ある妖精の記憶を継ぐ
昔々、大きな大きな森林がありました。
その森は緑や美しい花に溢れ、コンコンと湧く泉の水は植物や動物たちの命を支えていました。
その中心にある世界樹という天まで届く木には妖精たちが住んでいました。
妖精たちはそれぞれ不思議な力を持っていて、様々な災害から森を守っていました。
そんな妖精たちも怖いものがありました。
悪魔たちです。
悪魔たちは妖精では太刀打ちできないほどの力を持っていました。
しかし、悪魔たちも森に入ることはできませんでした。
それは森にはとても強い妖精王が住んでいたからです。
妖精王は悪魔たちの侵入を一人で拒むほどの力を持っていました。
悪魔と妖精。
彼らはずっとずっと、なぜ争っていたかを忘れるまでに争い続けて行きました。
妖精王の名前はルーディア=エル=カークス。
妖精王の不思議な力は森や植物に自分の力を分け与える奇跡の力で、ずっとずっと昔から森を守っていました。
彼には夢がありました。
いつか、妖精王の地位を捨てて、世界を見に行きたい・・・・と。
しかし、彼の夢が叶うことはありませんでした。
彼のように強い妖精はいなかったのです。
ある時人間という動物が生まれました。
人間は動物たちの中で初めて樹木を切り倒し、火を炊き、土を掘り返しました。
そして、とうとう世界樹まで切り倒そうとしたことで妖精たちの怒りに触れ、人間たちはとうとう森から追い出されてしまいました。
森の外には悪魔がいます。
悪魔たちは人間たちを最初は煙たがり、森に追い返そうとしました。
しかし、悪魔たちは人間たちがとても頭がいいことに気がつきました。
そして気づいたのです。
人間たちを利用すれば妖精王の森を奪えるかもしれない・・・・と。
悪魔たちは人間に姿を変え、人間に溶け込んで行きました。
数百年の時が流れ、悪魔たちは人間たちの王様や神官などになっていました。
悪魔たちは人間たちに自らの力を分け与え、浸透させて行きました。
それは悪魔の力・・・魔力というもので、様々な災害を呼び起こすまさに悪魔の力の体現でした。
さらに月日が経ち、人間たちの数は増え、だんだんと住む場所が狭くなってきました。
そして人間たちはとうとう、妖精王の森を邪魔に感じるようになって行きました。
ついに時は来た・・・と。
悪魔たちは人間たちと共に妖精王の森を四方から襲いました。
人間たちの魔力は土砂や落雷といった様々な形となって森を襲います。
妖精たちは人間だけなら戦えるものの、その中に潜む、人間に化けた悪魔たちに襲われ、命を落として行きます。
じわじわと森を侵していく人間たち・・・・。
妖精王はちぎれるのではないか・・・・と妖精たちが心配するほどに羽を羽ばたかせ、西に東に・・・・北に南に飛び回り、森を守ろうとしました。
しかし妖精たちに取っては最悪な、悪魔たちに取っては最高の事態が起きました。
妖精王の森の中心に鎮座する世界樹がぐらりと揺れ、だんだんと沈んでいくのです。
妖精たちはそれに驚いたところを捕まり、妖精王も仲間を助けようとしたところを悪魔たちに貫かれ、死んでしまいました。
妖精に勝った悪魔と人間たちは意気揚々と森を自分たちのものにしていきました。
かつて美しい花や草木に溢れ、透き通った泉がたくさんあった森は樹木を切り倒され、花や草木は踏み倒され、泉は汚されて。森の動物たちは嘆きました。
しかし、人間たちや悪魔たちは広大な土地に大喜びで、そんなことは気にもとめません。
ある日、人間たちはなんで世界樹が沈んだのか調べに行くことにしました。
世界樹のあったところには大きな穴が空いていて、周りの草木はしなびた野菜のように色や生気を失っていました。
かつての泉からはコポコポと汚れた水が湧き出し、それに触った人間は死んでしまいました。
人間たちは見たものを人間に化けた悪魔に説明します。
すっかり人間の王様気分で浮かれていた悪魔たちは人間たちの見たものを聞いて、全てを思い出します。
かつて、この世界はあらゆる災害に包まれた世界でした。
その世界では楽しいことなど何一つなく、あらゆる命が苦しんでいました。
その苦しんでいた命の中に災害から生まれた悪魔たちがいたのです。
悪魔たちは協力してあらゆる災害を自分たちの災害で打ち消そうとしました。
しかし、3柱だけそれに反対した悪魔がいたのです。
その悪魔たちは最も苦しい災害から生まれたので他の災害など苦しくもなんともなく、また、他の悪魔に恐れられていたので、災害を打ち消したくはなかったのです。
悪魔たちは協力してその3柱の悪魔を説得しようとしましたがその悪魔はとても強いのでなかなか言うことを聞いてくれませんでした。
仕方なく、悪魔たちはその悪魔にバレないように小さな小さな災害のない場所を作りました。
そこから不思議な木が一本生え、その木から美しい羽を生やした男の子が生まれました。
その男の子は不思議な力を持ち、災害を打ち消していきました。
災害が打ち消された場所は草木や花が溢れ、快適な場所になって悪魔たちは喜びました。
そこから羽の生えた男の子や女の子が生まれ、快適な世界は広がります。
自分たちと違う、怪しい、しかし、世界を美しくする不思議な力を持つ精霊たち。
悪魔たちは、彼らのことを怪しい精霊、妖精と呼びましたが、彼らは優しく、悪魔と仲良くしたがったので、悪魔たちも次第に心を開き、仲良く世界の災害を打ち消していきました。
それが面白くない3柱の悪魔は再び災害に溢れた世界にしようと妖精たちを襲いました。
世界が再び災害に溢れかえりそうになったその時、妖精王と呼ばれていた最初の妖精と悪魔たちは一丸となり悪魔たちに最後の戦いを挑みました。
長きにわたる対戦の末、妖精と悪魔は3柱をあらゆる災害と初めて生まれた木を使って封印することに成功しました。
妖精は木に力を注ぎ成長させていきます。
土砂の災害を司る悪魔はその上に大地を作り、3柱の悪魔は大地の深い、深い奥底に埋もれました。
その世界の始まりの木・・世界樹に合わせ、土砂の災害を司る悪魔たちは大地を作り出し、水の災害を司る悪魔たちは海を作り出し、他の災害を司る悪魔たちも様々な方法で世界を調整していきます。
妖精たちは世界に木々や花々を生み出した後、世界樹の周りに森を作り、3柱の悪魔を見守ることにしました。
彼らの作り出した世界からは様々な生き物が溢れ出し、世界は楽しみが溢れていきました。
そして、長い、長い年月が経ち、妖精も悪魔もそのことをすっかり忘れてしまっていたのです。
悪魔たちは焦りました。
妖精はもういません。みんな殺してしまったからです。
しかし、世界樹とともに落ちた妖精がいると悪魔たちは人間に命じて穴を調べることにしました。
人間たちが再びそこに行くと状況はさらにひどくなっていました。
そこから溢れる災害の力が周りを蝕んでいるのは明らかでした。
世界樹の封印が解けかかっていることは明白です。
悪魔たちは、人間を置いて、穴の中に入っていきます。
人間たちは穴の中に入っていったそれぞれの国の偉い人たちを待っていました。
数日後、人間たちが見たのはボロボロになりながら、ずっと数を減らして戻ってきたそれぞれの国の偉い人たちです。
彼らは穴の中で様々な災害の力を持った生物に襲われたと言いました。
悪魔たちは封印が弱まっていることを確信しました。
封印から漏れ出した3柱の災害から生まれた生物だと確信したからです。
悪魔たちはこの生物を魔物と呼び、魔物が穴から出てくるのを恐れて、穴を再び封印しましたが、世界樹ほどの封印ではないので、時にそこから災害や魔物が溢れ、人間や悪魔を苦しめます。
そこで、この場所を隠し、世界から魔物を滅ぼすために、世界中に災害を起こしました。その間、何も知らない子供たちを封印し、災害から守っておきました。
世界に再び生命が溢れた頃、人間の封印を解き、再び人間を世界にあふれさせようとしましたが、全てを忘れてしまった人間を待つのがもどかしかった悪魔たちは姿を変え、形を変えて人間たちを導きました。
100年が経ち、1000年くらい経った頃、人間に与えた魔力は世代ごとに薄まり、やがては消えましたが、人間たちは色々な知恵を悪魔たちからもらい、生活しやすい環境を作っていき、再び人間が溢れていきました。
2000年ほどの年月が流れました。
今でも悪魔たちは様々な姿に形を変え、人間を導いています。
しかし世界樹の封印がなくなった影響は徐々に強まっています。
災害が溢れる頻度は上がり、魔物は強さを増して行くのです。
もう、数年経てば悪魔たちは封印を維持できなくなり、3柱がこの世界に出てくるでしょう。
そうなれば世界は再び災害にあふれた、楽しいことなど一つもない世界になってしまいます。
妖精王様、再び、世界を・・・森を復活させ、再び世界をお救いさせくだ・・・・さ・・・・・い