で平和になることを願うのだった。