ある世間話と展望
「今日の社会の授業、あれ面白かったわ。」
「社会ってなんかあったっけ。」
「いやほら、でかい人が段々増えて影響力ー、って話。」
「あー。同じ少数派としてなんか感じたんだ。」
「いやまあそりゃね?別にめちゃくちゃ差別されてる、とかじゃないけどさ。」
そう言って、彼はりんごジュースを抱えるように持って飲む。初めて会った時より、紙パックを掴むことに慣れてきているように見えた。
彼の言う授業の話というのは、先生が脱線させた話の中で語った、昔の社会の変化のことだ。
今から何十年も前、この国では3メートル以上の身長の人はほとんどおらず、外を歩くだけで奇異の眼で見られていたという。
今では平均より大きい程度の認識で珍しくもなんともない身長だが、2メートルでも大きかった時代ではかなり目立つ存在だったようだ。
目立つだけならいくらか良かったのだろうが、人数が少ないのがまずかったのだろうか。その人々は自分達より小さな人達に合わせて作られた社会に不便を強いられ、どこに行っても無遠慮な視線に晒されることに苦しんでいたそうだ。それどころか、自分達も住みやすい社会にしてほしいと活動を始めれば、身勝手だとか自己中心的だとか、果てには大きいのは病気だとか心無い言葉を投げかけられていたらしい。
高身長が増えた現代ではあり得ない話だが、授業で聞いた時は多数派がそんなに偉いのか、と少し嫌な気分になった。
「俺があっちゃこっちゃで不便してるのもさ、多分同類の人数が少なすぎるからだと思うんだよね。」
「そうかねー。」
「多分だよ多分。でも困ってんだよーって声がもっと多ければ、偉い人とか有名人とかが何かしら動いてくれそうじゃん?そしたら世の中もうちょっと変わるだろーって。」
少数派という発言は彼はあまり気にしなかったようだ。良かった、自分で言った直後にまずかったかと少し後悔していた。
ジュースを飲み終えた彼は顔に飛んで来たハエを追っ払おうと翼を振り回す。横薙ぎにした翼が僕の顔面にあたり、軽い文句を垂れてから2人して笑った。
彼は有翼人種だ。そう多くは見かけない小さな指付きの巨大な翼は、それまでの一般人基準の生活に大いに苦労していた。狭さとか、物の持ち運びに手こずっているのを隣でよく見ている。
正直、もう少し彼が住みやすい環境を偉い人が作ってくれても良いのにな、とは思う。姿が大きく違うと言っても、ぶっちゃけそれだけだ。この国に移り住み、他の人々と同じ生活をするのだ、彼らだけ不便というのは、友人として色々複雑なものがある。
「まああれだよ、君。君が世の中変えるきっかけになればいいんすよ。」
「マジで言ってる?」
「あれでしょ?有名人がなんか言えば皆割と納得しちゃうじゃん?」
「うん。」
「宇宙飛行士やりたいんでしょ。今。」
「うん。」
「たしかさ、宇宙飛行士んなった人誰も羽生えてないじゃん?んで、君宇宙飛行士になったらさ、ニュースのインタビューでさ、翼があっても宇宙飛行士になれるんだぜーって。不便に負けないでーとか、自分達の力を信じてーとかってさ。」
「あーいいなそれ。いやマジでいいかも。・・・あー結構真面目にやる気出てきた。」
「おぉー?やっちゃうぅ?」
「やるよー俺は!野望できたよ野望。有名人になったらまず世の中に対する不満全部本にするわ。」
他の生徒よりいくらか空からの景色に詳しく、蟹の殻を剥くのが下手で、ゲームセンターで一緒に対戦してくれる友人。僕は彼の夢が実現すれば良いと思った。
世界では、翼を持つ人が電線に接触する事故が相次いでいるらしい。