記憶の海に思うことは
さわさわと草木がかすれる音、匂い。
年輪を重ねた樹木が大きくしなり、僕に影を落とす。
木々に守られているような・・・・・・。
まるであの夢・・・。
そうか、僕はあの夢を見ているんだ。
どこかの幻想郷、ユートピア。妖精の森。
空気を吸うたびに気持ちがいい。
美味しい空気って素晴らしい。
まるで自分が・・・現に汚れてしまった僕を浄化してくれているかのような・・・・・。
・・・・・あれ。
僕はこの空気を知っている。
この音を知っている。
この匂いを知っている。
さわさわと僕を撫でるこの風も。
むくりと起き上がった僕は辺りを見渡す。
青々とした草木やこけ、木々。
どこかから水が流れる音が聞こえる。
音を目指して歩く。
ふわふわとした苔に覆われた大地はまるで天然のベッドのようだ。
決して動きを阻害しない、心地の良い感触。
「うわぁー」
広がっていたのは水晶のように透き通った泉とその中心にそびえる苔に覆われた大樹。
雲の上まで伸びるその木は悠久の時間を物語るようだ。
チョロチョロという心地よい水音。
メキメキメキと音を立てて大樹の湖の根が泉に浮かぶ。
一瞬のうちに根に苔が生えた。
まるで大樹が渡れと言っているようだ。
こんなのはありえない。
でも夢・・・だからな。
苔のおかげで滑ることなく大樹の幹までつく。
この安心感は一体なんだろう。
間違えなく異常な事態なのに・・・・。
「はいりたまえ」
「・・・誰?」
「やっぱり現の記憶を失っちゃってるみたいだね。君の名前は?」
「名前?バカにしているのか?僕は・・・・」
「思い出せないでしょう?」
「ああ。全然」
「じゃあ、思い出させてあげよう。それが僕の最後の仕事だ」
「うわっ。なんだこれ」
黄金の光が体を包んでいく。
世界樹が光り、森が光り、いつしか黄金の光に包み込まれてしまった。
「さぁ、妖精王ルーディア=エル=カークス。君に僕の記憶を見せてあげる。森を、妖精たちが、僕が愛したこの場所を・・・再び・・・」
世界がきらめき、森は鳴いた。
木々の音、森の声は妖精王の帰りを・・・僕の・・・・・・帰りを・・・
突然走馬灯のように記憶が・・・感情がなだれ込む。
みんなを守れなかった・・・妖精王。僕の記憶が・・・・。