かつての記憶1
世界樹は雄大。
世界のどんな木も風に揺れ、しなり、戻って、また揺れて。
いつかは倒れるものなのに、世界樹は揺れず、しならず、そこに・・・・ただそこで悠久の時間を生きるだけ。
いつまでもいつまでも役目を終え、解放されることはない。
まるで僕のようだ。
世界のどんな生き物も、いろんな出来事の波に抗い、漂い、また抗って・・・。
やがては逆らうことに疲れて倒れるものなのに。僕は倒れることを許されず、永遠の時の間を抗い続ける。
いつまでもいつまでも何かの役目を守るために。
代わり映えのしない年月はその役割の理由さえも押し流してしまった。
残された僕は、一人、この森を守り続ける。
平和な・・・つまらない森を。
これからもずっとこの世界樹の上から。
「森は今日も平和だ。平和だからつまらない」
「何いってるのよ」
コツンと頭を叩いたのはリリア。
森を守る妖精の一人だ。
「平和って、ルーちゃん。森は私たちが守らなきゃすぐに美しさを失うわ。水はたちどころに汚れ、草木はしなびて
、世界は再び三の災害に犯されるでしょう・・・・ってお姉さまたちがいってたわよ」
「ああ。ずっとずっと昔から妖精の中で言い伝えられている話だろ。でも、この森がここにあり続ける意味ってなんだと思う?」
「意味って・・・・意味なんてわからないわ」
ああ。やっぱりだ。
みんなは僕と違って寿命がある。
僕は世界樹から生まれた。
だから死ねない。
彼女たちは草木や花から生まれる。
一年に満たない命の妖精もいれば、千年の命を持って生まれる妖精もいる。
ただ・・・年月に関わらず、彼女たちは生まれてから死ぬその日まで意味のわからない役目を終えるだけの時の間を生きるのだ。
彼女たちは苦しくならないのだろうか・・・・。
無意味かもしれない時間を生きることに。
「でもね・・・・この森は美しいわ」
「美しい?」
「ええ。とっても」
一陣の風に森の木がザザザと揺れる。
「この景色を守る手助けができた・・・。それはあなたの生きる意味にはならない?」
その日を境に僕とリリアはともに多くの時間を過ごすようになった。
『・・・・・間違えて違うのを見せてしまったわ。少し飛ばして・・・・、あなたが殺された後の私たちの記憶を・・・・」